児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「うその被害を宗像署に申告。同署や福岡県警の捜査員延べ648人を10日間にわたり捜査に当たらせて、警察官らの本来の業務を妨害した」という偽計業務妨害事件で罰金50万円(宗像簡裁h30.11.7)


 偽計公務妨害罪はないので、徒労の業務に従事させたのではなく「本来の業務を妨害した」という起訴状になっていますが、それは軽犯罪法に罰則があります。

軽犯罪法
第一条[軽犯罪]
 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

集団強姦虚偽 女に罰金 宗像区検が簡裁に略式起訴
2018.11.20 西日本新聞
 福岡県宗像市で6月、複数の男から強姦(ごうかん)されたなどとうその通報をして警察の業務を妨害したとして、宗像区検は19日、偽計業務妨害罪で、元銀行員の20代の女=同市=を宗像簡裁に略式起訴したと発表した。簡裁は罰金50万円の略式命令を出した。命令は7日付。

 福岡県警は8月、女に協力したとして、女とともに20代と40代の男2人も同容疑で書類送検したが、福岡地検は「諸事情を考慮した」として、2人を不起訴処分にした。処分は10月31日付。

 起訴状などによると、6月11日夜、宗像市内で、インターネットを通じて知り合った男らに車での連れ去りを依頼して性交させ、翌12日、「知らない男に無理やり車で連れ去られた。粘着テープで縛られて複数人からレイプされた」とうその被害を宗像署に申告。同署や福岡県警の捜査員延べ648人を10日間にわたり捜査に当たらせて、警察官らの本来の業務を妨害したとされる。
 女は県警の任意の調べに対して「仕事に行きたくなかった」と話し、男2人は「女から頼まれた」と説明していた。

 (押川知美)

西日本新聞社
・・・・
「集団強姦」でっちあげ 「仕事行きたくなくて」ネットで依頼 虚偽通報容疑の女ら書類送検
2018年08月21日06時00分 (更新 08月21日 09時05分)

 福岡県宗像市で6月、男2人から性的暴行の被害に遭ったなどとうその通報をして警察の業務を妨害したとして、福岡県警が今月、偽計業務妨害の疑いで、県内の男女3人を福岡地検書類送検していたことが捜査関係者への取材で20日、分かった。

 書類送検されたのは、いずれも県内在住で、銀行員の20代の女と、女に協力した20代の男ら2人。書類送検容疑は6月中旬、共謀して、うその性犯罪事件をでっち上げ、警察官の業務を妨害した疑い。

 捜査関係者によると、女がインターネットを通じて知り合った男2人に「連れ去ってレイプしてほしい」などと依頼。2人は実際に、宗像市内で帰宅中の女を車で連れ去り、わいせつな行為をしたという。女が家族に「集団強姦(ごうかん)の被害に遭った」と相談し、両親が県警に通報した。

 県警は防犯カメラの映像などから男2人を特定。事情を聴いたところ、「女から頼まれた」と話し、女と連絡を取り合って計画していたことなどから虚偽の事件と判断した。女は動機について「仕事に行きたくなかった。彼氏の気も引きたかった」と話したという。

   ◇    ◇

捜査に延べ70人投入

 “事件”の一報を受け、県警は延べ70人以上の捜査員を投入した。浜松市の女性看護師(29)が車ごと拉致され、6月上旬に静岡県の山中で遺体が見つかった事件の発生直後で、捜査幹部は「手口に共通点もあり、大きく構えた。性犯罪は被害者の心情に配慮して細かく聞けない場合もあり、初動が肝心だ」と話す。

 うその通報で摘発されたケースは過去にもある。福岡県内では昨年11月、警察に虚偽の通報をして駆け付けたパトカーから走って逃げ回る「パト戦」という行為を繰り返したとして、15~17歳の少年約10人が軽犯罪法違反(虚偽申告)などの疑いで書類送検された。

 一方で、目撃者からの通報は、火災や事件事故を早く察知する重要な手段だ。警察庁は「善意の通報なら、結果的に違っても罪に問われることは基本的にはない」と呼び掛ける。

 今回、書類送検に踏み切ったことについて県警幹部は「虚偽の通報に対応している間に、別の重大事件が起きる可能性もある。うその代償は大きい」と指摘した。

=2018/08/21付 西日本新聞朝刊=

「本判決において、性的意図という行為意思は、超過的内心傾向であることは否定されたが、「わいせつな行為」という実行行為の判断において一定の役割を果たすことは肯定されており、それが、一定の場合における単なる判断要素か、あるいは、実行行為判断における不可欠な要件なのかという違いに過ぎず、本書は、後者の立場を採用するものである(その限度で、改説する)。」  高橋則夫刑法各論[第3版]

 大法廷判決が出ると改説する学者が出てきた。

(2)わいせつな行為
「わいせつな行為」とは、本罪の保護法益を性的自由と解する以上、被害者の性的自由を侵害するに足りる行為をいうことになろう7.前述のように、性的感情それ自体は保護法益に含まれないことから、性的に未熟な幼児に対しても本罪は成立する。もっとも、判例は性的蓋恥心の存否を間題にしている。たとえば、新潟地判昭和63.8.26判時1299号152頁は、7歳の女児の乳部を撫でまわし、さらにスカートの中に手を差し入れて、パンツの上から臂部を撫でた事案につき、「性的に未熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臂部を触られて蓋恥心と嫌悪感を抱」いているとして、本罪の成立を認めた。
・・・
その他、判例において「わいせつな行為」とされた事例として、たとえば、被害者の体に直接触れない場合として、婦女を無理矢理裸にして写真撮影をする行為(東京地判昭和62.9. 16判タ670号254頁:女性下着販売業の従業員として稼動させるという目的のために、婦女の全裸写真を強制的に撮影しようとした事案)、男女に性交を強要する行為(釧路地北見支判昭和53. 10.6判タ374号162頁:内縁関係にある男女を脅迫して裸体にさせ性交の姿態および動作をとらせた事案)などがある。

・・・
しかし、最大判平成29. 11 .29刑集71巻9号467頁は、「行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は、……もはや維持しがたい。」として、判例変更を行った。
本判決は、甲が、インターネットを通じて知り合ったAから金を借りようとしたところ、金を貸すための条件として被害女児とわいせつな行為をしてこれを撮影し、その画像データを送信するように要求されたので、被害者(当時7歳)が13歳未満の女子であることを知りながら、被害者X女に対し、甲の陰部を触らせたり、口にくわえさせたり、X女の陰部を触ったりする等のわいせつな行為をした事案につき、性的意図を要件とする法律上の根拠がないこと、性的意図の有無で強要罪と強制わいせつ罪の法定刑の違いを説明できないこと、強制性交等罪には主観的事情を要しないことの整合性がないこと、ドイツやわが国の刑法改正から社会の意識の変化や被害の実態に対する社会の受け止め方が変化したことなどを踏まえて、性的意図を成立要件とする解釈を否定しつつ、他方で、次のように判示した。
すなわち、「もっとも、刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には、強姦罪に連なる行為のように、行為そのものが持つ性的性質が明確で、当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため、直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方、行為そのものが持つ性的性質が不明確で、当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上、同条の法定刑の重さに照らすと、性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして、いかなる行為に性的な意味があり、同条による処罰に値する行為とみるべきかは、規範的評価として、その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。[改行]そうすると、刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって、そのような個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし、そのような場合があるとしても、故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく、昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。[改行]そこで、本件についてみると、. .…・当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから、その他の事情を考慮するまでもなく、性的な意味の強い行為として、客観的にわいせつな行為であることが明らかであり、強制わいせつ罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の結論は相当である。
」と。
要するに、本判決は、性的意図を強制わいせつ罪の故意とは別個の主観的要件とすることを否定しただけで、「わいせつな行為」(実行行為)を判断する際の考盧要素であることを否定したわけではない。
本判決の判断構造は、3段階構造(A・B.C)になっている。
すなわち、A=行為に性的性質があるか否か(有無の問題)→B=行為に性的意味があるか否か(a=性的性質が明確な場合→性的な意味あり、b=性的性質が不明確な場合→具体的状況等を考慮して判断(性的意図も一つの判断資料)) (程度の問題)→C=行為に可罰的違法性があるか否か、という判断構造である。
これによれば、たとえば、女性が嘔吐する姿に性的興奮を覚える者が、女性の口に指を入れて嘔吐させる行為(青森地判平成18.3.l6LEX/DB28115159は暴行罪とした)については、Aがないとして不成立か、Bbとして性的意図があるので成立かが問題となろう。
学説の状況として、古くから、性的意図必要説と性的意図不要説が対立してきた。
以前は、強制わいせつ罪が傾向犯(あるいは目的犯)であることを根拠に必要説が通説であったが、本罪の保護法益は、公然わいせつ罪やわいせつ物頒布罪とは異なり、個人の性的自由であることから、被害者の性的自由を侵害し、そのことの認識があれば、強制わいせつ罪は成立するという不要説が通説となってきた'6.従来は、故意とは別個に性的意図が必要か否かという問題、すなわち、強制わいせつ罪は傾向犯(あるいは目的犯)であるか否かという、主観的違法要素をめぐる行為無価値論と結果無価値論の論争の一場面という基本問題が争われたのである。
しかし、近時は、強制わいせつ罪の構成要件の解釈および保護法益論の帰結として、性的意図という故意とは別個の主観的要素が必要か否かという論争に移行し、「わいせつな行為」は客観的に判断されるべきであるという根拠から、不要説が通説化してきた。
ここでは、「わいせつ」概念の定義(徒らに性慾を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的差恥心を害し善良な性的道義観念に反する)を前提に、これを行為者の性的意図として主観的構成要件要素に位置づけるか、「わいせつな行為」それ自体の性格づけとして客観的構成要件要素に位置づけるかという論争に変わったように思われる。
本書は、従来、強制わいせつ罪を傾向犯と位置づけ、性的意図を故意とは別個の主観的要件と位置づけていたが、この考え方は本判決によって完全に否定された。
しかし、本判決は、傾向犯「性」を依然として認めているように思われる。
すなわち、客観的要件自体の中に、その傾向が実現されるものであるということを完全には排除していないのである。
本書によれば、行為意思と実行行為・故意との関係が問題となり、行為意思が、実行行為を基礎づける場合と、故意の内容を基礎づける場合とがあり、本判決において、性的意図という行為意思は、超過的内心傾向であることは否定されたが、「わいせつな行為」という実行行為の判断において一定の役割を果たすことは肯定されており、それが、一定の場合における単なる判断要素か、あるいは、実行行為判断における不可欠な要件なのかという違いに過ぎず、本書は、後者の立場を採用するものである(その限度で、改説する)。

