児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ個人的法益説 大阪高裁H14.9.12  公刊物未掲載

 大阪高裁にも児童ポルノ販売罪併合罪説の判決があります。判示は不明確ですが、罪数の記載があります。
 写真集ごとに決める。
 被害児童の人数・態様が量刑に影響するのだとしています。
 
 奥村弁護士によるOCRの誤変換があります。これを引用すると、引用した回数だけ、誤字を指摘されます。
 

阪高裁平成14年9月12日判決
第1控訴趣意中,訴因逸脱認定の主張について
論旨は,訴因として全くあるいは具体的に主張されていない児童の実在性を認定した原判決には,審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある,というのである。しかしながら,原判決は,その「犯罪事実」の項で,訴因と同じ事実を認定しており,何ら訴因を逸脱した事実を認定していない。論旨は理由がない。
第2控訴趣意中,理由そごの主張について
論旨は,(1原判決は,児童ポルノ販売罪(以下「本罪」という。)の保護法益が個人的法益であるとの立場に立っているから,①人相等の特徴で個々の被撮影者を特定しなければならない,②被撮影者が販売時に実在していなければならない,③本罪は被撮影者ごとに成立する,④被撮影者の承諾があれば,本罪は成立しない,⑤被撮影者の数,その承諾,被害の程度等が量刑の重要な要素になるとの結論にならなければならないのに,これらをいずれも否定したり,また,個々の被撮影者を特定する必要はないとしながら,その一方で,犯情の軽重を判断する際には被撮影者数を考慮したりしている,さらに,(2)原判示別紙一覧表番号4の事実について,児童ポルノに当たると問われているのは全被撮影者の写真であると考えられるところ,原判決は,訴因として個々の被撮影者を特定する必要はないとしながら,その一方で,清岡純子や制服を着用している者の写真は児童ポルノに当たらない旨判示している,したがって,これらの点で原判決には理由にそごがある,というのである。
しかしながら,(1)の点については,原判決は上記⑤の結論を否定していない上,児童ポルノが本件のように複数の写真が掲載された写真集である場合には,そのうちの1枚の写真が児童ポルノ法2条3項3号の要件を満たしてさえいれば,その余の写真がその要件を満たしているか否かを問わず,その写真集は児童ポルノに当たると解すべきである(なお,所論は,写真集も児童ポルノに当たると解すれば,表現の自由を不当に侵害するし,複数の写真が一冊にまとめられることによって児童の保護も後退すると主張する。しかしながら,1冊にまとめられた複数の写真は,販売等の際には同じ運命をたどるから,これを一体のものとしてみることはその実態に適っている上,所論がいうように個々の被撮影者を特定しなければならないとすれば,そのために多大な時間と労力を要し,ひいては写真集を児童ポルノ法による規制から逃れさせることになり,かえって,児童の保護に適わず,不合理である。)から,本罪の保護法益が個人的法益であるからといって,上記①ないし④の各結論が当然に帰結されるものではないし,また,写真集が児童ポルノに当たり得るからといって,犯情の軽重を判断したり,刑を量定したりする際に,その要件を満たす写真や被撮影者の数を考慮することができないと考える根拠もない。したがって,原判決には所論のような理由のそごはない。なお,上記②の結論については,被撮影者が写真撮影時に実在していれば足りると解されるし,上記④の結論についても,原判決が説示するとおりである。また,(2)の点については,その前提が失当であることは既に説示したとおりである。この論旨も理由がない。
第3控訴趣意中,公訴の不法受理及び訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,訴因について,(1)併合罪であるはずの複数の販売行為が包括一罪として記載されている,(2)被撮影者ごとに本罪が成立し得ると考えられるのに,単に写真集のタイトルが記載されているだけで,どの被撮影者の写真が児童ポルノに当たるのか不明確である,(3)個々の被撮影者を特定する必要があると考えられるのに,「児童ポルノである写真集4冊を販売した」旨記載されているだけで,被撮影者の数やその特定事項,更には,全被撮影者の各写真が児童ポルノに当たることが,具体的に記載されていない,(4)「実在」の事実が氏名,年齢,人相等を用いて具体的に記載されていない,(5)どのような児童の姿態が「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により蒸識できる方法により描写した児童ポルノ」に当たるのかが,具体的に記載されていないとした上,そうであれば,本件公訴は元来棄却されるべきものであったのに,これをせず,有罪の判決をした原審裁判所の措置には,不法に公訴を受理した違法及び判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。しかしがなら,(1)の点については,仮に,検察官の意思が所論のとおりであるとしても,本件訴因は各販売行為ごとに特定されており,何ら特定を欠いてはいない。また,(2)及び(3)の各点については,いずれもその前提が失当であることは既に説示したとおりである。次に,(4)の点については,児童が,本件でいえば,写真撮影時に実在していたことが当然の前提であり,しかも,その写真が存在することによってその時に実在していたことも明らかである上,前記一覧表番号1ないし3の各写真集は,いずれも1名の児童を主対象として撮影されたもので(この点,所論は,被撮影者は日本人ではなく,各写真集に表示された人名が被撮影者の氏名であるとは限らないし,上記写真集3冊の被撮影者は合計23名もいて,1名のものはないと主張する。しかしながら,芸名等であっても特定に用いることができるし,また,より多くの写真が掲載された被撮影者が主対象の児童であることを当然の前提としている。),これらの児童がそれぞれ訴因の対象となっていることも訴因の記載から明らかであって,原判決が説示するとおり,本件訴因の特定は,検察官が起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものであるといえる。さらに,(5)の点については,所論のような記載は何ら必要でない。なお,所論は,①被撮影者数を明らかにし,これを特定する必要がないとすれば,児童ポルノ法12条や同法13条の児童への配慮や児童の保護規定は無意味なものになる,②訴因が不特定のため,被告人側は全被撮影者の写真について児童ポルノに当たるか否か広範囲の防禦活動を強いられたなどと主張する。しかしながら,①の点については,被撮影者の実名や所在等が明らかである場合には,それらの規定は無意味なものにはならない。また,②の点については,原審検察官請求証拠に照らせば,検察官が本件各写真集のどの写真に着目して児童ポルノと判断して起訴したかは明らかであるから,被告人側の防御活動に差し支えがあったとは静められない。したがって,所論は採用できない。この論旨も理由がない。
