児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

<児童ポルノ>日弁連が「単純所持」禁止…規制で方針転換

 早晩、日弁連のサイトで公開されるはずです。
 単純所持罪の時間の問題だと思ってるんですが、
 2008.6.5に、子どもの権利委員会からの意見紹介で

「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に関する意見書(案)
日本弁護士連合会
2008年 月 年

という「現状維持」の案が回ってきたのですが、その後、どうなったのかは聞いてません。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100321-00000005-mai-soci
児童ポルノ日弁連が「単純所持」禁止…規制で方針転換
3月21日2時33分配信 毎日新聞
 児童買春・児童ポルノ禁止法の改正をめぐり、日弁連児童ポルノ画像を個人で見るためだけに所有する「単純所持」を禁止すべきだとの意見書をまとめた。捜査機関の権力乱用を防ぐ観点から規制強化に慎重な立場だったが、インターネット上などで児童の性的虐待画像がはんらんしている現状を憂慮し、姿勢を転換した。意見書は23日、関係省庁や各政党などに提出する。
 日弁連は、前回の法改正時にまとめた03年の意見書で「(画像の)流通抑制は製造、販売の厳格な摘発などによるべき」だとし、単純所持の規制に反対した。現在でも内部には「取り調べ可視化さえ実現していない段階で、捜査権力を拡大するのは危険」との意見がある。このため新たな意見書では処罰規定までは求めず、禁止明確化を求める。【丹野恒一】

構図としては、犯罪化を進める子どもの権利委員会と、反対する刑事法制委員会とで決められていくらしいのですが、実務とか裁判例に詳しい人はいませんので、どういう趣旨の意見にしろ、おおざっぱな意見になっているはずです。




追記
 3/23に公表されました。
 ほかの委員会に意見照会してからかなり加筆してますよね。
 まあ、児童ポルノ・児童買春事件にどっぷり浸かっていない弁護士の視点ということです。
 保護法益についても、個人的法益だけでは説明できないんですが、知らない方が理論明快です。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/100318_3.pdf
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/100318_3.html
「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の見直し(児童ポルノの単純所持の犯罪化)に関する意見書
2010年(平成22年)3月18日日本弁護士連合会
意見の趣旨
1現行法における児童ポルノの定義を限定かつ明確化すべきである。
2現行法の児童ポルノの定義を限定かつ明確化したうえで,児童ポルノの単純所持を禁止すべきである。ただし,犯罪化することには,反対する。
意見の理由
第1はじめに
2008年6月,当時の与党であった自民・公明両党から国会に対し,児童ポルノの単純所持を犯罪化することなどを内容とする「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」が提出された。
これに対し,2009年3月,当時の野党であった民主党からも改正案が提出された(以下「民主党案」という。)。これらはいずれも,衆議院解散に伴い廃案になったが,2009年11月,再び自民・公明党案が国会に提出された。
一方,政府は,2009年12月22日,児童ポルノ根絶に向けた総合対策を検討する「児童ポルノ排除対策ワーキングチーム」を設置し,児童ポルノの排除に向けた対策の具体的検討に入った。報道によれば,政府は,このワーキングチームで迅速に結論を出すことを求めているということであり当連合会としても,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童ポルノ処罰法」という)の改正に向けて,一定の意見を表明する必要があることから,本意見書の公表に至った次第である。
第2 児童ポルノの定義の限定かつ明確化の必要性
1 現行法の定義の問題
児童ポルノ処罰法による「児童ポルノ」の定義は,極めて曖昧で不明確かつ 広範囲に過ぎる。
(1)定義の曖昧性・不明確性
定義の曖昧性・不明確性は,現行法上犯罪とされている犯罪類型においても問題となる。現行法は,処罰規定が漠然不明確ゆえに違憲無効の疑いを免れないことから,後述のような単純所持の犯罪化の問題とは切り離して,ただちに改正が必要である。
すなわち,児童ポルノ処罰法は,児童ポルノの定義規定を置くが,その中で同法2条3項2号及び3号には「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という主観的要件を含んでおり,児童ポルノの構成要件該当性を客観的に判断できない。特に,同3号は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの(を視覚により認識することができる方法により描写したもの」と規定しており,極めて広範かつ曖昧・不明確な)定義となっている。

