児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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「青少年条例の規定は、一三歳以上、特に婚姻適齢以上の青少年とその自由意思に基づいて行うわいせつ行為についても、それが結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合を含め、すべて一律に規制しようとするものであるから、処罰の範囲が不当に広汎に過ぎるものというべきであり、また、条例にいう「わいせつ行為」の範囲が不明確であるから、広く青少年に対するわいせつ行為一般を検挙、処罰するに至らせる危険を有するものというべきであつて、憲法一一条、一三条、一九条、二一条の規定に違反する」と主張したら、「条例の「わいせ

 最判S60.10.23は「淫行」「みだらな性行為」について「福岡県青少年保護育成条例11条1項の規定にいう「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔しまたは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交または性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交または性交類似行為をいうものと解すべきである。」というのですが、これは「わいせつな行為」にもかかるはずだと思うのです。
 「「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。」というのでは、わいせつ図画と同じだし、青少年のせの字もないので不適当だと思います。
 

判例解説にも書いてありました。

最高裁判所判例解説
刑事篇昭和60年度201頁最高裁判所大法廷判決昭和57年(あ)第621号
福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
昭和60年10月23日高橋省吾
本判決の影響等について
(ニ)
本条例と同様、淫行処罰規定は「淫行」又は「みだらな性行為」のほか、「わいせつの行為」を禁止しているが、「わいせつの行為」についても、本判決の多数意見の示した限定解釈が及よということになると思われる。

兵庫県少年愛護条例の解説 h21
(みだらな性行為等の禁止)
第21条
1何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない。
2 何人も、青少年に対し、前項の行為を教え、文は見せてはならない。

【要旨】
この条は、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をし、又はこれらの行為を教え若しくは見せることを禁止したものである。
[解説]
1 一般に青少年は、その心身の未成熟あるいは発育程度の不均衡から、精神的にまだ十分に安定していないため、反倫理的、反道徳的な性行為等によって精神的な痛手を受けやす

2「みだらな性行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、若しくは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為のことをいう。
3 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。
4 第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望を満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ罰則の対象として考えがたいものは、これらに該当しない。

