児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・不同意性交・不同意わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録・性的姿態撮影罪弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

告訴の追完

 判例・通説では追完はできません。
 どうして父親の告訴を待って起訴しなかったのか。起訴した検察官のミスだ
と思います。
 弁護人からすれば、訴訟条件をチェックするのは基本です。

条解刑事訴訟法P952
訴訟条件の追完
公訴提起時に欠けていた訴訟条件をその後に追完した場合,公訴提起の瑕疵が
治癒されるか。通説はこれを否定する(一定範囲で追完を認める考え方もあ
る。注釈五475以下,注解〈中)893以下参照)。判例も一般的にはこれを否定し
ているものと考えられる(大判大5・7・1録22-1191,名古屋高判昭25・12・25
判特14-115) が,起訴状謄本不送達による公訴棄却の決定がなされた後,その
確定前に同一事実についてさらに公訴提起があった場合,その後この決定が確
定したときは,二重起訴にあたらないとしたもの〈最決昭36・10・31)
訴因不明確の場合でも,検察官の釈明により明確化すれば,公訴棄却を免れる
としたもの〈最判昭33・1・23)などがある。これらは,実質的には訴訟条件の
追完を認めたものと解する余地がある。
なお,当初の訴因では訴訟条件が欠けている場合でも訴因変更は許される(判
例?〉。

風俗・性犯罪シリーズ捜査実務全書9第3版P62 
有効な告訴をするためには、告訴人が告訴の意味を理解する能力が必要であ
る。しかし、あまりにも高度な判断能力を求めると被害者保護の趣旨を没却す
ることになるので、強制わいせつ罪などの性犯罪については、被害行為と処罰
の意味をある程度理解できる年齢に達しておればよいと思われ、判例も、13
歳11月の強姦の被害者(最決昭32.9.26 刑集11.9. 2376) 、13 歳7 月の強姦未
遂の被害者(水戸地判昭34.7.1 下刑集1. 7.1575) について告訴能力を認めて
いる。ただ、疑義がある場合、実務的には、親権者等の告訴状も併せて徴して
おくことが肝要である。

名古屋高等裁判所昭和25年12月25日
高等裁判所刑事判決特報14号115頁
別冊ジュリスト1号54頁
別冊ジュリスト32号74頁
 弁護人三宅厚三の控訴趣意第一点の(一)について。
 原判決(起訴状及び追起訴状引用)によれば原審は被告人が昭和二十五年五
月三十日午後八時半頃愛知県一宮市 方において同人所有の陶製火鉢一個及び
裏口の硝子一枚を破壊し次いで同日午後十一時半頃再び同人方表硝子戸の硝子
二枚を破壊したとの事実を認定した上右は夫々刑法第二百六十一条所定の毀棄
罪に該当するものとして有罪の判定を与えていること及び右毀棄罪は夫々親告
罪として告訴権者の告訴なくして適法にその公訴を提起し得ないことは所論の
通りである。然るに一件記録上右事実に対する公訴提起は昭和二十五年六月八
日であるところ右被害者の副検事に対する告訴調書によれぱ右の告訴は右公訴
提起の後である同年七月五日であることが明かでありその他現在の資料の程度
において右公訴提起前に適法な告訴のなされた形跡を認め得ないのであるから
原審が右の毀棄罪を有罪としたのは不法に公訴を受理した違法があり原判決は
他の論旨に対する判断をなす迄もたく刑事訴訟法第三百七十八条第二号前段、
第三百九十七条によつて破棄を免れない。

消えた権利:知的障害者と裁判/中 技術論、被害者置き去り
2010.12.03 毎日新聞
 ◇判決日に父告訴、却下
 知的障害者が性犯罪に遭った場合、検察側は親などを代理人に立てることが
多い。だが、この事件では被害女性の告訴しか取らなかった。雲行きの怪しさ
から判決日になって父親の告訴も出そうとしたが、裁判長が却下した。精神鑑
定の実施も1審の途中だった。
 「本人の記憶も被害意識もしっかりしている。これなら大丈夫だ」。女性が
通っていた作業所の職員は昨年4月、検察官が自信ありげにそう語ったのを覚
えている。地検関係者は「知的障害者が被害者になる事件を扱うことはめった
にない。裁判所の反応はまったくの想定外だった」と話し、不慣れゆえの無防
備さもうかがわれる。

 父親は、検察側から「控訴審もだめなら、あなたの告訴で起訴し直します」
と説明されたという。だが、それでは通常の倍近い時間がかかってしまう。

 一方、判決日とはいえ、なぜ裁判所は父親の告訴を採用しなかったのか。法
律専門家の間でも意見は分かれる。「公判開始後の告訴の提出は認めるべきで
ない」とする見方もあるが、宮崎産業経営大の大久保哲教授(刑事訴訟法)は
「事件を直視しようという気持ちがあったなら、職権で告訴を採用し、事件を
審理することもできたはず」と指摘する。
・・・
検察側の控訴で、控訴審は被害女性の告訴能力の有無が争点になった。検察側
は「ある」、弁護側は「ない」と主張し、法律の解釈や精神鑑定の手法などが
争われた。「事件が技術論におとしめられ、肝心の被害者が置き去りにされて
いないか」。大久保教授は、父親の無念さを代弁した。