児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

赤岩順二「プロバイダによるブロッキングと他人のための緊急避難(緊急避難救助)」 津田追悼P55

 正確には
 刑事法学におけるトポス論の実践 津田重憲先生追悼論文集P55

刑事法学におけるトポス論の実践―津田重憲先生追悼論文集

刑事法学におけるトポス論の実践―津田重憲先生追悼論文集

津田重憲先生追悼論文集
刑事法学におけるトポス論の実践
発 行 : 2014年3月20日
税込定価 : 8,400円(本体8,000円)
判 型 : A5版上製
ページ数 : 352頁
ISBN : 978-4-7923-5105-2
■内容紹介
津田重憲先生追悼論文集目次
はしがき…増田豊
わが国における「誤判」と「死刑廃止論」との関連についての一考察…三原憲三……1
禁制品窃盗における保護法益
 −近時のドイツ刑法学での議論から−…港和夫……29
プロバイダによるブロッキングと他人のための緊急避難(緊急避難救助)…赤岩順二……55
修復的司法における<責任>の一断面…長谷川裕寿……85
幇助犯における因果関係の意味
 −必要条件公式の適用可能性を契機として−…小島秀夫……105
教唆犯理論の一断面
 −教唆犯の処罰根拠とその限界についての展望−…竹内健互……129
証人審問権と犯罪被害者保護…山田道郎……153
有罪判決における理由明示の要請と親告罪の告訴…黒澤睦……171
違法収集証拠排除法則とその根拠
 −弾劾例外を素材として−…守田智保子……201
アメリカ法における積極的抗弁と挙証責任分配について
 −Apprendi準則の余波を測る試みとして−…八百章嘉……225
死刑廃止への戦略
 −死刑に代替する終身刑の導入−…菊田幸一……247
保護処分の正当化根拠−保護原理と危害原理−…上野正雄……285
電子監視制度の法的性質に関する一考察
−韓国における電子監視制度の分析を中心に−…安成訓……301
あとがき…327
津田重憲先生略歴・主要業績目録…333

赤岩順二「プロバイダによるブロッキングと他人のための緊急避難(緊急避難救助)」 津田追悼P55
五おわりに
自殺予告については、法益が生命であり生命の危機への切迫した危険がありうる状況も多いと考えられ、したが自殺予告についても、って、緊急避難法理をより直接に参照する動機があったと考えられる。
その後のとはいえ、運用実態等を検証しいったん定められたガイドラインの提示する手順をあらためて見直してみるならば、他のとりうる手段の整備をすすめることで、緊急避難法理のもっている緊急行為としての性質は必ずしも現在の段階として必要かどうかが再検討される必要がある。
正当業務行為を根拠とする場合と、緊急避難を根拠とする場合とでは、今回のブロッキングがプロパイダによる自主的なガイドラインによる運用という性格を持つことを考えると、通信の秘密の保障という要請との関係で、正当業務行為の業務性についての疑念を払拭することができないことへの理解も必要である。
プロパイダ責任制限法とその枠組のもとでのガイドラインがソフトローとして適切に機能するためには、ハードローとの関係についての原則が確かなものである必要があった。
プロパイダ責任制限法による免責要件を満たさないことは一般不法行為の成立要件を満たすことを推定させるものではないと理解すべきであり、ましてや刑事責任について反対解釈は許きれない。
そのような原則的理解は、迷惑メールや児童ポルノ流通防止のためのガイドラインにおいても守られるべきであると考える。
児童ポルノ排除総合対策のなかで要請された手法としての「ブロッキング」は通信の秘密とより直接に関連してブロッキング手法自体は、迷惑メール対策でもみられるものであるが、そこでは、通信の品質保持という観いる点からも正当な目的についての必要な手段と判断されていた。
児童ポルノ排除総合対策におけるブロッキングについてはそれに比べて正当業務行為性が不足しているといえる。
そこで緊急避難の法理が参照されているが、「危難の現在性」という点で、一般的違法性の法理を示す参照条文としてはともかくとして、ガイドライン化し手順化する時点で、その要件への適合性は低下するように思われる。
緊急避難の法的性質については、違法阻却一元論以外の学説も根強く、それには、相応の根拠があると思われる。
比較法的にみて相応するドイツ法のNotstand、英米法のNecessityについても、正当防衛との比較において、違法阻却性(正当化性)についてなお性質上通用性において留保が必要である。
ブロツキング行為による対抗行為自体を正当防衛として許容しないためには、その行為に正当性の通用的付与が必要であると考える。
そうすると「法益権衡」の判断においても、保護法益と侵害法益との聞に質的に異なった著しい違いがあることが必要であると解することも故なき提案ではないように思われる。
その提案を受け入れたときには、今度は今度は「通信の秘密」の保護法益としての重要性が軽んじられるものではないことが問題とされることになるだろう。
プロパイダ間の国際連携においてガイドラインを論じる場合には、該当性についての反証可能性、検証可能性も含めた手続的側面についての補強を必要とする。
また、ブロッキングの行為構造は、緊急避難として捉えるとしても、他人のための緊急避難の構造となっていることにも留意しなければならない。
自分のための緊急行為と他人のための緊急行為を同様の根拠と要件で考えてよいかについてはなお検討すべき点があるからである。
もちろん、児童ポルノ流通対策が重要であることはあらためていうまでもない。
本稿は、その手段としてのプロパイダのブロッキングをめぐる議論において用いられた緊急避難論について検討を加えることで適切で通用性の高い対策を検討する一助になることをめざしたものにすぎず、なお検討すべき課題は多い。
第一に、プロパイダ責任制限法における諸論点をふまえた比較検討が必要とされる。
プロパイダ責任制限法の枠組のなかにはいるかどうかは別として、プロパイダ自体の犯罪成立要件(たとえば不作為による成立要件)も含めて総合的に検討が必要となる。
確保がより必要としたが、ガイドライン化するということは、「緊急行為性」がなくなるとし手続的な正当性のそうすると司法令状による通信傍受の場合の要件とも比較していくことが求められることになるだろう。
第二に、通信の秘密侵害罪の法的性質と成立要件についてそもそもの制度趣旨も含めて検討しなければならない。
その際には、近時のスマートフォンの利用の拡大にともなう利用技術の変化の動向も考慮しなければならない。
たとえば、二〇一三年の夏に解禁されたインターネット選挙運動をめぐる多くの論点のなかで、選挙運動用電子メール(SMTPプロトコルによる電子メール)による選挙運動用文書図画の配布が候補者・政党等に限られる一方で、「フェイスブックやLINEなどユーザ間でやりとりするメッセージ機能は、SMTP電子メールを利用する方法ではない」とされ当該規制の範囲外とされたが、そこでもコミュニケーション技術の変化にともなった対応の難しきが浮き彫りになった。
ブロッキングという手法自体をとるコミュニケーション技術の進展にともなって、場合にはきらに通信の中身に入り込まざるを得なくなる可能性がある。