児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

インターネット上での児童ポルノの流通に関する問題とその対策について 平成20 年度総合セキュリティ対策会議報告書

 管理不行き届きの掲示板管理者が逮捕されるのも珍しくないわけですから、児童ポルノの存在を知れば削除義務が生じるとか、以後は作為犯・正犯になるとか言ってもいいと思うんですが、「削除する等の措置を講じていくことが望ましい。」とのことです。
 見る側は通信の秘密も表現の自由もないとか言われてるのに、業界団体が参加しているので、そっちにはゆるゆるな感じです。それじゃなくならないですよ。

http://www.npa.go.jp/cyber/csmeeting/h20/image/pdf20.pdf
4.サイト管理者等による対策(児童ポルノの削除等)
インターネット上のサイトには、児童ポルノのDVD等を販売するサイトのようにサイト管理者自らが児童ポルノを頒布している場合があり、このようなサイト管理者に対しては、警察による検挙を進めていく必要があるが、サイト管理者が頒布にかかわっていると認められない場合には、サイト管理者も流通防止措置の主要な実施者の一人として、自身が管理するサイトに児童ポルノが掲載されたことを知った場合に削除する等の措置を講じていくことが望ましい。
児童ポルノがインターネット上に一旦流通した場合には、これを回収することは極めて困難であることから、児童ポルノのサイトへの掲載を未然に防止することが理想的である。しかし、そのためには、児童ポルノに限らず掲示板に投稿等された画像のすべてを事前に確認することが必要となるが、実務的にみても、大量の投稿についてそのような措置を人手で行うことは現実的でなく、自動判定技術の開発、利用の促進等が進められていくことが望ましい。
一方、掲載された児童ポルノをサイト管理者やサーバ管理者が削除するための取組みは既に進められており、電気通信事業者団体等は、児童ポルノ等の違法情報の該当性判断についてのガイドラインを定めるとともに、違法情報等の削除等を可能とするモデル契約約款を作成するなどしている。さらに、サイト管理者等による取組みを支援するための仕組みとして、一般のインターネット利用者からの通報を受理しサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンターが設置されている。インターネット・ホットラインセンターでは、平成20 年中に、「児童ポルノ公然陳列」に該当する情報について、国内のサーバに蔵置されていた445 件について削除依頼を行うとともに、ホットライン相互の国際的な連携組織であるINHOPEに加盟するホットラインの存在する国のサーバに蔵置されていた467 件について当該国のホットラインへの通報を行っている。このような取組みが進められている中、サイト管理者等による児童ポルノの削除を進めるに当たって、削除依頼に応じないサイト管理者等の存在やINHOPEに加盟しているホットラインの存在しない国のサーバに蔵置されており削除依頼ができない児童ポルノの存在等の課題がある。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090326-00000020-rbb-sci
今後の対策としては、インターネットを通じた児童ポルノの流通を防止するためには、その流通に関わる者すべてが、それぞれの立場で対策を講じる必要があるとしており、Webブラウザを利用した児童ポルノの流通経路についてみれば、児童ポルノの製造、頒布を行う当事者の他、児童ポルノが掲載されるWebサイトのサイト管理者、サーバ管理者、検索エンジンサービス事業者、DNSサービス提供者、インターネット・サービスプロバイダ(ISP)、一般のインターネット利用者などが関わっており、これら関係者すべてが、その流通防止に向けた対策を講じていく必要があると報告書では分析している。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090326-00000036-jij-soci
警察庁主催の有識者懇談会「総合セキュリティ対策会議」は26日、インターネット上の児童ポルノ流通を防ぐため、児童ポルノ掲載サイトのリストを作成し管理する団体の設置を提言する報告書をまとめた。信頼ある団体が認定するリストを業者に提供することで、サイトへの接続を遮断する「ブロッキング」が日本で初めて実現する。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/03/26/22926.html
報告書では、ネット上での児童ポルノ流通の問題点について、児童ポルノがネット上にいったん流通した場合には回収することが極めて困難であり、性的虐待の現場を永久に残し、被害児童の心を傷つけ続けることとなる問題や、児童ポルノの流通によって児童を性欲の対象として捉える風潮を助長する問題があると指摘。対策としては、児童ポルノを流通させた被疑者の検挙、インターネット・ホットラインセンターによる削除依頼などの取り組みが行われているが、依然として多数の児童ポルノが流通し、ネット利用者が容易に検索・閲覧が可能な状態だとしている。

 もっとちゃんと取り締まれば減るとおもうんですけどね。
 そうでないと、ブロッキングとか新手法を作っても、新罪作っても、どれも執行が中途半端になって終わりになります。


 自分も児童ポルノ画像を陳列していた画像掲示板の管理者について、他人が投稿した画像についても、条理に基づいて、法律上の削除義務を認めた判決がありますが、研究会の構成員はご存じないんでしょうね。

