児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

神戸地裁h21.12.10の罪数処理

 強姦の際に撮影されたという事案ですが、神戸地裁はこう処理するのだと思います。

神戸地裁の処理
第1 H19.5.2 強要・製造
第2 H19.5.11 強要・製造
第3 H19.5.11 強姦(後段)
第4 H19.6.11 強要・製造(送信させる)
第5 H19.7.19 強要・製造(送信させる)
第6 H19.7.19 強要・製造
第7 H19.7.19 強姦(後段)
第1〜第7は併合罪(判決では伏せられてますが、第7まで分けて書いてあるので、ここでは併合罪にしていると推測します)

 撮影はわいせつ行為なので、脅迫してやらせると、強制わいせつ罪になります。
 仙台高裁や名古屋高裁によれば、第1、第2、第4、第5,第6は強制わいせつ罪と製造罪の観念的競合ですね。

奥村説
第1 H19.5.2 強制わいせつ罪・製造
第2 H19.5.11 強制わいせつ罪・製造
第3 H19.5.11 強姦(後段)
第4 H19.6.11 強制わいせつ罪・製造(送信させる)
第5 H19.7.19 強制わいせつ罪・製造(送信させる)
第6 H19.7.19 強制わいせつ罪・製造
第7 H19.7.19 強姦(後段)

 ここで、強姦の際のわいせつ行為は強姦罪に包括評価されるので、第2と第3、第6と第7は強姦・強制わいせつ罪の包括一罪+製造罪の科刑上一罪
 さらに、判例によれば、各製造罪は包括一罪ですから、結局第1〜第7までが科刑上一罪になります。
 神戸地裁処断刑期の上限は有期懲役の加重の上限で30年になりますが、奥村説では併合罪加重されませんので、20年になります。
強要+製造で起訴されているところを強制わいせつ罪+製造とするところで 一見不利益な主張と誤解される恐れがありますが、処断刑期は下がる。
 撮影行為は、従前からわいせつ行為であったところ、福祉犯として包括一罪になりうるような3項製造罪が創設されたことで、それがかすがいになって、処断刑期を引き下げることになります。刑法を知らないで不用意に特別法を作ると、もっとも重く処罰すべき常習犯の刑が軽くなるということです。


 第2の撮影行為を「強要と製造」にしている点は、問題です。
 強要罪というのは補充的性格があって、強制わいせつ罪・強姦罪が成立するときには強要罪は成立しないとされています。
 強姦の機会に、強姦罪が求める程度の脅迫を加えて、 「『服をまくり上げろ。』などと申し向けて脅迫し,同児童をして,前同様にさらに畏怖させ,よって,同児童をして,その乳房を露出させた姿態,同児童の陰部に被告人の陰茎を挿入している姿態等をとらせ」ているわけですから、第2はこれだけで強制わいせつ罪+強姦罪ですよね。第3の強姦罪とどうして切り分けるのか?
 なんで、強要・製造になっているかはわかりませんが、結果として、普通包括一罪となる第2と第3を分けて書いただけで、併合罪加重されてしまっている点が一番おかしいです。

第2 H19.5.11 強要・製造
第3 H19.5.11 強姦(後段)
第2 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の2関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年5月11日午前10時32分ころから同日午前10時37分ころまでの間,被告人方において,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,別表番号6ないし11のとおり,同児童に対し,「服をまくり上げろ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,前同様にさらに畏怖させ,よって,同児童をして,その乳房を露出させた姿態,同児童の陰部に被告人の陰茎を挿入している姿態等をとらせ,これを所携の携帯電話機内蔵のデジタルカメラにより撮影し,上記マイクロSDカードに画像データ6ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第3 (平成20年8月8日付け起訴状記載の公訴事実関係)
 同児童を強姦しようと企て,平成19年5月11日,被告人方において,同児童(当時12歳)が13歳未満であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,着衣を脱ぐよう申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同児童を姦淫した,

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100406170426.pdf
神戸地裁平成21年12月10日 
強姦、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反、強要被告事件
主文
 被告人を懲役14年に処する。
 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
 神戸地方検察庁で保管中の携帯電話(FOMA,F902i,シルバー色)に在中のマイクロSDカード1枚(同庁平成20年領第1336号符号2−2)を没収する。 
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,養女であったA(平成6年6月15日生)に対して長期間にわたり虐待を加え同児童を極度に畏怖させていたものであるが,