第4控訴趣意中,訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,(1)本件全被撮影者259名の写真について,それぞれ児童ポルノに当たるか否かを判断しなければならないと考えられるのに,原判決が,複数の被撮影者の写真が掲載されている場合には,1名の被撮影者の写真が児童ポルノに当たれば写真集全体が児童ポルノとなるとして,その余の被撮影者の写真についてそれを認定判示していないのは,罪となるべき事実の摘示方法として許されない,(2)ー罪として起訴された事実につきこれを併合罪として処罰するには,訴因変更手続が必要であると考えられるのに,原審裁判所は,検察官が包括一罪として起訴した複数の販売行為について,訴因変更手続を経ないまま,これを併合罪として処罰しているとした上,これらを理由に,原審裁判所の措置には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。しかしながら,(1)の点については,その前提が失当であることは既に説示したとおりである。また,(2)の点については,仮に,検察官の意思が所論のとおりであるとしても,訴因事実と同じ事実を認定し,単に罪数的評価が異なるという場合を羊は,訴因変更手続は不要であるから,その前提も失当である。この論旨も理由がない。
第5控訴趣意中,事実誤罷の主張について
論旨は,(1)検察官は本件全被撮影者について児童に当たると主張するのであるが,①前記清岡の写真や陰毛が生育している者は児童に当たらないばかりか,清岡は製造及び本件犯行の各時点では既に死亡していて実在せず,また,②着衣を付けた又は顔だけを写した者の写真は,児童ポルノの要件を満たさないから,これらの写真について,本罪は成立しない,(2)本件各写真集はいずれも芸術作品であり,児童ポルノに当たらない,(3)本件各譲渡は,いずれも児童ポルノ愛好家という特定の者に対するもので,その数も4名と少ないから,本罪の「販売」には当たらないとした上で,それにもかかわらず,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。そこで,記録を調査して検討するに,原判決が,その挙示する証拠によって,被告人を本件各児童ポルノ販売の事実につき有罪としたのは正当であり,また,その「争点に対する判断」の項において,上記(1汲び(2)と同旨の原審弁護人の主張を排斥するところも,相当として是認できるのであって,当審における事実取調べの結果によっても,この認定,判断は動かない。なお,(1)の点については,その前提が失当であることは既に説示したとおりである。また,(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきで奉るとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,①表現方法に性器等を強調する僚向がない,②性欲を興奮又は刺激する内容がない,③児童のポーズに扇情的な要素がない,④児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,⑤装丁も芸術作品に相応しいものであるから,児童ポルノに当たらないと主張する。しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記①②及び④は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記③及び⑤が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。さらに,(3)の点については,販売とは不特定又は多数人に対する有償の譲渡行為をいうのであって,本件各譲渡がこれに当たることは明らかである。この論旨も理由がない。
第6控訴趣意中,事実誤認及び法令の解釈適用の誤りの主張について
論旨はまず,(1)「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の判断は,一般人を基準とし,(2)こ
れに当たるには,その内容が「露骨な描写」であることを要するとする原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがある,というのである。しかしながら,(1)の点については,原判決の基準は正当である。つまり,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と感じる者が多数いると考えられれば,それで足りる。また,(2)の点については,原判決は本件各写真集が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たる旨判示したにとどまり,所論のようなものであることを要するとはしていない。次いで,論旨は,被撮影者には五,六歳の児童もおり,このような児童の姿態は,どのようなポーズをとっても,一般人を基準とする限り,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらないのに,これを肯課した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。しかしながら,本件各写真集に掲載された写真のうち,原判決が児童ポルノの要件を満たすと判断したものは,一般人を基準としても,いずれも「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえる。これらの論旨も理由がない。
第7控訴趣意中,法令の解釈適用の誤りの主張について
論旨は,本罪は被撮影者(の写真)ごとに成立すると考えられるのに,原判決が,前記一覧表番号1ないし3について,本罪は写真集ごとに成立し,また,同番号4について,写真集ごとに包括して成立するとしているのは,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りである,というのである。しかしながら,前記のとおり,本罪は,写真集の場合,被撮影者(同一人に限らない。)の写真が複数枚掲載されている場合であっても,写真集ごとに成立すると解すべきである(なお,原判決が,その「争点に対する判断」の項で,写真集という形式が選択されている場合には,その一部が児童ポルノであることが立証されれば,他の部分についてその要件を満たすか否か検討しなくても,その写真集は児童ポルノ法2条3項3号に該当する旨説示しているように,本罪は写真集ごとに成立するものであるから,同「法令の適用」の項に「包括して」との記載は,誤記(余事記載)と認める。)。この論旨も理由がない。(なお,原審裁判所は,その判決書7丁と別紙一覧表との間に契印したり,同表に丁数を付したりするなどして,同丁と同表とが連続するものであることを示す措置をとっていないから,その判決には訴訟手続の法令違反が存するが,同判決書は1丁から7丁までと同表とが綴じられて一体となっているから,この違反は判決に影響を及ぼさない。)
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成14年9月12日
大阪高等裁判所第4刑事部裁判長裁判官白井万久
裁判官大西良孝
裁判官磯貝祐一