埼玉県青少年健全育成条例の自画撮り規制は、検察協議の結果、年齢知情条項が外れています。

 検察庁からの指摘があって、条例31条に、19条の3がありません。

埼玉県議会事務局長殿
   さいたま地方検察庁検事正
罰則の定めのある条例の制定に伴う事前協議について(回答)
平成30年7月18日付け埼議第30110号をもって協議のありました下記条例案について検討した結果,別紙のとおり回答いたします。
なお,条例公布後は,直ちに条例写しを当庁へ送付願います。

埼玉県青少年健全育成条例の一部を改正する条例
・・・
3本条例第19条の3(児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)及び第31条について
犯罪成立要件としての主観的要件が欠如していると思われます。
(1)本条例第31条においては,本条例第19条の~3の規定に違反した者は,当該青少年の年齢を知らないことを理由として,本条例第29条の規定による処罰を免れることができない旨定めています。
しかしながら,自画撮り被害は相手を直接認識できないインターネット上のやりとりの中で行われることが想定され,やりとりの相手方が青少年と認識していない者にまで本条例第29条による罰則を適用することは過剰な規制となるおそれがあります。
本条例第19条の3は,当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を行うよう求めることを禁止するものであることからすれば,当該相手方が青少年であると認識できるような事実が全くない場合には罰則を適用できないと解すべきと思料します。
(2)よつて,本条例第31条において,本条例第19条の3の規定は除外するのが相当と思料します。
その他の点については,指摘すべき問題点はないと思料します。

埼玉県青少年健全育成条例
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0307/jourei/documents/301016jourei.pdf
児童ポルノ等の提供を求める行為の禁止)
第十九条の三 何人も、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第二条第三項に規定する児童ポルノ及び同項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第二十一条の四第一項及び第五項第二号において同じ。)その他の記録をいう。第二十九条第三号において同じ。)の提供を求めてはならない。
追加〔平成三十年条例三四号〕

・・・
第二十九条
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
三 第十九条の三の規定に違反して、次に掲げる行為を行つた者
イ 青少年に拒まれたにもかかわらず、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
ロ 青少年を威迫し、欺き、若しくは困惑させ、又は青少年に対し、対償を供与し、若しくはその供与の申込み若しくは約束をする方法により、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めること。
一部改正〔平成二年条例四二号・四年一一号・八年四号・三八号・一三年七八号・一六年五五号・三十年三四号〕
・・・
第三十一条 第十一条第三項、第十二条第三項若しくは第四項、第十六条第二項、第十七条の二、第十七条の四第一項若しくは第二項(第一号又は第二号に係る部分に限る。)、第十七条の五(第三号に係る部分を除く。)、第十八条第一項、第二項若しくは第三項、第十八条の二、第十八条の三、第十九条第一項若しくは第二項、第十九条の二、第二十条、第二十一条第二項又は第二十一条の二第
一項の規定に違反した者は、当該青少年の年齢を知らないことを理由として、第二十八条から第二十九条までの規定による処罰を免れることができない。ただし、当該青少年の年齢を知らないことに過失がないときは、この限りでない。

児童買春罪で逆転無罪判決(福岡高裁那覇支部H30.11.14)

 虚偽自白でした。
 事情があって、弁護人不在で宣告されました。
 判決書謄本を取り寄せ中です。
 判例秘書に掲載されました、

判例番号】 L07320582
       児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
【事件番号】 福岡高等裁判所那覇支部判決/平成30年(う)第44号
【判決日付】 平成30年11月14日
【判示事項】 被告人が,出会い系サイトで知り合った被害児童(当時16歳)が18歳未満であることを知りながら,金銭供与の約束で性交をし,児童買春をしたとしてその罪に問われた事案。原判決は,被害児童が18歳未満である可能性を認識していた(被害児童の年齢に係る認識を「年齢の知情性」)として,罰金50万円に処したため,被告人が事実誤認等を理由に控訴した。控訴審は,原判決の事実認定は,年齢の知情性を推認する客観的事実関係がないという評価に誤りはないが,被告人供述の解釈に当たり不利益な供述のみを採用し,その証明力の評価を誤り,信用性を肯定するに足りない事情から自白の信用性を認めるなどの事実誤認は論理則・経験則に反しており,事実誤認があるとして,原判決を破棄し,無罪を言い渡した事例
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
       主   文

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-834462.html?fbclid=IwAR3BYK0MJHOCCnphUuLdW2zw1nmUNUR3Lqme43wQTBhU1-CfHIlY4CLuBFE
児童買春で逆転無罪 高裁那覇支部 一審判断「飛躍ある」
2018年11月15日 10:29
 18歳未満と知りながら16歳の女子高生に金銭を渡してみだらな行為をしたなどとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反に問われた60代男性医師=那覇市=の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部の大久保正道裁判長は14日、罰金50万円を言い渡した一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。
 一審判決は、男性医師は被害者から21歳と聞かされたが、体形などから18歳未満と推認することができたなどと判断した。
 しかし大久保裁判長は被害者の年齢について男性医師は「漠然とした印象」しか持っていなかったとし、当時の状況や医師の認識から被害者の年齢を認識できたとする判断は「飛躍がある」と指摘した。
 さらに男性医師による捜査段階の自白については医院の経営や患者への悪影響を考えたほか、被害者への罪悪感もあって早期に釈放されるために虚偽の自白をすることはあり得るとした。
 その上で「自白の信用性を肯定するだけの積極的根拠となる事情は見当たらない」と評価し、一審判決の認定には事実誤認があると判断した。
・・・
児童買春の医師 二審で逆転無罪/那覇 自白信用性認めず
2018.11.15 沖縄タイムス社 
 18歳未満と知りながら女子高生にみだらな行為をしたとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(買春)の罪に問われた医師の男性被告(63)の控訴審判決公判が14日、福岡高裁那覇支部であった。大久保正道裁判長は、18歳未満と認識していたという自白の信用性について「肯定するだけの積極的根拠は見当たらない」と判示。罰金50万円だった一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。

児童買春の医師 二審で逆転無罪/那覇 自白信用性認めず
2018.11.15 沖縄タイムス社 
 18歳未満と知りながら女子高生にみだらな行為をしたとして、児童買春・
ポルノ禁止法違反(買春)の罪に問われた医師の男性被告(63)の控訴審
決公判が14日、福岡高裁那覇支部であった。大久保正道裁判長は、18歳未
満と認識していたという自白の信用性について「肯定するだけの積極的根拠は
見当たらない」と判示。罰金50万円だった一審沖縄簡裁判決を破棄し、無罪
を言い渡した。

