児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

人身売買罪で無罪(東京高裁H22.7.13)

 「略取、誘拐及び人身売買の罪」となっているので、略取誘拐の解釈の影響を受けて、「事実上の支配」についても同等のものが必要とされるようです。
 なんとなくの印象ですが、立法を求めていた圧力団体はもう少し緩い支配でも人身売買罪だと思っていたと思います。児童福祉法34条1項7号の引き渡し罪のような。それは「引き渡し」であって「売買」ではありません。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100813-00000044-jij-soci
岡田雄一裁判長は、少女が売り渡されるまでの間、男性がパスポートを取り上げたり、逃げないように圧力を加えた事実は特に見当たらないと指摘。少女を支配下に置いていたとする一審判決には事実誤認があるとした

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100813-00000077-san-soci
昨年4月の1審判決は、共犯の会社員の男=懲役2年6月、執行猶予4年が確定=とともに、平成20年8月30日、千葉県八街市のスナック経営者に当時17歳と18歳の少女を計148万円で売り渡したと認定した。
 岡田裁判長は「被告らが被害者を不法な支配下に置いていたと認定する事情に乏しい」と判断した。

http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010081301000578.html
少女2人は2008年の事件当時、17〜18歳。2人を「支配下」に置いていたかどうかが最大の争点だったが、岡田雄一裁判長は「少女は連れて行かれた借家で、ビールを勝手に飲んだり、プリペイドカードをもらって自由に国際電話をかけたりするなど気ままに振る舞っていた」と指摘。支配下にあったとの検察側主張を退けた。
 男性は男らと共謀し08年8月下旬、現地のブローカーに借金して来日した少女2人を千葉県八街市のスナック経営の女(58)=人身売買と売春防止法違反の罪で実刑確定=に計148万円で売り渡したとして同12月に起訴された。
 検察側は、少女が借金返済のため、売春を強いられていたと主張。09年4月の一審判決は「借家で監視し、支配下に置いていたのは明らか」として懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。

刑法
 第三十三章 略取、誘拐及び人身売買の罪
(未成年者略取及び誘拐)
第二百二十四条  未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

(営利目的等略取及び誘拐)
第二百二十五条  営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

(身の代金目的略取等)
第二百二十五条の二  近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は三年以上の懲役に処する。
2  人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする。

(所在国外移送目的略取及び誘拐)
第二百二十六条  所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、二年以上の有期懲役に処する。

(人身売買)
第二百二十六条の二  人を買い受けた者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
2  未成年者を買い受けた者は、三月以上七年以下の懲役に処する。
3  営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
4  人を売り渡した者も、前項と同様とする。
5  所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、二年以上の有期懲役に処する。

条解刑法第2版
P625
2) 1・3・4・5項の罪の客体1項の罪の客体については. 2項があるので,成人に限られる。3項. 4項. 5項の罪の客体については. 225条注3参照。「売買」の対象となる状態になければならないことから,売主の事実的支配下に置かれている必要がある。被売者が売主や買主の事実的支配下に置かれることを承諾していても.事実的支配下に置く状態があれば,本条の罪の成否には影響しない。
「事実的支配下に置く」ことの意義については. 224条注3同参照。日本語を解せず,居場所周辺の地理も分からない外国人女性からパスポートを取り上げる行為は.事実的支配下に置く手段の一例である。
3) 1・2・3項の罪の行為「人を買い受けた」とは,対価を支払って売主からその事実的支配下に置かれた人身の引渡しを受け,自己の事実的支配下に置くことである。
民法上の売買とは異なり.単に契約が成立しただけでは足りず,事実的支配の移転を要する。売主と買主の聞に被売者の処分権限を移転する合意がなく,借金の担保等として,いずれ売主にその人の支配を戻す約束で.その事実的支配を売主から買主に移転した場合でもよい。婚姻の形態を取っていても,金銭を支払って外国人女性を自己の事実的支配下に置く行為は,人の買受けに当たる。金銭を支払って養子を迎えた場合であっても,親子関係を逸脱する事実的支配がなければ,人を買い受けたとはいえない。事実的支配の移転には,場所的移転を要しない。
対価は金銭以外のものでもよく,財物との交換はもちろん,債務免除,弁済期の猶予等でもよい。人身売買を処罰する趣旨からすれば,不法な利益も含まれると解すべきで,人身同士の交換も除外すべきではない。売買の申込みが実行の着手と解される。売主から売買の申込みがあった場合はその申込みに対する承諾が実行の着手になる。人身の引渡しがあれば対価の授受がなくても既遂になる。

P616
3) 行為 略取又は誘拐することである。
意義 他人をその生活環境から離脱させ,自己又は第三者の事実的支配下に置く行為のうち,暴行・脅迫等の強制的手段を用いるなど人の意思を抑制して行う場合が「略取」であり,偽計・誘惑を手段とするなど人に誤った判断をさせて行
う場合が「誘拐」である。これらを合わせて拐取という。
「事実的支配下に置く」とは,被拐取者に対し物理的な作用や心理的な影響を加えて,その自由意思を制圧又は制御する状態に置き,拐取者又は第三者の管理下から離脱することが困難な状態にすることである。被拐取者の自由を完全に拘束した状態に置く必要はないが,拐取手段等として加えられた物理的な作用や心理的な影響のほか,被拐取者の年齢・精神状態,本来的な生活場所との距離・文化的環境の相違等も考慮して判断される。

 児童買春等目的人身売買等についてはこう解説されています。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P105
本条は、児童買春等目的人身売買等の罪を定めたもので、児童を児童買春における性交等の相手方とさせ又は児童ポルノを製造する目的で、児童を売買した者は、1 年以上10 年以下の懲役に処せられ、同様の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住圏外に移送した日本国は、2年以上の有期懲役に処せられることになります。
このような規定を置いた趣旨は、東南アジア等において、児童買春、児童ポルノの製造目的で、児童が売買等されている実態に対処しようとするものです。刑法においては、日本国外に移送する目的での人身売買、あるいは略取等された者を日本国外に移送することは処罰されますが、上記の行為は処罰されないので、この法律において規制することとしました。
なお、児童の人身売買については、児童買春、児童ポルノの製造目的以外にも、強制労働目的、臓器提供目的等の態様はありますが、この法律は、児童買春、児童ポルノに係る行為を規制して、児童の権利を擁護することが目的なので、児童買春、児童ポルノの製造目的の人身売買のみを処罰することとしました。
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 「売買」 とは、対価を得て人身を授受することをいいます。
 児童買春等目的の人身売買罪の法定刑は、l 年以上10 年以下の懲役となっています。これは、刑法第225 条の営利目的等略取及び誘拐の罪の法定刑を考慮して決めたものです。