児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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西貝吉晃 中立的行為による幇助における現代的課題

「掲示板管理者が,アップロード者とともに共同正犯になるならともかく,(不作為の)単独正犯になるというのであれば,結論の正当性からも,正犯性の議論からしても重大な問題をはらんでいるが,本稿ではこの点については割愛する。」というのですが、東京高裁には作為の単独正犯だという判例がございますし、名古屋高裁は作為の幇助という判例がございますね。下級審で最もよく見かけるのが共謀共同正犯構成ですね。

http://www.j.u-tokyo.ac.jp/sl-lr/05/papers/v05part07(nishigai).pdf
Vol.5 2010.9 東京大学法科大学院ローレビュー
西貝吉晃 中立的行為による幇助における現代的課題
4 インターネット上の掲示板の管理者の刑事責任についての検討
電子掲示板は,迅速なコミュニケーションを行うための不可欠なインフラと化しつつあるが,提示される情報の性質,内容によっては法的問題になることがあり,刑法の観点からすると,掲示板設置者,管理者の刑法上の責任も問題になる。
一時期は,プロバイダの責任が問題になっていたが,昨今は,電子掲示板の内容をよく把握しうる電子掲示板の管理者(以下,「管理者」と略記することがある。)の責任が問題になってきている。
プロバイダやサーバ管理者211) には,保障人的地位を肯定しにくく,そうであれば,原則的には不可罰となるだろう。
しかし,積極的な協力意思の表明ととれる行為を管理者側が行えば幇助犯が成立することはある212)。
一方,電子掲示板管理者の刑事責任が問題になるのは,書き込みの内容を把握しやすい立場にあることが影響していると思われる。
掲示板管理者が,アップロード者とともに共同正犯になるならともかく,(不作為の)単独正犯になるというのであれば,結論の正当性からも,正犯性の議論からしても重大な問題をはらんでいるが,本稿ではこの点については割愛する。
幇助犯性を考えるにしても,どのような考え方が妥当だろうか。
掲示板管理者は,原則的に,掲示板設置時には,掲示板を利用した正犯の犯罪行為の具体的な認識がないといえるから,正犯による犯罪行為が行われたことを知ったのちに,どう行動することで刑事責任を問われてしまうのか,という観点からの検討となる。
最初の問題は,掲示板を利用した犯罪の継続性である。
ここでは,争いはあるけれども,名誉棄損の書き込みをした本人,わいせつ画像をアップロードした本人には,それ自体犯罪行為である先行行為の存在,容易に削除が可能であるということをもって,削除義務(作為義務)が認められることを前提として考えたい213)。
そうすると,書き込みやアップロードを行った正犯には,不作為犯的な構成で削除義務違反を理由とした,先行行為と同一の犯罪が継続して成立しているとみる余地があることになる。
幇助犯の成立を検討するにあたっては,このような削除義務違反を促進したか否かという観点(不作為犯に対する共犯)から,その解決が図られることになる。
管理者権限を行使して既にアップロードされたデータに関する編集権限を剥奪した場合に,不作為犯に対する作為による物理的促進を認めることができるが,実際に問題になるのは,書き込み内容を認識しての放置行為(不作為犯に対する不作為による共犯)である。
この問題は,放置行為を促進したか検討する以前の問題として,掲示板設置行為が,正犯の書き込み自体(作為)を促進していないか考えるべきであろう。
まず,匿名性の高い掲示板の設置行為は,掲示板自体が情報発信に不可欠であるから,物理的促進自体はある214)。
また,匿名機能215) から,掲示板管理者による,犯罪行為である名誉毀損的内容を有する書込みを是認するものである,というメッセージを正犯が受け取れば,心理的促進もあり得る。
その意味で,掲示板設置行為は,客観的に見れば幇助行為としての危険を孕む行為ではある。
ただ,設置行為が問題になる場合には,その時点での正犯の具体的な犯罪事実についての故意が必要であるから216),事前の通謀等がない限り,設置行為自体をもって共犯の罪責を問うことは難しい。
次に,違法な書き込みやアップロードがなされた掲示板を放置する行為について考える。
掲示板設置行為という促進効果を有する先行行為から直ちに保障人的地位を認めるのは困難であるし217),作為義務の内容確定も極めて難しい。
それでも,削除義務について簡単に検討する。
この問題は,2 つの側面からの考察となる。
1 つは,自宅の塀に落書きされたときと異なり,掲示板上の発言を削除可能な者は書き込み者である正犯と管理者しかいない場合が多いこと,もう1 つは,管理者の削除権限行使による管理者自身の法的リスクの問題である。
確かに掲示板管理者には一定の管理権の行使としての編集権はあるだろう。