平成30年11月14日
判決
上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成30年4月19日沖縄簡易裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官緒方広樹出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人は無罪。
理由
第1 事案の概要,控訴趣意及び当裁判所の判断の要旨
本件公訴事実の要旨は,被告人が,いわゆる出会い系サイトで知り合った被害児童(当時16歳。以下「被害児童」という。)が18歳未満であることを知りながら,同児童に金銭を供与する約束をしで性交し,児童買春をしたという事案である。原審では,被害児童が18歳未満であることの認識が争点となり,原判決は,被告人は被害児童が18歳未満である可能性を認識していたとして,被告人を罰金50万円に処した(以下,被害児童の年齢に係る認識を「年齢の知情性」という。)。本件控訴の趣意は,弁護人奥村徹作成の控訴趣意書及び同補充書2通記載のとおりであり,これに対する答弁は検察官緒方広樹作成の答弁書記載のとおりである。
論旨は,要するに,原判決には,①確定的故意の訴因に対して訴因変更なく未必的故意を認めた訴訟手続の法令違反,②年齢の知情性を認めた事実誤認,③被害児童に金銭の供与を約束した時点での年齢の知情性がないのに原判示の罪の成立を認めた法令適用の誤りがあるというのである。当裁判所は,事実誤認の論旨について,年齢の知情性を認めた原判決には事実誤認があり,被告人は無罪であるから,論旨には理由があると判断した。以下,その理由を説明する。
第2事実誤認の論旨について
・・・
ウそうすると,本件では,被告人の自白の信用性を肯定するだけの積極的根拠となる事情は見当たらないというべきであり,被告人の自白の信用性を認めた原判決の判断は,客観的裏付けのない未必的認識を認める自白の信用性に関し,これを認めるだけの積極的な根拠がないまま,その信用性を認めたものといわざるをえない。
(4)以上によれば,原判決の事実認定は,本件において年齢の知情性を推認する客観的事実関係がないという評価は誤りなく行われているが,被告人の公判供述の解釈に当たって,その文脈及び内容からして他の解釈もあり得るのに,被告人に不利益な解釈のみを採用し,かつその証明力の評価を誤り,被告人の自白の信用性を評価するに当たっては,客観証拠から被告人の知情性を推認できず,自白を客観的に裏付ける事情もないという事案の特質を十分に踏まえることなく,信用性を肯定するに足りない事情から自白の信用性を認めたというべきであって,かかる事実認定は論理則,経験則等に反した不合理なものであると認められる。原判決には事実誤認があると認められ,論旨は理由がある。
第3 破棄自判以上のとおり,原判決には事実誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,その余の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して更に判決する。
本件公訴事実の要旨は前記第1記載のとおりであるが,その犯罪の証明はないので,刑訴法336条により被告人に無罪の言渡しをすることとして,主文のとおり判決する。
平成30年11月14日
福岡高等裁判所那覇支部刑事部

 
 控訴理由の目次くらいは公表できます。控訴理由第2の事実誤認が当たって無罪になってますが、それを外しても控訴理由第3の法令適用の誤りで無罪になるという主張が強力に控えているので、「対償供与約束時点での認識」というのは効いてると思います。
 立証としては、警察の病状照会とか身長体重の統計とか、タナー法の文献などが採用されています

控訴理由第1 訴訟手続の法令違反~確定的故意の訴因で未必的故意を認定した際に訴因変更がなかったこと 5
1 年齢知情について、検察官の主張と原判決の認定とで異なり不意打ちがあるから、訴因変更が必要であったこと。 5
①検察官が主張する年齢知情の時点・内容=約束後、ホテルで会った時点で、確定的故意 5
②裁判所が認定した未必的年齢知情の時点・内容=ホテルで会って、性交前時点での未必的故意 6
2 不意打ち 6
3 まとめ 7
控訴理由第2 事実誤認~18歳未満であることについては未必の故意もなかったこと 8
1 はじめに 8
2 被告人に年齢確認義務がないこと 8
(1)本件出会い系サイトは届出済みの適法な出会い系サイトであって、出会い系サイト規制法(インターネット異性紹介事業)で求められる年齢確認義務を果たしているから、児童はいないという信頼は保護されるべきであること 8
(2) 児童買春行為者には年齢確認義務がないこと 10
(3) 児童買春行為には沖縄県青少年保護育成条例の過失処罰条項(=年齢確認義務)は適用されないこと 12
(4)被害児童の犯罪性 14
3 自称21歳につき外見からは16歳との年齢認識の可能性がないこと(一般論) 17
(1)平均身長 統計局ホームページ_日本の統計 2015-第21章 保健衛生 17
(2)法医学における年齢推定の要素 18
①エッセンシャル法医学第3版P312 18
②学生のための法医学P213 18
③臨床のための法医学P157 22
(3)児童ポルノで用いられる外見からの年齢推定方法(タナー法)では陰毛・乳房・身長が重視されて、顔貌は要素ではないこと 23
(4)原判決も「本件女性の語った21歳という年齢と18歳未満とはさほどの年齢差があるわけではなく,その違いにつき感覚で正しく判断できるとはおよそ考え難い」としていること 25
(5)被害児童の言動=自称21歳 27
4 被告人が本件児童を18歳未満と認識する可能性について(具体論) 27
(1) 警察からの病院照会とその回答 27
(2) 年齢要素= 乳房陰毛身長 28
(3)病気の件 30
(4)原判決も「本件女性の語った21歳という年齢と18歳未満とはさほどの年齢差があるわけではなく,その違いにつき感覚で正しく判断できるとはおよそ考え難い」としていること 33
(5)被害児童の言動=自称21歳 34
5 被告人の弁解状況(当初否認→自白) 37
①否認h29.弁解録取(警察) 37
②否認h29.員面 37
③否認h29.員面 38
④否認h29.弁解録取(検察) 38
⑤否認h29.勾留質問調書 38
⑥自白 乙2 h29(員面) 38
⑦自白 乙3 h29(検面) 39
6 虚偽自白 40
①客観的事実に反する 40
②虚偽自白の動機 40
7 原判決の問題点 43
(1)顔つき・体型・会話・外見から18歳未満と疑えないこと 43
(2)適法な出会い系サイトでの年齢確認を信用した者は保護されること 46
(3)被告人の年齢識別能力は一般人レベルであること 49
(4)病気の話の評価 51
(5)自白の信用性 55
8 まとめ 56
控訴理由第3 法令適用の誤り~対償供与の約束の時点で児童であるとの認識がないから「児童との対償供与の約束」があるといえないこと 58
1 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識が必要である 58
(1)「対償供与の約束」の実行行為性 58
(2) 買春罪の実行の着手 59
(3)他罪との関係からの説明 60
①周旋罪・勧誘罪との関係 60
②買春誘引罪(インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律*12) 60
③ 略図 60
(4) 実行着手としての約束の内容 61
(5)「対償供与の約束」の時点で、児童性についても認識が要件となること 62
(6)「事後の故意」による説明 63
①大コンメンタール刑法第3巻p172 64
②山中敬一刑法総論第2版p309 65
③高橋則夫刑法総論第2版p186 65
④刑事法辞典p346 66
⑤大塚仁刑法概論(総論)第3版p202 67
⑥立石刑法総論第4版p206 68
⑦斉藤信治刑法総論第5版p106 69
⑧岡野光雄刑法要説総論p187 69
⑨大野要説刑法総論[ 改訂版]p219 70
山口厚刑法総論第2版 p375 71
(7)実質的理由(東京高裁H15.5.19) 71
(8)他罪の「約束」における認識 72
売春防止法 72
※刑事裁判実務大系 風俗営業・売春防止(売春 勧誘) 72
判例法研究8特別刑法の罪「売春防止法」 75
② 賄賂約束罪 76
(9)他のパターンの児童買春罪における認識との対比 76
①事前対償供与型児童買春罪の場合 76
②児童以外との約束・供与の児童買春罪の場合 77
2 本件における対償供与の約束 78
(1)約束の時期は犯行前日~当日のメッセージである 78
①検察官の主張=前日・サイト内メール 78
②採用済の証拠によれば前日~当日午前にサイト内メールである。 79
(2)約束時点における年齢自称は「20代前半」であって、被告人の年齢認識は「20代前半」である 82
(3)対償供与の約束は外形で認定されるという判例 85
①大阪高裁h15.9.18*14 85
名古屋高裁金沢支部h14.3.28 86
(4)園田教授の意見書(弁1) 87
(5)小括=約束の時点において児童であるという未必的故意もなかった 91
3 本件児童との対償供与の時点でも児童の認識がないこと 91
4 児童との対償供与の約束の時点で児童の認識がないから、児童買春罪は成立しない。 93

