児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

刑法改正によって弁当切りはできなくなります。関連する刑法はr7.6.1から施行されます。

 執行猶予中に別件を犯して公判を受けることになった場合、公判を慎重にすすめて執行猶予を経過させるという手法(弁当切り)がありましたが、新設された刑法27条2項によって、執行猶予が切れなくなりましたので、そういう手法は使えなくなります。

改正前
第二七条(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
1 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。

R4改正後(施行日は公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日。)

第二七条(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
1 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
2 前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。
3 前項前段の規定にかかわらず、効力継続期間における次に掲げる規定の適用については、同項の刑の言渡しは、効力を失っているものとみなす。
一 第二十五条、第二十六条、第二十六条の二、次条第一項及び第三項、第二十七条の四(第三号に係る部分に限る。)並びに第三十四条の二の規定
二 人の資格に関する法令の規定
4 第二項前段の場合において、当該罪について拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないときは、同項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、当該罪が同項前段の猶予の期間の経過後に犯した罪と併合罪として処断された場合において、犯情その他の情状を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
5 第二項前段の場合において、当該罪について罰金に処せられたときは、同項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
6 前二項の規定により刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の拘禁刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。

弁当切りが封じられる理由は「執行猶予制度の趣旨は、執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制により改善更生、再犯防止を図ることにあるところ、犯罪の発生から判決が確定するまでに一定の期間を要することに照らすと、猶予の期間の満了が近づくにつれて、再犯に及んでも執行猶予の言渡しを取り消されない可能性が高まることとなり、執行猶予の趣旨、機能が全うできないことになりかねないところでございます。そもそも、先ほど申し上げた執行猶予制度の趣旨に鑑みれば、猶予されていた当初の刑を執行すべきかどうかを判断する上で重要なのは、再犯についての有罪判決が猶予の期間内に確定したことではなく、猶予の期間内に再犯に及んだことであると考えられます。そこで、今回の法改正では、刑の執行猶予期間の経過後にもその刑の執行ができるようにするものでありまして、これにより、猶予の全期間を通じて執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制により改善更生、再犯防止を図るという執行猶予制度の機能が十全に発揮されることになるものと期待しております。」と説明されています