第1 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の1関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年5月2日午後8時41分ころから同日午後9時23分ころまでの間,神戸市a区b町居住c番地のd所在の県営B住宅e号室の当時の被告人方(以下「被告人方」という。)において,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,別表番号1ないし5のとおり,同児童に対し,「胸寄せろ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,その両乳房,陰部を露出させた姿態等をとらせ,これを所携の携帯電話機内蔵のデジタルカメラにより撮影させ,同携帯電話機に装着されたマイクロSDカード(神戸地方検察庁平成20年領第1336号符号2−2)に画像データ5ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第2 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の2関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年5月11日午前10時32分ころから同日午前10時37分ころまでの間,被告人方において,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,別表番号6ないし11のとおり,同児童に対し,「服をまくり上げろ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,前同様にさらに畏怖させ,よって,同児童をして,その乳房を露出させた姿態,同児童の陰部に被告人の陰茎を挿入している姿態等をとらせ,これを所携の携帯電話機内蔵のデジタルカメラにより撮影し,上記マイクロSDカードに画像データ6ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第3 (平成20年8月8日付け起訴状記載の公訴事実関係)
 同児童を強姦しようと企て,平成19年5月11日,被告人方において,同児童(当時12歳)が13歳未満であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,着衣を脱ぐよう申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同児童を姦淫した,
第4 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の3関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年6月11日ころ,同児童(当時12歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,これに応じなければ自己の自由,身体等にいかなる危害を加えられるかもしれない旨さらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午後零時46分ころから同日午後5時35分ころまでの間,別表番号12ないし22のとおり,被告人方において,全裸で両乳房の間や陰部に物を挟んだ姿態等をとらせ,これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像を被告人の携帯電話機に送信させ,上記マイクロSDカードに上記画像データ11ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第5 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の4関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年7月19日ころ,同児童(当時13歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,電子メールにより,「キュウリをなめている写真を撮れ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,前同様にさらに畏怖させ,よって,同児童をして,同日午前11時13分ころから同日午前11時44分ころまでの間,別表番号23ないし25のとおり,被告人方において,露出した両乳房になすびを挟んだ姿態等をとらせ,これを同児童の携帯電話機内蔵のデジタルカメラで撮影させ,そのころ,その画像データを被告人の携帯電話機に送信させ,上記マイクロSDカードに上記画像データ3ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第6 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第1の5関係)
 同児童を強要して児童ポルノを製造しようと企て,平成19年7月19日午後8時32分ころから同日午後8時33分ころまでの間,被告人方において,同児童(当時13歳)が18歳に満たない者であることを知りながら,上記のとおり同児童が極度に畏怖しているのに乗じて,別表番号26ないし29のとおり,同児童に対し,「なめろ。」などと申し向けて脅迫し,同児童をして,前同様にさらに畏怖させ,よって,同児童に被告人の陰茎をなめたり,咥えたりする姿態等をとらせ,これを所携の携帯電話機内蔵のデジタルカメラにより撮影し,上記マイクロSDカードに画像データ4ファイルを保存して記録し,もって,同児童に義務なきことを行わせるととともに,児童ポルノを製造した,
第7 (平成20年12月9日付け起訴状記載の公訴事実第2関係)
 同児童を強姦しようと企て,平成19年7月19日午後8時30分ころから同日午後8時50分ころまでの間,被告人方において,同児童(当時13歳)が上記のとおり極度に畏怖しているのに乗じて,同児童に対し,「脱げ。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を抑圧した上,強いて同児童を姦淫したものである。
 (証拠の標目)
 省略
 (事実認定の補足説明)
