児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「ホットライン運用ガイドライン」

 一番有害無益なのは児童ポルノだと思うんですが、誰かが児童ポルノを見つけてホットラインセンター経由で指摘されても、削除するかは任意的なんですか?
 ホットラインセンターがそんな悠長なこと言ってても、管理者は愛知県警とか神奈川県警とかに見つかり次第捕まりますけど。

http://www.iajapan.org/hotline/center/20060404public.html
第6 プロバイダや電子掲示板の管理者等による対応が任意であることホットラインセンターからプロバイダや電子掲示板の管理者等に対して行われる依頼については法的な根拠に基づくものではないため、依頼を受けたプロバイダや電子掲示板の管理者等において対応を行うか否かは任意であり、対応を行わなかったことのみを理由として法的責任を問われることはない。ただし、ホットラインセンター設立の趣旨等に照らして適切な対応を行うことが社会的に期待されるところである。

 「ホットラインセンターからの依頼」の位置づけがわからないですね。

第3 プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼
1 総論
(1)依頼内容
ホットラインセンターにおいて違法情報該当性の判断ができるものについて、プロバイダや電子掲示板の管理者等に対して、対象情報の送信防止措置を依頼する。

(2)違法情報に関する送信防止措置依頼の位置付け
プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼が効果的に機能する(適切かつ迅速な対応が行われる)ためには、依頼を受けたプロバイダや電子掲示板の管理者等がホットラインセンターによる違法情報該当性の判断を信頼して対象情報について送信防止措置を行った場合に、利用者との間の契約関係の有無・内容に関わらず送信防止措置に関する法的責任を問われないようにすることが必要である。

すなわち、裁判所によって「プロバイダや電子掲示板の管理者等が、ホットラインセンターの判断に基づき対象情報の流通が違法であると信じたことは相当の理由があり、送信防止措置について責任を負わない」と判断されることが期待できるような判断基準、手続により違法情報該当性を判断することが必要である。

また、プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼が効果的に機能するためには、依頼者であるホットラインセンターと、依頼を受けるプロバイダや電子掲示板の管理者等との間に信頼関係が構築されることが不可欠である。

(3)適切な判断の確保
ホットラインセンターによる適切な違法情報該当性の判断を確保するためには、ホットラインセンターにおいて明確な判断基準に基づいて適切な手続により違法情報該当性の判断が行われることが必要である。また、これらの判断基準、手続等について、インターネット利用者を含む関係者の意見を聴いた上で決定されていることが重要である。

児童ポルノについては、110番した方が手っ取り早いですね。

3 違法情報該当性の判断基準
(1)判断の対象
上記2に掲げる①から⑧までの違法情報については、インターネット上の流通自体が法令に違反することから、違法情報該当性の判断に際しては、基本的には、当該情報の流通が法令上の構成要件に該当するかどうかを判断するだけで足り、違法性(阻却事由)については検討する必要はない。
(2)構成要件該当性を判断する上での判断基準
対象とする違法情報の流通が構成要件に該当するものとして、次のような場合が挙げられる。

児童ポルノ公然陳列
次のすべてを満たす場合には、児童ポルノ公然陳列の構成要件に該当する情報と判断することができる。
○ 児童(18歳未満)に該当する場合
・ 画像等に描写されている対象者の外見(例:陰毛がない、幼児、小学生にしか見えない)から明らかに18歳未満と認められる場合
・ 画像等に描写されている対象者の外見に加え、附随する情報(対象者の年齢に関する情報等)、対象情報が掲載されているウェブサイトや電子掲示板に掲載されている他の情報(他の画像等の内容等)等から、18歳未満と認められる場合
児童ポルノに該当する場合
・ 児童の性交、性交類似行為(性交を模して行う手淫、口淫行為、同性愛行為をいう。以下同じ。)が描写されている画像等
・ 他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触る行為、児童が他人の性器等を触る行為が描写されている画像等で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)
・ 児童の全裸又は全裸に近い状態が描写されている画像等で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)
○ 公然陳列に該当する場合
不特定又は多数の者が閲覧できる電子掲示板、ウェブサイト等に情報が掲載されている場合には、公然陳列されていると判断する。

 微妙に法文と違うというのは、問題多いと思いますけど、これでやるんでしょうか?
 まず、web掲載は実は不特定多数に対する提供罪じゃないかと思うんです。
 次に、「児童(18歳未満)に該当する場合」というのは、「生まれてから撮影されるまで18年経っていない」というしかなくて、見かけで判断してないですよ、取り締まりの現場とか裁判所では。
 さらに、幼児も低年齢になると、性欲刺激要件が困難になるんですが、それも考えてください。
 「全裸に近い状態」というのも、そんな法律ありませんので下着でもアウトなんですが、下着は違法だけど見逃すというんですか?