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815206X01720220610/248
248 東徹
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○東徹君 日本維新の会の東徹でございます。
 先ほどの刑法の一部を改正する法律案、これは成立いたしましたけれども、実はちょっと確認したいことがまだ何点かありまして、三点ちょっと確認をさせていただきたいと思いますので、お願いをいたします。
 再度の執行猶予についてお伺いをさせていただきます。
 今回の法改正で、保護観察付きの執行猶予中に再び罪を犯した場合でもまた執行猶予を付けることが可能となりました。保護観察付きの執行猶予中の再犯者の割合、これは令和二年で二三・六%でありまして、保護観察が付いていない執行猶予を受けている者よりも再犯率が高いということなんですね。
 今回の改正によって再犯率の高い者に更に執行猶予を付けられるようにすれば、また新たな犯罪が生まれてしまうのではないかというふうな思いもありますが、この点はどのようにお考えなのか、お伺いしたいと思います。
249 川原隆司
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○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
 現行法上、保護観察付執行猶予中の再犯につきましては、再度の執行猶予を言い渡すことができず、いわゆる実刑に処さなければならないこととされております。その理由といたしましては、保護観察付執行猶予の仕組みが設けられた当時、裁判所の認定により、再犯のおそれがあり、適当な指導監督、補導援護を加える必要があるということで保護観察に付された者に、再び犯罪を犯した場合には重ねて執行猶予はできないこととするなどと説明されていたものと承知をしております。
 しかしながら、保護観察付執行猶予中に再犯に及ぶ事案には様々なものがございまして、再犯に及んだというだけで社会内処遇によることがおよそ不適当であるとは言えず、実刑に処するよりも改めて保護観察付執行猶予を言い渡して社会内処遇を継続する方が罪を犯した者の改善更生、再犯防止に資する場合もあると考えられるところでございます。
 そこで、今回の法改正におきましては、実刑に処するよりも社会内処遇を継続する方が改善更生、再犯防止に資するという場合に限って、裁判所の判断により再度の保護観察付執行猶予を言い渡す余地を残す趣旨で、保護観察付執行猶予中の再犯についても再度の保護観察付執行猶予を言い渡すことができるようにするものでございます。
 その上で、今回の法改正におきましては、再度の保護観察付執行猶予を言い渡された者に対する保護観察につきましては、再犯に結び付いた要因の的確な把握に留意して実施しなければならず、保護観察所の長は、保護観察の開始に際し、再犯に結び付いた要因を的確に把握するため、少年鑑別所の長に対し、再保護観察付執行猶予者の鑑別を求めることとするなどの特則を設け、その改善更生、再犯防止に万全を期することとしているものでございます。
 したがいまして、保護観察付執行猶予中の再犯につき、再度の保護観察付執行猶予を言い渡すことができるようにしたからといって、実際に再度の保護観察付執行猶予を言い渡された者が再犯に及ぶおそれが更に増大するものとは考えていないところでございます。
250 東徹
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○東徹君 次、現在の仕組みでなんですけれども、単純な執行猶予中に再び罪を犯した場合に、更にこれ執行猶予が付けることができますね。二度目の執行猶予の際にまた罪を犯してしまった人の割合、これ法務省は何か把握していないというふうに聞いておるんです。二度目の執行猶予の制度が新たな犯罪を生んでいないのかどうか、これ検証するためにはこの数字というのは把握しておく必要があるんではないかと思いますが、いかがですか。
251 宮田祐良
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○政府参考人(宮田祐良君) お答え申し上げます。
 現在、保護観察付全部執行猶予者の成り行きを見るということで、再処分率、保護観察を終えた者の中で刑事処分に付された者、起訴猶予の処分も含みますけれども、そういった者の占める比率を再処分率ということで把握しておりまして、毎年把握しておりますものを毎年公表しているところでございます。
 今回新たな制度になりますと、保護観察付全部執行猶予中の者の再犯によって再度の保護観察付執行猶予も付されると、保護観察付全部執行猶予が二つ持つような新たなケースも生まれるということもございますので、施策の有効性を確認する観点から、どのようなデータを把握するかも含めまして、効果検証の在り方についてはしっかり検討していきたいと思います。
252 東徹
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○東徹君 そこは必要なんじゃないですかねというふうに思うんですね。
 単純な執行猶予中に再び罪を犯した場合にこれ執行猶予を付けることができる。二度目の執行猶予の際にまたこれ罪を犯してしまった人の割合、僕はやっぱりここもきちっとデータとして把握しておかないと、今回のことも含めてやっぱり議論しづらいなと、こう思ったので、これを聞かせていただいたということです。
 もう一点、法務省から事前にこれ確認したところでは、例えば窃盗などで保護観察付きの執行猶予中の者が自動車の運転中、過って人をはねてけがをさせてしまった場合、これ業務上過失傷害罪に問われる可能性がありますが、過失犯なのに執行猶予を付けられないのはどうしたものかと。まあ、判断があるというふうに聞いております。であるならば、過失犯だけに限定して二回目の執行猶予を付けるようにしたらどうなのかなと思うんですけれども、その点についてはいかがだったんでしょうか。
253 川原隆司
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○政府参考人(川原隆司君) 委員御指摘の改正は、保護観察付執行猶予中の再犯については実刑に処すべきものとされてきたことを踏まえた上で、保護観察付執行猶予中に再犯に及ぶ事案には様々なものがあり、実刑に処するよりも保護観察付執行猶予を言い渡して社会内処遇を継続する方が罪を犯した者の改善更生、再犯防止に資する場合があることから、こうした場合に限り裁判所の判断により再度の保護観察付執行猶予を言い渡す余地を残そうとするものでございます。このような趣旨は、再犯が過失犯である場合だけでなく、故意犯である場合にも妥当し得ると考えられるところでございます。
 もとより、個別の事案ごとの裁判所の判断によることとなるところでございますが、例えば法制審議会の部会における議論では、故意犯である薬物使用の罪で保護観察付執行猶予中の者が薬物再乱用防止プログラムを熱心に受講し、薬物の使用を絶っていたものの、プログラム修了前に衝動的に薬物を使用してしまい、その直後に真摯に反省して自首した事案が挙げられているところ、このような事案において、保護観察付執行猶予を言い渡して社会内処遇を継続する方が罪を犯した者の改善更生、再犯防止に資すると判断される場合には裁判所が再度の保護観察付執行猶予を言い渡すことを可能にすることが必要であると考えられるところでございます。そのため、本制度の対象犯罪を過失犯に限定することとはしていないところでございます。