ただ,皆が書き込めるようにスペースを開放している以上,私的な場所であっても表現の場として使われる場(パブリックフォーラム)の管理としての削除権の行使は慎重にならざるを得ない。
その上,名誉毀損発言か否かの判断は困難な場合も多いし(特にインターネット上においては,相手との非対面性,相手の言論の非可聴性ゆえに双方が冷静さを失いやすく直ちに名誉毀損とは評価されない可能性もある218)。
),当該書き込みには著作権も発生しうるので,無断削除自体が逆に違法と評価されかねない。
このように考えると,刑法上,削除義務を認められる場合というのはないではないかもしれないが,相当に限定する解釈が必要であり,民事事件の例のように219),安易に「条理上の削除義務」を認めるべきではないと考える。
現状においては,管理者に対する人格権等に基づく特定の書込みの削除請求が通ることで,管理者の義務は十分果たされたという場合が多いように思われる。
そこで私見としては,刑事事件を考えるうえでは,管理者が削除により負うことになる法的リスクに配慮することで220),直ちに削除義務を肯定すべきではなく,問題のある書き込みを行った,削除義務が直接肯定される正犯に対する警告義務をまず肯定し,正犯が警告内容に従うことに同意したにもかかわらず相当期間以内に削除されない場合221) には,無断で削除されない利益が放棄され管理者が法的リスクを負わなくなったことの反射的効果として管理者に削除義務を肯定できると考えたい。
しかし,このような義務を演繹的に導けるのかにはかなり問題がある(つまり,単なる事実の評価に過ぎないのかもしれない)ので,これ以上本稿では詳論しないことにする。
本稿では,主にある一定の義務を仮定した上での,促進関係の判断を行いたい。
この問題は,事案に応じて次のような義務を観念できるだろう。
それは,?正犯(書込み者)への警告義務(その内容も,書き込み者に対して直接警告するか,当該掲示板における広告でよいとするか,も問題となる),??のプロセスを通すかとは別に当該問題のある書き込みを削除する義務,である。
すでに述べたとおり,刑法上削除義務(?)は直ちには認めにくい( ただし,削除義務が認められれば削除しないこと自体は促進といってよい)と考えるので,基本的には警告義務(?)の不履行による促進関係について考えてみたい222)。
まず,物理的促進について考える。
物理的促進というためは,正犯の作為義務の履行を困難にすればよい,つまり,削除を困難にすればよいが,基本的には掲示板の仕様を変えなければ,放置により削除が困難になることはなく,物理的促進にもならないといわざるを得ない223)。
これは,警告するか否かで変わるところはない。
ただし,問題の記事が過去ログ等に流れてしまい,正犯にも削除が不可能になり,それが公開されている場合には,管理者による公開と評価されることになるだろう。
この問題は,促進というよりは,このような書き込んだ本人でも削除できない過去ログを公開する,という仕様(排他的支配を与える仕様)を自ら採用したことにより,正犯としての作為義務が生じうると解する。
この問題は,次のような問題とパラレルに考えてもよいかもしれない224)。
(ア)ホールを貸して講演をするとき,ホール管理者において,講演内容が名誉毀損になると知って,ホールでの講演により多くの人に講演内容を聞いてもらうようにすれば,「より役に立つ」物の提供(場所の提供)としての物理的促進は肯定される(掲示板設置行為に対応)。
(イ)管理者は,ホールを貸したときには,講演内容に名誉毀損部分があることを知らなかったが,管理者には,講演中に名誉毀損的発言に気付いたとしても,講演者の講演を制止しなくてよい。
なぜなら,他者の言論を強制的に差し止めることまで私人間で簡単に肯定すべきではないからである。
強制的に差し止めることは正当防衛等の理由で適法かも知れないが,だからといって差し止めないことが違法になるわけではない(掲示板管理懈怠,幇助犯の問題)。
(ウ)ホールでの名誉毀損発言を含む講演が終了したのちに,そのホールにおけるサービスとして,ホールの利用状況や宣伝のために,自動的に利用状況を録画し,インターネット上において再放送するようなシステムを組んでいた場合には,この再放送については,インターネット上の再放送はホール管理者が行っている(名誉毀損行為の主体が変更された,掲示板管理懈怠,不作為正犯の問題),と評価されうる。
物理的促進においては以上であるが,心理的促進についても検討する。
警告義務(?)の履行によって,削除が促される可能性はある。
しかし,警告が,現実に到達しなければ削除が促される可能性すらないのであり,その点の考慮が不可欠だろう。
また,掲示板管理者の広範な管理権限(自由な削除,自由な編集等)を考慮すると,管理権限の不行使と,管理者の他の行為を総合的に評価して心理的促進と評価される場合はある。
ただ,管理者の態度が正犯の不削除行為(構成要件的行為)を支持していると正犯において認識しなければならないから,管理権限の不行使の事実だけでは足りない。
管理者の他の言動をも考慮して具体的に考えるしかない問題だと考える。