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1審熊本地裁では裁判員裁判として審理され、警察署に自ら出頭した死刑囚の行為が自首に当たるかが争点となったが、「罪の意識からではなく、逃げ切れないと考えた出頭で、過大に評価できない」と自首の成立は認められず、死刑が言い渡された。
2審福岡高裁も1審判決を支持して死刑を言い渡し、弁護側が上告したが、死刑囚本人が24年9月、上告を取り下げて死刑が確定していた。
死刑制度をめぐっては、内閣府が26年11月に発表した「基本的法制度に関する世論調査」で、死刑制度容認派が約8割にのぼっている。一方、日弁連は10月の人権擁護大会で、平成32年までの死刑制度廃止と、終身刑の導入を国に求める宣言を採択している。
【判例番号】 L06650626
住居侵入,強盗殺人,強盗殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件【事件番号】 熊本地方裁判所判決
【判決日付】 平成23年10月25日
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は,犯罪事実第1の事件(以下「△△事件」という。)について,被告人に自首が成立すると主張するので,検討する。
1 証拠(被告人の公判供述,被告人の検察官調書(乙7),捜査報告書(甲106))によれば,以下の事実が認められる。
被告人は,平成23年2月26日,熊本東警察署において,犯罪事実第2及び第3の事件(以下「××事件」という。)で逮捕された。熊本県警察官らは,××事件の手口が△△事件と似ていたことから,××事件の捜査段階において,被告人の追跡捜査を実施し,その結果,被告人が,△△事件の当日及びその前後の3日間仕事を休んでいたこと,△△事件の現場付近で目撃された不審車両と同一車種,型式,塗色の車両を所有していたこと,配送の仕事で現場を訪れていた可能性が高いことなどが判明し,被告人が△△事件の犯人ではないかとの嫌疑を抱くに至った。熊本県警察本部のE警察官(以下「E警察官」という。)は,被告人が××事件で起訴された後の同年3月23日,被告人に対し,起訴後の余罪取調べをすることへの承諾を求め,その承諾を得て,被告人に対する余罪取調べを実施した。E警察官は,まず,被告人に対し,余罪が殺人事件である旨を告げた上で,その承諾を得てポリグラフ検査を実施した。被告人は,余罪取調べの承諾を求められた当初から,その余罪が△△事件のことであると考えており,ポリグラフ検査を受けた際,△△事件の時に車を止めた位置が書かれた図面を見せられ,それが自分の記憶と合致するものであったため驚き,これはもうごまかせないと思うに至った。被告人は,ポリグラフ検査の後,昼食休憩を挟んで引き続きE警察官の取調べを受け,その際,初めて自分が△△事件の犯人であることを供述した。
2 以上によれば,被告人は,合理的な根拠に基づいて被告人が△△事件の犯人ではないかとの嫌疑を持った取調官によって余罪取調べを受け,その余罪が△△事件のことであると分かっていたところ,ポリグラフ検査を受けた際,自分の記憶と合致する図面を見せられたことから,もうごまかせないと思うに至り,その後の取調べで自供したことが認められる。このような自供の経緯からすれば,被告人が自発的に△△事件の犯罪事実を申告したとは到底いえないから,△△事件について自首は成立しないというべきである。
(量刑の理由)
8 被告人のために酌むべき事情
そこで,以下,被告人のために酌むべき事情について検討する。
(1) ××事件における自首
被告人は,××事件の2日後,熊本東警察署に出頭し,××事件について自首した。この点は,被告人のために酌むべき事情である。
もっとも,被告人は,自分が重大なことをしてしまい,いずれ捕まるのではないかとの不安にさいなまれ,自首しようと考えていたところ,××事件の報道を見た交際相手から,犯人の画像が残されていたと聞き,逃げ切れないと思って最終的に自首を決断し,その翌日に自首したものと認められ,専ら罪の意識や良心の呵責に基づいて自首をしたものではない。このような本件自首の経緯に照らせば,被告人が自首したことを過大に評価することはできない。
(2) 事案解明への積極的協力
被告人は,△△事件及び××事件のいずれについても,その全容を包み隠さず供述して,積極的に捜査に協力した。このような被告人の協力によって,両事件の真相が解明されたものであり,この点は被告人のために酌むべき事情といえる。もっとも,△△事件に関しては,事件から7年以上が経ち,××事件で逮捕・起訴された後にようやく犯行を自供するに至ったものであって,その後に事案の解明に協力したことを評価するにしても,自ずと限界があるといわざるを得ない。
判例番号】 L06720208
住居侵入,強盗殺人,強盗殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
福岡高等裁判所判決平成24年4月11日(5) 他方,被告人のために酌むべき以下のような事情も認められる。