この定義によると,仮に児童の水着写真であっても,捜査機関が「性欲を興奮させ刺激するもの」と判断すれば,児童ポルノに該当するとして,児童ポルノ処罰法上の各犯罪として立件されることになりかねない。また,自分の子どもの乳幼児時代の裸の写真を所持しているだけでも,見る人によっては「性欲を興奮させ刺激するもの」にもなり得る。すなわち,現行法の定義では,捜査機関の恣意的な判断によって処罰範囲が不当に拡大するおそれが大きい。
(2)定義が過度に広範
また,現行法の定義は,広範に過ぎる。すなわち,芸術的価値があるものや学術研究目的・報道目的で収集した資料であっても,現行法の2条3項各号に該当する可能性がある。
ちなみに,アメリカ合衆国の連邦法では,「真に文学的,芸術的,政治的,科学的価値のないもの」のみが児童ポルノに該当するとしている(1466A。)
民主党案の定義の問題
これに対し,民主党案は「児童ポルノ」を「児童性行為等姿態描写物」と名称を改めたうえで「児童性行為等姿態描写物」の定義を,現行法の「児童ポルノ」の定義よりは,限定しようとしている。すなわち,現行法の2条3項3号を削除し,同項2号にもいくつかの修正を施している点で,一定の評価はできる。
しかし,この修正案においても「殊更に「児童の性器等(注:性器,肛門」又は乳首をいう)が。」「強調されている児童の姿態」も「児童性行為等姿態描写物」に含むとされているところ「強調されている」というのがどういう状態を含むのか,必ずしも客観的に明確とは言えない。すなわち,例えば,乳首を花びらで隠した場合,それは,隠されており「露出」していないとして,児童性行為等姿態描写物に該らないということになるのか,逆に「強調されている」ということになるのか,見る者によって相当に受け止め方は異なり得る。
したがって,民主党案であっても,曖昧性は残っており,結局,捜査機関の恣意を十分に排除できないと言わざるを得ない。3したがって,児童ポルノの定義は,客観的で明確であり,範囲も限定的なものとしなければならない。定義の明確化と限定の要点は,以下のとおりである。
児童ポルノを規制することにより守るべき法益は,被写体となる児童の人権ないし権利(身体的自由,精神的自由,性的自由,性的自己決定権,プライバシー権,名誉権,成長発達権等)であって,善良な風俗ではない。
したがって,児童ポルノの定義は,この法益を守るために必要十分なものでなければならない。この観点からは,児童ポルノの定義に見る側の主観的要件を入れることは適当ではない。
② 芸術的価値があるものや学術研究目的・報道目的で収集した資料は,児童ポルノの定義から明示的に外すべきである。
③ 自分の子どもの乳幼児時代の裸体や水着を着ている姿態が児童ポルノに含まれると解釈される余地のない定義にすべきである。
第3 単純所持の犯罪化には反対
児童ポルノの単純所持を犯罪化することについては,反対である。
その理由は,単純所持を犯罪化することによって得られる利益より,犯罪化 に伴う弊害の方が大きく,単純所持の犯罪化の立法事実が欠けると考えられるからである。すなわち,憲法上の要請である比例原則からして,単純所持の犯罪化は,行き過ぎであると考える。