男児に対する撮影型強制わいせつ罪(176条後段)5件で懲役4年(岡崎支部H30.4.12)

名古屋地方裁判所岡崎支部平成30年04月12日
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

理由
(犯罪事実)
 被告人は、
第1 別紙記載のE(当時8歳)が13歳未満であることを知りながら、平成28年11月下旬頃から同年12月頃までの間に、別紙記載の愛知県F市内の乙小学校南校舎3階コンピュータ準備室において、同人に対し、「服脱いで。」などと言って、同人の着衣を全て脱がさせた上、同人を机の上に寝かせて、その陰部付近に手に持ったティッシュペーパーを押し当てるなどし、さらに、その姿態をカメラ機能付き携帯電話機で撮影し、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をした。
第2 別紙記載のD(当時8歳)が13歳未満であることを知りながら、平成29年3月17日頃、同所において、同人に対し、「けがをしているところがあるから、服脱いで。」などと言って、同人の着衣を全て脱がさせて、その陰茎を露出させた上、同人を机の上に仰向けに寝かせて、その腹部、太もも等を手で触り、さらに、その姿態をカメラ機能付き携帯電話機で撮影し、もって13歳未満の男子に対し、わいせつな行為をした。
第3 別紙記載のB(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら、同年5月上旬頃、別紙記載の同市内の甲小学校南校舎1階多目的便所において、同人に対し、同人が着用していたズボン及びパンツを脱がせた上、その両脇に両手を差し込んで同人を抱き上げて机の上に座らせるなどしてその陰部を露出させ、その姿態をカメラ機能付き携帯電話機で撮影し、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をした。
第4 別紙記載のA(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら、同月中旬頃、同所において、同人に対し、同人が着用していた半ズボン及びパンツを引き下げてその陰部を露出させた上、その陰部に起動させたローターを直接押し当てるなどし、もって13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をした。
第5 別紙記載のC(当時6歳)が13歳未満であることを知りながら、同月下旬頃、同所において、同人に対し、「ちょっと怪我してるんじゃない?見てあげる。ここに座って。」などと言い、その両脇に両手を差し込んで同人を抱き上げて机の上に座らせ、「下脱いで。」などと言って同人に半ズボン及びパンツを下ろさせ、その陰茎を露出させた上、同人を抱き上げて同机の上に仰向けに寝かせ、同人が着用していたTシャツをめくりあげて、その姿態をカメラ機能付き携帯電話機で撮影し、さらに、その腹部や太もも等を手で触り、もって13歳未満の男子に対し、わいせつな行為をした。

13歳未満の女児に裸写真を撮影送信させる行為はわいせつ行為か?

 これまで、脅迫がある場合を強制わいせつ罪ではなく強要罪で起訴してきたのに、脅迫がない場合を強制わいせつ罪(176条後段)で検挙するというのは違和感あります。
 「わいせつ行為」かどうかを問題にして下さい
 強制わいせつ罪(176条後段)だと罰金刑の余地がなくなります。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181115-00000033-asahi-soci
女児になりすまし裸写真送らせた疑い 小学校講師を逮捕
11/15(木) 11:36配信 朝日新聞デジタル
女児になりすまし裸写真送らせた疑い 小学校講師を逮捕
警視庁本部
 児童らに人気のゲームアプリで女児になりすまして小学生の女児に接触して裸の写真を送らせたとして、警視庁は、容疑者(22)==を強制わいせつと児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで逮捕し、15日発表した。容疑を認め、「うまくだまして裸の写真を手に入れることに優越感を抱いていた」などと供述しているという。
 少年育成課によると、容疑者は9月、「ポケコロ」というスマートフォンのゲームアプリの掲示板機能を通じて知り合った東京都内の小学4年生の女児(9)が13歳未満であることを知りながら、裸の写真を撮影させて自分のスマホに送信させ、児童ポルノを製造した疑いがある。
 掲示板に小学6年生の女児を装って「トークを重視したい」と書き込んで被害女児と友達になり、無料通話アプリに誘導して「胸が少しふくらんできた」などと発育の悩みがあるように装い、裸の画像を送らせたという。

朝日新聞社

某地裁H29.8.15
第1 9a 13歳未満の者と知りながら 平成30年11月15日 午後3時55分~午後9時56分 7回 被告人方において 児童に対して被告人が使用するスマホを使用して 児童のスマホに アプリケーションソフト「」を使用して 衣服を脱いで乳房等露出した姿態を撮影して 被告人が使用するスマホに送信するように要求し
その頃7回 県内の被害者方において 児童に衣服を脱いで乳房等を露出した姿態とらせて これを児童が使用するスマホで動画及び静止画として撮影させ もって13未満の女児にわいせつ行為をし 強制わいせつ罪(176条後段)

監護者性交罪1罪で懲役6年(松山地裁H30.7.24)

 
 児童淫行罪の流儀を引き継いで量刑理由として過去の性交が考慮されています。併合罪関係にあって、さらに訴追可能性があるのに。

上記の者に対する監護者性交等被告事件について、当裁判所は、検察官矢尾板隼、国選弁護人和田資篤各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中20日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、実子である□□□□(当時14歳・以下「A」という。)と同居してその寝食の世話をし、その指導・監督をするなどして、Aを現に監護する者であるが、Aが18歳未満の者であることを知りながら、Aと性交をしようと考え、平成30年4月24日頃、愛媛県□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□被告人方において、Aを現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてAと性交をしたものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
罰条 刑法179条2項、177条前段
未決勾留日数の算入 同法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 被告人は、遅くとも被害者が小学5年生の頃から胸や陰部を触るなどの性的接触を始め、被害者が中学1年生の夏頃以降、繰り返し性交をするようになった。本件犯行は、こうした常習的行為の一環として行われたものである。
 被害者は、本件犯行時、未だ中学3年生であるところ、本来は家庭内で健全な愛着関係が築かれるべき時期に、信頼を寄せるべき実父から性的接触を継続される中、本件被害を受けているのであり、他者に対する基本的な安心感や信頼感が壊され、心理的・精神的にも大きな傷を残してしまうことが危惧されるなど、人格的にも性的にも未熟な時期に被った被害者の悪影響は誠に深刻である。
 被告人は、実父として被害者を特に保護すべき関係にあるのに、常習的に性的接触を持ち続け、その間、被害者が泣きながら性交を拒絶したこともあったのに、被害者の心情を何ら顧慮することなく、被害者も受け入れているなどと自己に都合よく考え、本件犯行にまで至っている。また、被告人は、一連の性的接触について、単なる性欲解消目的ではなく、大切に思う被害者を誰にも渡したくないという思いになり、自分によく懐いていた被害者に女性として好意を寄せてしまったなどとも述べるところ、そのような考え自体が大きく歪み偏っているのであり、常軌を逸した自分本位な経緯・動機等に酌むべき事情は一切見受けられない。
 このような観点からすると、本件は、監護者性交等1件の事案において軽い部類に属するものとはいえず、法定刑の下限である懲役5年をある程度上回る範囲の刑を念頭に置くべき事案と考えることができる。
 その上で、被告人に前科前歴がないこと、犯罪事実を認めて被告人なりに反省の態度を示していることなどの事情を考慮し、刑期については主文のとおりにするのが相当であると判断した。
(求刑-懲役8年)
刑事部
 (裁判長裁判官 末弘陽一 裁判官 南うらら 裁判官 重田裕之)

性犯罪の起訴率は下がったまま・・・裁判員候補、出席2割 選任手続き 制度形骸化の恐れ

 検察統計でいうと、裁判員制度が施行された2009(H21)ころから起訴率が落ちていて、上昇してきません。
 裁判所の統計では、性犯罪の量刑がやや重くなった感じですが、起訴段階の統計を見ると、裁判員制度のおかげで、対象罪名の行為をやっても、起訴されない人(懲役0年)が増えていることに注意。


検察統計年報

強制わいせつ致死傷罪 総数 起訴件数 不起訴件数 起訴率
h18 250 166 51 76.5%
h19 279 157 68 69.8%
h20 284 137 83 62.3%
h21 257 117 95 55.2%
h22 273 106 125 45.9%
h23 266 109 119 47.8%
h24 271 115 118 49.4%
h25 295 136 120 53.1%
h26 287 134 121 52.5%
h27 228 113 84 57.4%
h28 246 117 82 58.8%
h29 212 93 88 51.4%