福岡県青少年保護育成条例違反被告事件
最高裁判所大法廷判決昭和60年10月23日
【参考文献】 最高裁判所刑事判例集39巻6号413頁
       家庭裁判月報37巻11号74頁
       最高裁判所裁判集刑事241号29頁
       裁判所時報917号4頁
       判例タイムズ571号25頁
       判例時報1170号3頁
【評釈論文】 警察学論集39巻1号62頁
       研修451号53頁
       ジュリスト853号59頁
       ジュリスト臨時増刊862号8頁
       別冊ジュリスト95号194頁
       別冊ジュリスト111号8頁
       別冊ジュリスト125号38頁
       別冊ジュリスト155号248頁
       捜査研究36巻4号48頁
       地方自治職員研修38巻81号50頁
       法学52巻3号139頁
       法曹時報39巻5号124頁
       法律のひろば39巻1号71頁
 一 被告人本人の上告趣意第一部の二ないし四及び第二部の一ないし四は、福岡県青少年保護育成条例(以下、「本条例」という。)一〇条一項、一六条一項の規定は、一三歳以上、特に婚姻適齢以上の青少年とその自由意思に基づいて行う性行為についても、それが結婚を前提とする真摯な合意に基づくものであるような場合を含め、すべて一律に規制しようとするものであるから、処罰の範囲が不当に広汎に過ぎるものというべきであり、また、本条例一〇条一項にいう「淫行」の範囲が不明確であるから、広く青少年に対する性行為一般そ検挙、処罰するに至らせる危険を有するものというべきであつて、憲法一一条、一三条、一九条、二一条の規定に違反すると主張し、弁護人立田廣成は、当審弁論において、被告人の右主張は憲法三一条違反をも併せ主張する趣旨である旨陳述するとともに、その上告趣意第一において、右の「淫行」の範囲に関し、青少年を相手とする結婚を前提としない性行為のすべてを包含するのでは広きに過ぎるから、「淫行」とは、青少年の精神的未成熟や情緒不安定に乗ずること、すなわち、誘惑、威迫、立場利用、欺罔、困惑、自棄につけ込む等の手段を用いたり、対価の授受を伴つたり、第三者の観覧に供することを目的としたり、あるいは不特定・多数人を相手とする乱交の一環としてなされる性行為等、反論理性の顕著なもののみを指すと解すべきであると主張する。
 そこで検討するのに、本条例は、青少年の健全な育成を図るため青少年を保護することを目的として定められ(一条一項)、他の法令により成年者と同一の能力を有する者を除き、小学校就学の始期から満一八歳に達するまでの者を青少年と定義した(三条一項)上で、「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつの行為をしてはならない。」(一〇条一項)と規定し、その違反者に対しては二年以下の懲役又は一〇万円以下の罰金を科し(一六条一項)、違反者が青少年であるときは、これに対して罰則を適用しない(一七条)こととしている。これらの条項の規定するところを総合すると、本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似制為をいうものと解するのが相当である。けだし、右の「淫行」を広く青少年に対する性行為一般を指すものと解するときは、「淫らな」性行為を指す「淫行」の用語自体の意義に添わないばかりでなく、例えば婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年との間で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものをも含むこととなつて、その解釈は広きに失することが明らかであり、また、前記「淫行」を目して単に反倫理的あるいは不純な性行為と解するのでは、犯罪の構成要件として不明確であるとの批判を免れないのであつて、前記の規定の文理から合理的に導き出され得る解釈の範囲内で、前叙のように限定して解するのを相当とする。このような解訳は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うものであり、「淫行」の意義を右のように解釈するときは、同規定につき処罰の範囲が不当に広過ぎるとも不明確であるともいえないから、本件各規定が憲法三一条の規定に違反するものとはいえず、憲法一一条、一三条、一九条、二一条違反をいう所論も前提を欠くに帰し、すべて採用することができない。
 なお、本件につき原判決認定の事実関係に基づいて検討するのに、被告人と少女との間には本件行為までに相当期間にわたつて一応付合いと見られるような関係があつたようであるが、当時における両者のそれぞれの年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情に照らすと、本件は、被告人において当該少女を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性行為をした場合に該当するものというほかないから、本件行為が本条例一〇条一項にいう「淫行」に当たるとした原判断は正当である。


 解説の変遷をみると、「みだらな性行為」の説明は最判S60を受けて限定的になっているのですが、「わいせつな行為」については、従前のままの古い判例が引用されていることがわかります。
 最判S60の趣旨は当然「わいせつな行為」にも適用されるにもかかわらず、そのままです。

兵庫県少年愛護条例解説(s42.11)p19
l 第1項は、青少年に対してなされるみだらな性行為、わいせつな行為の禁止規定である。

2 「みだらな性行為」とは、児童福祉法に規定されている「淫行」と同意義である。すなわち、窓会な常識を有する一般祉会人からみて不純とされる性行為をいい、結婚を前提としないもつばら情欲を満足させることを目的とする性行為もこれに当たり、性交類似行為でわいせつな行為の範囲をこえるものも含まれる。

3「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反する行為をいう。

兵庫県少年愛護条例解説S62
3 「みだらな性行為」とは、いわゆる「淫行」と同意義であり、具体的には青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し、又は困惑させる等その心身の未成熟児乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為・青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為の行為をいう(福岡県条例違反事件最高裁昭和60年10月23日判決)。
4 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反する行為をいう。(埼玉県条例違反事件東京高裁昭和39年4月22日判決)。
5 第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望壱満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はそれに準ずる真しな交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ処罰の対象として考え難いものはこれらに該当しない。

兵庫県少年愛護条例の解説 h21
2 「みだらな性行為」とは、青少年を誘惑し、威迫し、若しくは困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為、又は青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為のことをいう。
3 「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいう。
4 第1項の例としては、成人が結婚の意思もないのに青少年を言葉巧みに誘って、単に自己の性的欲望を満足させるためだけにしたみだらな性行為及び青少年の性器をもてあそぶなどしたわいせつな行為がこれにあたるが、婚約中の青少年又はこれに準ずる真撃な交際関係にある青少年との関係で行われる性行為等、社会通念上およそ罰則の対象として考えがたいものは、これらに該当しない。