https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815206X01620220607/47
047 安江伸夫
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○安江伸夫君 大変参考になる御意見、ありがとうございました。
 済みません、今井参考人にもう一問御質問させていただきたいと思いますが、今回、再度の執行猶予についての適用範囲が長くなります。一年から二年にということであります。これは、例えば三年までという検討もあったかというふうに思いますけれども、今回二年という枠に落ち着いたその背景について御意見を賜ればと思います。
048 今井猛嘉
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参考人(今井猛嘉君) そこは、恐らく現状認識によるのだろうと思います。
 一年、二年、三年、そういう選択肢は紙の上ではできるのでございますけれども、再度の執行猶予というのはなかなか例外的なものでありますし、その際に、初度の執行猶予が守れなかった人々に対する対処としては、執行猶予の効果を期待してはいますけれども、そう簡単に認められるものなのかなという現状認識もあったところで二年になったのではないかと思います。
 ですから、これも広い意味ではデータベースの考慮の働いた結果だと理解しております。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120815206X01520220602/18
018 清水真人
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○清水真人君 一番の目的は、しっかりと矯正処遇に生かしていくということでありますし、受刑者の立ち直りにつなげていくということであると思いますから、どのような形がベストなのかということについては速やかに判断をして検討を進めていただきたいということを要望したいと思います。
 続いて、執行猶予の拡充についてお伺いをいたします。
 ちょっと一点飛ばしまして、現行法上、執行猶予期間中に再犯を犯した場合について、その執行猶予期間中に罰金以上の有罪確定しなければ刑の言渡しの効力が失われるわけでありますが、改正案では、再犯した罪の有罪が確定するまでに先に犯した罪の執行猶予期間が終わっても、執行猶予期間中に公訴がされていれば、なされていれば効力継続期間となり、刑の言渡しについて効力が続くこととされているところでありますが、この改正によりどのような効果が生まれると期待をしているのか、お伺いいたします。
019 川原隆司
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○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
 現行法上、執行猶予の期間内に再犯に及んだことに基づいて執行猶予の言渡しを取り消すためには、猶予の期間内に有罪判決が確定することが必要とされております。
 もっとも、執行猶予制度の趣旨は、執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制により改善更生、再犯防止を図ることにあるところ、犯罪の発生から判決が確定するまでに一定の期間を要することに照らすと、猶予の期間の満了が近づくにつれて、再犯に及んでも執行猶予の言渡しを取り消されない可能性が高まることとなり、執行猶予の趣旨、機能が全うできないことになりかねないところでございます。
 そもそも、先ほど申し上げた執行猶予制度の趣旨に鑑みれば、猶予されていた当初の刑を執行すべきかどうかを判断する上で重要なのは、再犯についての有罪判決が猶予の期間内に確定したことではなく、猶予の期間内に再犯に及んだことであると考えられます。
 そこで、今回の法改正では、刑の執行猶予期間の経過後にもその刑の執行ができるようにするものでありまして、これにより、猶予の全期間を通じて執行猶予の言渡しの取消しによる心理的強制により改善更生、再犯防止を図るという執行猶予制度の機能が十全に発揮されることになるものと期待しております。




法制審議会の議論も少年法と並行して行われたので注目されませんでしたね

法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者 処遇関係)部会第1分科会第1回会議配布資料
https://www.moj.go.jp/content/001236213.pdf
執行猶予期間中の再犯について,執行猶予期間経過後であっても一定の
条件の下で取り消し得るものとすること


