児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

卸業者から児童ポルノを仕入れて営業的に小売りしていた者について、児童ポルノの被描写者の年齢認識が争われて、未必の故意が認められた事例(贖罪寄附500万円)

 被害児童に人定は、入手経路に対する突き上げ捜査で初めて明らかとなったものであり、被告人は知り得ない。しかし、被告人は調書上、真実約16~17歳の姿態を「16~17歳の女性に間違い有りません。」と語っており、その信用性が争われた。

 なお、S60生まれの人物は今年は満19歳となっているから、今後立件するには、製造年月日(撮影時18歳未満)の立証も必要である。

さいたま地裁H15.7.1
(罪となるべき事実)
被告人は,第1別紙一覧表記載のとおり,平成14年9月29日ころから同15年2月1日ころまでの間,前後6回にわたり,輪島市外2か所において,同人外2名に対し,情を知らない郵便局員らを介して郵便小包で送付する方法により,児童(K 昭和60年月日生)を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ,わいせつな図画を録画したビデオテープ2本及び男女の性交場面等を露骨に撮影したわいせつな図画を録画したビデオテープ34本の計36本を代金合計33万3000円で販売し,もって,児童ポルノを販売するとともにわいせつな図画を販売したものである。
(補足説明)
1被告人は,判示第1の事実のうち児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)違反については,被写体が児童であることの認識がなかった旨供述し,弁護人も,被告人の供述を前提に,同法違反については構成要件的故意を欠き,無罪である旨主張するので,上記のとおり認定した理由を補足して説明する。
2関係各証拠(但し,信用性に争いのある証拠は除く。)によれば以下の事実が認められる。
(1)被告人は,平成13年初めころから,インターネット土に自ら開設したホームページを通じて,販売業着から購入する等して収集した男女の性交等の姿態を露骨に撮影したわいせつなビデオを販売するようになり,本件により逮捕されるまでの間,1000万円を超える売上げを得ていた。被告人宅から押収されたビデオ,CDロムディスク等には,全くモザイク処理されていない男女の性交等のわいせつな映像が収録されているものが数百本存し,その中には被写体が18歳未満であることをそのタイトル(作品名)に掲げるものが多数存在していた。(被告人の前記ビデオの販売方法は,「友の会」という名称のホームページにおいて,ビデオ作品の画像1枚に作品内容の紹介,コメント,値段及び映像時間のリストを掲載し,会員として登録されている顧客からの注文を受ければ,その注文数に応じたビデオをダビングし,指定した口座に購入代金が入金されていることを確認した後,郵便小包で顧客の下に発送するというものであった。
なお,前記会員については,被告人においてインターネットの掲示板に「ビデオ愛好家サークルメンバー募集」という書き込みを行い,これをみて被告人の電子メールに交信してきた不特定多数の着から,被告人が同会の趣旨に合致するかどうかなどの選別を行って登録された看である。また,前記ホームページの掲載期間も月末の短期間に限定するなどしていた。
(3)被告人は,平成13年5月ころ,弁護士のホームページを見てて,児童ポルノ法の条文及び罰則の存在を知り,「猥褻関連の法律」と題して,「ここでは無修正アダルト愛好者において不可欠なわいせつ関連の法律をご紹介します。互いに法律をわきまえ,犯罪者にならないように,このページを是非参考にして下さい。愛好会に入会する際には熟知して頂かないと困ります。絶対に趣味の範囲でご参加下さい。」などと記載し,さらに,児童ポルノ法等の条文を引用し,児童ポルノ頒布罪の罰則等を紹介する内容のデータ文書を作成し,前記「友の会」のホームページに掲載した。
被告人は,平成14年5月13日,顧客であるAから,中学生が被写体となっているビデオを販売した別の業者が警察に捕まったので注意するよう警告する旨のメールを受信した。被告人は,これを受け,同月16日,自己の主催する前記会の会員であり本件ビデオの購入者であるBに対し,インターネット上で横行する児童ポルノの販売を根絶するため警察庁が取締体制を強化した旨の同月13日付けの朝日新聞記事とともに,「ワイセツ語特にロリ語を変更する。」,「『件名危険』のメールが万一当方から届いたら相当危険だと思ってください。その際,所有ロリビデオなどの処分をした方がよいと思います。また,心得として愛好会員さんは『共同購入に参加して』入手してる事をお忘れなく心得ておいてください。当方から購入しているのではないという認識でお願いします。」などの内容のメールを送信した。
