原告
同法定代理人親権者母
同訴訟代理人弁護士 安藤雅範
同 岩城正光
同 杉浦宇子
同 高橋直紹
同 多田元
被告
被告主文
1 被告らは原告に対し、連帯して、金1000万円及びこれに対する被告においては、平成13年2月3日から、被告においては平成13年2月4日からそれぞれ支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、原告が元養父から養子縁組継続中に性的虐待を受けたとして、元養父及びこれを黙認していたとして元養母に対し、それぞれ不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
1 争いのない事実
(1)(原告と被告両名との間で争いのない事実)
ア 原告は、生まれの女性であり、被告(以下「被告」という。)は、生まれの男性であり、被告(以下「被告」という。)は、生まれの女性であり、もと夫婦である。
被告は、原告の実母の姉にあたる。
イ 被告らは、平成元年5月20日、原告と養子縁組届出をした。
ウ 被告は、服役した。
エ 原告と被告らは、平成11年11月22日、協議離縁し、被告らは、同年12月3日、協議離婚した。
(2)(原告と被告との間で争いのない事実)
ア 被告は、原告が小学校2、3年のころから、原告に対し、口淫を強要し、強姦し続け、数え切れないほどの性的虐待を加え続けてきた。
イ 原告は頼りになるはずの養父から、上記虐待を受け続け、これによって受けた心的外傷により、非常に精神的に不安定な状態が続いており、現在に至るも原告の受けた心の傷は一向に癒えることはない。
ウ 原告の受けた精神的、肉体的苦痛は、いかに少なく見積もっても金1000万円を下ることはない。
2 争点
被告の不法行為の有無、損害
(原告の主張)
(1) 前記1(2)ア記載の被告の性的虐待行為のとおり。
(2) 被告は、養母として、原告を保護する責任があったにもかかわらず、当初から、被告による上記虐待を知りながら、これを止めさせようとも、今後とも虐待が行われないような対策を取ろうともせず、放置した。
(3) 被告の上記放置行為は、被告の性的虐待の継続を容易にならしめ、助長したというべきであるから、その責任は被告に劣るものではない。
(4) 前記1(2)イ、ウのとおり。
第3 争点に対する判断
1(1) 前記争いのない事実、証拠(甲1ないし12、17、被告、同)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、、父、母の長女として出生し、両親が昭和63年4月4日協議離婚して、が原告の親権者となったが、その後行方不明となったため、昭和63年11月28日、親権を行う者がいないとされ、被告夫婦が原告の後見人に就職した。なお、被告両名は、昭和52年9月20日婚姻し、に長男をに二男をもうけている。
原告と被告らは、平成元年5月20日養子縁組届出をした。そのころから、原告と被告らは、市内で、原告と被告ら家族と同居生活を始めた。被告は、原告が小学2年生(平成3年)になったころ、原告の無知に乗じて口淫させたり、平成3年9月7日ころに、原告が嫌がるのに無理矢理自己の性器を被告の性器に挿入して出血させ、同人を1週間ほど入院させた。その後も被告は、原告の性器を触ったり等の行為をし、原告が小学4年生のころには、抵抗することもできない原告に性交渉を強要するようになった。原告が中学校に入学したころには、被告が自宅2階で原告と同じ布団に寝て、嫌がる原告に対し週4ないし5回性交渉等を強要していた。そのため、原告は中学2年生のころには、何度も死にたいと思うようになり、自分の左腕、左手首をカッターナイフで切ったり、安全ピンで傷つけたりした。被告は、原告のこのような傷を見ても「どうしたの。」という程度で真摯に心配することはなかった。その後も、被告は原告に対し、上記陵辱行為を繰り返し、平成11年9月23日までこれを続けた。
(2) したがって、被告の原告に対する不法行為が成立することはいうまでもない。
2 被告は、原告が被告から上記陵辱行為を受けていたことを全く知らなかった旨主張し、同被告もその旨供述する。
しかしながら、前掲各証拠によれば、被告らの自宅は、木造市営住宅で、居間と廊下の間に仕切りはなく、1階の話し声は2階でも十分聞こえる状況であったこと、被告と同が1階の居間で寝て、子ら3名が2階で寝起きしていたところ、被告が自宅2階へ来るように原告に命じて、上記陵辱行為をした後、1階へ下りてきたことがしばしばあったが、被告は起きていることもあり、その場合でも被告に何らの問いかけをしなかったのは不自然であること、また、平成8年4月ころには、18歳になったが一人暮らしを始めたころ、原告と被告は2階で1つの布団で寝るようになったが、被告は2階から床をどんどんと叩いて原告に2階へ来るよう命じたこともあり、これを被告が気づかなかったのは不自然であること、被告が2階で原告に対し、陵辱行為をしているとき、被告が電話だと言って被告を呼びだしたことがあったが、その際、被告は上記行為をしていることを被告が薄々感づいたのではないかと思っていたこと、その時、被告は原告と同じ布団に入っていたこと、被告は同から声を掛けられてあわてて原告から離れたこと、その際、被告と同の目が合ってもおかしくない状況であったこと、原告が中学2年生のころ、頻繁にカッターナイフや安全ピンで自分の体を傷つけるようになったが、被告が気づかないというのは不自然であること、被告は、原告が中学3年生になってからも一緒に風呂に入っており、被告の母親から注意されていたが、その後も、被告は原告が高校生になってからも同様にしていたが、被告はその事実を知っていたこと、そのような状況は被告が原告に対して何らかの行為をしているような不自然な状況であったこと、被告は原告が中学1年生のころ、学校で不安定な状態である旨教師から聞いていたことが認められ、以上の事実によれば、被告は少なくとも被告の原告に対する陵辱行為を養親として知り又は知りうべき状況にあったにもかかわらず、長期間にわたり上記行為を放置し、被告に救いの手を求めていた原告に対し、筆舌に尽くしがたい精神的肉体的苦痛を与えたもので、被告に勝るとも劣らない責任があるというべきである。
3 以上の事実及び被告らの故意あるいは不作為により、原告が長期間受けた精神的苦痛は、計り知れないものがあること、原告は、今後、一人で人生を生きていかなければならず、その精神的不安等を考慮すると原告の精神的苦痛を慰謝するには、少なくとも2000万円が相当であるところ、原告は一部請求として1000万円を請求しているので、被告両名に対して、連帯して、1000万円及びこれに対する被告においては、平成13年2月3日(訴状送達の日)から、被告においては平成13年2月4日(訴状送達の日)からそれぞれ支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求は理由がある。
理由がある。
4 結論
よって、主文のとおり判決する。
岡崎支部
(裁判官 玉越義雄)