名古屋地裁平成18年1月16日
(罪となるべき事実)
被告人は,・・・が管理していた・・・に設置されたサーバーコンピュータに,不特定多数の者が児童ポルノ画像を送信することにより自動的にその画像が掲載されて,インターネットを利用する不特定多数の者において,これを受信して再生閲覧することが可能となる電子掲示板「ロリータなんでも」を開設し,これを管理しうる立場にあったものであるが,
第2 
上記掲示板の開設者としてこれを管理し,違法画像が同掲示板に受信掲載されているのを発見した場合には,これを削除するなどして,これが不特定多数のインターネット利用者に閲覧等されるのを防止すべき義務があるのに,別紙一覧表2記載のとおり,らに、平成年月日ころから同年月日ころまでの間に,所在のほか3か所において,ABCDこもごも,衣服の全部または一部を着けない児童の姿態であって,性欲を興奮させ又は刺激するものを,視覚により認識することができる方法によって描写した電磁的記録である児童ポルノ画像合計11画像を,上記電子掲示板に送信して記憶蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,これらの画像の閲覧が可能な状況を設定し,もって,児童ポルノを不特定多数の者に公然陳列しようとした際,同掲示板にこれらの画像が受信掲載されていて,不特定多数のインターネット利用者が再生閲覧することが可能であることを知りながら,敢えてこれを放置し,もって,これを幇助した。
(争点に対する判断)
1検察官は,判示第2の所為について,被告人と一覧表2記載の各投稿者(以下「投稿者」という。)との間に,児童ポルノの公然陳列についての共同正犯が成立すると主張した。
2しかしながら,判示第2の事実について取り調べた各証拠によれば,同事実において被告人の行った行為は,上記のとおり,児童ポルノを掲載した電子掲示板を開設していた被告人が,投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたというものである。そして,同証拠によれば,被告人と各投稿者らとの間には,上記の内容の電子掲示板が開設されていることの認識と,これに対して投稿者らが児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,これがインターネットを通じて不特定の第三者に閲覧可能であることを相互に認識していたにとどまり,具体的に相手の行為を利用して各投稿者が送信蔵置させた児童ポルノを不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡があったとは言い難い。

3したがって,判示第2の各犯行lこついて,被告人が共同してこれを実行したというためには,被告人の,上記投稿者らがこの掲示板に児童ポルノを送信して記憶蔵置させ,インターネットを通じて不特定の第三者が閲覧可能な状態にあることを知りながら,これを削除等しないまま蔵置を続けたという行為が,これを怠れば自ら積極的に公然陳列したと評価されるほどに,強度の削除すべき義務に違反する行為と言えることが必要と解される。
(1)この点について上記被告人の役割について検討すると,確かに被告人は,上記電子掲示板を開設し,インターネットを通じて不特定の第三者がこれに児童ポルノを送信して記憶蔵置することを可能にしたものであり,これを管理しうる立場にあったのであるから,不特定の第三者にこのような画像が閲覧されることを防止するために,これを削除する等して管理すべき義務があったというべきものである。
(2)そこで,更に進んで,これを怠ったことが,投稿者と共同して児童ポルノを公然陳列したと評価し得るほどに強度の違法性を有するといえるかについて検討を加える。あ上記のとおり,被告人と投稿者らとの間には,具体的画像を不特定の第三者に閲覧させることについての意思の連絡がないことからすれば,投稿者と被告人との間で,相互に相手方の行為を利用して児童ポルノを公然陳列しようとの意思が形成されていたとは言い難い。
そうすると,被告人が,投稿者から上記掲示板に児童ポルノに該当する画像が投稿されたことを認識したのに,これを削除しなかったことをもって,自ら不特定多数の者に対し公然陳列したと同一に評価されるほどに強度の削除義務違反があったと合理的疑いを入れる余地なく認定することはできない。
いしかしながら,上記の被告人の電子掲示板開設に伴う管理義務を考慮すると,判示第2記載の行為は投稿者らの不特定多数の者への公然陳列を幇助したものと認めるのが相当である。

 通信の秘密については問題視していないようです。

P14
6.ISPによる対策(ブロッキングの実施)
ISPは、一般の利用者がインターネットにアクセスするために不可欠なサービスを提供する事業者として、インターネットを通じた児童ポルノの流通防止に重要な役割を担っており、英国、イタリア、スウェーデンフィンランドを始めとする諸外国では、児童ポルノを含むウェブページへのアクセスを遮断するブロッキングを既に実施している。我が国においては、ブロッキングについての検討が緒に就いたところであり、他国の取組みと比べて大きく遅れている。ブロッキングについては、その態様により利用の公平、通信の秘密の観点からの整理を要する(特段の問題はないとの意見もある。)ところであるが、他国における先例もあるところであり、これらを参考としつつ、今後迅速に実施に向けた検討を進めていく必要があろう。

P18
また、利用者が閲覧を行おうとする通信の内容を確認し、これが児童ポルノ掲載アドレスリストに掲載されているものであるときには、同通信の媒介を拒絶するという場合には、電気通信事業法との関係から、「通信の秘密の保護」との関係を慎重に検討する必要がある。その際には、「機械的に処理される仕組みであっても、電気通信事業者の取扱中に係る通信に関し、その通信の秘密に属する情報について機械的に検索を行い、特定の条件に合致する通信を検知し、当該通信を通信当事者の意思に反して利用する行為は、通信の秘密の侵害(窃用)に当たる。」とされる一方で、「通信当事者の同意があれば、窃用に当たらないため、構成要件を満たさない」という議論が参考となり得る。しかし、一般に、通信の当事者間では、「通信の秘密の保護」は放棄されている場合が多いものと解されることから、ISPと利用者が当該通信行為の当事者と解し得る場合には、「通信の秘密の保護」との関係は、比較的容易に整理されるものと考えられる。
また、ブロッキングについては、第3章6において述べたとおり、その方式により、ブロッキングする単位、導入コスト、実施に伴うリスク等が異なっており、その具体的方式を決定するに当たっては、実際のインターネット環境において検証を行うことが必要である。あわせて、アクセスがブロックされる範囲が過大なものとならないかなどについても検証する必要がある。もとより、いずれの方式を導入すべきかという点については、上述の法的整理が影響するものであり、その判断に当たっては、両者を総合的に勘案して結論を得る必要がある。