https://www.moj.go.jp/content/001243803.txt
法制審議会
少年法・刑事法
(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会
第1分科会第3回会議 議事録
○橋爪幹事 意見要旨4番の点について,若干思うところを申し上げたいと存じます。
  以前から何度も申し上げておりますけれども,執行猶予の取消しの問題につきましては,執行猶予期間中に再犯を犯したという事実が決定的でありまして,判決の確定の時期それ自体は,あまり意味があることではないと思います。具体的には執行猶予期間中に再犯を犯し,かつその事実について執行猶予期間中に公訴提起が行われた場合については,判決確定が執行猶予期間経過後であっても,執行猶予を取り消し得るような制度を設ける可能性については検討する必要があると考えております。
  もっとも,公訴提起が行われましても,判決確定までは無罪推定原則が及んでおりますので,無罪推定原則との関係で,公訴提起を要求する点については理論的な検討が必要であると個人的には考えておりまして,第1回の分科会でもその旨申し上げたところでございます。
  その点について,私なりに改めて考えてみたのですけれども,次のような理解からは,正当化が可能であるように思われますので,若干思うところを申し述べたいと存じます。
  飽くまでも執行猶予の取消しにおきましては,執行猶予期間中に再犯を犯したという事実,そして,その事実が執行猶予期間の経過の前後を問わず,刑事裁判において認定され,確定したという事実が決定的に重要であるように思われます。
  したがいまして,理論的には,執行猶予期間中に公訴の提起があったことは,本来要件とする必要がないはずです。しかしながら,この要件を外しますと,執行猶予期間中の再犯については,公訴時効が完成しない限り,いつになっても執行猶予が事後的に取り消される可能性が残ることになりますので,対象者の法的地位が極めて不安定になります。
  そこで,言わば政策的な観点から,時間的な限定を設定すべく,執行猶予期間中に公訴の提起があったことを要件とするという理解が考えられるように思われます。つまり,本来必要でないところを,政策的な観点,あえて申しますと,対象者に対する恩恵的な観点から要件を科すと考えますと,無罪推定原則との関係で抵触は生じないと考える余地があるように思います。








「刑の全部の執行猶予制度の在り方」についての意見要旨
https://www.moj.go.jp/content/001240191.pdf
4 執行猶予期間経過後の執行猶予の取消し
○ 執行猶予中の再犯について,再犯事件の判決確定が執行猶予期間経過後であっても,一定の条件の下で取り消し得るものとするべきではないか。
○ 執行猶予期間経過後に執行猶予を取り消し得るものとすることについて,理論面からの検討が必要。
○ 保護観察付き執行猶予を執行猶予期間経過後に取り消した場合には,経過した執行猶予期間分を考慮して早期に仮釈放を認める仕組みとするべきではないか。




法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会第1分科会第4回会議配布資料
https://www.moj.go.jp/content/001246043.pdf
第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し
考えられる制度の概要
刑の全部の執行猶予の期間内に更に罪を犯した場合について,猶予期間経過後であっても,執行猶予の言渡しを取り消して刑を執行することができるものとする。
【検討課題】
○ 必要性
○ 要件
・ 他の罪について有罪判決が確定したこと
・ 猶予の期間内に公訴が提起されたこと
・ その他
○ 猶予期間経過の効果(刑法第27条)との関係
○ 執行猶予の取消しの在り方
・ 必要的取消しとするか裁量的取消しとするか
○ 併せて以下の仕組みを設けるか否か
・ 刑の一部の執行猶予(刑法第27条の2),仮釈放(刑法第28条)の期間内に更に罪を犯した場合,期間経過後であっても同様に刑を執行することができる仕組み
・ 猶予期間経過後に執行猶予を取り消した場合には,(経過した)猶予期間分を考慮して早期に仮釈放を行う仕組み


