東京高裁r5.10.12
(3) いわゆるかすがい現象について
住居侵入罪と準強制わいせつ罪及び強制わいせつ未遂罪をそれぞれ牽連犯とした原判決の判断に誤りはない。
そして、強制わいせつ罪及び強制わいせつ未遂罪が併合罪の関係であるとしても、同一の住居侵入罪を介して全体が科刑上一罪となるとした原判決の判断にも誤りは認められない。
また、前記(2)で説示したとおり、住居侵入罪と児童ポルノ製造罪を牽連犯とした原判決の判断にも誤りはなく、強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪が併合罪の関係にあるとしても、同一の住居侵入罪を介して各々の強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪を含む全体を科刑上一罪とした原判決の判断に誤りはない。
所論は、①かすがい現象を認めると、新たな犯罪が加わるのに全体が科刑上一罪となる結果として処断刑が引き下げられるという不合理な事態が生じる、②児童ポルノ法7条4項の罪は、撮影者による事後の複製行為まで処罰範囲とするため、例えば、住居侵入をした上で強制わいせつと児童ポルノの製造(撮影行為)に及び、後に当該児童ポルノを複製して、このうちの複製5行為のみで処罰された場合、かすがい現象により一罪となる強制わいせつが後から発覚しても起訴できないことになるなど、一事不再理効が予想外に広がり得る、などというものである。
しかし、前記①については、原審における求刑や宣告刑等をみても、事件が全体として科刑上一罪とされたことにより、かすがい現象を認めなかった場合に比べてそれぞれの処断刑の上限が下がったとはいえる10 が、そのことによる支障が生じたことは全くうかがわれない。
また、かすがい現象で所論指摘の不均衡が生じる面がある点は否定できないにせよ、これを採用しない場合は、認める場合)、同一の行為について法的評価を異にしたり(併合罪の関係にある複数の行為のうち、一つについてのみ住居侵入罪との牽連関係を一つの住居侵入行為を複数回評価したり(併合罪の関係にある複数の行為について、いずれも一つの住居侵入罪と牽連関係を認める場合)といった別の問題に直面するから、かすがい現象がおよそ不合理で、採用の限りではないとまではいえない。
次に、前記②については、やはり本件において所論のいうような問題が顕在化しているわけではない上に、強制わいせつ時点の撮影行為と、その後に時間を隔てて行われる複製行為とが必ずしも包括一罪と評価されるとは限らないから、所論の指摘する不合理性は、ただちにかすがい現象を否定すべき理由とはならない。
所論はいずれも理由がない。