児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童淫行罪と恐喝罪が観念的競合だとすると・・・

 名古屋法がおもしろいという話。
 この事件では、児童福祉法違反と恐喝罪と売春防止法違反が観念的競合として地裁に起訴されたらしい。まあ、推測で、児童淫行罪だと仮定する。

中3に売春させ現金を脅し取る 容疑の男逮捕 守山署=愛知
2005.10.20 中部朝刊 31頁 (全277字) 
 守山署などは19日、容疑者を、恐喝、児童福祉法違反などの容疑で逮捕した。
 調べでは、容疑者は9月13日午前0時15分ごろ、豊田市内の公園駐車場車内で、出会い系サイトで知り合った私立中学3年の少女(15)が18歳未満と知りながら、みだらな行為をしたうえ、「おれから逃げれば組織の者に言う。20万円でチャラにしてやる」などと脅し、現金2000円を奪った疑い。
 容疑者はさらに、残りの金を作らせるため、同月17日と24日の2回、男性(当時31歳)を相手に、同市内のホテルで売春させ、同日夜、少女から3万円を脅し取った疑い。
読売新聞社

高校生を買春の疑い 名古屋 /愛知県
2005.09.23 名古屋地方版/愛知 23頁 名古屋 (全150字) 
 守山署は22日、3丁目、容疑者を児童買春禁止法違反の疑いで逮捕した。容疑者は容疑を否認しているという。調べでは、容疑者は9月5日午後4時ごろ、名古屋市緑区内のホテルで、守山区の女子高校生(17)が18歳未満と知りながら、4万円を支払ってみだらな行為をした疑い。
朝日新聞社

 売春させというので、売春防止法と児童淫行罪と児童買春周旋罪とが観念的競合になって、さらに恐喝も観念的競合になっていると推測する。
 まあ、観念的競合がどうか?淫行(福祉犯)させながら社会見解上1個の行為として恐喝(財産犯)できるかはさておく。(お金を取る点がはみ出すような気がする。)

 少年法37条2項で、一番重い罪がどれかで管轄が決まる。

少年法第37条(公訴の提起) 
次に掲げる成人の事件については、公訴は、家庭裁判所にこれを提起しなければならない。
四 児童福祉法第六十条及び第六十二条第五号の罪
2 前項に掲げる罪とその他の罪が刑法(明治四十年法律第四十五号)第五十四条第一項に規定する関係にある事件については、前項に掲げる罪の刑をもつて処断すべきときに限り、前項の規定を適用する。

 で、どれが重いのか? 恐喝罪と児童福祉法違反(児童淫行罪)が重そうだ。
 児童福祉法はH17.4.1から次の改正法が適用される。罰金は併科となっている。説例の犯行日と施行日では先後はどうだろうか?

H15法律第百二十一号(平一五・七・一六)
  ◎児童福祉法の一部を改正する法律
 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)の一部を次のように改正する。
 第六十条第一項中「これを十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」を「十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」に改め、同条第二項中「若しくは」を「又は」に改め、「又は同条第二項」を削り、「これを一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」を「三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」に改め、同条第三項中「前二項」を「前三項」に、「免かれる」を「免れる」に、「但し」を「ただし」に改め、同条第四項中「又は第二項」を「から第三項まで」に、「外」を「ほか」に、「各同項」を「当該各項」に改め、同項ただし書を削り、同条第二項の次に次の一項を加える。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、平成十七年四月一日から施行する。ただし、第八条、第四十六条第四項及び第五十九条の五第二項の改正規定並びに附則第三条及び第四条の規定は、平成十六年四月一日から施行する。

児童福祉法第60条
第三十四条第一項第六号の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

刑法第249条(恐喝)
人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 どっちも上限は10年。
 こういう場合は、刑法10条3項

刑法第10条(刑の軽重)
主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。

 罰金併科の方が重そうだ。大審院もそういってる。

旧法の有期懲役刑を有期懲役および罰金の併科刑に改めた場合、両者の軽重は、まず懲役刑の長期を比較して定め、それが同じであるときは罰金を併科した新法が重いものとする。(大判大11・9・12刑集1-437)

 とすると、一番重いのは児童淫行罪だから、全体として、児童淫行罪の管轄=家裁になるはず。
 でも、地裁らしいんだ。
 もしかすると、児童福祉法違反でも別の罪なのかもしれないな。
 もう確定してるかもしれませんが、いずれ判決閲覧してみます。確定していないようでしたら、弁護人に確認してみてください。

追記
判例は違うようです。

条解刑法
併科刑又は選択刑が規定されている場合については,重い刑種のみを比較する重点的対照主義と,2個以上の刑種全体を比較対照する全体的対照主義とがある。判例は,刑法施行法3条3項が併科刑又は選択刑の規定されている場合の一般規定であるとして,重点的対照主義を採用したものとしており、実務もこれに従っている。