児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

弁護士上谷さくら「 弁護士の立場からみる性犯罪被害者支援の実務と課題」法律の広場70巻11号

 示談金の相場は同種事案の裁判例をみれば判るけどね。
 

1刑事弁護人による二次被害
刑事弁護人による二次被害は、私自身、きわめて頻繁に感じている。
まず、起訴前であればほとんどの場合、示談の申し入れがあるが、加害者側の立場であるにも関わらず、上から目線で態度が横柄な弁護人が少なくない。例えば、強姦致傷罪(改正前)のように被害が甚大な場合でも、10万円などという低額を提示し、これを断ると、「じゃあ、いくらだったらいいって言うんですか?」と逆上する。しかも、そのような金額で被害届や告訴を取り下げるのが当然と言わんばかりの態度である。性犯罪被害の場合、被害者が加害者を許すことは基本的にはない。したがって、示談に応じる場合であっても、被害弁償を受け取るのみで宥恕文言は入れない、被害届や告訴状の取下げには応じないことも多いが、「お金だけもらっておいて、何もしないのか」と苦情を言われることもある。また、当職に対し、「本当に被害者がそう言っているのか?先生独自の意見ではないのか?」と言う弁護人もいる。これは当職に対する侮辱である。被害者の気持ちや示談に関する考え方は人それぞれである。それをじっくり聞いた上で、どのような方法を採るのが最も被害者の回復に資するのかということを第一に考えて、よくよく話し合った上で対応を決めていることを全く理解していない。内心、「示談せずに公判で明らかにした方がいいのに」と思うこともあるが、それを被害者に押し付けることは絶対にしない・
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一方で、被害者の心情に配慮した活動をした刑事弁護人もいた。一審で荒唐無稽な否認を繰り返して実刑判決を受けた被告人が、控訴して弁護人を変え、一転して犯行を認めた事件があった。損害賠償命令で決定した損害賠償金を全額支払った上、控訴審で被告人は「請求額と支払った損害賠償金の差額も支払う」と述べ、弁護人が「必ず履行させる」と述べた。控訴審の判決は執行猶予がついたことから、私も被害者も、払わないだろうと思っていたのであるが、予想に反して判決後に被告人は全額支払った。私は、法律上支払う義務のない被害弁償をしたことに驚き、様々な思いを巡らしたが、おそらく判決後も弁護人が被告人を懇々と諭してくれたのだと思う。私はこの弁護人に電話をして、御礼を述べた。そして、控訴審の担当検事にも電話で報告した。検事もとても驚いていたが、「分かりました。そのことは記録に残しておきます」と言った。この刑事弁護人は、責任ある刑事弁護を全うしたと思う。それは、被告人が人生を再スタートさせるに当たり、プラスになったはずであるし、被害者の心情を一定程度和らげたことは間違いない。
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三被害弁償について
1示談のタイミング
性犯罪は他の凶悪犯罪と比べ、示談が多い。刑法改正で、親告罪だった犯罪が非親告罪となったが、性犯罪被害者は気持ちが揺れることも多く、最終的には裁判を望まないことも少なくないから、引き続き示談で解決することも相当数あると思われる。
そして、被害者支援弁護士として最も力を注ぐべき場面は、不起訴の可能性がある場合に示談を成立させることであると考えている。送検されても、立証が難しいとの理由で不起訴になる事件も多い。被害者にとって最も辛く、打ちのめされる場面である。しかし、送検から処分を決めるまでの時間は短い。そこで、被害者支援弁護士は被害者の説得にかかる。もしかして不起訴かもしれない。そうすると、刑事処分は何もなし、そうなれば加害者は一円も払わない。しかし、これは紛れもない犯罪であって、たまたま証拠が足りなかったり法律が悪かったりするだけで、あなたが被害に遭ったことは間違いない。だから、不起訴になるなら、せめてお金だけでも払わせよう。
それも十分な罰と言えるのだから、と。そのような説明でほとんどの被害者は納得してくれる。しかし、被疑者側に不起訴の可能性が高いから示談に応じると思われてはならない。金額を値切ってきたり、開き直って「被害弁償しない」と言い出す可能性があるからである。できるだけ起訴してもらえるよう検察官にお願いしつつ、被害者に再度ヒアリングして有利な証拠がないか探しながら不起訴に備えて被疑者側と金額の交渉を続ける。
そこで重要なのが、検察官と被害者支援弁護士のコミュニケーションである。
検察官によっては、私が挨拶の電話をする前に連絡をくれて、「期限ぎりぎりまで頑張りますが、不起訴の可能性もあります。その場合を想定して色々と進めてください」と示唆してくれる人もいる。
不起訴かもしれないからせめて被害者のためにお金をたくさんとってあげてください、という意味である。その場合、決裁まで20日間近くあるから、被害者にあらゆる可能性について時間をかけて説明できるし、私も加害者側の様子を見ながら交渉ができる。
検察官から何も言われなければ、私の方から処分の見通しについて尋ねる。するとほとんどの検察官は、感触を教えてくれる。ここで困るのが、「教えられない」と言い張る検察官が少なからずいることである。