・・・

強姦致死傷罪 総数 起訴件数 不起訴件数 起訴率
h18 390 253 110 69.7%
h19 436 239 156 60.5%
h20 367 198 137 59.1%
h21 308 139 137 50.4%
h22 295 110 148 42.6%
h23 317 128 162 44.1%
h24 286 129 135 48.9%
h25 323 123 173 41.6%
h26 281 85 165 34.0%
h27 217 104 87 54.5%
h28 166 74 73 50.3%
h29 112 45 53 45.9%
h29(強制性交致死傷含む) 160 68 65 51.1%

裁判員候補、出席2割 選任手続き 制度形骸化の恐れ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201811/CK2018111102000164.html
二〇〇九年に導入された裁判員制度で、裁判員を選ぶ手続きへの市民の出席率が下がり続けている。昨年一年間の裁判員候補者のうち、選任手続きに出席した人は約二割で、過去最低となった=図。裁判員制度の最大の理念は「市民参加」だが、来年五月の施行十年を前に、形骸化が懸念されている。
 同制度では、有権者から無作為に選ばれた名簿登録者の中から、各裁判ごとにくじで選んだ候補者に「呼出状(よびだしじょう)」を送る。裁判所は国会議員など裁判員に就けない人を除き、辞退を希望しなかったり、辞退が認められなかった候補者を「選任手続期日」に呼び出す。この中から裁判員が決まる。
 最高裁によると、一七年の裁判員候補者数は十二万百八十七人。このうち、選任手続きに出席した人は二万七千百五十二人で、出席率は22・6%だった。制度が始まった〇九年の40・3%から下がり続けている。期日前に「重要な仕事」などの理由で辞退する人も多く、一七年の裁判員候補者のうち辞退率は66・0%で過去最高。これも〇九年(53・1%)から増加傾向がある。呼出状が届かない人のほか、理由なく出席しない人もいるという。
 背景には審理の長期化がある。最高裁によると、ゆとりを持ち審理計画を組むようになったことなどが影響し、裁判員裁判の平均日数は〇九年の三・七日に対し、一七年は一〇・六日に伸びた。同年の調査では審理予定日数が長いほど、辞退率が高い傾向があった。
 白鴎大法学部の村岡啓一教授(刑事訴訟法)は「制度が始まって九年たっても関心が高まっていない。裁判員になることが義務という意識が薄らいでいる。事前に辞退を希望する候補者について、正当な理由かどうか裁判所が厳しくチェックしていないことも一因だ」と分析している。 (中山岳)

東北大学教授成瀬幸典「強制わいせつ罪と性的意図」法学教室Nov.2018 No.458

東北大学教授成瀬幸典「強制わいせつ罪と性的意図」法学教室Nov.2018 No.458


 原判決が横浜地裁h28.7.20で、タイミング悪く控訴趣意書提出後に大法廷h29.11.29が出ているので、性的意図についての主張は不完全です。
 しかも検察官控訴(量刑不当)がされていて主要争点は量刑(無期懲役か有期懲役か)なので、わいせつとか児童ポルノとかはおまけの論点でした。
 

強制わいせつ罪と性的意図
東北大学教授成瀬幸典
東京高裁平成30年1月30日判決
平成28年(う)第1687号保護責任者遺棄致傷児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐,強制わいせつ),殺人,強制わいせつ致傷被告事件
LEX/DB25549825
わいせつ行為性判断における性的意図の意義。
〔参照条文〕刑176条【事件の概要】被告人Xは,生後8か月のVのおむつを引き下げて陰茎を露出させた上,その包皮をむくなどの暴行を加え,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をスマートフオン付属のカメラで撮影したが,その際Vに亀頭包皮炎の傷害を負わせた。
また,Xは,それとは別に,約1年の間に,生後4か月から5歳の子ども8人に対し,亀頭部を殊更露出させるなどの姿態をとらせ,その姿態をデジタルカメラ等のカメラで撮影した(以下,V及び8人の子供に対する上記の行為を「本件行為」)。
なお,本件行為には,日常でも目にするような全裸又は半裸の乳幼児の姿態を写真撮影するという態様のものも含まれていた。
原判決(横浜地判平成28.7.20 LEX/DB25543577)は,Xは性的意図の下に本件行為を行ったと認められるとして,Vに対する強制わいせつ致傷罪と8人の子どもに対する強制わいせつ罪(以下,強制わいせつ罪を「本罪」)の成立を認めた。
弁護人が控訴し,Xに性的意図はなかったので本罪は成立しないと主張した。
本判決は,性的意図を認めた原判決の判断を「理由とするところを含めて正当であり,当裁判所としても是認できる」とした上で,次のように述べた。
【判旨】<控訴棄却〉
「なお,原判決当時,強制わいせつ罪の成立には,行為者の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行為が行われることを要するとする判例最高裁昭和45年1月29日判決)があったが,その後,この判例は,故意以外の行為者の性的意図を一律に同罪の成立要件とすることは相当でないとする最高裁平成29年11月29日大法廷判決によって,変更されている。
もっとも,同判決は,わいせつ行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為の性的な意味の強さに応じて,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合もあり得ると判示している。
本件強制わいせつ等の各行為には,陰茎等を緊縛する,陰茎や陰部を露出させる,陰茎の包皮をむくといったそれ自体性的性質が明確なものも含まれる一方,日常でも目にするような全裸又は半裸の乳幼児の姿態を写真撮影するという態様のものも含まれており,それらのわいせつ行為該当,凶を判断するのに,Xの性的意図の有無をも考慮要素とする意義はなお存するというべきである。
〔下線は引用者〕」【解説】1最判昭和45.1.29刑集24巻1号1頁(以下,昭和45年判決)が,本罪の成立のためには,行為が性的意図の下に行われることを要するとして以来,性的意図を本罪の主観的要件とする立場を前提にした(と解される)裁判例が積み重ねられてきたが,最大判平成29.11.29刑集71巻9号467頁(以下,平成29年判決)は,昭和45年判決を明示的に変更した。
もっとも,平成29年判決が否定したのは,性的意図を本罪の一般的な主観的要件とすることであって,個別の事案におけるわいせつ行為性の判断において「行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合」がありうることは認めていた。
本判決の意義は,平成29年判決を踏まえつつ,下線部がそのような場合の一例であることを示した点にある。
なお,本罪の成否の判断に際して性的意図の有無を考慮した昭和45年判決以降の裁判例は,それを①本罪の一般的な主観的要件としたものと,②わいせつ行為性の判断の一要素としたものに大別されるが(詳細は,成瀬幸典「強制わいせつ罪に関する一考察(下)」法学〔東北大学〕82巻6号掲載予定参照。
なお,①と②のいずれの形で判断が示されるかは弁護人の主張に左右される面があり,①の裁判例の中には,実質的には②に整理されうるものもある),平成29年判決の上記の判示内容に鑑みると,②の裁判例は現在でも参照価値を有する。
本判決は②に属する新たな裁判例でもある。
2本判決(及び平成29年判決)は,性的意図の有無がわいせつ行為該当性の判断に影響を及ぼしうるとの理解を前提にしているが,客観的構成要件要素であるわいせつ行為性は,専ら行為の外形面を基礎に判断されるべきであろう。
また,176条後段の罪の本質は「性的弱者としての子供の保護という観点を基礎にした,「13歳未満の子供をわいせつ行為の対象とすること一般の禁止」」にあり,性的意図を同罪の一般的な主観的要件とすべきではない。
したがって,下線部のような乳幼児の裸体・半裸体の写真撮影については,撮影主体,撮影主体と被写体との関係,撮影が行われた状況・態様,写真の内容等を基礎に,当該撮影が本罪のわいせつ行為と認めうる程度の性的意味を備えているか否かを,社会通念に照らして客観的に評価し(その際「わが国では」,乳幼児の両親等がその裸体を撮影したり,一緒に入浴している状況を撮影したりすることがしばしば行われていることを踏まえる必要がある),それが肯定されれば,行為者の主観的事情にかかわらず,本罪の成立を認めるべきである。
下線部の行為はこの立場からも十分に「わいせつ行為」と評価できよう。
3なお,弁護人は①低年齢児に対するわいせつ行為は一一般人の性欲を興奮・刺激させず(新潟地判昭和63.8.26判時1299号152頁の弁護人の主張も参照),また,②低年齢児には性的差恥心がなく法益侵害性も認められないので本罪は成立しないとも主張した。
これに対し,本判決は,①につき,「低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解される」とし,②につき,本罪の保護法益である性的自由は「一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされた」場合に侵害されることになるとした上で,「意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合」をいい,そのような意味を理解できない乳幼児の場合,「意思に反しない状況は想定できない」ので,法益侵害性が認められるとしたが,①については,「一般人の性欲を興奮刺激させるもの」と「一般人が性的な意味のある行為であると評価するもの」を同視していることに,②については,性的自由及びその侵害の理解に疑問を覚えるものもあろう。
これらの検討及びそのために必要な諸概念(性的自由等)の内容の解明は今後の学説の課題である。

