児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

撮影会について刑法第174条にいう「公然」にあたらないとした事例(沼津支部S42.6.24)

 正当業務行為だという見解があるようですが密室特定の5〜6人だと、公然性を否定するようです。

判例コンメンタール刑法
(3) 否定例
公然性を否定した例は、閉鎖的な場所で開催され、観覧者等が個人的関係があり特定している場合である。174 条につき、静岡地沼津支判昭42 ・6 ・24下刑集9 ・6 ・851 (諸所で撮影会等に名を借りてわいせつ行為を行い、利益を得ていたが、旅館の離れ座敷で麻雀仲間、別荘で無尽講員4 名に対し開催。)があり、175 条につき、広島高刑昭25 ・7 ・24 特報12 ・97 (外部と遮断された部屋で知人など特定の5、6 名)、福岡高判昭38 ・6 ・21 高検速報897 (密室で5 名の特定人)、宮崎簡判昭39 ・5 ・13下刑集6 . 5 =6 ・652 (遮断された自宅1室で同僚3 名及び取引先2 名)がある。

静岡地方裁判所沼津支部判決昭和42年6月24日
下級裁判所刑事裁判例集9巻6号851頁

       主   文

 被告人を懲役八月に処する。ただし、この裁判が確定した日から参年間執行を猶予する。
 昭和四二年五月四日付起訴状記載の二(一)および(ニ)の各公訴事実について、被告人は、無罪。

       理   由
四、無罪とした公訴事実に関する判断
 本件昭和四二年五月四日付起訴状記載の公訴事実二(一)および(ニ)は、「被告人は、いずれもA子と共謀のうえ、
(一) 昭和四二年三月二三日頃、静岡県富士市旅館「」ことS方において、Bほか三名の面前で右をして全裸体とならしめ、陰部を示して同人等に写真撮影をさせるなどし、もつて公然猥褻の行為をし、(ニ)同月二五日頃、同県御殿場市別荘において、Cほか三名の面前で右をして全裸体とならしめ、陰部を示すなどして公然猥褻の行為をしたものである。」というのである。
 そこで考察すると、〈証拠略〉によれば、右(一)および(ニ)の各公訴事実は、行為の公然性の点を除いて、優にこれを認めることができる。
 しかしながら、右の各証拠によれば、同時に、
(イ) 右(一)の猥褻行為を見た者は、被告人の知人、同人の知人、とともに麻雀遊戯の仲間であるの四名であり、被告人は、、とは面識はないが、の知人(当日の麻雀遊戯の仲間)という了解のもとにA子の猥褻行為を見せたものであり、また、(ニ)の猥褻行為を見た者は、被告人の妻の兄、被告人の弟、同、の隣家で被告人夫婦の媒酌人の子であるの四名で、かねて被告人と無尽講の仲間であり、被告人は、当日、その他の講員五名の札を預かつたうえ、等四名と毎月の例によつて無尽の会を開き入札をした後に飲食しながら同人等にA子の猥褻行為を見せるという意図のもとに別荘に赴いて、そのとおり実行したものであつて、以上(一)および(二)の各観覧者等はいずれも特定少数人であること(なお、もちろん、各一回かぎりの猥褻行為であつて、さらにひきつづいて同所で他の者に見せるというものではなかつたこと)、
(ロ) また、(一)の行為の場所である旅館「」の離れ座敷「水仙の間」、(ニ)の行為、場所である別荘は、いずれも他人の往来から隔絶した密室であつて、当時、他人によつて猥褻行為が瞥見すらされる状態でなかつたこと、が認められる。
 右の認定によれば、(一)および(ニ)の各猥褻行為は、公然、すなわち不特定もしくは多数の者の認識し、または認識することのできる状態で行なわれたものと認めることはできない。
もつとも、被告人は、当時、A子とともに諸所で撮影会等に名をかりて猥褻行為を行ない、利益を得ていたもので、現に右(一)の行為の際は明らかに対価を得ており、また(二)の行為についても利得していないではないことが認められる。
検察官は、この点から、(一)の行為について、被告人の気持ちは一金さえ取れれば観覧者は観覧者は誰でもよい。」というのであつたのであり、前言観覧者等四名はいずれも不特定人であり、また、(ニ)の行為も、その真相は(一)と同断であると主張するが、観覧者が特定人であるかどうかゆ、後遺が営利本位でないかどうかというかということだけによって決まるのではなく、当該行為ごとの具体的事情のもとで行為者と観覧者との間に、単にその場の、いわば無名的な「見せる者」と「見る者」という以上の個人的関係の存否等を考慮して決定すべきであり、本件において前記(イ)のような事実関係が認められる以上、本件(一)および(ニ)の各観覧者等は特定していると見なければならない。検察官の援用する最高裁判所昭和三三年九月五日決定(刑集一二巻一三号二八四四頁)は、本件と事実関係を異にし、適切ではない。刑法一七四条の法文上明らかなとおり、行為者に営利の目的があるかどうかでなく、猥褻行為の見せ方自体の形態が問題であるのであつて、この点から見ると、営利目的のなかつた事案ではあるが、広島高等裁判所昭和二五年七月二四日判決(刑判特報一二号九八頁)、宮崎簡易裁判所昭和三九年五月一三日判決(下級刑集六巻五・六号六五二頁)がむしろ適切である。
 なお、このように解すると、最近における営利の目的をもつてする猥褻事犯の実情にかんがみ取締り上支障が生ずるという意見があろうが、取締りの徹底を期するためには、営利の目的をもつて業として猥褻行為(および刑法一七五条の猥褻図画の陳列)をする者は、公然と行なわれたものでなくても処罰することのできるよう、条文の新設を要すると考えられる。
 以上の次第で、前記(一)および(ニ)の各公訴事実については、各行為が公然と行なわれたという点の十分な証明がないから、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡しをする。
 よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 大久保太郎)