第1 弁護人は,(1)被告人が,A(以下「被害者という。)やその兄C,姉Dに対し,躾けの範囲内で手を出したことはあるが,その程度も「言いなりにならなければ痛い目にあう」といった恐怖心を与えるような強度なものではなかった,(2)判示第3の事実について,被告人が被害者と初めて性交した日は平成19年6月15日よりも後であり,しかも,その際に被告人が被害者に対して暴行や脅迫を加えたことはない,(3)判示第7の性交の際,被告人が被害者に対して暴行や脅迫を加えたこともない,(4)判示第1,第2及び第4ないし第6の各事実について,被告人が被害者を脅迫して判示各姿態をとらせたことはなかった旨主張して,被告人に判示各罪はいずれも成立しないとし,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,当裁判所は,判示のとおりの各犯罪事実を認定したので,以下,補足して説明する。
第2 前提事実
 関係各証拠によって比較的容易に認められる事実は,次のとおりである。
 1 被告人らの生活状況
  (1) 被害者は,平成6年6月15日,EとFとの間の二女として出生した。EとFとの間には,被害者のほか,その兄のCと姉のDがいる。
 被告人は,FがEと離婚した後である平成14年8月ころ,Fとの交際を始め,平成15年春ころから,兵庫県加古川市内の同女のマンションで同女及び被害者ら兄姉と同居するようになり,同年8月に上記の当時の被告人方へ転居した後,同年10月にFと入籍し,被害者ら兄姉とも養子縁組をしてその養父となった。
 その後,Fは,平成15年11月に被告人との間の長女を,平成17年10月には被告人との間の二女を出産した。
 被告人は,高校中退後,職を転々とし,上記の加古川市内のFのマンションで同女らと同居していた当時は,医療機器の会社に勤めていたが,1年くらいで退職し,その後,平成17年2月ころから定職に就かずアルバイトをする程度であった。そして,平成18年12月ころから人材派遣の会社で働き始め,平成19年4月中旬ころ,同社を辞め,同年5月28日から別の人材派遣の会社で働いていた。
 他方,Fは,平成17年2月に被告人が無職となったことから,保険外交員の仕事を始め,平成18年8月ころまでその仕事を続け,平日の昼間は家を不在にしていた。
  (2) 被告人は,Fと入籍する前は,被害者ら兄姉に対して暴力を振るうことはなかったが,入籍後は,被害者ら兄姉を叱る際に,同人らに対して手で顔面を叩いたり,臀部を蹴ったり,金属バットで叩くことがあり,特にCに対する暴行が一番強いものであった。
 被害者ら兄姉は,養子縁組をする前から被告人に懐いていたが,中でも被害者が最も被告人に懐いており,10歳を過ぎても被告人と入浴していた。
  (3) 被告人は,平成17年の初めころからFとの性交渉がなくなり,被告人とFとの間の次女が生まれたころからは,口論が続くなど不和となった。
 その後もFとの不和が続いたため,被告人は,Fとの生活が嫌になっていたところ,平成19年8月,同女と喧嘩になったことをきっかけに,単身被告人方を出てFや被害者ら兄姉と別居するようになり,離婚調停を経て平成20年3月にFと調停離婚し,同年4月には被害者と離縁した。
 2 被害者の状況
  (1) 被害者は,小学5年生であった平成17年9月ころから,微熱,頭痛を理由に不登校となり,同年11月11日,G小児科クリニックで診察を受けたが,軽快せず不登校が続いたため,H医療センターでさらに診察を受けたものの,発熱や頭痛の原因が分からず,同年12月19日から同月26日までの間,精査,加療のため同病院に入院し,不明熱との診断を受けた。同病院の医師は,被害者の通学している学校に明確なストレスの要因はなさそうであるとの判断をしている。被害者は,退院後も同病院に通院したが,体調の改善はみられなかった。
  (2) 被害者は,小学6年生になった平成18年4月以降も不登校が続き,同年5月から同年7月までの間は,I医療センターに入院して診察を受けたが,異常は認められなかったため,同年10月13日から同年11月18日までの間,J病院に入院し,自律神経失調症,偏頭痛と診断された。
 被害者は,J病院への入院期間を通じ,37度前後の微熱が続いていたほか,時々頭痛を訴えていたが,各種検査や診察の結果,被害者の身体的な異変は認められなかった。
  (3) 被害者は,J病院の入院中,担当した小児科のK医師に対し,被告人と就寝したい,被告人を姉に取られるのが心配で眠れないなどと話したり,看護師らに対しても,理想の男性は被告人であるとか,摘んできた花を被告人にあげるなどとうれしそうに言っていたほか,面会に来た被告人に対しても,楽しそうにゲームをしたり腕を組んで歩くなどしていたが,被告人との面会後や被告人宅での外泊後に頭痛を訴えることもあった。他方で,被害者は,同医師に対し,兄は気持ちが悪い,学校には男子がいるから行きたくない,あるいは,兄,姉とも被告人から暴力を受けることが多いが,姉は母親が必ず先に怒る,兄,姉ともに被告人に対して口答えをしたりあほなことをするから暴力を受けるのも仕方がないなどとも言っていた。
 このような被害者を診察したK医師は,被告人とFに対し,「しつけ」を理由として被害者の兄,姉に対して日常的に体罰が行われていることにつき,程度の問題ではなく,その方法を止めること,そして,被告人やFのみならず,被害者に対しても,それぞれ被告人と被害者が一緒に入浴をしたり就寝することを控えるよう指導したが,J病院を退院した後も,被告人と被害者は一緒に入浴していた。
 なお,被害者は,J病院を退院する直前の診察において,K医師から,被告人も含めた男性から身体を触られたら嫌だと言いなさいと指導を受けた際,そのようなことはないからと答えていた。
 ところで,Dは,平成18年10月,Fから叱られて家出をして交番に行ったことなどから,子ども家庭センターで一時保護された後,児童養護施設に入所したが,その入所中の平成19年1月,医師がDを診断したところ,同女の左腕に多数のリストカットが認められたものの,同年2月に自宅に戻っている。しかし,Dは,同年3月15日に,虞犯による身柄付き通告で,再び子ども家庭センターに入所し,同年4月7日,自宅に戻っているものの,同月下旬ころ,通学する中学校の教師に被告人から強姦されたと訴えたことなどから,子ども家庭センターで一時保護され,その後は,自宅に戻らず,実父の下でしばらく暮らすようになった。Dの上記訴えで同女は警察で事情聴取を受けたが,Fがその話を信用せず,被告人も強姦を否定し,Dの供述も曖昧であったことなどから立件されなかった。