追記
 こんな感想です。
コメント1

 前提としてホットラインセンターの活動とは関係なく、違法情報を媒介する者の刑事責任(削除義務の存在と内容)について、法令の根拠を設けることが必要である。
 そのような義務がない場合に、削除依頼を行うのは不当であるし、そのような削除義務が有る場合に「センター」の「任意の削除依頼」を行うというのも無意味である(即、検挙されるべきであるから)。

パブリックコメント
第6 プロバイダや電子掲示板の管理者等による対応が任意であること
ホットラインセンターからプロバイダや電子掲示板の管理者等に対して行われる依頼については法的な根拠に基づくものではないため、依頼を受けたプロバイダや電子掲示板の管理者等において対応を行うか否かは任意であり、対応を行わなかったことのみを理由として法的責任を問われることはない。ただし、ホットラインセンター設立の趣旨等に照らして適切な対応を行うことが社会的に期待されるところである。

コメント2

 そのような違法情報については、管理者の行為は客観的には児童ポルノ陳列罪などの構成要件を満たすから、「センター」の任意の削除依頼を行うというのはかえって証拠隠滅の機会を与えるだけになるおそれがある。
 犯罪の嫌疑については警察が対応すべきである。(頼まなくても当然警察が動く。)

パブリックコメント
1 違法情報に関する対応依頼
ホットラインセンターにおいて違法情報該当性の判断ができるものについて、対象情報が掲載されている電気通信設備を管理しているプロバイダや電子掲示板の管理者等に対して、対象情報の送信防止措置を依頼する。

コメント3

 児童ポルノ・児童買春法で禁止されるものは違法情報だが、そうでないものは違法情報ではないのだから、法2条3項の定義と同義でなくてはならない。
 法のいう「児童ポルノ」とは外見上の児童ではなく、実在する真の児童でなければならないし(大阪高裁H12.10.24等)、また同法の定義は刑罰法規としての明確性を備えているのであるから、そのままで一般人に理解可能であるはずである(最高裁H14.6.3)。それに何も付け加える必要はない。
 この観点からは
「 画像等に描写されている対象者の外見(例:陰毛がない、幼児、小学生にしか見えない)から明らかに18歳未満と認められる場合 ・ 画像等に描写されている対象者の外見に加え、附随する情報(対象者の年齢に関する情報等)、対象情報が掲載されているウェブサイトや電子掲示板に掲載されている他の情報(他の画像等の内容等)等から、18歳未満と認められる場合 」
というパブコメ案の表現は
「対象者が18歳未満であると認められるとき」
と改められるべきである。

 わいせつについても同様であり、「わいせつ」でわかるというのが判例であるから、それに何も付け加える必要はない。

パブリックコメント
(2)構成要件該当性を判断する上での判断基準
対象とする違法情報の流通が構成要件に該当するものとして、次のような場合が挙げられる。
① わいせつ物公然陳列
次のすべてを満たす場合には、わいせつ物公然陳列の構成要件に該当する情報と判断することができる。
○ わいせつ性が認められる場合
・ 性器が確認できる画像又は映像(以下「画像等」という。)
・ 性器部分にマスク処理が施されているが、当該マスクを容易に除去できる画像等
○ 公然陳列に該当する場合
不特定又は多数の者が閲覧できる電子掲示板、ウェブサイト等に情報が掲載されている場合には、公然陳列されていると判断する。

児童ポルノ公然陳列
次のすべてを満たす場合には、児童ポルノ公然陳列の構成要件に該当する情報と判断することができる。
○ 児童(18歳未満)に該当する場合
・ 画像等に描写されている対象者の外見(例:陰毛がない、幼児、小学生にしか見えない)から明らかに18歳未満と認められる場合 ・ 画像等に描写されている対象者の外見に加え、附随する情報(対象者の年齢に関する情報等)、対象情報が掲載されているウェブサイトや電子掲示板に掲載されている他の情報(他の画像等の内容等)等から、18歳未満と認められる場合
児童ポルノに該当する場合
・ 児童の性交、性交類似行為(性交を模して行う手淫、口淫行為、同性愛行為をいう。以下同じ。)が描写されている画像等 ・ 他人が児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触る行為、児童が他人の性器等を触る行為が描写されている画像等
で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)
・ 児童の全裸又は全裸に近い状態が描写されている画像等で、性欲を興奮させ又は刺激するもの(性器等にマスク処理が施されているものも含む。)
○ 公然陳列に該当する場合
不特定又は多数の者が閲覧できる電子掲示板、ウェブサイト等に情報が掲載されている場合には、公然陳列されていると判断する。