 条例の「わいせつな行為」の定義は、最判S60.10.23以前の判例です。

東京高裁S39.4.22
検察資料204「青少年保護育成条例罰則関係執務資料集-いん行・わいせつ行為等の禁止規定関係」(法務省刑事局・S55)P31
そして、第一審判決が、その認定した判示第二の事実に適用している本条例第一〇条第一項は、何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為(当裁判所は、右「みだらな性行為」とは、健全な常識がある一般社会人からみて、結婚を前提としない欲望を満たすことのためにのみ行なう不純とされる性行為をいい、また、右「わいせつな行為」とは、いたづらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に差恥嫌悪の情をおこさせる行為をいうものと解する。したがって、本条例第一〇条第一項は、所論刑法第一七四条、第一七六条ないし第一七九条の各罪と、その犯罪の構成要件を、まったく異にしている。)をすることを禁止し、これに違反した者を、三万円以下の罰金に処する(本条例第一七条)旨を定めているところ、・・・・

阪高裁S48.12.20
検察資料204「青少年保護育成条例罰則関係執務資料集-いん行・わいせつ行為等の禁止規定関係-」(法務省刑事局・S55)P45
そこで、右条例の規定が法令、なかんずく所論の刑法一七六条ないし一七八条に違反するものであるか否かについて検討するに、普通公共団体が制定することができる条例は、前述のように「法令に違反しない」ものであることを要するから、もし条例の条項が国の法令の条項と積極的に矛盾抵触する場合は、固よりその条例は法令に違反するものとして無効のものであることはいうまでもないけれども、条例と法令との規定の対象が同一若しくは類似しているが、法令の規制の対象としていない場合を含む。)するものであっても、その規定の設けられた趣旨ないし目的が異なる場合には、当該条例は法令の条項と矛盾抵触するものとはいえず、これに違反しないものと解するのが相当である。
これを本件条例についてみるに、その一〇条一項には「何人も少年に対しいん行又はわいせつ行為をしてはならない」旨規定し、その一五条三項において右禁止に違反した者に対して三万円以下の罰金に処すべき旨を規定しているのであるが、右にいう「いん行」又は「わいせつ行為」は刑法一七六条前段及び一七八条に規定する暴行、脅迫、心神喪失又は抗拒不能等を伴わないものであって、健全な常識を有する一般社会人からみて結婚を前提としない単に欲望を満たすことのためにのみ行なう性行為(いん行)、又は、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識を有する一般社会人に対し性的な差恥嫌悪の情を起こさせる行為(わいせつ行為)をいうものと解せられるところ、右条例の規定は、一三歳以上の少年に関する限り、刑法一七六条前段、一七七条前段、一七八条の規定が対象とする暴行、脅迫、心神喪失、抗拒不能等を伴う強制わいせつ行為または強姦行為と類似する行為を対象とするが、暴行、脅迫等を伴わないため刑法上犯罪とされない行為を禁止し、その違反者に刑罰を科するものであり、また、小学校就学の始期以上一三歳未満の少年に関する限り、刑法一七六条後段、一七七条後段の規定が対象とするわいせつ行為又は姦淫行為と同一の行為を対象とし、その処罰については刑法上それが親告罪とされているのに非親告罪とするものであることは明らかである。しかし、刑法一七六条ないし一七八条の強姦罪文は強制わいせつ罪の規定は、風俗犯としての面をもっとともに一八歳未満の少年に対するこれらの行為を処罰することによって間接的には右少年の保護が計られることも否定しがたいところであるけれども、むしろ、直接的には主として個人の一種の人格的自由としての性的自由を保護法益とするのに対し、本条例が少年に対するいん行又はわいせつ行為を禁止するのは、その一条の規定からも明らかな如く、少年は心身が未成熟であるため反倫理的な行動経験による衝撃や影響を受けることが多く、また乙れらからたやすく回復しがたいなどの点で成人に比してきわめて特徴的であるので、そのような少年の情操を害するおそれのある行為から少年を保護し、少年の健全な保護育成を図る乙とを目的とするものであるから、両者はその趣旨ないし日的を異にするものというべく、したがって、本条例一〇条一項、一五条三項が刑法に反するといいえないのはもとより、右刑法の各条項が本条例の右条項所定の事項につき地方自治法一四条五項にいう法令に特別の定があるものにも該当しないというべきである