  (4) 被害者は,平成19年4月から私立の女子中学校へ通学したが,同年5月2日,同月11日及び同年6月11日など合計19日にわたって欠席した。なお,同年7月19日は,上記中学の自宅学習日であり,被害者は登校していない。
 3 別居後の状況
  (1) 被告人とFらが別居した後は,被害者と被告人との間の接触や連絡は途絶えていたが,平成20年5月5日に,被告人がFや被害者らと共に遊園地へ行き,その後,被告人と被害者との間で電子メールをやりとりするようになった。
 被告人は,遊園地へ行った際の被害者の体型からその妊娠を疑っていたところ,同月11日に電子メールで被害者からその妊娠を告げられるとともに,Fに対してどのように説明をしたらよいかと尋ねられ,同月12日には,Fに対して被害者の子の父は無理矢理性交させられた素性を知らない男性であると説明した旨の連絡を被害者から電子メールで受けた。
 同日,被害者は,被告人との子を出産した。
  (2) Fは,同年6月5日,旅行で行ったLにおいて,被害者との結婚を祈願する同年5月31日付けの被告人作成の絵馬を発見したことから,Eと共に,被害者に対し,出産した子の父は被告人か,無理矢理かなどと尋ねると,被害者は涙を浮かべながらうなずき,「ママが可哀想で言えなかった。言ったら家におられへんと思った。」と言った。
  (3) その後,被害者は,自傷行為に及ぶようになり,平成21年4月23日には,左前腕部外側に刃物様で傷つけたと思われる新旧約6本の傷が,左前腕部内側には同様の2本の傷がそれぞれ認められた。
 4 携帯電話機について
  (1) 被告人は,平成19年4月に,NTTドコモのF902iというデジタルカメラを内蔵した携帯電話機(以下「旧電話機」という。)を購入したが,同年6月2日,ドコモショップM店に旧電話機の故障を申し立て,同じ機種の携帯電話機(以下「新電話機」という。)との交換を受けた。
 上記受付及び修理の記録には,充電不良という故障内容の申立てを受け,水濡れや落下の申告がなく,保証期間内であったため,本体を取り替えるという対応をとり,その後旧電話機の修理として内部の基盤を取り替えた旨記載されている。
  (2) F902iの日付時刻設定には自動と手動の二種類があり,販売時は,購入客からの要望がない限り,電話機に内蔵された電波時計機能により時報どおりに表示時刻が修正される「自動オン」状態で引き渡されている。
 また,平成20年7月3日に差し押さえられた新電話機の日付時刻設定は「自動オン」状態であった。
 F902iに内蔵されたカメラで撮影した画像は,携帯電話機本体のほか,電話機に取り付けたマイクロSDカードにも保存することができる。F902iの内蔵カメラで撮影した画像とともに記録された撮影日時は,携帯電話機の操作によって変更することができるが,当該画像をマイクロSDカードに保存した日時(更新日時)は,携帯電話機の操作によっても変更することができない。
  (3) 被害者は,平成19年4月から同年7月ころまでの間,NTTドコモのN903iというデジタルカメラを内蔵した携帯電話機を使用していた。N903iも,電波時計機能が作動していれば,時報どおりの表示時刻が内蔵カメラにより撮影した画像の撮影日時として記録される。
  (4) 新電話機に取り付けられていたマイクロSDカード(以下「本件カード」という。)には,Fと被告人との間の子らや被害者を撮影した画像のほか,別表番号1ないし29の各画像が記録保存されている。
第3 被害者の供述について
 1 供述の概要
 被害者は,公判期日外の証人尋問において,次のとおり供述している。すなわち,
 「被告人は,宿題をしなかったり部屋が汚かったときなどに,私たち兄姉の尻を5回から10回程度金属バットで叩き,紫っぽい跡が残ることがあった。ほかにも被告人から腹を殴られたり蹴られたりしており,ママが止めてくれたこともあったが,ママも被告人から怒られていたので,もう助けてくれないと思っていた。学校で友人の話を聞いて被告人の暴力はやり過ぎだと思ったが,やめてほしいと言うと被告人の暴力がもっとひどくなると思い,「やめて」とは言えず,後で見つかると暴力を振るわれるのが怖くて,Eの元へ逃げることもできなかった。私たち兄姉は,被告人の暴力の標的とならないように,互いにあら探しをして被告人に告げ口をしていた。兄や姉は敵みたいな感じだった。被告人にべたべたしたり,写真を撮るときに笑わないと,夜中に起こされて殴られたりするので,嫌だったけど,ずっとにこにこしていたり,被告人にくっついたりするようにしていた。自分に対する暴力は,Dが家出をして交番に行った平成18年10月ころからなくなった。
 被告人から胸を触られるのは気持ち悪かったが,殴られるのが怖くてママにも言えないでいたところ,小学5年生の7月か8月ころに初めて被告人と性交させられ,その後はほぼ毎日被告人と性交させられた。一度被告人との性交を嫌がったことがあったが,被告人に顔を叩かれたので,その後はおとなしくしていた。J病院への入院中,家に帰りたいとは思わず,ずっと入院していたかったが,退院した後のことを考えて,家に帰りたいと言ったり,被告人が来るとうれしそうにしていた。
 小学6年生になると,被告人から学校へ行くなと言われ,学校を休んで被告人と二人きりになったときに,5日に4日くらいの頻度で被告人と性交させられた。中学校に入るころから,被告人にバットで叩かれることはなくなったと思うが,被告人を恐れる気持ちは変わらず,中学1年生の4月ころには学校へ行っていたけれど,学校を休んだ日はいつも被告人と性交させられた。