2012~13の姿態をとらせて製造罪について、2018年11月7日に逮捕した事例

 姿態をとらせて製造罪の公訴時効は3年。
 撮影からは5年経過しているので、公訴時効に掛かりそうですが、複製行為(2016.11.28)までを包括一罪として、時効になっていないというのです。
 しかし、撮って放置しておいた画像を、数年後にHDDの更新とかで複製したのは、犯意が継続してないので、無理じゃないかなあ。単純所持罪で起訴されるような気がします。

刑訴法第二五〇条[公訴時効の期間]
②時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一 死刑に当たる罪については二十五年
二 無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三 長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七 拘留又は科料に当たる罪については一年

児童ポルノ製造容疑で男を再逮捕 /茨城県
2018.11.08 朝日新聞
 日立署は7日、の情報通信業容疑者(44)を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)容疑で再逮捕し、発表した。容疑を認めているという。
 署によると、容疑者はSNSで知り合った女子生徒2人が18歳未満であると知りながら、2012~13年に住んでいた埼玉県春日部市の住宅で、生徒の上半身裸の写真を撮影し、自身のパソコンに保存した疑いがある。
 容疑者は先月、自宅で経営する駄菓子屋で女子児童の胸を触ったとして、強制わいせつ容疑で逮捕されていたが、処分保留となっている。
・・・

児童ポルノ製造容疑で男再逮捕
日立署は7日、児童買春・ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)の疑いで、報通信業容疑者(44)=強制わいせつ容疑で逮捕、処分保留で釈放=を再逮捕した。再逮捕容疑は2012年3月3日ごろと13年1月19日ごろ、埼玉県春日部市内の当時の自宅で、18歳未満と知りながら、中学生くらいの女子生徒2人の胸を露出させて撮影、16年11月28日ごろ、現在の自宅で画像データをパソコンに保存した疑い。同署によると、容疑を認めている。
茨城新聞

速報番号3459号で「児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。」とされる東響高裁H24.1.30は、児童淫行の恐れがある者への引き渡しではなく、児童買春をする恐れがある者への引き渡しであった。

速報番号3459号で「児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。」とされる東響高裁H24.1.30は、児童淫行の恐れがある者への引き渡しではなく、児童買春をする恐れがある者への引き渡しであった。

児童福祉法34条1項7号「前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為」となっていて、児童淫行罪に限らないんですが、原判決の静岡地裁では、「児童買春をする恐れがある者に引き渡した」とされていて、児童淫行罪の恐れではありませんでした。
 控訴審で予備的訴因変更請求があった、児童買春周旋罪に変更されて、同じ量刑になっています。上告棄却

児童福祉法第三四条[禁止行為]
1 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為
二 児童にこじきをさせ、又は児童を利用してこじきをする行為
三 公衆の娯楽を目的として、満十五歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為
四 満十五歳に満たない児童に戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で歌謡、遊芸その他の演技を業務としてさせる行為
四の二 児童に午後十時から午前三時までの間、戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務としてさせる行為
四の三 戸々について、又は道路その他これに準ずる場所で物品の販売、配布、展示若しくは拾集又は役務の提供を業務として行う満十五歳に満たない児童を、当該業務を行うために、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和二十三年法律第百二十二号)第二条第四項の接待飲食等営業、同条第六項の店舗型性風俗特殊営業及び同条第九項の店舗型電話異性紹介営業に該当する営業を営む場所に立ち入らせる行為
五 満十五歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為
六 児童に淫いん行をさせる行為
七 前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知つて、児童を引き渡す行為及び当該引渡し行為のなされるおそれがあるの情を知つて、他人に児童を引き渡す行為

速報番号3459号
児童福祉法違反
(認定罪名児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反)〔平成23年(う)8 4 3号東京高等裁判所第9刑事部平成24年1月30日
原判決破棄・自判
(被告人に関する部分)
原審 静岡地方裁判所
判示事項
いわゆる「出会い喫茶」の従業員が,男性客が女性客である児童と買春することを認識しながら,男性客と,その指名する児叢である女性客とを引き合わせた事案について,両者が合意すれば男性客に外出料を支払わせて外出させるシステムになっており,外出するかどうかは女性客の意思にかかっている場合は,児童福祉法34条1項7号の児童に淫行させる行為をするおそれのある者への「引渡し」とはいえず,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律5条1項の児童買春周旋罪が成立すると判示した事例。
裁判要旨
被告人は,経営者と共に,本件出会い喫茶の運営に携わり,男性客が児童である女性客の買春をすることがあり得ることを認識しながら,トークルームで男性客と児童である女性客を引き合わせていたものであるが,男性客からの求めに応じて一緒に外出し,また買春の求めに応じるか否かは女性客の自由意思によっており,児童福祉法34条1項7号にいう「児童に淫行をさせる行為をするおそれのある者に,情を知って,児童を引き渡す行為」に当たると認めるには合理的な疑いが残る。
原判決は,出会い喫茶店員が,外出料を支払った男性客と共に児童の外出を許す行為を同号にいう「引き渡し」に該当すると判示しているが,男性客と外出するか否かは児童である女性客の意思にかかっており,そもそも店員は男性客と共に児童の外出を許すことなどできないのであり,店員である被告人がした行為は,男性客と児童の引き合わせであり,このような行為は,引渡しとはいえず,破棄は免れない。

逐条実務刑事訴訟法における奥村弁護士事件

 訴訟法でも3件程度取り上げられています。
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312条p741
c 作為犯と(不真正)不作為犯一般に,作為犯の訴因に対して不作為犯を認定し,あるいは,不作為犯の訴因に対して作為犯を認定する場合は,訴因変更が必要であると考えられている。例えば,児童ポルノ画像の公然陳列の事案で,作為による共同正犯の訴因に対して不作為による捐助犯を認定したことが違法とされた裁判例(名古屋高判平18・6・26高刑集59・2・4) がある。
・・・
p1148 405条, 406条
(3)適法な判例違反の主張がされた場合
これに対し,判例変更がされるときは,変更すべき判例が高裁判例大審院判例であれば小法廷限りで処理されるが,変更すべき判例最高裁判例(大法廷判例であるか,小法廷判例であるかを問わない。)である場合には,小法廷では処理できず(裁10③,最事規9VI)大法廷に回付して判断がされる。最高裁判例が変更された最近の例としては,強制わいせつ罪に関し,故意以外の行為者の性的意図を一律に成立要件としていた従来の判例を変更した最大判平29・11・29刑集71・9・467がある。

・・・
p1152 406条, 407条
併せて上告申立てもされている場合が多く,そのような場合には上告受理によらなくても重要な問題であれば上告申立てに対して職権で判断を示し得るから,上告受理が認められることは多くない。最近の実例として,最判平15・3・11刑集57・3・293(弁護人申立て。信用毀損罪の信用の意義に関する原判断の大審院判例との抵
触を主張するもの。棄却),

被告人宅にあるポータブルHDDについて、児童ポルノ提供目的保管罪を適用した事例(某地裁h30.11.5)

 
 児童ポルノ法の関係では、手元にある媒体の場合は保管罪ではなく所持罪だと説明されています。
 刑法175条の場合には、電磁的記録は「保管罪」と説明されています。
 わいせつかつ児童ポルノの場合は、児童ポルノ所持罪+わいせつ電磁的記録保管罪になるんでしょうか。

島戸「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08 p95
ウ 後段で規定する行為
電磁的記録の「保管」とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいう。具体的には、当該電磁的記録をコンビュータのレンタル・サーバに保存する行為がこれに当たる。
前記のとおり 、記録媒体に記録されている電磁的記録については、当該 自己の所有する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになる。
::::
森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」p98
1) 電磁的記録の「保管j とは、当該電磁的記録を自己の実力支配内に置いておくことをいいます。具体的には、当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり、自己が自由にダウンロードすることができるリモート(プロパイダーのメールボックスに入れられたメールを閲覧できる機能)の記録媒体に保存する行為がこれに当たります。
なお、白己の所持する記憶媒体に電磁的記録を保存している場合は、当該記憶媒体の「所持」 罪が成立するため、記録媒体を所持していないが、前記の方法により電磁的記録を保管している場合にのみ本罪が成立することになります。
:::::::
警察庁少年課課長補佐友永光則警察公論2014年10月号p12
イ「所持」及び「保管」の意義
児童ポルノの「所持」とは,有体物(写真, DVD,ハードディスク(記録媒体)等)である児童ポルノを,自己の事実上の支配下に置くことをいう。
これに対し電磁的記録の「保管」とは,電磁的記録を自己の実力支配内に置くことをいう。
具体的には,当該電磁的記録をコンピュータのレンタル・サーバに保存したり,自己が自由にダウンロードすることができるリモートの記録媒体に保存する行為が該当する。これに対し,自己の所持するパソコンのハードディスクに保存している場合は,ハードディスク(有体物)の所持罪に該当する。

