児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

弁護人は証人の住所を知っていますが、被告人には教えません

 こういう経緯ですが、弁護人は追加で任意開示された書類をそのまま被告人に差し入れちゃったんでしょうか。
 控訴審の弁護人にはそういう連絡はないので、記録に住所が出ていれば、慰謝の措置を講じますよね。
 検察官・裁判所への国賠が認容されるかどうかについてはノーコメントです。被害者保護に厚い判決が出ればいいですね。

朝日新聞
住所知られ不安の毎日 性犯罪被害女性、検事の言葉にも傷つく
 ■一連の経緯
<2012年>
3月 女性が被害に遭う
7月 横浜地検川崎支部が男を強制わいせつ罪で起訴。横浜地裁川崎支部が被害者の住所や電話番号などを公判では明らかにしないと決定。地検川崎支部から女性に、男や弁護人には個人情報を開示しない通知が届く
10〜12月 公判中に地検川崎支部から男の弁護人に、被害者の住所が書かれた書類が郵送される。書類は弁護人から拘置所内の被告に渡る
<2013年>
3月 男に地裁川崎支部が懲役2年6カ月の実刑判決。その後、男は控訴
5月 男の控訴審の弁護人から女性に手紙が届く
6月 地検川崎支部が女性に謝罪

 次席は、「検事も漏らしたけども、裁判所も漏らしてるから、一緒だ」と言いたいんでしょうが、これは実はその通りで、証拠上隠すことはできても、証人として採用されると、相手方に連絡されます。「あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない」という法律になっているのに「漏洩」と言われると、裁判所は心外でしょう。

http://news.goo.ne.jp/article/asahi/nation/TKY201306140051.html
中村周司次席検事は、被告の裁判で実施された女性の証人尋問の内容を横浜地裁川崎支部がまとめた調書にも、女性の住所が書かれていたことを明らかにした。この調書も、地裁支部から弁護人に渡っていたという。
 中村次席検事は、地検支部から住所と電話番号が漏れたことについては「被害者に迷惑をかけ、誠に申し訳ない。今後はこのようなことがないよう指導したい」と改めて謝罪。検事が急いでいて住所などを塗りつぶすのを忘れたのが原因で、今後は複数の目でチェックを徹底するという。

刑事訴訟法
第二百九十九条  検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
○2  裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
・・・・・・
第二百九十九条の二  検察官又は弁護人は、前条第一項の規定により証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。
・・・・・・・・・
第二百九十九条の三  検察官は、第二百九十九条第一項の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、弁護人に対し、その旨を告げ、被害者特定事項が、被告人の防御に関し必要がある場合を除き、被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし、被告人に知られないようにすることを求めることについては、被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。

解説

白木功他「『犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律(平成19年法律第95号)』の解説(2)」法曹時報 第60巻10号
本条は,証拠開示の際に,検察官が,弁護人に対し,被害者特定事項がみだりに他人に知られないようにすることを求めることができることについて規定するものである。
検察官は,証拠開示の際に,被告者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉若しくは社会生活の平絡が著しく害されるおそれがあると認めるとき,又は被害者若しくはその親族の身体・財産に害を加え若しくはこれらのおを炭怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは,弁護人に対し,その旨を告げ,被害者特定事境が,被告人の防御に関し必要がある場合を除き,被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。
検察官から弁護人に対してのみ,被害者特定事項が被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができることとしたのは,証拠開示の際に被官者特定事項が知らされることとなるのは,検察官が弁護人に証拠開不をする場合であると考えられたためである。
「被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく告されるおそれがあると認めるとき」としては,例えば,いわゆる性犯罪に係る事件の場合のように,その事件の被害者がどこのだれであるかが明らかにされることにより,被害者等の名誉,すなわち人が円滑な社会生活・社会活動を行うための前提であるその人に対する積極的評価が著しく害されたり,あるいは,被害者等が平隠に社会生活を営むことが著しく困難になるような場合などが考えられる。
「被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の身体・財産に筈を加え文はこれらの者を畏怖・困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき」としては,例えば,暴力団構成員による事件で,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等に対し,当該暴力団の構成員や関係者から,報復や嫌がらせがなされるおそれがあるような場合などが考えられる。
「名誉」や「社会生活の平穏」の意義,名誉等の保護については被害者等のみをその対象としているのに対して、身体・財産等については被害者とは別にその親族も対象としている理由等については,第290条の2の解説を参照されたい
検察官から被害者特定事項の秘匿の要請を受けた弁護人は,被害者特定事項が,被告人の防御に関し必要がある場合を除き,これを他人に知られないように配慮すべき法的義務を負うが,被告人の防御に関し必要があると認められる場合には,このような法的義務は負わない。もっとも, 「被告人の防御に関し必要がある」か否かについては,飽くまで合理的な根拠に基づき客観的に認定されるべきものと考えられる。

・・・
検察官の要請を受けた弁護人がこの義務に違反した結果,被害者等の身体に危害が加えられたり,そのプライパシ一等が不当に侵害された場合には,民法第709条の不法行為が成立する場合があるほか,傷害罪や名誉毀損罪の共犯が成立する場合もあると考えられる。また,弁護人が正当な理由がなくこの要請に応じなかった場合は,懲戒事由に該当し得るものと考えられる。