 平成19年5月11日は中学校の遠足の日だったが,被告人から行くなと言われたので休んだ。この日は被告人と二人きりで自宅にいて,はっきり覚えていないが,被告人と性交させられたと思う。嫌だったが,被告人に暴力を振るわれると思っていたので,嫌だとは言えなかった。この日に,被告人から服をまくり上げろなどと言われて,別表番号10の画像を撮られた。別表番号1は「胸寄せろ。」,別表番号12は「何か挟んで撮れ。」,別表番号23は「きゅうりをなめてる写真を撮れ。」,別表番号27は「なめろ。」と言われて撮影したものであり,他にも,被告人の指示に従い,エッチなポーズをとった写真や裸の写真を被告人に撮られたり,被告人が電子メールで指示してきたポーズの写真を自分で撮って被告人の携帯電話機に電子メールで送信した。また,被告人の陰茎をなめさせられた後は必ず被告人と性交をしており,別表番号27の写真をとったときも,その後被告人と性交した。被告人と性交する際はほとんど被告人に着衣を脱がされていたが,「服を脱げ」と言われて自分で服を脱ぐこともあった。被告人と性交したり写真に撮られたのは,被告人の言うことを聞かないとまた暴力を振るわれ,ぼこぼこにされると思っていたからである。事件が発覚した後,被告人との性的関係のことは母親には全部話しておらず,自分も話したくないし,忘れたいことである。」以上のとおりである。
 2 供述の信用性
  (1)ア 被害者の上記供述(以下「被害者供述」という。)は,被告人から姦淫されるまでの経緯につき,具体的,かつ詳細に供述しており,異性である被告人との性的関係という思春期に入って間もないころの被害者が羞恥心を抱きその公言をためらう事柄についても,質問に応じて,言葉少なめにではあるものの,具体的に述べている上,養父であった被告人との性的関係という特異な経験を,自らの心情を織り交ぜて説明しており,その内容に格別不自然・不合理な点は見当たらない。その上,被害者は,本件カードに記録されていたいくつかの写真を見せられた際等には,当時のことを思い出したなどと涙ぐんだり,涙を服でぬぐったりしながらも懸命に供述しようとするなど,その供述態度は,思い出すのが苦しいものの自らの体験したことをその記憶に従って供述しようという真摯なものと認められ,自らが体験したからこそ,そのような供述態度となったと見るのが自然である。
   イ 次に,Dは,上記第2の2(3)のとおり,施設に入所中,被告人とFに宛てた手紙(Dの検察官調書抄本(甲6))の中で,「(被告人が)すぐどなったり,なぐったり,金属バットでおしりや頭をなぐってきて,本当は,とてもつらかったです。」「本当に,やられてる時は,死にそうなぐらいいたかったです。なんども,死にたいって思っていました。自分が悪くてなぐられた時,リストカットもしました。うでにもふとももにもしました。本当に家にいるのがこわいです。」「いつもニコニコしとうのがしんどいって,なんで気づいてくれへんの?」「夜中におこされてボコボコにされた時も,学校とかでだれにも言わんかったんで。」「なんでいつもニコニコしとかなあかんの?」との記載をしており,この記載は,上記第2の2(3)のとおり,平成19年1月にDの左腕に多数のリストカットが認められたことと一致している上,他の記載部分も含めて,Dが自分の受けた両親の言動や自分のことを両親に分かって欲しいとの思いから書かれた自然な気持ちの表出と見られることなどから,この手紙に記載された被告人の言動やDの気持ちなどは真実であると考えられ,そうすると,被告人がCやDらに相当にひどい暴行を加え,同女らが怯えていたことや,いつもにこにこするよう強要されていたことが認められ,それらは被害者供述と概ね符合するものである。
   ウ さらに,証人K医師の公判供述等関係証拠によると,(ア) 被害者がJ病院で初めてK医師の診察を受けた際,診察の最後に被告人が被害者のことが心配だということで,同女の頭をなぜた時,同女が全く反応せず無表情で,なぜられるままに頭を揺らしていたのが不自然であったこと,(イ) 入院中のロールシャッハテスト検査では,緊張,不安を感じさせるものが耐えられず,安全なところに逃避したいという願望が強くなっていると考えられ,身体的不調を生み出していると思われるとの結果が,また,親子関係テストでも,被告人やFに対する不信感,不満は認められなかったものの,被告人の支配が少し強く,被告人に服従する面が強いとの結果がそれぞれ出ていたこと,(ウ) 被害者は,入院中,普段はあまり感情を出さないのに,被告人が見舞いに来ると,少し異常とも取れるくらい,べたべたと被告人に引っ付いていっているように見えたのに,被告人以外の男性に対しては過度に拒否的であったこと,(エ) K医師は,児童は虐待を受けている場合にも,本能的に自分を守るため,別の人格を出すくらい自分を抑えてしまい,いつもの自分とは違う行動に出る,もしくは,かえって自分から虐待を受けている相手にくっついていくという,一見して矛盾するような行動をとることがあるのが分かっていたことから,被害者の上記の異常とも思われる言動もそのようなものではないかと感じていたこと,(オ) K医師は,被害者の退院の時点でも,虐待があったとは確定できなかったものの,被害者は被告人から性的虐待を受けている可能性が高いと考えていたことがそれぞれ認められ,このK医師の見方は,上記の各テスト結果及び被害者のやや異常とも思われる入院中の言動等にかんがみて,被害者と被告人との関係を正しく把握したものと考えられ,嫌でたまらなかった被告人を好きであるように振る舞うなどしていたとの被害者供述を合理的に説明するものであり,同供述と整合するものでもある。
 これに対し,弁護人は,K医師が,被害者の退院する当時,虐待がないとカルテに記載しているのに,2年以上経過した公判廷において,虐待の可能性があったように言うのは信用できない旨主張するが,弁護人の指摘するカルテの記載部分を見ても,K医師は,退院する時点では,「まだ明らかな虐待がない」と記載しているにとどまり,同じ頁に「また 虐待の事実がつかめた時点で児相に通告を行う」旨記載をしているのであって,カルテの記載からも,明確に虐待の事実は確認できなかったものの,虐待の疑いを持っていたことが認められるのであるから,弁護人の上記主張は失当である。
