わいせつ図画について肯定する地裁裁判例があります。児童ポルノについても肯定する未公開の裁判例があります。児童ポルノについてはバックアップデータを販売目的とした高裁裁判例(高裁判決速報 MAC判決)もあります。
理論的には、所持罪じゃないんですが、当罰性が強調されると思います。
判例によれば、販売罪・所持罪の客体については有体物性が要件となる。「わいせつな」「物」でなければならないのである。
ところで、「わいせつ物」というのは、媒体(紙、フィルム、メディア)にわいせつな情報が化体した存在である。媒体と情報が原材料である。
情報だけあっても、わいせつ「物」ではなく
媒体だけあっても「わいせつ」物ではない
のである。
販売罪の客体について有体物性を貫くのであれば、所持罪の客体は、販売罪の客体と「同一のわいせつな有体物」でなければならない。要するに「売り物のわいせつ物」を所持していなければならない。所持罪は販売(提供)の準備行為として特に設けられた構成要件。通貨偽造等準備と同様の趣旨である。
刑法第153条(通貨偽造等準備)
貨幣、紙幣又は銀行券の偽造又は変造の用に供する目的で、器械又は原料を準備した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。所持罪の実行行為は物の所持のみに限定されており、「器械又は原料を準備」(刑法153条参照)は処罰されていない。この点で生媒体や原画や編集素材(原材料)の所持は含まない。
第175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。たとえば、マスターテープとダビング前の生媒体(生テープ等)とを所持する場合、生媒体の所持については、それにわいせつデータを記録して販売するのだから、わいせつ物の所持かというと、そうとはいえないし、そういう見解はない。なぜなら、犯人は生媒体を売り物として所持しているのではないからである。原材料として所持しているに過ぎない。
マスターテープの所持についても同様である。なぜなら、犯人はそのマスターテープ自体を売り物として所持しているのではないからである。原材料として所持しているに過ぎない。確かにマスターテープも有体物に化体してはいるが、原材料である情報の容器(これが有体物)として所持しているに過ぎない。
同じく原材料である、媒体と情報のうち、情報の支配については所持罪となるというのは一貫しない。