大丈夫ですか?
島戸さんも「実在しない児童を描写したポルノについては、本法第2条第3項にいう「児童ポルノ」に該当しないとされており」「対象となっているのは、実在する児童を描写した児童ポルノであると解される。」も書いているし、サイバー犯罪条約の締結の際「2b性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者」「2c性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像」は留保していますので、「実在しない場合にも処罰すべきであると解し得る。」という解釈はありません。
島戸純「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処刑及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」(警察学論集第57巻第8号、2004年)112〜113頁
2 実在しない児童のポルノの問題
実在しない児童のポルノについても、その規制の安否について将来的に検討を続けることとした。
本法が児童ポルノを規制対象とするのは、それが児童を性の対象とする風潮を助長することになるのみならず、描写の対象となった児童の人権を害することによるものである。この観点から、従来から、実在しない児童を描写したポルノについては、本法第2条第3項にいう「児童ポルノ」に該当しないとされており、今回の見直しにおいても、この部分に変更はない。実在しない児童を描写した漫画その他のポルノに閲し、どのような規制が必要なのか、必要でないかについては、今後の議論に委ねている(注31)。
注31)サイバー犯罪条約においても、実在しない児童に係るポルノに係る犯罪化条項については、成人が児童のふりをしている場合か、コンピュータ・グラフィックのように極めて写実的なものに限られているうえ、犯罪化すべき部分についても、条約上留保可能となっている。また、児童の権利条約選択議定書においても、対象となっているのは、実在する児童を描写した児童ポルノであると解される。
http://kanpou.npb.go.jp/20120704/20120704g00146/pdf/20120704g001460030.pdf
〇外務省告示第二百三十一号
日本国政府は、平成十三年十一月二十三日にブダペストで作成された「サイバー犯罪に関する条約」の受諾書を平成二十四年七月三日に欧州評議会事務局長に寄託した。
よって、同条約は、その第三十六条4の規定に従い、平成二十四年十一月一日に日本国について効力を生じる。
なお、日本国政府は、同条約の受諾書を寄託する際に、同条約の規定に基づいて次の宣言を欧州評議会事務局長に通告した。
5
第四十二条及び第九条(児童ポルノに関連する犯罪)4の規定に基づき、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第七条の犯罪に該当する行為以外の行為については、第九条1d及びe並びに2b及びcの規定を適用しない権利を留保すること。
・・・
サイバー犯罪に関する条約
第九条
2 1の規定の適用上「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
a性的にあからさまな行為を行う未成年者
b性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
c性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像
3 2の規定の適用上、「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。もっとも、締約国は、より低い年齢(十六歳を下回ってはならない。)の者のみを未成年者とすることができる。
4 締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる
http://www.westlawjapan.com/column-law/
第91号CG描画児童ポルノ画像
〜東京地判平成28年3月15日児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件※1〜
文献番号 2016WLJCC029
日本大学大学院法務研究科教授 前田 雅英Ⅰ 判例のポイント
Ⅳ コメント
本判決は、実在する児童の裸を撮影した写真を素材として作成したCGの画像データを蔵置した記録媒体を「児童ポルノ」と認定し、児童ポルノ製造罪及び児童ポルノ提供罪の成立を認めたもので、写真でなくても、本法の規制の対象となることを明らかにしたものとして、重要な意義を有する。
写真とは、一般には、カメラ等の器具を用いて、対象物の画像をフィルムにそのまま写し取ったものと考えられている。その意味で、CGを用いてでも「描画」したという場合には、写真とは当罰性の異なる「絵」であるという主張がなされてきた。
しかし、従来のカメラでも、撮影時の絞り、シャッタースピードなどで、画像は「創作」されるという面がかなりあり、さらに各種フィルターを装着して撮影すればより大きな変形を加え得る。さらに、現像の仕方では、印画紙にプリントされる写真には、かなりの差が生じ得るのである。
まして、デジタルカメラの時代に入り、その画像を保存する際、そしてそれを記憶媒体に保存する際に、画像をぼかしたり、輪郭を強調したりすることは自由に行い得る。その意味では、CGに類する作業が、一般の写真にも存在し得るのである。少なくとも、本件で児童ポルノと認定された画像は、その域を出ていないものと思われる。
そして、本件判示にあるように、「一般人であれば、写真に見紛う程に精緻に描かれたもの」は児童ポルノたり得るといえよう。被害者の同一性が認められれば、本法の保護しようとする「被害児童の法益侵害性」において、写真そのものである場合と異ならない。このような精密に写真に似せた画像を処罰の対象とすることは、罪刑法定主義に反しないことは明らかである。「絵」一般を本条の客体に含ましめるべきかについては立法論に委ねられるが、本件のような「完全な写真と本人識別性に差異の無いもの」までが含まれないという解釈は、不合理なものである。
本件においては、被害者が実在する児童であることは間違いないが、そもそも、本件のような精巧な画像であれば、被害者が実在しない場合にも処罰すべきであると解し得る(島戸純「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処刑及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」(警察学論集第57巻第8号、2004年)112〜113頁)。その意味でも、本件児童ポルノ画像の法益侵害性が高いことは明らかである。
弁護側は、本件画像について、「芸術性」の存在を主張しているようであるが、刑法175条に比し、児童ポルノの場合に、芸術性によって違法性が阻却される余地は少ない。まして、本件で問題となった画像の元となった「写真集」は、過去に立件されたことのあるものであり、本件行為の正当化の余地はないといえよう。
追記
結局東京高裁h29.1.24も実在性は必要だと判示しました。前田先生、大丈夫ですか。
東京高裁h29.1.24
ア児童の実在性について
げ)所論は,原判決が,「一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合に,は実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき」ると説示した点をとらえて,一般人が,実在の児童の姿態を忠実に描写したと認識しさえすれば,実在しない児童の姿態を描写した場合についても処罰の対象となる趣旨であるとして,この点を種々論難する。
そもそも,原判決は,前記のとおり,児童が実在することを要するとの前提に立った上,本件CGについて,被写体となった児童が実在するか否かを,各CGの元となった素材画像の写真の出典等について検討した上で判断し,実在性が認められたものについてのみ,児童ポルノに該当すると判断したのであるから,実在しない児童の姿態を描写した場合も処罰の対象となるという判断をしたとの所論は,前提を欠くものである。