   エ 加えて,児童青年期の精神医学を専門とするN医師作成の鑑定書(甲46)によれば,被害者は,外傷後ストレス障害(PTSD)に罹患しており,その現れとして,再体験(侵入)症状(事件のことを突然思い出して,涙が出る,何もできなくなる。)が,頻度,強度とも比較的重篤である上,回避症状(そのことについて考えないように努力している,男には近づかない,スカートをはけない),覚醒亢進症状(睡眠障害,感情の易変動性,いらいら感)が見られ,健忘や現実感喪失といった解離性障害の存在を示唆する所見も確認されるとともに,少なくとも年余にわたる反応性の抑うつ状態にある(抑うつ気分,喜びの低下,自己評価の低さ,無価値観,自殺念慮など)と診断されていることが認められるところ,N医師は,公判廷において,被害者の上記各症状の原因となる出来事としては,鑑定面接の範囲内では被告人による性的虐待以外には考えられないと供述しており,この供述に疑問を入れる余地は乏しいことからすると,上記鑑定内容及びN医師の上記公判供述は,嫌々ながらも被告人との性交に応じていたがいつもにこにこするようにしていたなどという被害者供述を,精神医学的立場から合理的に説明するもので説得力もあると考えられる。
 このような諸事情に照らすと,被害者供述は,他の証拠と概ね符合しており,精神医学的にも裏付けのあるもので,その信用性は高いと評価できる。
  (2) これに対し,弁護人は,ア 被告人に対する畏怖や嫌悪を述べた被害者供述は,(ア) J病院に入院中の被害者には被告人に対する好意的な言動が多々みられたほか,被害者がそのストレスの原因であるはずの被告人と接触した後に症状が悪化したという経過が認められないこと,(イ) 本件カードに保存された画像において被害者がいつも笑顔であったり,被告人に対する嫌悪を感じさせる表情ではなかったこと,(ウ) 被害者の状況に注意を払っていたというFも,被害者の被告人に対する態度を不自然だと感じてはいなかったと供述していることとそれぞれ整合しない上,イ 被害者供述によっても,被害者は,平成17年11月ころ以降に被告人から暴力を加えられたことはないのであるから,約1年半が経過した平成19年5月ころにも被告人の暴力を畏怖していたという被害者の供述は不自然であること,ウ 仮に,以前受けた暴力による被告人への恐怖心を被害者が抱き続けていたとしても,金属バットを振り回すほどの空間のない被告人宅で行われ,Fも制止したことがなかった被告人の被害者に対する有形力の行使は,しつけの範疇を超えるものでもなく,被告人の言いなりにならなければ痛い目にあうという恐怖心を抱いていたかのような被害者供述には著しい誇張があること,エ別居により被告人の支配が及ばなくなった後である平成20年5月以降にも,被害者が,被告人との間で互いに愛情を確かめるような連絡を取り合っていたという点も,被害者供述と相反する事情といえること,オ 被告人と別居した後はFにより養育されていた被害者が,被告人から強姦されたのかというFの質問を否定して,合意に基づく性交であったという事実を述べることはおよそ期待できず,被告人との性的関係がその意に反すると言ってしまった被害者は,その後にこれと異なる説明をすることはできない状況に置かれているのであり,被害者には事実と異なる供述をする動機があるといえることなどを指摘して,被害者供述は信用できない旨主張する。
 そこで,これらの点について検討すると,アの(ア)については,上記のとおり,被虐待児が自分を守るため本能的に自己を抑え,自ら虐待者に近づいていくという行動に出ることがあるというK医師の指摘や,継続的に被害を受けている者が,加害者に逆らったり逃れると更なる被害を受けるため,加害者に愛情を示すことがあるというN医師の指摘に照らせば,上記第2の2(3)のとおり,兄姉の被告人に対する言動から暴力を受けるのは仕方がないと述べるなど,自らは被告人の暴力を回避するよう応対していたことが窺われる被害者が,被告人からの更なる暴力を避けるため,被告人に対する好意を示していたとも考えられるのであるから,このような被害者の言動が,被告人から暴力を受けたり性交を強要されたという被害者供述と矛盾するものではなく,J病院への入院中には,退院後のことを考えて被告人に対する好意を示す言動をとっていたという被害者供述は,この点を合理的に説明したものといえるのであり,上記第2の2(3)のとおり,J病院への入院期間中,被告人との面会や自宅での外泊の後には頭痛を訴えることもあった被害者に,被告人との接触により全く変化がなかったともいえない。同様に,アの(イ)についても,本件カードに保存されていた画像は,いずれも被告人が撮影したり,後に被告人の目に触れることが予想されたものであるから,被告人から暴力を振るわれるのを恐れて写真を撮影する際には笑顔を作っていたと供述する被害者の表情が笑顔であったり特段嫌悪を感じさせないものであったことと,被告人に対して畏怖と嫌悪を抱いていたとする被害者供述は矛盾せず,アの(ウ)についても,被害者のほかにも4人の子を養育しており,被害者の妊娠にすら気付かなかったFが,被告人との間の子を出産した後も被害者が隠し続けた被告人と被害者との間の性的関係や被害者の異変に気付かなかったとしてもあながち不自然ではなく,この点について被害者供述との間にその信用性を揺るがすほどの不整合があるとはいえない。
 また,イについては,上記第3の1のとおり,被害者は,平成18年10月以降,自分に対する暴力はなくなった旨供述しているところ,たとえ,被害者に対する被告人による暴力がしばらくの間途絶えていたとしても,被告人と同居している生活状況は変わらず,また被告人のDらに対する生活指導や暴力にも目立った変化はなかったことからすると,小学3年生のころから日常的に繰り返されていた被告人の被害者やその兄姉に対する暴力によって,女児である被害者に植え付けられた恐怖心を払拭することは困難であったと推察される。
 さらに,ウについては,被告人方のリビングには比較的広い空間があり(甲14写真17),被害者らの臀部に跡が残る程度の力を込めて金属バットで叩く余地は十分ある上,時には逆上して被害者の姉を激しく殴ったこともあるFが被害者ら兄姉に対する被告人の暴力を制止していなかったとしても,それ故に被告人の被害者ら兄姉に対する暴力はそれほど強度ではなかったということもできないのであり,この点に関する被害者供述に著しい誇張があるとはいえない。
