児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被害者の意見陳述への予防線

 意見陳述の後で、反論したと思われるのはいやなので、あらかじめ予防線を張るしかないですね。

被害者の意見陳述について
 被害者意見陳述においては、厳しい意見が述べられるであろう。
 しかし、原田判事らも指摘するように、客観的な事実を考慮することは許されても、厳しい処罰感情にのみ依拠するような量刑は許されない。
 被害感情に引きずられたのでは、刑事訴訟は復讐の場と化したり、被害者が参加しない場合との不公平を生じることとなり、刑事訴訟の目的に反することになる(刑訴法1条)。
原田國男「量刑判断の実際〔第3版〕」

小池信太郎「量刑における構成要件外結果の客観的範囲について」慶応法学 第7号 平良木登規男教授退職記念号P75

原田國男「量刑をめぐる諸問題−裁判員裁判の実施を迎えて−」判例タイムズ 第1242号
筆者は,被害感情を全く考慮すべきでないとか,逆にこれを過大視する見解には賛成できず,適正な評価を可能とする枠組みを探求してきた。被害感情の客観化もその一つの方策である39)。これに加えて,被害感情は可変的なファクターであることから,犯行後の被害感情は,量刑の大枠を決定する犯情には含まれないという点を再確認する必要があると思うのである。実務上も,犯情とは,
犯罪の種類,罪質,犯行の動機,態様・手段,被害結果の大小・程度・数量等をいい,被害感情は,この犯情ではなく,一般情状に属するものと扱われているといえる40)。被害感情については,被害感情の有無・程度は人さまざまであり,ことに被害者の遺族については,遺族自体いない場合があるし,被害感情は犯罪当時のものから裁判時まで被告人の対応等により,より厳しくもなりより穏やかにもなり,最後には宥恕にも至り得るのであって,可変的な性質を有する。犯行時の被害感情自体は,構成要件外の結果として犯情に含まれると解し得るが41),犯行後の被害者自身の被害感情や犯行後のものである遺族の被害感情は,一般情状であって量刑の大枠を決定する際には考慮すべきではない。当該事件の犯罪後の被害感情が大きいからといって量刑の大枠を上限に広げるべきではなく,量刑の大枠の中で1 ランクないし2ランク程度考慮すべき情状であると考える。裁判で具体的に意味があるのは,犯行時の被害感情そのものではなく,その後の被害感情の有り様であって,時の経過により変化し得る可変的なものといわざるを得ないから,一般情状と解する実務にも理由があるといえよう42)。例えば,被害感情が宥和した場合に,犯行時には厳しいものであったということは量刑上大した意味はないというべきである。この点,身体上に重傷を負ったが,裁判時にはかなり治った場合でも,犯行時に重傷を負ったことが量刑の大枠を決定する際に考慮される犯情であるのとは異なるというべきである。犯行後の被害感情は,犯情ではなく,一般情状とみるならば,予防として説明するのは困難な要素ということになる。被害者関係的な要素としてどのように位置付けるか新たな説明が必要となろう。少なくとも,犯情に含まれないから,一切考慮できないというものではないというべきである。被害者の処罰感情については,これを考慮すべきでないという見解もあるが43),実務においてもそれをそのまま受け入れるのではなく,例えば,「被害者が厳罰を求めていることも,十分理解できる。」といったスタンスを採っていることが多い。被害者の処罰感情は,被害者参加における意見陳述のようにそれを証拠として使うのではなく,被害者の意見として扱うのが合理的であり,この方向が筆者の主張する被害感情の客観化にも沿うというべきであろう。なお,被害者の処罰感情の反面である宥恕については,実務上,一般情状として量刑上被告人に有利に考慮しており,これが犯行後の情状に当たることは明らかである44)。