ア まず,被告人は,△△事件について自首している。しかし,1審判決も説示するとおり,被告人は逃げ切れないと思って自首したものである上,捜査機関は,容疑者(被告人)の人相がはっきりと分かる防犯ビデオに残された映像を入手していたのであるから,△△事件の犯人が被告人であると判明するのは時間の問題であったといえ,この事情は,被告人のために特に斟酌すべき事情には当たらない。
次に,弁護人は,□□事件についても,被告人に自首が成立するから,1審判決は,量刑上重要な事実を誤認している旨主張する。しかし,1審判決が(弁護人の主張に対する判断)で説示するとおり,被告人が□□事件について自白するまでの経緯からすると,自首の要件である申告の自発性を欠くから,自首は成立しない。とはいえ,被告人は,約7年間にわたって未解決であった□□事件の解決に多大な寄与をしたことは明らかであり,これは被告人に有利に斟酌すべき事情といえる。検察官の答弁に鑑み,以下,若干説明を加える。
被告人が□□事件を自白するに至る経緯は,1審判決が(弁護人の主張に対する判断)の1に摘示しているとおりである。改めて確認すると,捜査官は,△△事件の手口が□□事件と似ていたことから,△△事件の捜査段階から被告人の追跡捜査を行っていたものであるところ,その結果,被告人が,?□□事件の当日及びその前後の3日間仕事を休んでいたこと,?□□事件の現場付近で目撃された不審車両と同一車種,型式,塗色の車両を所有していたこと,?配送の仕事で現場を訪れていた可能性が高いことなどが判明したため,被告人が□□事件の犯人ではないかとの嫌疑を抱いていた,というのである。しかし,上記?ないし?の事実は,単独ではもとより,これらを総合しても,被告人と□□事件とを結び付けるに足りる情況証拠ではなく,これに?△△事件と□□事件の手口が類似していることを加えても,捜査機関は,被告人が□□事件の犯人であると特定していたとはいえない。つまり,捜査機関は,被告人を,□□事件の犯人であると疑ってはいたものの,確たる根拠を有しておらず,被告人の自白に基づいて□□事件の被害品,凶器等の確実な物証が発見されて初めて,被告人が□□事件の犯人であると特定できたのである(被告人が,証拠物発見後の平成23年3月25日に□□事件により逮捕されていることも,このことを示している)。したがって,被告人は,「捜査機関に発覚する前に」自白したものであるといえるから,その旨指摘する弁護人の主張に誤りはない。
しかし,被告人は,すでに述べたとおり,被告人が□□事件の犯人ではないかという嫌疑を抱いていた捜査官から取調べを受け,□□事件を念頭に置いたポリグラフ検査も受けて,もうごまかせないとの思いに至り,その後自白したのであるから,被告人は,自発的に□□事件を申告したとはいえない。
したがって,被告人は,捜査機関に発覚する前に□□事件の犯人であると申告したものであるが,自発的に申告したとはいえないから,刑法上の自首は成立しない。
しかし,自首には当たらないものの,被告人は,□□事件の犯人であることを含め,事件について詳細に供述し,その被害品,凶器等の投棄場所に案内するなど,捜査に積極的に協力している。捜査機関は,約7年間にわたる捜査を経ても,□□事件の真犯人につながる手掛かりを掴めなかったのであるから,被告人が自供せず,被害品,凶器等が発見されなければ,□□事件の真犯人が被告人であると特定し,公訴を提起することは容易ではなかったと推察される。被告人の自供により,□□事件の捜査が大きく進み,事案の解明につながったのは明らかであるから,被告人は,□□事件の解決に多大な寄与をしたというべきである。
加えて,これは,被告人が□□事件に対する反省の気持ちを深めていたことを示す事情でもあり,この意味でも被告人のために斟酌すべきであるといえる。しかし,本件のように犯情の極めて重い重大事犯においては,被告人の反省といった一般情状が量刑に与える影響力は,かなり小さいというべきである。しかも,被告人は,△△事件に及んだ後になって,ようやく約7年間ひた隠しにしてきた□□事件のことを自供したのであるから,被告人の自供は,やはり遅きに失するものであったといわざるを得ず,もとよりこれが極刑を回避すべきことを相当視させるほどの事情になるとはいえない。
イ その他,1審判決が指摘するとおり,被告人が社会福祉法人に寄付していること,被告人には前科がないこと,被告人が反省の態度を示していることなどが認められ,これらも被告人のために斟酌すべき一般情状ということができる。
(6) 以上を踏まえて検討する。金目当てで2名を殺害し,1名を殺害しようとし,少なからぬ金品を奪った被告人の負うべき刑事責任は,各犯行の罪質,動機,態様,結果,社会的影響等に照らして極めて重いというべきである。そして,被告人が△△事件について自首していることや,両事件に関する詳細な供述を積極的に行い,事案の解明に寄与したこと,更には上記の一般情状を最大限考慮しても,極刑を回避すべきことを相当視させるほどの特段の事情があるとは認められず,上記の評価は変わらない。
そうすると,死刑が生命そのものを奪う峻厳にして窮極の刑罰であって,その適用は慎重に行わなければならないことを踏まえて熟慮を重ねても,被告人に対しては極刑をもって臨むほかないと判断した1審判決は,やむを得ないものというほかなく,これが重過ぎて不当であるとは認めることができない。
第5 適用した法令
刑訴法396条,181条1項ただし書
平成24年4月11日
福岡高等裁判所第3刑事部