 エについても,被告人の被害者に対するそれまでの暴力を考えると,以前と同様に被告人を恐れてその機嫌をとるように話を合わせていたという被害者の説明もあながち不合理とはいい難く,被告人との別居後半年以上にわたって被害者が被告人との連絡を断っていたことや,その後連絡を取り合うようになった当初のやりとりも,出産間近となった被害者がそれをFにも隠しており他に頼る者もいなかったため被告人に対してFへの説明や対応を相談するしかなかったことをも併せ考えると,その後に被告人と被害者との間で交わされた一見親密ともとれるやりとりが,被害者の被告人に対する好意に基づくものではなく,単に被告人の言葉に合わせていたに過ぎない可能性が高いといえるのであり,このような被告人と被害者との間のやりとりの状況は,被告人を怖がるとともに嫌悪していたという被害者供述と相反するものとまではいえない。
 そして,オは,被害者がその保護者であるFの意向に反する行動をとることは難しく,この点に十分配慮して被害者の虚偽供述の可能性を検討すべきであることは弁護人指摘のとおりであるが,本件の発覚により捜査機関や公的機関に庇護を求めることができる状態となり,Fの庇護を失うことによる被害者の不利益が相対的に低下した後にも,被害者が以前と同じ内容の供述をしているばかりか,上記第3の2(1)エのとおり,PTSD等に罹患し,自らの身体を繰り返し傷つけるという深刻な状況に置かれた被害者が,その症状に苦しみながらも意図的に虚偽の供述をしているとは到底考えられないのであり,被害者が虚偽供述をしている可能性も極めて低いといえる。
 したがって,弁護人の主張する上記の事情は,いずれも被害者供述の信用性を揺るがすものではなく,その他るる主張する点を考慮しても,その結論は動かない。
第4 被告人の供述について
 1 供述の概要
 被告人は,公判期日外の被告人質問において,次のとおり,供述する。すなわち,
 「私は,被害者ら兄姉にとって良い父親となるため,生活態度や習慣の指導をしてきたのであり,同居当時は毎日入浴していなかった被害者らを入浴させるため被害者を誘って一緒に入浴したこともある。また,被害者ら兄姉が嘘をついたり,人の物を取ったときなどには,話をしても分からない場合に,平手で頬を叩いたり,金属バットでお尻を叩いたりすることもあったが,同女らにあざができるほどの強い力で叩いたことはない。
 被害者は,小学5年生であった平成17年9月ころに,Fの離婚や再婚を男の子からからかわれ,以後学校に行かなくなった。このような被害者に対するFの対応は登校しろという一点張りであったため,被害者から悩みを聞いていた私は,仮病を使って入院することで学校を休めると助言し,その後,被害者が頭痛や微熱を訴えるようになった。
 被害者は,中学へ進学する二,三か月前から,寝る前に私に対してキスを求めたり,愛しているといった内容の電子メールを送信するなど,性的な事柄に興味を抱いていることを窺わせる言動がみられるようになり,平成19年6月11日には,被害者が自分の裸などを撮影した画像を私の携帯電話機に送信してきた。そして,私と被害者の誕生日を過ぎた同年6月下旬ころの夜に,被害者が私を起こしてセックスとはどんなものかなどと尋ね,話の流れで私からセックスをするかと言って,初めて被害者と性交した。被害者とは合計4回くらいにわたって性的関係を持ったが,その際に,被害者に対して暴力を振るったり脅したことは一度もなかった。
 別表番号6ないし11,26ないし29の各画像は私が撮影したものであるが,この際に,被害者に対して着衣を脱いだりみだらな姿勢をとるよう指示したことはなく,別表1ないし5の各画像は私が撮影したものではない。別表番号12ないし25の各画像は,被害者が自分の携帯電話機で撮影して私の携帯電話機に送信してきたものであるが,この際に,どのような写真を撮影して送信するよう指示したこともない。」
 以上のとおりである。
 2 被告人の供述の信用性
 そこで,被告人の上記供述の信用性について検討すると,被害者の方から被告人を性交に誘ってきた,あるいは被害者が性的写真を送付してきたといった上記供述の骨格部分は,それが真実であれば,上記第3の2(1)エのとおり,現在,被害者がPTSDに罹患し,長期間にわたる反応性の抑うつ状態に陥っているはずがないのであり,同女の精神状況は被告人の上記供述と全く符合しないのである。
 そして,小学生であった被害者が身体の不調を装うために微熱等を訴えていたとする点も,上記第2の2(2)のとおり,J病院への入院期間を通じて37度前後の微熱が続いていたり,頻繁に頭痛を訴えていた当時の被害者の心身の状況と整合しない。
 さらに,妻の子であるばかりか,自らも養子縁組をした子である被害者との性交という非日常的な出来事であり,また,被告人の供述によれば,平成19年の短い期間に4回しかなかった事であるにもかかわらず,その日時はもとより,当時の状況やその経緯についても極めて曖昧な供述に終始する被告人の上記供述は,極めて不自然といわざるを得ない。
 したがって,被告人の上記供述は信用できない。
第5 虐待の有無及び被告人による脅迫等について
 1 以上の検討により信用できると認められる被害者供述等関係証拠によれば,次のとおりの事実が認められる。すなわち,
  (1) 被害者は,小学3年生のころから被告人に金属バットで臀部を叩かれるなどの暴力を受けたり,兄姉も同様に暴行を受けたりしているのを見ていたことなどにより被告人を極度に畏怖しており,被告人の日常的な暴力が止んだ後である平成19年当時も,被告人の虐待により依然として被告人をひどく畏怖していた。
  (2) このような被害者の畏怖に乗じて被害者と性交するようになった被告人は,別表番号10の画像を撮影した際に,被告人の指示に従わなければ暴力を加えられると畏怖していた被害者に対し,「服をまくり上げろ。」などと指示し,指示どおりの姿態をとった被害者を撮影した上記画像を本件カードに保存したほか,上記のとおり着衣を脱ぐよう指示した上で,被告人に対して抵抗できない状態であった被害者を姦淫した。
 また,被告人は,別表番号27の画像を撮影した同年7月19日にも,「服を脱げ。」などと被害者を脅迫し,被告人に対して抵抗できない状態であった被害者を姦淫した。
  (3) 被告人は,被害者に対し,「胸寄せろ。」,「なめろ。」などと指示し,これに応じなければ被告人から暴力を加えられると畏怖した被害者にそのような姿態をとらせた上で撮影した別表番号1及び27の各画像を,本件カードに保存した。