公訴事実
被告人は不特定多数の者に有償で頒布提供する目的で,平成30年11月6日,大阪市北区西天満4丁目の被告人方において,記録媒体である外付けハードディスクに衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである電磁的記録3点及び同児童ポルノで女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁あり,かつ,女児の性器を露骨に撮影したわいせつな画像データを記録した電磁的記録6点を保管したものである。

罪名及び罰条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反同法第7条第7項後段,第6項後段,第2条第3項第3号
わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管刑法第175条第2項

「被害者の性的な羞恥心の対象になりますので、当然に『わいせつな行為』にあたります」という弁護士~まるでブチャラティ? 塾講師が「嘘をついてないか確認する」と耳を舐めて逮捕されたワケ

 記事にある大法廷h29.11.29は、性的意図不要とした反面、わいせつの定義を放棄していますので、判例上わいせつの定義が定まっていません。
 性的羞恥心とすると乳幼児の強制わいせつ罪(176条後段)が説明できなくなります。東京高裁H30.1.30は「所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである」と言ってますが、性的自由とするもの、わからないからパスするもの、いろいろあります。
 定義がないと、限界事例では起訴ができなくて、先日千葉であった、口に指入れるという強制わいせつ罪の逮捕事例は、強制わいせつ罪を見送って暴行罪で起訴されたと報道されています。

某地裁H30
第2
わいせつ行為該当性
弁護人は,最高裁判所大法廷判決平成29年11月29日が,性的な行為を「絶対的わいせつ行為」と「相対的わいせつ行為」に二分し,前者については性的意図を不要としたが,それでは「徒に性欲を興奮又は刺激させ」るとの従来からのわいせつ行為の定義に該当しないこととなるから,わいせつ行為の再定義を裁判所が示せなければ強制わいせつ罪は成立しない等と主張するが,被告人が■■■■■■■■■■■■■■■■などした本件強制わいせつ行為は,その態様から見て性的性質を有するものであることは明確であり,可罰的なわいせつ行為に該当することは明らかというべきである。

その控訴審判決 某高裁H30
わいせつな行為の定義を明確にしないまま強制わいせつ罪について有罪とした点で理由不備及び判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。(という主張に対して)
 原判示第6の行為(強制わいせつ)は,被告人が13歳未満の男児に対し,■■■■■■■■■■■■■■■■などしたもので,わいせつな行為の一般的な定義を示した上で該当性を論ずるまでもない事案であって,その性質上,当然に性的な意味があり,直ちにわいせつな行為と評価できることは自明である。所論は採用できない。

・・・
阪高裁H28.10.27
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=86760
(2)ところで,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由と解され,同罪は被害者の性的自由を侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないと解すべきである。その理由は,原判決も指摘するとおり,犯人の性欲を刺激興奮させ,または満足させるという性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられないし,このような犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別な主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しないと考えられるからである。
 そうすると,本件において,被告人の目的がいかなるものであったにせよ,被告人の行為が被害女児の性的自由を侵害する行為であることは明らかであり,被告人も自己の行為がそういう行為であることは十分に認識していたと認められるから,強制わいせつ罪が成立することは明白である。
 以上によれば,強制わいせつ罪の成立について犯人が性的意図を有する必要はないから,被告人に性的意図が認められないにしても,被告人には強制わいせつ罪が成立するとした原判決の判断及び法令解釈は相当というべきである。当裁判所も,刑法176条について,原審と同様の解釈をとるものであり,最高裁判例(最高裁昭和45年1月29日第1小法廷判決・刑集24巻1号1頁)の判断基準を現時点において維持するのは相当ではないと考える。
(3)所論は,強制わいせつ罪の保護法益を純粋に個人の性的自由とみて,同罪の成立に犯人の性的意図を要しないと解釈した場合,①わいせつ行為の範囲は,被害者の性的意思決定の自由が害される行為として被害者個人によって主観的に定められることになり,極めて不明確となる,②性的自由を観念できない乳幼児に対する強制わいせつ罪が成立しないことになり,その保護に欠ける,などと主張する。
 しかしながら,前記のように解釈したとしても,強制わいせつ罪におけるわいせつな行為の該当性を検討するに当たっては,被害者の性的自由を侵害する行為であるか否かを客観的に判断すべきであるから,所論①のように処罰範囲が不明確になるとはいえない。また,性的な事柄についての判断能力を有しない乳幼児にも保護されるべき性的自由は当然認められるのであり,その点で既に所論②は失当である上,犯人の性的意図の要否と乳幼児に対する強制わいせつ罪の成否とは特段関連する問題とは考えられないから,保護法益を純粋に性的自由とみて性的意図を不要と解釈すると乳幼児の保護に欠ける事態になるとの批判は当たらない。
 その他,強制わいせつ罪の成立要件について縷々主張する所論は,いずれも失当であって採用することはできない。
 3 したがって,被告人に強制わいせつ罪が成立するとして当該法条を適用した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがあるとはいえない。法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。また,強制わいせつ罪の成立には犯人の性的意図があることを必要としないと解されるのであるから,原判示第1の1の犯罪事実(罪となるべき事実)に性的意図を記載しなかった原判決に理由不備の違法があるとはいえない。理由不備をいう論旨も理由がない。
・・・・
東京高裁H30.1.30(上告棄却)
事件名  保護責任者遺棄致傷、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐、強制わいせつ)、殺人、強制わいせつ致傷被告事件
裁判結果  控訴棄却  文献番号  2018WLJPCA01306002
第3  弁護人の法令適用の誤りの主張について
 1  低年齢児に対する強制わいせつ罪,強制わいせつ致傷罪及びわいせつ目的誘拐罪(以下,単に「強制わいせつ罪等」ともいう。)の成否について
   (1)  論旨は,6歳未満の児童に対して強制わいせつ罪等は成立しないのに,強制わいせつ罪等の成立を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
   (2)  刑法は,強制わいせつ罪等の対象について年齢の下限を設けておらず,むしろ13歳未満の児童に対しては保護を厚くしており,法文上,6歳未満の児童も強制わいせつ罪の対象となることは明らかである。
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。
 その余の主張を含め,所論は理由がなく,いずれも採用できない。

https://www.bengo4.com/c_1009/c_1407/n_8794/
あとは、『わいせつな行為』といえるかどうかです。『わいせつな行為』とは、本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいいます。例えば、無理やりキスをすれば『わいせつな行為』にあたります。
耳を舐めるのもキスと同様の行為であり、被害者の性的な羞恥心の対象になりますので、当然に『わいせつな行為』にあたります」

もし、ブチャラティのように、うそをついてないか確認する目的で、わいせつ目的ではなかったとしてもダメなのか。

「現在の最高裁判所の考え方(2017年11月29日の最高裁判決)によりますと、犯人の性的意図は不要であると判断されており、本罪の関係とは無関係です。性的意図があったかなかったかは関係ありません」

ジョジョの作品中では、ブチャラティがケーブルカーの窓の外から、車内にいる主人公ジョルノに迫り、不意にほおをなめるという行為だったが、これも日本で起きた場合には、強制わいせつになるのか。

「そういう可能性はあります。反抗できない状態でほおをなめる行為が暴行であり、わいせつな行為であると考えることができます」

(弁護士ドットコムニュース)

西口 竜司弁護士
西口 竜司(にしぐち・りゅうじ)弁護士

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1~6歳児への触って撮る行為を強制わいせつ罪(176条後段)として、児童ポルノ製造罪とは併合罪とした事例(東京高裁h30.7.25)

 1歳とかだと、保護法益性的羞恥心説では説明できないので、わいせつの定義を争う必要があると思います。
 「わいせつとは■■■■■■■■■■■■■■■■行為をいうところ、本件行為は■■■■■■■■■■■■■■■■だから、わいせつ行為にほかならない」 という判示をもらって下さい。判例違反の上告理由ができますから。
 強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造罪の関係について、東京高裁h30.1.30が観念的競合で、東京高裁h30.7.25は併合罪ということで東京高裁でも揺れてるみたいですね。

