児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「先生に嫌われると女優になれないと思った」は抗拒不能

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050105-00000062-mai-soci

この判例と同様なら準強姦になるでしょう。

東京高等裁判所判決S55.1.27
 控訴趣意中法令適用の誤りの主張について
 所論は、要するに、原判決が判示する事実によつては被告人が被害者らの反抗を抑圧し、ないし著しく困難にしたとはいえないから、原判示事夷をもつて刑法一七八条にいわゆる「抗拒不能」の要件を充たすものとして同条を適用した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
 しかしながら、同条にいわゆる「抗拒不能」とは心神喪失以外の意味において社会一般の常識に照らし、当該具体的事情の下で身体的または心理的に反抗の不能または著しく困難と認められる状態をいい、暴行及び脅迫による場合を除きその発生原因を問わないところ、さきに抗拒不能に関する事実誤認の所論について判断したとおり、その際認定した諸事実すなわち被告人は相当額の入会金を支払つて所属契約を結びモデルとして売り出してもらうことを志望していた被害者らについて、その希望を実現させることのできる当該プロダクシヨンの実質的経営者の地位にあったという被告人と被害者らとの地位関係、被害者らの若い年齢や社会経験の程度、被告人の言うことを信じそれに応じなければモデルとして売り出してもらえないと考えた被害者らの誤信状況などを総合すれば、社会一般の常識に照らし、被告人の全裸になつて写真撮影されることもモデルになるため必要である旨の発言等は被害者らをそのように誤信させ、少くとも心理的に反抗を著しく困難な状態、換言すれば前示抗拒不能に陥らせるに十分であり、その結果被害者らはその状態に陥つて全裸になつたものであり、また被害者らが全裸になつて被告人と二人きりで密室内にいる状態が抗拒不能の状態と解すべきことも重ねていうまでもないところであり、原判決はその判文から明らかなように、これら諸事実の重要部分を全て被告人の所為によるものとして摘示したうえ原判示事実について前法条を適用したものであるから、原判決には法令適用の誤りは認められない。論旨は理由がない

 しかし、ビデオ出演で、嘘の対償供与の約束があった場合(児童ポルノ製造罪)について、誓約書も取って、凌辱を尽くした事例について、

 私はこの誓約書を見て急に怖くなりました・・・怖くて怖くてその場から逃げ出したくなりました。・・・今断ったら何されるか分からない
 被告人が「」と怖い顔をしていうので仕方なく誓約書の全部を埋めました
 今すぐにでも辞めたいと思いましたが・・・・言える状況ではありませんでした
 こんなん聞いてない・嫌やと思ったのですが、被告人は体も大きく威圧的な態度だったので、断れば何をされるか判らないといった恐怖心から・・・
 被告人は私がいやがっているのを無視して無理矢理押し込んだのです。
 逆らうこともできず、体力的にも勝てないので、こんなアルバイトやめとけばよかったと思い、涙が出てきて後悔しましたが我慢したのです
思っていたことと全然違う〜こんな乱暴なことに耐えられないもう嫌
撮影契約書及び誓約書「進行中での如何なる中断は一切受け付けません。」「進行中の拒否は一切受け付けません」

という供述があったが、名古屋高裁金沢支部H14.3.28(公刊物未掲載)は、(凖)強姦罪は成立しないと判示しています。(奥村弁護士事件です。刑事確定訴訟記録法によるものではない。)
 被告人・弁護人が「承諾があった」という主張をしたわけではないのに、裁判所はそう判示したのが異例。

名古屋高裁金沢支部H14.3.28
なお,被告人の捜査段階及び原審公判の供述,共犯者の捜査段階の供述並びに被害者らの各供述によると,被告人らが被害者らに対して,畏怖させるような脅迫言辞を申し向けたことは認められない上,被害者らが性交等に及ぶ際あるいはその後の被告人らとのやりとりをみると,被害者らが恐怖心もあって買春に応じたと述べる部分もあるものの,他方で,買春行為の後,明日は行かないから,1日目の分だけお金を払って欲しい旨の電子メールを被告人に送信したり(原判示第2),これだけ恥ずかしい思いをしたのだからお金はもらって当然と思い,振込みでなく現金で欲しい旨申し出,受取りのため被告人が説明した場所に赴いたり(同第3の1),2度にわたって性交等に応じ,しかも2度目の際被告人に名刺を要求してこれを受け取り,記載してあった電話番号に電話をかけたり(同第4)していることなどが認められ,これら言動からすると,所論指摘の点を踏まえても,被害者らは対償の供与の約束により買春行為に応じたものと認めるのが相当であり,各被害者が抗拒不能の状況にあったということはできない。

 ここでは被告人の供述を信用して(被害者の供述は信用せずに)、事後の事情も考慮して真摯な承諾が認められています。
 14〜15の児童が、性行為の意味を深く理解して、そうそう真剣に・真摯に承諾するとは理解できないし、14〜15の児童に外見上「承諾」があったとしても、ビジネスが絡んだ性行為の「承諾」というのは、認められるのかと思うのですが、高裁はそういうのです。

 「抗拒不能」というのは微妙な事実認定ですね。
 理屈としては「法益関係的錯誤」理論も絡むようなんですが、現時点で関係する事件を受任していないので、そこまでは調べられません。