平成14年 6月17日
判     決
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,わいせつ図画販売目的所持被告事件について,平成12年10月24日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から上告の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり判決する。
             主     文       
本件上告を棄却する。       
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
              理      由
1 弁護人奥村徹の上告趣意第2,第3,第4後段,第5及び第8は,憲法21条,13条違反をいうが,原判決が謬定するような内容の児童ポルノである本件ビデオテープにつき,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「法」という。)7条2項を適用することが憲法21条,13粂に違反するものでないことは,当裁判所大法廷の判例(昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日判決・民集38巻12号1308貢,昭和57年(あ)第621号同60年10月23月判決・刑集39巻6号413貢)の趣旨に徹して明らかであって,所論は理由がない。 
2 同弁護人の上告趣意第4前段,第6及び第7は,法2条3項2号,3号にいう「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の文言があいまいで不明確であるから,憲法21条,31条に違反するというが,上記文言は,一般の通常人が具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかを判断することが可能な基準を示しているということができ,不明確であるとはいえないから,所論は前提を欠き,適法な上告理由に当たらない。 
3 同弁護人のその余の上告趣意のうち,憲法違反をいう点は,本件の事実関係に沿わない主張,原判決又は原審の手続を論難するものではない主張,あるいは,実質は単なる法令違反の主張であり,判例違反をいう点は,本件と事案を異にする判例を引用するものであって,適切でなく,その余は,事実誤謬,単なる法令違反の主張であって,いずれも適法な上告理由に当たらない。 よって,刑訴法408条,181条1項本文により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。  
平成14年6月3日
 最高裁判所第二小法廷

コメント3

 管理者が知っていようといまいと、違法は違法である。法益を侵害された者からの正当防衛の対象となる。
 違法情報について送信防止措置を受けた場合に、それでもなお情報を提供し続けた場合は、管理者はもはや違法な情報を提供する罪の正犯となるであろうし、そのような場合にまで情報発信者との関係を考慮する必要はない。

 実際、刑事裁判の実務(東京高裁H16.6.23)では、プロバイダ責任法など関係なく、掲示板の管理者等は、違法情報について未必的な認識であっても作為の正犯として(削除義務を問うこともなく)検挙され有罪になっているのであるから、そのような実務に従うべきである。東京高裁の判決の影響は大きい。
 でないと、ホットラインセンターは「任意の措置依頼」を出すような場合にも、警察は判例に基づいて「措置依頼」の有無にかかわらず検挙していくことになり、ホットラインセンターの「措置依頼」は無意味となるであろう。
 児童ポルノという児童を性的に虐待し続ける情報を媒介してながら、なおも発信者の利益を心配するというのは、児童ポルノを甘く見すぎていると言わざるを得えず、プロバイダなどのそういう態度がネット上の児童ポルノを蔓延させているといっていいのではないか。

パブコメ
第3 プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼
1 総論
(1)依頼内容
ホットラインセンターにおいて違法情報該当性の判断ができるものについて、プロバイダや電子掲示板の管理者等に対して、対象情報の送信防止措置を依頼する。
(2)違法情報に関する送信防止措置依頼の位置付け
プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼が効果的に機能する(適切かつ迅速な対応が行われる)ためには、依頼を受けたプロバイダや電子掲示板の管理者等がホットラインセンターによる違法情報該当性の判断を信頼して対象情報について送信防止措置を行った場合に、利用者との間の契約関係の有無・内容に関わらず送信防止措置に関する法的責任を問われないようにすることが必要である。
すなわち、裁判所によって「プロバイダや電子掲示板の管理者等が、ホットラインセンターの判断に基づき対象情報の流通が違法であると信じたことは相当の理由があり、送信防止措置について責任を負わない」と判断されることが期待できるような判断基準、手続により違法情報該当性を判断することが必要である。
また、プロバイダや電子掲示板の管理者等に対する違法情報の送信防止措置依頼が効果的に機能するためには、依頼者であるホットラインセンターと、依頼を受けるプロバイダや電子掲示板の管理者等との間に信頼関係が構築されることが不可欠である。

東京高裁平成16年6月23日
4事実誤認の論旨について(一部法令適用の誤りの論旨を含む。)
(1)所論は,要するに,①被告人は,本件児童ポルノ画像の被描写者とは使用関係がない上,一部の児童ポルノ画像については,その存在すら認識していなかったのであって,被描写者が児童であることを知らなかったのに,これを認識していたとした原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ないし法令適用の誤りがある(控訴理由第7),②被告人は,一部の児童ポルノ画像については,その存在すら認識していなかったのであって,児童ポルノ陳列の故意がなかったのに,これがあるとした原判決には,判決に影響を及ばすことの明らかな事実誤認がある(控訴理由第15),と主張する。
 しかし,前記説示のとおり,被告人は,本件掲示板開設に当たり,これを閲覧した者が児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに送信し,本件掲示板に貼付することを予想した上で,自らの利益のために,それでも構わないとしてこれを容認していたものであるから,これらの点について,被告人に未必の故意があると認定した原判決の判断は正当である。被告人が,本件児童ポルノ画像の一部について,その存在を確定的には認識していなかったとしても,この結論が左右されるものではない。いずれの所論も採用できない。
(中略)
5所論は,要するに,いわゆるプロバイダー責任制限法によれば,被告人は,本件掲示板の管理者であって,同法3条1項の要件を満たさないから,同法の適用あるいは類推適用により,被告人は被害児童に対する関係で民事・刑事の責任を免責される,と主張する(平成16年3月24日付け控訴趣意書控訴理由第20)。
 所論は,法令適用の誤りの主張と解されるが,前記説示に係る事実関係の下では,被告人がいわゆるプロバイダー責任制限法によって,その刑事責任を免責される理由はないというべきである。所論は,独自の見解に立つもので到底採用の限りではない。