この判決によれば「同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臀部を触られて羞恥心と嫌悪感を抱き」という状況がなければ、強制わいせつ罪(176条後段)は成立しないことになります。保護法益を個人的法益に純化すると、そうなるということですね。
新潟地方裁判所昭和63年8月26日
【掲載誌】 判例時報1299号152頁
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和六三年五月三一日午後三時ころ、新潟県西蒲原郡黒埼町大字山田四三六番地一斉藤春太郎方墓地内において、A子(昭和五六年五月四日生)を籾穀袋の上に座らせ、同女のポロシャツの前ボタン三つを全部外した上、そこから手を差し入れて、同女の右乳部を多数回撫でまわし、更に、スカートの中に手を差し入れてパンツの上から同女の臀部を撫で、もって、一三歳未満の女子に対しわいせつの行為をしたものである。
(強制わいせつ罪の成否について)
弁護人は、「小学校一年生の女児は、その胸(乳部)も臀部も未だ何ら男児と異なるところなく、その身体的発達段階と社会一般の通念からして、胸や臀部が性の象徴性を備えていると言うことはできず、かかる胸や臀部を触ることは、けしからぬ行為ではあるが、未だ社会一般の性秩序を乱す程度に至っておらず、また、性的羞恥悪感を招来するものであると決め付けることは困難であるから、被告人の本件行為をもってわいせつ行為ということはできず、従って、被告人は無罪である。」旨主張する。
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右認定事実によれば、右A子は、性的に未熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臀部を触られて羞恥心と嫌悪感を抱き、被告人から逃げ出したかったが、同人を恐れてこれができずにいたものであり、同児の周囲の者は、これまで同児を女の子として見守ってきており、同児の母E子は、自己の子供が本件被害に遭ったことを学校等に知られたことについて、同児の将来を考えて心配しており、同児の父親らも本件被害内容を聞いて被告人に対する厳罰を求めていること(E子の検察官に対する供述調書、B子の司法警察員に対する供述調書及びD作成の告訴状)、一方、被告人は、同児の乳部や臀部を触ることにより性的に興奮をしており、そもそも被告人は当初からその目的で右所為に出たものであって、この種犯行を繰り返す傾向も顕著であり、そうすると、被告人の右所為は、強制わいせつ罪のわいせつ行為に当たるといえる。
従って、弁護人の主張は採用できない。