裁判例をみていると、実は強制わいせつ罪の既遂時期が明らかではないのです。
傾向犯を理由付けにして主張している事件があります。
2 傾向犯である以上、強制わいせつ罪の既遂時期は、犯人の企てが全て遂げられた時である。
強制わいせつ罪は傾向犯である。
【事件番号】最高裁判所第1小法廷判決/昭和43年(あ)第95号
【判決日付】昭和45年1月29日
【判決要旨】強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立つているところを撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し虐待する目的に出たときは、強制わいせつ罪は成立しない。
【参照条文】刑法176
【参考文献】最高裁判所刑事判例集24巻1号1頁
最高裁判所裁判集刑事175号57頁
判例タイムズ244号230頁
判例時報583号88頁
【評釈論文】警察学論集23巻8号132頁
警察研究42巻6号121頁
研修263号61頁
別冊ジュリスト58号110頁
別冊ジュリスト83号36頁
別冊ジュリスト117号32頁
捜査研究38巻4号81頁
法学研究(慶応大)45巻10号132頁
法曹時報22巻4号142頁
法律のひろば23巻6号41頁
しかし、職権により調査するに、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。大コンメンタール刑法第二版第9巻P63
新・判例コンメンタール刑法5 P115176条後段の強制わいせつ罪も傾向犯であるから、犯人の性的傾向の発現の最初から最後までが、強制わいせつ罪の実行行為である。
そうであるならば、犯人がわいせつな意図で企画したわいせつ行為のうち、全部をやり遂げた場合が既遂であって、そうでない場合は未遂になる。
「脱がせて、触って、撮影する」という一連の行為の場合、これまでは、性的意図に出た一個の行為だから単純一罪だとされることが多かったのですが、撮影行為は児童ポルノ製造罪として評価されることになったので、行為の個数が問題になってきました。