児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

福祉犯・性犯罪(強姦・強制わいせつ)の被害者氏名を逮捕状・勾留状・起訴状等で秘匿することはできませんよね。

 被害者の方とざっくばらんな話をしていると「どうして被害者の名前がわかるんですか?まさか被告人に被害者の名前を教えてませんよね?警察と検察には念を押したんですが。」と聞かれることが時々あります。
 警察と検察がどう説明しているのかはわかりませんが、対人的な罪(個人的法益)の場合は、逮捕状・勾留状の「被疑事実」には必ず被害者の氏名が記載されていて、被疑者に示されますので、覚えている可能性があります。起訴状の「公訴事実」にも必ず被害者の氏名が記載されていて、これは被告人に送達されますので、ここまで来ると「被告人は被害者の氏名を知りません」というと嘘になります。

 刑訴法の秘匿決定も、起訴状には被害者特定事項が記載されていることを前提にしています。

刑事訴訟法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO131.html
第二百九十条の二  裁判所は、次に掲げる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
一  刑法第百七十六条 から第百七十八条の二 まで若しくは第百八十一条 の罪、同法第二百二十五条 若しくは第二百二十六条の二第三項 の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項 (第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項 (わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条 の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
二  児童福祉法第六十条第一項 の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号 に係る同法第六十条第二項 の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条 から第八条 までの罪に係る事件
三  前二号に掲げる事件のほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
○2  前項の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
○3  裁判所は、第一項に定めるもののほか、犯行の態様、被害の状況その他の事情により、被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
○4  裁判所は、第一項又は前項の決定をした事件について、被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないことが相当でないと認めるに至つたとき、第三百十二条の規定により罰条が撤回若しくは変更されたため第一項第一号若しくは第二号に掲げる事件に該当しなくなつたとき又は同項第三号に掲げる事件若しくは前項に規定する事件に該当しないと認めるに至つたときは、決定で、第一項又は前項の決定を取り消さなければならない。

第二百九十一条  検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
○2  前条第一項又は第三項の決定があつたときは、前項の起訴状の朗読は、被害者特定事項を明らかにしない方法でこれを行うものとする。この場合においては、検察官は、被告人に起訴状を示さなければならない。
○3  裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。

 これを弁護人の責任だと追及されることがあるのですが、起訴状を起案するのは検察官であり送達するのは裁判所なので、弁護人は関与していません。
 「まさか被告人に被害者の名前を教えてませんよね?警察と検察には念を押したんですが。」という反応を聞くと、捜査機関が被害者の協力を得るために無理をして不正確な説明をしているような気がします。



こういう判例もあります。

兇器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
大阪高等裁判所50年8月27日
高等裁判所刑事判例集28巻3号310頁
判例タイムズ329号307頁
判例時報807号105頁
警察学論集30巻2号149頁
別冊ジュリスト74号72頁
判例タイムズ335号118頁