https://www.moj.go.jp/content/001251519.txt
法制審議会
少年法・刑事法
(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会
第1分科会第4回会議 議事録
 それでは次へいきまして,「第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し」について意見交換を行いたいと思います。
  この制度については,検討課題の項目数が多いので,まずは「必要性」と「要件」,「執行猶予期間経過後の効果との関係」について意見交換を行い,その後に残りの検討課題について意見交換を行いたいと思います。では,「必要性」と「要件」,「猶予期間経過の効果との関係」について御意見がある方は挙手をお願いいたします。
○加藤幹事 第4の検討課題のうち,「必要性」と「要件」の点について申し上げたいと思います。
  まず,考えられる制度の概要に書いてあるような仕組みの必要性としては,端的に執行猶予の期間内に罪を犯した場合に,裁判の確定時期によっては執行猶予が取り消せなくなるという事態を解消する必要があると考えられることによると思っています。
  また,次の要件については,これまでの分科会において御意見が述べられていましたように,再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて実質的に重要なのは,執行猶予の期間内に罪を犯したという事実であり,かつ,そのことが裁判において認定確定されたことなので,その有罪判決の確定が執行猶予期間経過後であっても執行猶予を取り消すものとすることが考えられることになろうと思われます。
  もっとも,執行猶予が取り消され得る状態が余りに長期にわたることによって執行猶予者の地位が著しく不安定となることは防止しなければなりませんので,政策的に執行猶予を取り消すための時的限界を画する条件を設ける必要があろうと思われます。
  そして,その再犯について猶予の期間内に公訴提起がなされることを要するものとすれば,そういった要請を満たすこともできると考えられますので,そのような要件を設けるのが相当ではないかと考えます。
○今井委員 ただいまの加藤幹事とほぼ同じ意見でございますが,「必要性」については重なりますので割愛させていただきまして,「要件」の点で,少し意見を申し上げたいと思います。
  今御指摘もありましたように,このような制度を作ることは必要だと思いますけれども,他方で対象となる方を,いつか執行猶予の言渡しが取り消されるのだろうかという不安定な状態に長期間置いておくことは相当ではないと思います。
  そこで考えられますのが,裁判所あるいは検察官の主導によりまして,このような結果を導くという制度なのであります。例えば裁判所が執行猶予を取り消すことができるという期間を制限するということは,理屈の上では考えられるわけですけれども,先ほど福島幹事からも一般的なお話があり,私も,執行猶予の当否等を考えるのは極めて個別の事案に即した判断であろうと思いますので,裁判所が執行猶予を取り消すことができる期間を一律に制限してしまうということは適切ではないと思われます。
  そもそも執行猶予の取消しは,裁判所の職権判断によるものではなく,検察官の請求に基づいて行われているものですから,検察官がそのような請求をできる期間を一定のものに限定することによって,対象者の方をいつまでも不安定な状態に置くことを回避するのが,現行法を踏まえた上での考えられる制度ではないかと思います。そのような形で検討されてはどうかと思うところでございます。
○橋爪幹事 私の方からは3点目ですが,猶予期間経過の効果の関係で1点申し上げたいと存じます。
  刑法第27条との関係が重要な問題になってくるかと存じます。刑法第27条によれば,執行猶予期間の経過によって,刑の言渡しは効力を失うことになっておりますので,猶予期間中に公訴が提起されても,有罪判決の確定に至らない場合については,猶予期間の経過をもって刑法第27条が適用されまして,刑の言渡しは効力を失います。このように,刑の言渡しが一旦効力を失ったにもかかわらず,その後,有罪判決の確定によって執行猶予を取り消すことが理論的に可能かということが問題になると思われます。
  この点につきましては,既に本分科会の第1回の会議で,改正刑法草案に係る法制審議会刑事法特別部会の議論におきまして二つの方向の議論があったことの御紹介があったかと存じます。すなわち,第1に執行猶予期間の満了によって,一旦刑の言渡しの効果は消滅するが,執行猶予の取消しによって,これが復活するという考え方。第2に,公訴提起によって執行猶予期間が延長されるという考え方でございました。この点につきまして,私なりに更に考えたことを申し上げたいと存じます。
  まず,後者の理解でございます。公訴提起によって猶予期間が延長するという理解でございますが,やはり公訴提起の段階においては,無罪推定が及ぶ以上,公訴提起を根拠として執行猶予期間の延長という不利益処分を科すことを正当化することは困難であると考えます。
  では,前者のように執行猶予期間経過後であっても,執行猶予の取消しによって刑の言渡しの効力が復活するという理解が可能でしょうか。これについては,一旦効力を失ったものが事後的に復活するという説明に若干の違和感はありますが,刑法第27条は執行猶予期間中に公訴提起された事件について,有罪判決が確定しないことを前提とした,言わば条件付き,留保付きの規定であると考えた上で,かつその旨の明文の規定を置くのであれば,一旦効力を失った刑が事後的に復活するという説明も可能であるようにも思います。もっとも個人的には次のような説明も可能であるように思いますので,問題提起としてこの機会に申し上げたいと存じます。