そもそも児童ポルノ処罰法の制定時から,単純所持を処罰するか否かは議論されており,その結果,わが国では,単純所持を処罰することを認めると,捜査機関による捜査権濫用のおそれがあるなどの理由から,これまで単純所持が処罰されてこなかった経緯がある。
なお,国連の「児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」にも単純所持の処罰を義務づける条項はない。
3立法事実が薄弱
そこで,問題は,現時点において,児童ポルノの単純所持を処罰する立法事実があるか否かであるが,否というべきである。
(1)この点,インターネットの普及により,児童ポルノ画像がインターネットに流出して氾濫するようになっていることが,単純所持処罰を必要とする論拠として言われることがある。
しかし,児童ポルノ画像のインターネット上での氾濫を阻止するために最も直接的なのは,その供給源及び供給行為を断つことである。その観点から,児童ポルノ処罰法では,すでに児童ポルノを特定又は少数者に提供する目的での保管(所持)も,不特定多数者に提供する目的での保管(所持)も処罰されている(同法7条2項,5項。また,インターネットのホームページ)等で児童ポルノ画像を公開することは公然陳列罪として現行刑法上も処罰されるし,ホームページ等へ掲載する目的で画像を保管する場合にも,提供目的の保管として現行刑法上処罰される。
前記の犯罪に該当しないが(そのために,単純所持罪が処罰されないと処罰できないが,インターネットへ児童ポルノ画像を流出・氾濫させる事態)として想定されるのは,例えば,児童ポルノ画像データをパソコンに密かに保管していた人が,ファイル共有ソフトWinnyなど)を利用したために,本人の知らない所で,他のユーザーにその画像が公開されることとなった場合や,電子ウイルスに感染したために,保管していたデータが,本人の知らないところでインターネットに流出した場合のように,かなり特殊な場合に限定される。しかし,そのような場合に,わざわざ画像データの保管者を探索してその処罰をする必要性があるとは考えられない。処罰すべきは,その画像の元となる写真を撮影した者であり,それを頒布した者であって,そうでなければ,児童ポルノの根絶には結びつかない。
,したがってインターネット上での児童ポルノの流出・氾濫を防ぐために,単純所持を処罰する必要があるとまでは考えられず,そのような観点から単純所持を犯罪化する立法事実があるとは言えない。
(2)単純所持を処罰しようとする見解の最も大きな論拠は,児童ポルノの需要に歯止めをかけない限り,供給の根絶が困難であるという点にあると考えられる。
確かに,需要に歯止めをかけることにより,一定程度,供給が根絶されるという効果があるであろうことは否定しない。
しかし,需要に歯止めをかけるための方策として,犯罪化するということは行き過ぎである。すなわち,単純所持は,他の犯罪類型に比べて違法性の程度は若干低いものである。しかし,単純所持を犯罪化したからといって,児童ポルノの根絶に大きな効果をもたらすかというと,そのような効果が上がる可能性については何ら合理的な説明がなされていない。それにもかかわらず,これを犯罪化することによる弊害は後述のとおり,無視できないほど大きいものと言わざるを得ない。
4捜査権の濫用をもたらすおそれがあること
単純所持を犯罪化することにより,単純所持罪が他の重大な犯罪の捜査に利用されるといういわゆる別件逮捕が行われる可能性が高まるなど,捜査権の濫用が懸念される。
すなわち,単純所持を処罰することができるようになれば,捜査機関は,これまで必要だった「提供目的」等を立証しなくても,被疑者が単に児童ポルノ画像を所持していることだけを立証すれば検挙できるようになることから,捜査機関にとっては,検挙しやすくなる。
なお,民主党案は現行法より処罰対象となる行為を拡大しているところ(ただし,民主党が新たに処罰対象とする行為は「単純所持罪」ではなく「有償取得罪「反復取得罪」とでもいうべきも」のであろう。),その範囲を第7条で「みだりに・・・有償で又は反復して取得」した場合と規定している。しかし,「有償「反復」の解釈いかんによっ」ては,広範な処罰が可能となってしまい,曖昧さはぬぐいきれない。すなわち,有料サイトにアクセスして画像をダウンロードしたものの利用料は支払わなかった場合が有償取得に該るのか,また,同じサイトから2枚の画像を引き続きダウンロードした場合が反復取得に該るのか,必ずしも判然としない。そのため,複数枚の画像がパソコンに保存されている場合には,反復して取得したとして現行犯逮捕されかねない。逮捕された後の捜査の結果,要件を満たすことが立証できないとして起訴を免れたとしても,逮捕されたことの不利益は大きい。
そして,まずは,立証が容易な単純所持で逮捕勾留しておいて,その身体拘束期間を他の犯罪(それは児童ポルノ所持とはまったく関係がない経済犯罪かもしれない)の捜査に利用するという事態も起こりうる。
 わが国では捜査の可視化さえ実現しておらず,自白偏重主義も根強い中で,そのような別件逮捕勾留が行われて,虚偽の「自白」を強いられるという事態も否定し難いところである。
 また,捜査機関が,怪しそうだと目をつけた通行人に職務質問と所持品検査を行い,所持しているパソコンに保存されているデータ中に児童ポルノ画像が発見されれば,それが自分が知らない間に取得されたデータであったとしても(例えば,他の人がそのパソコンを利用して児童ポルノ画像をダウンロードしたとしても,ただちに現行犯逮捕されるという事態になりかねない。民主党)案でも,ダウンロードしたのが他人であるという弁解をその場で信用してもらえるとは限らず,発見された画像が複数枚あれば,「みだりに・・・反復して」取得したとして現行犯逮捕されるという事態になりかねない。
そして,自分が知らない間に,第三者が自分のパソコンを使用して児童ポルノサイトを閲覧し,児童ポルノ画像のキャッシュ(一時的な記憶)がパソコンに残っていることを本人は全く知らないというような場合に,本人の意図しない所持だと証明できるかは極めて疑問である。また,民主党案であっても,複数画像が保存されていた場合に,1回の取得行為によるものであって反復して取得したわけではないと反証できるかは疑問であり,そのような規定があるからといって自らの冤罪を晴らせるとは限らない。
捜査機関による冤罪事件が多発している中で,捜査機関が単純所持処罰規定を濫用しないという保証はないので,単純所持処罰規定を設けることはあまりにもその弊害が大きいと言わざるを得ない。
民主党案の処罰対象の不合理性
なお,民主党案は,前述のごとく「みだりに・・・有償で又は反復して取得」する行為を処罰しようとするものであるから,単純所持を犯罪化することを意図するものではなく,有償取得行為,反復取得行為の犯罪化を意図しているものであるといえる。それらの行為の処罰化も捜査権の濫用のおそれを払拭できないことは前述のとおりであるが,さらには,民主党案でも,学術目的,調査研究目的での取得を構成要件から明確に排除していないことから,このような目的をもってなされた有償ないし反復取得行為も「みだりに」の解釈いかんによっては,処罰対象になってしまうが,それは不合理である。