■28260334
横浜地方裁判所
平成29年12月26日
上記の者に対する強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について、当裁判所は、検察官亀卦川健一、同田中惇也、主任弁護人中野憲司、弁護人金子泰輔各出席の上審理し、次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
 被告人は、
第1 各児童がいずれも13歳未満であることを知りながら、同人らにわいせつな行為をしようと考え、
 1 (平成28年11月30日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  平成27年9月21日、神奈川県P市●●●所在の託児所●●●(以下「本件託児所」という。)内において、●●●(当時3歳。以下「A」という。)に対し、その陰部付近を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 2 (平成28年12月20日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  別表1―1記載のとおり、平成28年1月12日から同年3月5日までの間、前後7回にわたり、Q市●●●所在の保育園●●●(以下「本件保育園」という。)内において、●●●(当時4歳。以下「B」という。)に対し、その陰部を直接触る、陰部を舐めるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 3 (平成29年2月6日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  本件保育園内において、
  (1) 別表1―2記載のとおり、平成28年1月15日から同年3月6日までの間、前後13回にわたり、●●●(当時4歳。以下「C」という。)に対し、パンツの上から臀部をなでる、パンツの上から陰部を触る、陰部を直接触る、肛門や陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (2) 別表1―3記載のとおり、同年2月5日から同年3月6日までの間、前後7回にわたり、●●●(当時2歳。以下「D」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に指を入れる、陰部を舐める、陰部に綿棒様のものを入れる、陰部にDの指を入れさせるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (3) 別表1―4記載のとおり、同年1月16日から同年3月8日までの間、前後8回にわたり、●●●(当時5歳。以下「E」という。)に対し、パンツの上から陰部を触る、陰部を直接触る、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (4) 別表1―5記載のとおり、同年1月21日から同年2月21日までの間、前後4回にわたり、●●●(当時1歳。以下「F」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (5) 別表1―6記載のとおり、同年1月20日及び同年2月19日の前後2回にわたり、●●●(当時1歳。以下「G」という。)に対し、陰部を直接触る、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (6) 同年1月24日、●●●(当時2歳。以下「H」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れ、陰部を舐め、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (7) 同月23日、●●●(当時3歳。以下「I」という。)に対し、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (8) 同月18日、●●●(当時1歳。以下「J」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に綿棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (9) 同年2月6日、●●●(当時6歳。以下「K」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 4 (平成29年2月27日付け追起訴状記載の公訴事実第1)
  本件託児所内において、
  (1) 平成27年4月19日、●●●(当時3歳。以下「L」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (2) 同年5月1日、●●●(当時2歳。以下「M」という。)に対し、陰部を直接触り、陰部に指を入れ、陰部に棒様のものを入れるなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (3) 同月2日から同月3日までの間、●●●(当時4歳。以下「N」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
  (4) 同月3日、●●●(当時4歳。以下「O」という。)に対し、パンツの上から陰部を触り、陰部を直接触るなどした上、これを携帯電話機付属のカメラで撮影し
 もってそれぞれ13歳未満の女子に対し、わいせつな行為をし

裁判年月日 平成30年 7月25日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件名 強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
文献番号 2018WLJPCA07256006
 上記の者に対する強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成29年12月26日横浜地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官有水基幸出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 本件控訴の趣意は,法令適用の誤り及び量刑不当の主張である。
第1 法令適用の誤りの主張について
 その骨子は,原判示第1の各強制わいせつと原判示第2の各児童ポルノ製造は,重なり合うものであり,社会的見解上1個の行為と評価すべきであるから,刑法54条1項前段の観念的競合の関係に立つのに,刑法45条前段の併合罪の関係にあるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
 しかし,本件のように幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為をするとともに,その行為等を撮影して児童ポルノを製造した場合,わいせつな行為と児童ポルノを製造した行為とは,かなりの部分で重なり合っていることもあるが,通常伴う関係にあるとはいえない上,強制わいせつ罪では幼児の陰部を触るなどのわいせつな行為を行ったという側面から犯罪とされているのに対し,児童ポルノ製造罪ではそのような幼児の姿態を撮影して記録・保存する行為を行ったという側面から犯罪とされているのであって,それぞれの行為は社会的評価としても別個のものといえる。同趣旨の判断をして,原判示第1の各強制わいせつ罪とそれらの各犯行に対応する原判示第2の各児童ポルノ製造罪について,いずれも併合罪とした原判決の法令適用に誤りはない。
第2 量刑不当の主張について
 その骨子は,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというものである。
 本件は,保育士であった被告人が,平成27年4月から平成28年3月までの間に,勤務先の託児所及び保育園において,1歳から6歳の15名の女児に対し,合計50回にわたり,陰部を直接触るなどのわいせつな行為を繰り返すとともに,その際に各被害児を撮影した静止画や動画合計126点を保存して児童ポルノを製造したという事案であるところ,原判決が量刑の理由として説示するところは相当であって,その結論も妥当である。
 若干補足すると,本件各強制わいせつは,被告人が,保育士として一人で勤務していた際に,その立場を悪用し,助けを求めることも抵抗することもできない状況にある幼児に対し,陰部を直接触るほか,うち10名の被害児については,陰部や肛門に指や棒様のものを入れたり,陰部を舐めたりするなどの強度のわいせつな行為を行ったものであり,そのようなわいせつな行為を執拗かつ多数回行った被害児もいる。このような被害に遭った被害児らは,本件各犯行時にかなり嫌な思いをして精神的痛手を直接受けるなどしたことにより,将来にわたっての精神的な悪影響が懸念されるのであって,15名もの幼児に対し,このような懸念のある性的虐待を加えた結果は誠に重大である。
 また,被告人は,被害児が嫌がる素振りをしたり涙を流したりしていても,わいせつな行為を続けている上,全ての被害児について児童ポルノの製造にも及んだものである。しかも,平成27年4月中旬から5月上旬にかけて本件託児所で4名の被害児に対する本件各犯行に及んだ後,本件託児所を解雇されたが,9月に復職した当日に1名の被害児に対する本件犯行に及び,その後,平成28年1月中旬に本件保育園で勤務を開始した直後から3月上旬までの間に10名の被害児に対する本件各犯行を頻繁に繰り返したものでもある。その上,被告人は,平成22年に,保育士として勤務していた保育施設の園児に対する強制わいせつ罪で懲役3年に処せられ,服役したにもかかわらず,再び保育士として勤務して,本件各犯行を重ねたものである。これらのことからすると,被告人は,自らの性的欲望を満たすために幼児を道具のように扱い,人としての尊厳を踏みにじることをいとわない傾向がかなり強いといえ,極めて厳しい非難に値する。
 したがって,本件犯情は非常に悪く,被告人の刑事責任は誠に重大である。
 そうすると,本件児童ポルノが外部に流出しておらず,被告人が本件に関する携帯電話やパソコンの初期化及びデータの削除,記録媒体の所有権放棄に同意しており,今後もその流出の危険がないこと,被告人が本件各犯行を認めて,刑務所において性犯罪者処遇プログラムを受講する意向を示していることなどの事情を被告人のために考慮しても,原判決の量刑は相当なものとして支持できる。
 弁護人は,今後の被害児らの健全な生育への悪影響も強く懸念されるとした原判決の判断は,悪影響が確認されていない段階での主観的なもので,過大な評価の可能性があるなどと主張する。しかし,被害児らに対する精神的な悪影響が確認されていなくても,多数の幼児が将来にわたって精神的な悪影響を受ける可能性のあるわいせつな行為をされたこと自体が,結果として重大であると評価できるのであって,原判決の判断に誤りはない。
 また,弁護人は,原判決は,被告人が中高生時に受けた性的被害やいじめ被害が本件犯行に至る上で何らかの影響を与えているとうかがわれる点に触れておらず,適切でないと主張する。しかし,弁護人が主張するような事情があったとしても,上記のような本件犯情に照らすと,本件の量刑に影響するものとはいえない。
 さらに,弁護人は,本件各罪と併合罪の関係にある罪について,別々に審理されており,併合の利益が失われて必要以上に重罰になっていると主張する。しかし,原審における本件及び別件の公判前整理手続において,原審弁護人が本件と別件を分離するなどして別々に審理することを求めていることを踏まえて,本件を別件から分離して審理,判決した原判決の訴訟手続は妥当なものであり,その結果として原判決は確定していない別件の判決を踏まえて量刑判断をすることができなくなったものであり,弁護人の主張は失当である。
 そのほかに弁護人が指摘する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。
第3 結語
 以上のとおり,本件控訴の趣意はいずれ理由がないから,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中150日を原判決の刑に算入する。当審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
 東京高等裁判所第3刑事部
 (裁判長裁判官 秋葉康弘 裁判官 來司直美 裁判官 中川正隆)