児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

掲示板管理者と著作権侵害

 故意による著作権侵害とする余地も認めています。
 この理屈を罰則に応用すれば、掲示板管理者が著作権侵害罪の正犯ないし幇助に問われる可能性があると思います。
 現在の法制のままだと、名誉毀損罪・信用毀損罪など各種流布犯罪まみれになるかもしれません。

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/$DefaultView/1645EA3EB994363849256FBA0037E2FB?OpenDocument
◆H17. 3. 3 東京高裁 平成16(ネ)2067 著作権 民事訴訟事件
平成16年(ネ)第2067号 著作権侵害差止等請求控訴事件
平成17年3月3日判決言渡,平成16年12月24日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第15526号,平成16年3月11日判決)
 本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長Aからの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
 被控訴人は,一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し,日々,刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため,すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから,個々の著作権侵害の事実を把握することはできない,と法廷で繰り返し強調していたが,仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても,著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは,自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失,場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく,過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。

ただ、児童ポルノ掲示板の東京高裁H16は掲示板開設行為を実行着手としているのに、この判決では、通知によって知った時以降の故意過失が問題にされていますから、アプローチ・着眼点が違う・一貫しないということはいえますよね。





追記
 大阪高裁H16.4.22は、インターネット掲示板における名誉毀損罪の実行の着手については、「C及びBの名誉を毀損する記事(以下,「本件記事」という。)をサーバーコンピュータに記憶蔵置させ不特定のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定した」時に実行の着手があると判示している。

阪高裁H16.4.22被告人上告 高等裁判所判例集57-2 14:53
そこで検討するに,名誉毀損罪は抽象的危険犯であるところ,関係証拠によると,原判示のとおり,被告人は,平成13年7月5日,C及びBの名誉を毀損する記事(以下,「本件記事」という。)をサーバーコンピュータに記憶蔵置させ不特定のインターネット利用者らに閲覧可能な状態を設定したものであり,これによって,両名の名誉に対する侵害の抽象的危険が発生し、本件名誉穀損罪は既遂に達したというべきであるが、その後,本件記事は,少なくとも平成15年6月末ころまで,サーバーコンピュータから削除されることなく,利用者の閲覧可能な状態に置かれたままであったもので,被害発生の抽象的危険が維持されていたといえるから,このような類型の名誉毀損罪においては,既遂に達した後も,未だ犯罪は終了せず,継続していると解される。

 他方、東京高裁h16.6.23は、被害者も決まらない、児童ポルノの存否すら判らない、誰かが投稿するかどうかわからない時点、誰にも閲覧できない時点で、児童ポルノ陳列罪の着手を認めている。

東京高裁h16.6.23
2当裁判所の基本的な判断
(1)本件で問題とされているのは,児童ポルノの陳列であるが,陳列行為の対象となるのは,前記のような児童ポルノ画像が記憶・蔵置された状態の本件ディスクアレイであると解される。
(2)原審以来被告人の行為の作為・不作為性も問題とされているが,被告人の本罪に直接関係する行為は,本件掲示板を開設して,原判示のとおり,不特定多数の者に本件児童ポルノ画像を送信させて本件ディスクアレイに記憶・蔵置させながら,これを放置して公然陳列したことである。そして,本罪の犯罪行為は,厳密には,前記サーバーコンピュータによる本件ディスクアレイの陳列であって,その犯行場所も同所ということになる。したがって,この陳列行為が作為犯であることは明らかである。そして,原判示の被告人の管理運営行為は,この陳列行為を開始させてそれを継続させる行為に当たり,これも陳列行為の一部を構成する行為と解される。この行為の主要部分が作為犯であることも明らかである。確かに,被告人が,本件児童ポルノ画像を削除するなど陳列行為を終了させる行為に出なかった不作為も,陳列行為という犯罪行為の一環をなすものとして,その犯罪行為に含まれていると解されるが,それは,陳列行為を続けることのいわば裏返し的な行為をとらえたものにすぎないものと解される。なお,更に付言すると,被告人は,児童ポルノ画像を本件ディスクアレイに記憶・蔵置させてはいないが,前記のように,金銭的な利益提供をするなど,より強い程度のものではなかったとはいえ,本件掲示板を開設して前記のように前記送信を暗に悠憑・利用していたのである。この行為は,陳列行為そのものではないから,開設行為以外の点は原判決の犯罪事実にも記載されていないが,陳列行為の前段階をなす陳列行為と密接不可分な関係にある行為であるから,これも広くは陳列行為の一部をなすものと解される。そして,これが作為犯であることは明らかである。

掲示板に違法情報が掲載された場合に何を違法行為(実行行為・不法行為)と捕らえるのかについて、裁判所の評価が一定ていない