 また,被告人は,被害者に対し,電子メールにより,「何か挟んで撮れ。」,「きゅうりをなめている写真を撮れ。」などと指示し,これに応じなければ被告人から暴力を加えられると畏怖した被害者にそのような姿態をとらせた上で被害者が撮影した別表番号12及び23の各画像を被告人の使用する携帯電話機に送信させ,本件カードに保存した。
 2 そして,思春期に入って間もない被害者が,自らの意思で身体を露出したりみだらな姿態をとった画像を撮影し本件カードに記録保存するとは考え難く,被害者も,本件カードに記録保存された別表番号1ないし29の各画像はいずれも被告人の指示どおりの姿態をとって撮影したと供述していることからすると,別表番号2ないし9,11,13ないし22,24ないし26,28及び29の各画像についても,被告人が,被害者に対し,上記認定のとおりの被告人の被害者に対する指示及び脅迫と同様の指示及び脅迫をして,その指示どおりの姿態を被害者にとらせた上で撮影されたものと認められる。
 3 なお,弁護人は,別表番号1ないし5の各画像について,これらの画像に被害者の右手が写っていないことを根拠として,その撮影者はいずれも被害者であると主張し,被告人も,被害者が被告人の携帯電話機を勝手に持ち出して撮影したかのような供述をしている。
 なるほど,上記各画像の撮影に用いられた携帯電話機(F902i)は二つ折りの本体を折り畳んだ状態でも横長の画像を撮影することができる構造であるから,被害者が折り畳んだ携帯電話機を右手に持ち,画像を撮影するボタンを押して上記各画像を撮影した可能性は否定できず,上記各画像がいずれも横長のものであることにも照らすと,被害者が上記携帯電話機を操作して上記各画像を撮影したものと推認される。
 しかしながら,上記各画像を撮影したのは,当時被告人が使用していた携帯電話機であったことや,いずれの画像もその撮影後1分から20分後には本件カードに記録保存されていることからすると,これらの画像を本件カードに保存したと供述する被告人が,これらの画像を撮影した当時,その撮影場所にいたことは明らかであり,被害者が勝手に上記各画像を撮影したかのような被告人の供述は信用できない。そして,被告人の指示及び脅迫により上記各画像に記録されたとおりの姿態をとったとする被害者供述をも併せ考えると,上記第5の2で認定したとおり,上記各画像についても,被告人の指示及び脅迫により,被害者にその指示どおりの姿態をとらせた上で撮影されたものと認められる。
 なお,上記認定においても,被告人は,各画像に記録されたとおりの姿態を被害者にとらせ,携帯電話機の撮影ボタンを押すという被害者の行為を利用して撮影した上記各画像を本件カードに記録保存したことに変わりはなく,被告人の児童ポルノ製造罪が成立することは明らかである。
第6 判示第1ないし第3の各犯行日について
 1 上記第2の4(2)で認定した事実のほか,被告人が捜査段階において本件カードに保存された各画像の日付を変更したことはない旨供述していることからすると,別表記載の各画像が撮影された日時は,各画像の撮影日時として記録された日時であると認められるのであり,これに被害者供述を併せ検討すると,判示第1及び第2の各犯行日時は,この際に撮影された別表番号1ないし11の各画像の撮影日時である平成19年5月2日及び同月11日であり,別表番号11の画像が撮影された同日に,被告人が判示第3の犯行に及んだものと認められる。
 2 これに対し,弁護人は,(1) 平成19年3月ころから少なくとも同年6月末日ころまでの間,旧電話機や新電話機の時計表示機能にいずれも不具合があり,別表番号1ないし11の各画像に記録された撮影日時は正確な撮影日時ではなく,(2) 実際にも,被告人は,平成19年5月11日には退職のための残務処理で岐阜へ行ったり就職活動をしており,昼間は自宅にはいなかったのであるから,上記各画像の撮影時刻には在宅していない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。
 しかしながら,(1)については,上記第2の4(1)のとおりの旧電話機の不具合の申告に関する記録や,故障受付の際には申告された故障を全て記録することになっており,日付表示が狂うという不具合は聞いたことがないという携帯電話販売店店員(O)の公判供述によれば,被告人は,同年6月2日に同店員に対して旧電話機の故障を申し出た際,日付表示が狂うという不具合を申告していなかったものと認められるのであるから,この当時既に日付表示が狂っており,上記故障申出の際にこれを申告したとする被告人の供述は,この事実と整合しない。
 そして,被告人は,上記のとおり故障申出の際に不具合として申告したばかりか,新電話機と交換した後も同じ不具合が生じたために問い合わせをしたと供述する一方で,その不具合の内容につき,表示される日付や時刻が一定程度遅れるという記憶であり,進んだことはなかったと思うなどといささか都合のよい抽象的な説明に終始し,問題となる不具合がどのようなものであったのかを具体的に説明してはいないのであり,このような被告人の上記供述を信用することはできない。
 また,(2)の点に関する被告人の供述も,その内容が具体的とはいえない上,これを裏付ける客観的な根拠も示されてはいないのであるから,別表番号1ないし11の各画像の撮影日時に関する前記認定を揺るがす事情とはいえない。
 3 したがって,判示第1ないし第3の各犯行日を上記のとおり認定できる。
第7 まとめ
 以上の検討によれば,本件では,被告人が,別表番号1ないし29の各撮影日に,以前から虐待を受けて被告人を極度に畏怖していた被害者を脅して各画像にあるとおりの姿態をとらせて,これを撮影した画像ファイルをそれぞれ本件カードに保存するとともに,別表番号10の画像を撮影した平成19年5月11日及び別表番号27の画像を撮影した同年7月19日に,いずれも着衣を脱ぐよう申し向けるなどして被害者を畏怖させ,その反抗を抑圧して強姦したとの事実が認定できる。
 (法令の適用)
 省略
 (裁判長裁判官 東尾龍一 裁判官 佐藤建 裁判官 村井美喜子)