児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

前田雅英「男女共同参画社会の展開と性犯罪の解釈論の転換−準強姦罪の解釈を例に」捜査研究779号

 東京高裁h26は傍論なので効果薄いですね。
 前田先生もご存じない広島高裁岡山支部h22.12.15は傾向犯説で不要説の控訴理由を切っています。(児童を脅して撮影送信させる行為がどうして強制わいせつ罪ではなく強要罪なのかという論点)

前田雅英男女共同参画社会の展開と性犯罪の解釈論の転換−準強姦罪の解釈を例に」捜査研究779号
5 わいせつの「傾向」
「性犯罪解釈に関する裁判所の変化」の傾向を示すものとして,傾向犯の問題も,重要である。強制わいせつ罪は,わいせつの行為という客観的構成要件要素の認識を超えた主観的要素がなければ処罰し得ないとされてきた。傾向犯とは,行為者の主観的傾向の現れとみられる行為が犯罪となるもので,そのような傾向がある場合に限って処罰するとされる犯罪類型である。例えば,医師が裸の患者に触れても強制わいせつ罪にならないのは,わいせつな主観的傾向がないからであると説明されてきた。
そして,最1小判昭和45年1月29日(刑集24-1-1)は,「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。」と判示した。
この判例は,半世紀近く前のものであるが,現在に至るまで維持されてきたのである。しかし,最近の男女共同参画社会の流れを考慮して被害女性の視点で見れば,性的な屈辱感を味わっているにもかかわらず,行為者にわいせつ傾向の存在を立証できない限り,強制わいせつ罪で処罰し得ないという結論には,強い違和感を感じざるを得ない。そして,被害者でない一般人も,同様である。その結果,「A女を全裸にして写真を撮る行為は,……同女に性的差恥心を与えるという明らかに性的に意味のある行為,すなわちわいせつ行為であり,かつ, Xは,そのようなわいせつ行為であることを認識しながら」行った以上,強制わいせつ致傷罪に該当するとした下級審判例が登場している(東京地判昭62.9.16判タ670255)。
そして,特に注目すべきなのは,復讐目的でわいせつ行為をする場合に強制わいせつ罪は成立し得るとする東京高判平成26年2月13日(本誌759号2頁参照)の登場なのである。数年にわたり共にバンド活動を行い,一方的に好意を寄せていた被害女性(当時24歳)がバンドを脱退し,関わりも絶つ旨告げられた被告人が,心血を注いでいたバンド活動も継続できなくなったことから,被害女性Aに対して復讐したいとの感情を抱き,スタジオ内において,その首を絞め両手首に手錠を掛け,日付近にテープを巻き付けて口を塞ぐなどの暴行を加え,その着衣を脱がせて乳房を揉み膣内に手指及びパイブレーターを挿入し,その際, Aに全治約2週間を要する頭部打撲,頚部打撲等の傷害を負わせたという事案である。
弁護人は,被告人は,被害女性に対する報復を目的として, Aが精神的に最も苦痛を抱くであろう性的手段によって暴行を加え,傷害を負わせた事案であって,「性的意図は有していなかった」と主張し,強制わいせつ致傷罪の成立を争った。1審は, Xの本件犯行の動機に性的意図があったことは明らかであるとして,強制わいせつ致傷罪の成立を認めた。そして,被告の控訴に対し束京高裁は,性的意図を有していた旨認定した原判決の判断に誤りはないとした上で,以下のように判示した。
「なお,本罪の基本犯である強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であると解されるところ,同罪はこれを侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,同罪の成立に欠けることはないというべきである。……Xの意図がいかなるものであれ,本件犯行によって,被害者の性的自由が侵害されたことに変わりはないのであり犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図の有無は,上記のような法益侵害とは関係を有しないというべきである。そのような観点からしても,所論は失当である。」と判示した。
たしかに, 45年判決も,「年若い婦女を脅迫して裸体にさせることは,性欲の刺戟,興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので,本件の場合においても,審理を尽くせば,報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれないj として,本件を原裁判所に差し戻している。そして,本束京高裁判決も,性的意図が認定できる事案だ、ったと判示している。その意味で,昭和45年判例を変更しなくても,具体的に不当な結論が生じることは少ないかも知れない。
しかし,特に平成16年の強姦罪の法定刑の変更の後から,「性犯罪」に対する国民の意識は,明らかに変わってきている。性的な侵害が生じ,行為者がそのことを認識していても,わいせつ傾向を有しない行為者の行為は強制わいせつ罪の類型性に欠けるという考え方は,国民の規範意識の乖離が大きすぎるように思われる。