  言わば,刑法第27条の趣旨を限定する解釈です。すなわち刑法第27条は,刑の言渡しに伴う不利益の解消に向けられた規定,具体的には刑法第25条第1項第1号の該当性を否定し,また資格制限の効果を否定するための規定であって,有罪判決に基づく刑の執行可能性それ自体を全面的に排除する規定ではないという理解です。
  このような理解によれば,執行猶予期間が満了したとしても,それは執行猶予の取消しがない限りにおいては,刑が執行されることがないことを意味するにすぎないことから,事後的に有罪判決が確定した場合については,刑法第27条の規定にかかわらず執行猶予を取り消し,刑を執行することが可能になると思われます。すなわち,刑の執行を受けることがないという法的効果は,執行猶予期間の経過だけではなく,執行猶予の取消しがあり得ないという事態が確定した場合に,初めて生ずるという理解です。
  やや技巧的な印象もございますけれども,理論的にはこういった説明も十分に可能であると考える次第です。
  ただ,この場合には,刑法第27条の規定形式,内容について修正が必要ではないかという点も問題になるようにも思われますので,一つの考え方として,この機会にあえて申し上げる次第です。
○佐伯分科会長 「必要性」,「要件」,それから「猶予期間経過の効果との関係」について,ほかにはいかがでしょうか。
  それでは,今の三つの項目以外の検討課題について御意見がある方は挙手をお願いいたします。
○青木委員 そもそも,このような必要性がないとは言いませんけれども,こういう制度がいいのかどうかということに関しては,それこそかつての議論でもいろいろ問題があったところだろうと思いますので,それの良し悪しはちょっと置いておいての話なのですけれども,必要的取消しか裁量的取消しかという点に関してですけれども,そもそも再犯の場合に必要的取消しである必要があるのかというのも,本来は考えるべきところなのだろうと思います。平野先生が書かれている本などを読みましたところ,必ずしも猶予されていた刑の執行をしない法制もあるということが書かれておりまして,これでいいますと執行猶予中の再犯は刑務所,施設収容になるとしても,執行猶予は取り消さずにその部分に関して,例えば猶予期間が残っていた場合には,猶予の残期間がその刑期より長いときには出所後に施設外処遇をすることもできるのではないかというようなことを,平野先生が述べられているのです。
  それをそのままとることはどうなのかなと,理屈の上でもどうなのかなと思いますけれども,必ずしも必要的取消しと,そもそも期間経過後に限らず再犯の場合に必要的取消しとしないで,先ほどの申し上げたこととも絡むのですけれども,仮に取り消したとしても,全部実刑にして,その期間全部服役しなければならないという制度ではなくて,例えばその一部を免除するとか,あるいはその一部について執行猶予にするとか,それは今の一部執行猶予のように,施設収容の後に執行猶予するという意味ですけれども,そういう制度もこの際考えたらどうかということを,ちょっと平野先生の書かれたものを読んで思いました。
  と申しますのは,先ほども申し上げたのですけれども,そもそもの執行猶予制度というのは,施設収容による弊害をなくすという側面ももちろんあったわけで,ただそれがうまくいかないから施設に収容するということなのでしょうけれども,その収容期間が非常に長くなってしまうと,ますます社会復帰しにくくなるという側面があるわけです。
  そういうことを考えますと,再犯防止という観点で考えたとして,全部について実刑にして,取り消した上でもう一回刑務所に入れ直すと言うと変ですけれども,特に猶予期間経過後に確定するような件は,一定程度その猶予期間が経過しているのでしょうから,その上でさらにその実刑の刑期を務めさせて,なおかつその再犯についての刑期も務めるということになると,ある程度長期になってしまうということ。それと,先ほど申し上げました保護観察付き執行猶予だった場合には,実質的に不利益を受けているということなども考えて,早期に仮釈放を行うという以上に,一部免除するなり,先ほど申し上げましたように,一部執行猶予にするなりというような形で,それを理屈付けると,そういう形で取り消した後の効果をそういう形にするというようなことを考える必要もあるのではないかと思いました。
  そういうこととセットで,この猶予期間経過後の取消しもすると,取消しもできるという制度というのは検討する必要があるのではないかと思いました。
○今井委員 今の青木委員の御発言,大変興味深く伺ったのですが,私も平野先生の御趣旨を,全部理解しているわけではないのですが,現在は,当時と比べて,施設内処遇における処遇方法の科学性や客観性,つまり諸科学を使った処遇の方法がかなり違ってきていることを踏まえる必要があろうかと思います。青木委員の言われることは,理屈としては分かるのですけれども,仮に必要的取消しをして施設内処遇に戻したとしても,そこからまたそのような経緯を経た人であることを踏まえて個別な指導がなされるので,必ずしもそのような御説だけが妥当するのではないのでは,と思います。
  その上で,現行法の枠組みを踏まえますと,私はどうも必要的取消しの方が筋が合うのではないかと思います。どういうことかと申しますと,現行法では今青木委員からもお話がありましたように,猶予期間内に禁錮以上の刑に処せられた場合には,執行猶予が必要的に取り消されます。そして再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて,実質的に重要なのは,これまでも何度も議論されておりますし,合意があると思いますけれども,猶予期間内に罪を犯したという事実であるということを踏まえますと,再犯については有罪裁判の確定時期が猶予期間経過の前後いずれかによって,結論を異にするというのは合理的ではないように思います。