第4単純所持の禁止を明記すること
児童ポルノの定義を改正して,この定義が客観的に明確化し,かつ限定的にしたうえで,児童ポルノの単純所持を,違法行為であることを法律上明文で宣言し,これを禁止することが必要であると考える。前記の意味での児童ポルノは,表現の自由等によって正当化される余地がない,明確な子どもの人権侵害行為である。その制作過程等において被写体となった子どもの人権を著しく侵害するものであるばかりかその子どもにとって,誰かが自分の児童ポルノを所持しているかもしれないという将来にわたる不安をもたらし,健全な成長発達を脅かすものであるから,児童ポルノが存在すること自体,あってはならない。
また,言うまでもなく児童ポルノを自己所有目的で購入するなどして譲り受ける者がいる限り,児童ポルノの営利目的での製造・販売等の行為は無くならず,結局,被写体となる子どもの被害,すなわち子どもに対する人権侵害行為は無くならない。
特にわが国の社会の中には,児童ポルノを所持すること自体は許されるという風潮が一部あることは否定できず,わが国がインターネット等を通じて児童ポルノの主要な発信国となっている背景には,このような児童ポルノの所持についての社会の風潮・認識が存在すると思われる。
このような社会の認識・風潮を変え,児童ポルノによる子どもの人権侵害を防止するためには,前記の理由から単純所持を処罰対象とすることは妥当でないとしても,少なくとも,児童ポルノの単純所持を,明確に法律で違反であると宣言する必要がある。
2これに対し,違法であることを宣言しても罰則が伴わなければ意味がないという見方もあろう。しかし,必ずしも罰則が伴わなくとも,違法であることを宣言するだけで社会に対する啓発の意味は少なからず達せられるということは歴史の実証するところでもある。例えば,児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)や配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)が成立したが,この法律自体は「児童虐待罪」や「DV罪」などの新たな犯罪類型を創設するものではなく,従前の刑罰法規で犯罪とされているもの以上に犯罪化は行わなかった。それでも,児童虐待やDVは人権侵害行為であると法律で宣言することにより,それらが子どもや女性の人権を侵害する違法な行為であるという認識は,社会の中に急速に広がってきたということは否定できない事実であろう。
同じように,児童ポルノの所持に関しても,社会の認識を変えるために,法律の明文で,その違法性を宣言してこれを禁止することは,子どもの人権侵害行為を根絶する観点から必要なことであり,有益なことであると考える。
3ただし,児童ポルノの「取得」という外部的な行為と離れて,個人がいかなる情報を所持するかどうかは,個人の内心にも通じる私的領域に属するものである。そのような私的領域に対して違法の宣言をすることや公的権力の介入を認めることは,極めて慎重でなければならない。したがって,児童ポルノの単純所持を禁止し,それが違法であると宣言することの効果は,社会全体の認識の変化により起こる個々人の自発的な行為(所持するに至ってしまった児童ポルノを廃棄する等)に待つべきであって,公権力の私的領域への介入を招くものであってはならないことに留意すべきである。
第5以上より,単純所持が違法であることを法律上明記したうえで,社会での啓発活動を進めて,児童ポルノの根絶を目指すべきであり,意見の趣旨記載のとおり,意見を述べる。
以上