児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

人身取引について児童買春・児童ポルノ法に基づく初の犯罪立件・捜査事例

被害児童の保護活動についても報告されています。

「日本における性的搾取を目的とした人身取引 」ILO駐日事務所
http://www.ilo.org/public/japanese/region/asro/tokyo/downloads/trafficking_report.pdf


人身取引について児童買春・児童ポルノ法に基づく初の犯罪立件・捜査事例
2004年5月、国内での人身取引事件において初めて、2名の日本人が児童買春・ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕された。2容疑者は、後日、児童福祉法違反の罪で起訴されたものの、人身取引の罪は証拠不十分のため、起訴事由から除かれた。
人身取引被害者となった3人の少女、A、B、及びCは、黒いスーツを着た「カラス族」の巧みな勧誘に乗った。少女達はその後、ホストクラブと呼ばれる美男子達が若い女性客をもてなすバーで酒を飲まされた。酔わされた後、ホスト達は30万円から100万円という法外に高価なブランデーボトルを開け始めた。バーでのもてなしに興じた結果、クラブからの請求額が、Aに対しては800万(バーの請求額、本人供述では150万)、Bには400万(バーの請求額、同150万)、そしてCには100万(バーの請求額、同50万)にのぼった。この請求額が少女たちの消費量に基づいて計算された裏づけはない。兵庫県警は、ホストクラブでの飲食を少女達に勧めた上で法外な請求を課すことは、常套手段だと指摘する。
請求額を支払えなかった少女たちは、ホストたちから借金返済のため児童買春の相手方となるよう強要された。彼女たちは、請求額を支払えない場合は「ひどい目に遭い」、家族にも危害が及ぶと忠告された。クラブの店主は、少女達が未成年であると知りながら、2003年10月16日に少女達を一人当たり50万円で大阪市内の風俗店に売り渡した。
売り渡された後、少女達は大阪市内にある風俗店近辺のマンションに軟禁された。少女達は悲惨な状況にどう対応すべきか分からず、また、軟禁され、脅迫もされていたため、外部に助けを求めることもできなかった。少女達は、神戸のバーにも連行され、監視下に置かれることもあった。しかしながら、その監視の度合いは、恒常的な監視とドアの施錠による物理的拘束を要件とする逮捕・監禁での刑事立件には不十分であった。本件を担当した捜査官は、少女達が身体的虐待を受けたとか、又は暴力を振るわれたという証拠はないものの、容疑者らによる監視と度重なる脅迫が与えた甚大な精神的影響は、少女達を実質的に支配していたのと同然であると指摘している。
少女達は夕方5時から深夜零時まで風俗店で児童買春の相手方をさせられていた。この風俗店では15分で1万5千円を客から取り、延長料金もとっていた。被害者Aは、10月中旬から12月末までの間に約160人の客を相手し、400万円程の売上があったと供述している。Bは、他の派遣型ヘルス店に働く場所を移され、約5〜6人の客を取らされ、10万円前後の売上があったという。Cは、約100人の客を取らされ、その売上は約260万円であった。これらは警察が証拠を取ることができた数字に過ぎないことに注意を要する。この風俗店は、警察捜査に先んじて関連書類を破棄したため、メモ書き以外は何一つ残してなく、警察はこのメモ書きに基づいて上記数字を算出した。
少女達の買春による売上は、風俗店と少女達で折半することになっていた。しかしながら、この少女達の取り分は様々な名目で風俗店に取り上げられ、借金の返済分としてホスト店にも吸い上げられた。少女達は、弁当を買う程度のお小遣いしか受け取っていなかった。
2か月間の悲惨な経験をした後、少女達は監視の隙を見て脱出し、両親に付き添われて警察署に通報、そして保護を求めた。警察は、本件の捜査を開始した。警察の捜査を察知したホスト店経営者と風俗店は、本件に関する証拠を破棄した。更に、経営者は少女達の自宅付近で彼女達と会い、被害届けを取り下げるよう圧力を掛けた。一人の被害者少女がその脅しに屈して被害届を取り下げたため、県警察は急遽、経営者を強要及び強要未遂罪で逮捕した。
この事件に犯罪グループが関与していたかは明らかでないが、同グループがセックスセクターに深く根付いていることから、その可能性はあり得るとされる。
買春目的で未成年者を未成年と知りながら買った者は、児童買春・ポルノ禁止法により処罰される。この風俗店は客の記録を取っていなかったが、警察は、被害者少女達を買い、性交に及んだ数名から事情聴取するまでに至った。その顧客は少女達の年齢を知らされていなかったため、警察は立件できなかった。しかし、彼らは被害者少女が風俗店で児童買春の相手方をさせられていたことを証言する重要な参考人となっている。
警察は、強要及び強要未遂容疑で被疑者の迅速な逮捕を行った2004年1月以降、法解釈と事実認定の困難にも関わらず、捜査において着実な進展を見せた。当事件は最終的に刑事事件として立件され、同年5月26日にクラブの店主と元風俗店経営者を人身取引の罪で再逮捕するに至ったのであった。
今後の判決次第で、容疑者らが刑の執行猶予や罰金刑のみで釈放される可能性も大いにある。兵庫県警察は、彼らが自らを訴えた被害者少女達に報復しかねないと懸念し、保護措置を講じている。
兵庫県警察の取組
18歳未満の3人の少女が犠牲になった国内での人身取引という衝撃的な事件の後、兵庫県警察は同様の事件再発を防ぐために更なる取組を行っている。兵庫県警察は人身取引と闘い、未成年者を巻き込む犯罪を取り締るため、以下のような多様な処置を講じている。
1. 若手及びベテラン捜査官の集合研修の実施
2. ベテラン捜査官から若手捜査官への捜査活動に関するノウハウの伝授のための個別指導
3. 必要に応じて案件の情報共有と関係法規の解釈をまとめたペーパーの配布。専門的な判断を要する困難な案件は県警本部と連絡を取る。
4. 市民からの通報に基づく、繁華街での犯罪活動の取締り
5. 立ち入り検査の実施。営業内容が届出と異なる場合は、警察は関係者を摘発する。必要に応じて、営業停止処分も行う。
6. 非行少年・少女を街頭で保護し、少年、少女からの情報に基づいて背後の犯罪組織を摘発する。同様に、セックスセクターで働く家出少年・少女を保護する。
7. 家出、薬物(シンナー等)使用、非行のきざしを見せている(高額なブランド物のバッグを持っている、高額の現金を子どもが所持している等)と気付いた子どもの親からの派出所での相談受付け。提供された情報を用いて、警察は捜査を行う
8. 未成年者向けにフリーダイヤル(名称:ヤングトーク)を開設し、電話による相談を受付ける。これは上記取組と同様の目的と効果を持つ。
9. 他の関連機関との連携・協議
児童相談所、学校、家庭裁判所、検察官と緊密に情報を共有する。警察は児童相談所と児童の保護について協力する。また警察は、女性・子どもセンターに、加害者側からの報復を避け、被害者を保護できる公的機関やNGO経営のシェルターを紹介してもらうこともある。
こうした警察の取組は成果を挙げている。だが、日本のセックスセクターに対する規制が非常に寛容であることもあり、捜査官達は、犯罪者と終わりのない「いたちごっこ」をしているようだと供述している。