  実質的にも,先ほどその要件のところで議論がありましたけれども,猶予期間内の公訴提起を要件とする限りは,その後有罪判決が確定するまで長期間を要するわけではないと思われますので,執行猶予の取消しまでに執行猶予者を苛酷なあるいは不安定な状況に置くことは回避できるのではないかと思います。また,様々な刑事政策的な考慮を踏まえて裁量的取消しをするという制度を考えた場合ですけれども,執行猶予が取り消されるか否か,あらかじめ明らかではありませんし,猶予の期間内の再犯について,量刑を行う裁判所としても執行猶予が取り消されるかどうか,いずれを想定して量刑を行ってよいか,判断を迷われるのではないかなとも思われるところであります。
  そこで,私としては猶予期間満了間際に罪を犯した者については,裁判所が再犯の量刑を決める際の情状として考慮するということにして,他は現行の制度に合わせるのがよいのではないかと思うところです。
○青木委員 先ほどちょっと二つのことを一度に申し上げてしまったので,必要的取消しか裁量的取消しかというのは,今のお話はそれで分かりました。一方で,取り消したとした場合に例えばその刑を一部免除するとか,そういうことについては,また一方で今の話とは別に検討したらいいのではないかと思います。一部免除というのは完全にその部分がなくなってしまうわけですけれども,場合によったら,その後の議論に絡みますけれども,社会内処遇,ソフトランディングのために社会内処遇が必要だというようなことも考えますと,その部分,免除してしまうのではなくて,むしろ一部執行猶予にして,社会内処遇として付するというようなこともあり得るのではないかと思っております。
○加藤幹事 まず,今青木委員が補足してというか,付け加えておっしゃった点で,恐らく青木委員は最初に御発言になったときに,執行猶予の取消しの問題については,執行猶予期間経過後の問題だけではなくて,本来執行猶予を取り消す場合にどういう制度であるべきかというお考えからの御発言になったものだと受け取ったのではありますが,一方で第4のテーマとの関係で,執行猶予期間経過後に執行猶予を取り消すことになる場合と,執行猶予期間中に,その執行猶予を取り消すことになる場合で,その二つの間に執行猶予を取り消した場合の効果に違いを設ける必要があるかという観点で見ますと,そこを区別する合理性はないのではないか。恐らく今井委員も同趣旨のことをおっしゃっていたと思われますが,それはそのように考えるべきではないかと思われます。
  むしろ,執行猶予の期間を経過したことによって,同じく執行猶予期間中に再犯を犯しているにもかかわらず,取り消されるか取り消されないか,あるいはその取り消した後の効果に相違を設けるかどうかという点に,差を設ける合理性はないのではないかと考えるところでございます。
  それからもう一つ,検討課題の「○」の四つ目,「併せて以下の仕組みを設けるか否か」というところの最初の「・」ですが,再犯を理由とする執行猶予の取消しにおいて,実質的に重要なのは,その執行猶予の期間内に罪を犯して,かつ,そのことが裁判によって確定認定されたという事実であるということだということが,繰り返し指摘されています。実はそのことは,刑の全部の執行猶予であっても,刑の一部の執行猶予であっても同様なのではないかと考えられるところであります。
  また,再犯を理由とする仮釈放の取消しについても,実質的に重要なのは,仮釈放の期間内に罪を犯して,かつそのことが裁判によって認定確定されたということではないかと考えられます。
  そのように考えていきますと,一部執行猶予あるいは仮釈放についても,今ここで刑の全部執行猶予について議論されているのと同じ問題が生ずるのではないか。すなわち,その期間内について,さらに罪を犯した場合に全部執行猶予の場合と同様に,期間経過後であっても刑を執行することができる仕組みを設けるかどうかということについて,全部執行猶予の場合との共通点,相違点を踏まえて,どのように整理するのが合理的かということを今後議論する必要があるのではないかと考えます。
  今のところどうしたらよいかという結論めいたものについて意見が申し上げられる状態にないのでありますが,議論は必要なのではないかと考えている次第です。
○青木委員 また,補足なのですけれども,前に猶予期間経過後の執行猶予の取消しに関して全て経過した後だということになると,二重処罰というのがより言いやすくなる,言われやすくなるというような趣旨の発言をしたかと思いますけれども,それはそれであると思うのですが,先ほど申し上げました取り消した場合に,全てその部分を実刑として科すかどうかという問題に関しては,確かに猶予期間経過後の取消しなのか,どうなのかによって変わる必要もない話だと思いますので,検討できるとすれば,ある程度猶予期間を経過した後に取り消された場合に,その猶予期間をどう見るかとか,あるいは実刑期間が長くなってしまうことによる社会復帰が困難になるというようなことをどういうふうに見るかとか,そういう観点で,その取り消した場合に全部実刑しかあり得ないという制度の見直しというのは,執行猶予期間経過後の取消しに限らず検討した方がよい課題だと思っております。
○橋爪幹事 ただいまの青木委員の御指摘でございますけれども,確かに猶予期間のほとんどの期間を無事に過ごしていながら,最後の最後になって初めて再犯を犯したというケースにつきましては,本人が更生に向けて頑張ったことをある程度有利にしんしゃくする必要はあると思うのです。ただ,それは論点第1,第2で既に検討しましたように,再度の執行猶予を付するべきかという観点から検討が可能であるような印象を持ちました。
  さらに,先ほど今井委員の方から御指摘がございましたように,執行猶予期間中の再犯について実刑を科す場合については,執行猶予期間中の本人の改善更生に向けられた努力を,一定の限度では,量刑判断として有利にしんしゃくすることは十分に可能であるような気がいたしますので,特別な措置,仕組みを設けることにつきましては,いささか屋上屋を重ねるような感覚がございまして,やや消極的な印象を持ってございます。
○佐伯分科会長 ほかにはいかがでしょうか。






