児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノ販売罪併合罪説(京都地裁H14.4.24 古川判決)

 お問い合せ頂きました。
 個人的法益説が採用されたように読めます。控訴審でも追認されています。
 古川さんは、高松高裁に居られますが、今でも併合罪説を書くのでしょうか?
 芸術性と児童ポルノ性はどう解決するのか考えて欲しいものです。
 なお、犯情が最も重いとされた写真集は被害児童数が最も多い写真集です。訴因特定で個々の児童や人数を特定する必要はないといいながら、裏でこっそり数えている。

平成14年4月24日
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
判決
被告人
検察官 倉   持   俊  宏
弁護人 奥   村      徹
理        由
(犯罪事実)
 被告人は,電話回線を利用したインターネットの電子掲示板を利用して児童ポルノ写真集の販売広告を掲示して購入客を募り,これを閲覧して児童ポルノ写真集の購入方を申し込んできたKほか3名に対し,別紙一覧表記載のとおり,平成12年5月中旬ころから平成13年5月中旬ころまでの間,合計4回にわたり,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識できる方法により描写した児童ポルノである写真集「n」ほか4冊を,同一覧表「販売場所」欄記載の各場所に郵送するなどして,上記Kほか3名に受領させ,代金合計2万800円で販売した。
(証拠)
(争点に対する判断)
1 弁護人は,本件訴因の特定の程度は不十分であると主張する。
 しかしながら,本件訴因の特定は,検察官において,起訴当時の証拠に基づきできる限り特定したものである以上,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反(児童ポルノ販売罪)の訴因の特定に欠けるところはないと解すべきところ,関係各証拠によると,本件各写真集は,その被撮影者の各氏名や生年月日等を明らかにし得ない場合であるから,本件訴因の特定に欠けるところはなく,弁護人の主張は理由がない。

2
(1)弁護人は,児童ポルノ法の保護法益は,個人的法益であるから,児童ポルノの対象となった個々の児童を訴因で特定する必要があると主張する。

(2)しかしながら,前掲「n」,同「M」,同「i」と題する各写真集は,いずれも各1人の少女が撮影されたものであるから,前記1のとおり,その特定に欠けるところはない。

(3)ところで,前掲「k写真集!」及び「k写真館t」と題する写真集には,弁護人の主張するとおり,多数の少女の写真が掲載されている。しかしながら,前掲sの警察官調書(7,21)によれば,小児の推定年齢を判定する手法としては,「Tannerによる二次性徴の成熟度の評価法」及び「Tannerらによる正帯小児の二次性徴発現時期」並びに最近の成熟傾向の早期化を勘案し,さらには,骨盤の発達程度や体つき等をも考慮して総合的に判定するものであるとし,これに基づき,前記「!」については2名の,「t」については3名の,各少女について,その年齢を推定し,いずれも18歳未満の児童である旨の判定をしている。
  さらに,これらの基準に照らすと,前記「!」及び「t」の各被撮影者(弁護人が,被告人質問において指摘する前記「!」中の作者k自身の写真や同人の写真誌「p」⑯の表紙写真一制服を着用したものなどが前記「」における児童ポルノの対象にならないのは明らかである。)中には,推定年齢が18歳以上の者はいないと解することが可能である。
 以上のような写真集であることを前提に考察すると,児童ポルノの被害法益が主として個人的法益であると解するのが相当であるとしても,1個の思想の表現として本件写真集という形式が選択されている場合においては,その一部が児童ポルノであることが立証されれば,他の部分については,厳密にその要件を満たすか否かの検討をしなくても,本件写真集が児童ポルノ法2条3項3号に該当することは明らかなのであるから,そのような場合にまで,本件写真集の被撮影者一人一人につき,児童の特定を必要とするものではないと解するのが相当である。
(4)したがって,弁護人の主張は理由がない。

3 弁護人は,児童ポルノ法においては,児童の実在性が必要であり,かつ,訴因で具体的に記載しなければならないのに,本件訴因では,その記載がないと主張する。
 児童ポルノ法の趣旨に照らすと,児童が実在することを要するものと解するのが相当であるが,弁護人が主張するように,これを訴因において「実在する」児童と表示しなければならないとする必然性はない。
 また,児童の実在性の立証は,写真の内容,タイトル,その他写真集全体を観察して認定することは差し支えないというべきところ,本件各写真集を検討すると,実在の児童が撮影されたものであることが明らかであるから,実在性は優に認定できるのであって,弁護人の主張は理由がない。

4 弁護人は,本件各写真集の被撮影者の姿態は,一部少数者を除き,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないと主張する。しかしながら,本件各写真集は,いずれも全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである。したがって,弁護人の主張は理由がない。

5 弁護人は,「k写真館」の中には陰毛の生えている者がおり,児童でないことが明らかであると主張する。
 しかしながら,前記2(3)の判定手法によれば,陰毛のある者を含めて,いずれも児童であると解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。

6 弁護人は,前記「t」,「!」,「i」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
 しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。
7 弁護人は本件各写真集につき,被害者(被撮影者)の同意があると主張する。
  しかしながら,児童ポルノ法の制定趣旨は,性的搾取及び性的虐待から児童の権利の保護を目的とするものであり,加えて,当該児童を保護し,関係者を処罰することによって,ひいては児童一般を保護しようとしている趣旨も間接的に含まれているのであるから,当該児童の同意があったとしても,これをもって,構成要件該当性あるいは違法性を阻却する事由とはなり得ないと解するのが相当である。したがって,弁護人の主張は理由がない。

8 弁護人は,被撮影者の年齢についての被告人の認識がなく,また,年齢認識がなかった点につき過失はないと主張する。
  しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,本件各写真集につき,少女の裸体写真等が撮影された写真集として購入し,かつ,これらを同旨の写真集として販売したのであるから,被告人において,被撮影者の個々具体的な年齢を認識していたか否かはともかくとして,「児童」であるとの認識を有していたことは明らかであり,弁護人の主張は理由がない。

9 その他,弁護人は,るる主張するが,いずれも独自の見解に基づく主張であり理由がない。

(法令の適用)
罰       条  
 別紙一覧表の各番号ごとにいずれも(なお,同番号4については,各写真集ごとに包括して)児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項,2条3項3号

観念的競合の処理  前記番号4につき,刑法54条1項前,段、10条(犯情の重い児童ポルノ写真集「k写真館t」の販売の罪で処断。)

刑 種 の 選 択 いずれも懲役刑を選択

併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い前記番号4の罪の刑に法定の加重。)

  平成14年4月24日
    京都地方裁判所第1刑事部
裁判官
古 川    博