どちらかといえば実刑の方が多い。
児童淫行罪って売春・風俗関係が9割で、それが執行猶予になるので、師弟関係が6割実刑・親族関係が9割実刑になるのが知られていない。
児童福祉法違反被告事件福岡地判令和4年1月31日D1-Law.com判例体系〔28300572〕
被告人を懲役2年6月に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。理由
(罪となるべき事実)
被告人は、合同会社Bの代表社員で、同社が経営する指定障害児通所支援事業所である放課後等デイサービス「C」において、自らも障害児の療育に携わっていたものであるが、同施設に通所していたA(その氏名は別紙記載のとおり)が18歳に満たない児童であることを知りながら、自己の立場を利用し、令和元年8月15日午後6時頃から同月16日午前11時頃までの間に、福岡県(以下略)の被告人方において、同児童(当時13歳)に自己を相手に性交させ、もって児童に淫行をさせる行為をしたものである。
(証拠の標目)
・被告人の公判供述、検察官調書(証拠等関係カード(乙)番号2)
・検証調書(証拠等関係カード(甲)番号1)、被害児童使用スマートフォンにかかる写真撮影報告書(写真フォルダ内画像)(同2)、捜査関係事項照会回答書(同3)、Aの検察官調書(同5。ただし、同意部分に限る。)
(法令の適用)
罰条 児童福祉法60条1項、34条1項6号
刑種の選択 懲役刑を選択
刑の全部の執行猶予 刑法25条1項
(量刑の理由)
判示施設は、児童福祉法に基づき、県知事の指定を受け、障害のある児童を通所させて支援していた。被告人は判示施設の実質的経営者であった。被害児童は、小学5年生の時から判示施設に通い、被告人に宿題を見てもらうなどしていた。被告人は、被害児童が中学1年生の時に、被害児童に迫ってキスをした上、遅くとも被害児童が中学2年生になった春頃から、被害児童と性交をするようになり、その年の夏に本件犯行に及んだ。被告人は、何年もの間、被害児童から「先生」と呼ばれる立場にあったことを利用し、妻子がいるにもかかわらず、「好きだ」「愛している」などと甘言を用いて働きかけ、被害児童をその気にさせ、被告人との性交を重ねさせる中で本件犯行に及んだものであって、法律的にも道義的にも厳しい非難を免れない。被害児童は、心を深く傷付けられ、今も苦しんでおり、被告人に対する厳重処罰を希望している。本件は、児童福祉法の理念をないがしろにするものであって、実刑を求める検察官の論告にも理由がないわけではない。
しかしながら、同種事案の量刑傾向を参照すると、学校の教諭による教え子1名に対する同様の犯罪行為について、刑の執行が猶予されているものが複数見受けられる。そこで、これを踏まえて本件における実刑選択の適否を判断するに当たり、その他の事情を見ると、被告人が事実を認めて反省の態度を示したこと、受領を拒絶されたとはいえ、150万円の被害弁償の申し出をしており、私選弁護人が弁論で今後も示談に向けた話し合いを継続する旨述べたこと、被告人に前科はなく、被告人の妻がこれからも被告人を支える旨述べたこと、犯行後起訴前に判示施設の経営から退いたことなどの事情があり、本件が同種事案の中で特に悪質性が高いものとまでは認められない。
以上によれば、被告人に対しては、主文の懲役刑を科して、被害児童の心身の健やかな成長及び発達を大きく損なった責任の所在を明らかにするとともに、その刑の執行を5年間猶予し、社会内において反省と被害弁償の努力を伴う更生の機会を与えるのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役2年6月の実刑)
(弁護人の意見 執行猶予付き判決)
第1刑事部
(裁判官 柴田寿宏)