https://www.moj.go.jp/content/001246043.pdf
法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者 処遇関係)部会第1分科会第4回会議配布資料
第4 猶予期間経過後の執行猶予の取消し
考えられる制度の概要
刑の全部の執行猶予の期間内に更に罪を犯した場合について,猶予期間経過
後であっても,執行猶予の言渡しを取り消して刑を執行することができるもの
とする。
【検討課題】
○ 必要性
○ 要件
・ 他の罪について有罪判決が確定したこと
・ 猶予の期間内に公訴が提起されたこと
・ その他
○ 猶予期間経過の効果(刑法第27条)との関係
○ 執行猶予の取消しの在り方
・ 必要的取消しとするか裁量的取消しとするか
○ 併せて以下の仕組みを設けるか否か
・ 刑の一部の執行猶予(刑法第27条の2),仮釈放(刑法第28条)の期
間内に更に罪を犯した場合,期間経過後であっても同様に刑を執行すること
ができる仕組み
・ 猶予期間経過後に執行猶予を取り消した場合には,(経過した)猶予期間
分を考慮して早期に仮釈放を行う仕組み

弁当切りが困難になるという刑法はr7.6.1から施行されます。

令和5年11月10日政令第318号
    令和五年十一月十日
政令第三百十八号
刑法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令
内閣は、刑法等の一部を改正する法律(令和四年法律第六十七号)附則第一項本文の規定に基づき、この政令を制定する。
刑法等の一部を改正する法律の施行期日は、令和七年六月一日とする。

刑法等の一部を改正する法律(令和四年法律第六十七号)
(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
★新設★
2 前項の規定にかかわらず、刑の全部の執行猶予の期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるものに限る。)について公訴の提起がされているときは、同項の刑の言渡しは、当該期間が経過した日から第四項又は第五項の規定によりこの項後段の規定による刑の全部の執行猶予の言渡しが取り消されることがなくなるまでの間(以下この項及び次項において「効力継続期間」という。)、引き続きその効力を有するものとする。この場合においては、当該刑については、当該効力継続期間はその全部の執行猶予の言渡しがされているものとみなす。