(4)被告人は,平成14年7月20日,「あ」と題する裏ビデオの販売業者から広告メールを受信し,同メール中で販売対象となっている39本のビデオから2本のビデオを選択して購入した。そのうちの1本が本件で児童ポルノ法違反を問疑されているビデオ(H38と題するビデオ,以下「本件ビデオ」という。)であるが,同ビデオの広告メールには「社長令嬢!撮影の3ケ月前までは中学生」などと記載されていた。
(5)被告人は,平成14年9月29日,本件ビデオを含む合計27本のビデオをし顧客Bに販売し,同15年2月1日には本件ビデオほか2本を顧客Cに販売した。被告人がBに販売したときには,被告人のホームページで本件ビデオを紹介するデータまでは作成されていなかったが,Cに販売した際には,本件ビデオは被告人のホームページ上において,学生服様のものを着用した女性の上半身の画像とともに「3ケ月前まで中学生!」とのコメントが付されている。
なお,本件ビデオは平成14年5月上旬ころに撮影されたものであり,同ビデオに描写された女性はK(昭和60年月日生,撮影当時16歳)であり,同ビデオの撮影時には同人の通学する高校の学生服.を着用していた。
3前記認定事実を前提に検討するに,被告人は本件ビデオを直接撮影したり,製作したものではなく,販売業着から購入したに過ぎないのであって被写体の実年齢についての確定的認識を有していないものと考えられる。しかしながら,被告人が前記のようなわいせつビデオを多数所持して,インターネット上で「友の会」なる会を設けてこれを販売し,その中には被写体が18歳未満であることを明瞭に示すタイトルのものが相当数含まれていたこと,被告人は児童ポルノ法の罰則等を熟知しており,本件前の平成14年5月に顧客Bに対し前記のとおりのメールを送るなどし,児童ポルノ販売についての警察の取締を強く警戒していたことが窺われることからすれば,被告人は自己の販売するビデオの中に18歳未満の被写体が存する可能性について少なくとも危惧していたということができる。そして,被告人は,前記のとおり,39本のビデオの内容を紹介するメールの中からあえて本件ビデオを選択・購入していることからすれば,その紹介内容に着眼して選択したというのが合理的であるところ,同ビデオの作品紹介は前記のとおり被写体が18歳未満であることを明瞭に示す内容であったのである。
以上の事情を総合考慮すれば,被告人において,実年齢についての確定的故意はないものの,被写体が18歳未満であることにつき少なくとも未必的認識を有していたことは優に認められる。また,被告人は,本件ビデオをCに対し販売するときには,自己のホームページ上に前記認定のとおりの画像とコメントを掲載しているのであるから,Cへの販売時点ではより一層その未必的認識を強めているとめられる。
これに対し,被告人は,当公判廷において,本件ビデオの高校1年生というタイトルについては,この種ビデオでは年齢を詐称するものが多いので全く信用していなかったこと,自宅にあったビデオ等のいずれにおいても18歳未満の女性が撮影されているという認識は全くなかった旨述べるが,そうであるのならば,前記のように児童ポルノ法違反について殊更に警戒するようなメールを会員向けに送信したりする必要はなかったのであり,この点不自然というほかない。また,前記のとおり被告人宅から押収されたビデオには相当数18歳未満であること(中には8歳から10歳)を標榜するタイトルのものが含まれているが,これら全てについてその存在を全く認識していなかったとか,18歳未満であるとの認識ないし認容を全く欠いていたというのはいかにも不自然・不合理な供述であり,その他前記認定事実と照合しても被告人の公判供述は信用性に乏しいといわざるを得ない。また,被告人は,被写体の年齢に関する捜査段階の供述は捜査官から押しつけられた供述であり,警察官及び検察官のいずれの取調の際にも異議を申し立てたが,一切取り合ってもらえなかった旨供述するが,そのように取調の都度,警察官及び検察官に訴えながら,いずれの調書も全く否認調香の形式を取っていないというのもいかにも不自然である。具体的な捜査段階の供述を見ても,警察官段階の供述においては,本件ビデオの被写体の年齢を被告人が17歳以下であると確定的に認識しているかのような記載部分も存し,その限りでは正確性に欠ける面もあるが,全般的に見ると前記認定事実に沿う内容であり,信用性に欠ける部分はなく,平成15年4月3日付けの検察官調書(乙12)の内容を見ると,「私は,それらのビデオテープに録画されたセックスをしている女性の正確な年齢は分かりませんでしたから,すべての女性が18歳以上に間違いないとは思っていませんでした。」,「私がお客さんに売ったわいせつなビデオテープの中には,18歳未満の女性がセツクスしたりする場面が録画されたビデオテープが含まれていることは分かっていました。」というように,自然かつ了解可能な内容であって,前記認定事実に照らしてもその信用性は高い。
以上に照らせば,被告人の公判供述はおよそ信用性に欠けるということができ,前記供述を前提とする弁護人の主張は採用し得ないものである。よって,被告人には,児童売春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条1項の故意に欠けるところはないというべきである。