児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

宮城県青少年健全育成条例制定の背景は「昭和30年ころから「太陽の季節」「狂った果実」「処刑の部屋」等の太陽族映画と称される映画の影響により、青少年の非行の増加と社会環境の悪化が懸念された。」ことにある。宮城県青少年健全育成条例の解説平成30年版

宮城県青少年健全育成条例改正の経緯
制定・改正年月日
青少年保護条例制定
S35. 3 .31公布(宮城県条例第13号)
S35. 7. 1 施行


背景・理由等
【制定理由】
昭和30年ころから「太陽の季節」「狂った果実」「処刑の部屋」等の太陽族映画と称される映画の影響により、青少年の非行の増加と社会環境の悪化が懸念された。
青少年の非行化が、ここ数年増加の一途をたどり、その内容が集団化、凶悪化し、低年齢化するなど憂慮される状況にある。
青少年の非行化は、ちまたに氾濫する不良文化財、不健全娯楽の影響によるところが大きいと考えられることから、悪い環境から青少年を保護し、その環境のじゅん化に努め、もって青少年の健全育成を図ろうとするもの。


内容
1 青少年を直接の取締対象とせず、成人に対し、青少年を取り巻く環境のじゅん化に努めるよう義務付けた。
2 青少年の健全育成に悪影響を与えると認められる興行、図書及び広告物の指定基準を定め、これらのものを青少年の周囲から排した。
3 青少年からの質受入れ、古物買受けを制限し、経済面からの青少年の非行化を防止するようにした。
4 青少年に賭博、淫行又はわいせつ行為を行う場所を提供しないようにした。
5 青少年に危害を伴うがん具類等を所持させないようにした。
6 青少年が風俗営業を行う場所に立ち入るのを制限した。
7 条例に規定する措置は、社会福祉審議会の意見を徴して行うこととした。

「集団強姦」でっちあげ 「仕事行きたくなくて」ネットで依頼 虚偽通報容疑の女ら書類送検~目撃者からの通報は、火災や事件事故を早く察知する重要な手段だ。警察庁は「善意の通報なら、結果的に違っても罪に問われることは基本的にはない」と呼び掛ける。

 偽計による公務の妨害については刑法には執行妨害罪以外に明文がなく、適用されそうなのは軽犯罪法だけです。

刑法
第九六条の三(強制執行行為妨害等)
 偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2強制執行の申立てをさせず又はその申立てを取り下げさせる目的で、申立権者又はその代理人に対して暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。
〔平二三法七四本条追加〕
第九六条の四(強制執行関係売却妨害)
 偽計又は威力を用いて、強制執行において行われ、又は行われるべき売却の公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
〔平二三法七四本条追加〕
第九六条の五(加重封印等破棄等)
 報酬を得、又は得させる目的で、人の債務に関して、第九十六条から前条までの罪を犯した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
〔平二三法七四本条追加〕
第九六条の六(公契約関係競売等妨害)
 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。
・・・
軽犯罪法
十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者
三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/442793/
「集団強姦」でっちあげ 「仕事行きたくなくて」ネットで依頼 虚偽通報容疑の女ら書類送検
2018年08月21日06時00分 (更新 08月21日 09時05分)

 福岡県宗像市で6月、男2人から性的暴行の被害に遭ったなどとうその通報をして警察の業務を妨害したとして、福岡県警が今月、偽計業務妨害の疑いで、県内の男女3人を福岡地検書類送検していたことが捜査関係者への取材で20日、分かった。

 書類送検されたのは、いずれも県内在住で、銀行員の20代の女と、女に協力した20代の男ら2人。書類送検容疑は6月中旬、共謀して、うその性犯罪事件をでっち上げ、警察官の業務を妨害した疑い。

 捜査関係者によると、女がインターネットを通じて知り合った男2人に「連れ去ってレイプしてほしい」などと依頼。2人は実際に、宗像市内で帰宅中の女を車で連れ去り、わいせつな行為をしたという。女が家族に「集団強姦(ごうかん)の被害に遭った」と相談し、両親が県警に通報した。

 県警は防犯カメラの映像などから男2人を特定。事情を聴いたところ、「女から頼まれた」と話し、女と連絡を取り合って計画していたことなどから虚偽の事件と判断した。女は動機について「仕事に行きたくなかった。彼氏の気も引きたかった」と話したという。

   ◇    ◇

捜査に延べ70人投入

 “事件”の一報を受け、県警は延べ70人以上の捜査員を投入した。浜松市の女性看護師(29)が車ごと拉致され、6月上旬に静岡県の山中で遺体が見つかった事件の発生直後で、捜査幹部は「手口に共通点もあり、大きく構えた。性犯罪は被害者の心情に配慮して細かく聞けない場合もあり、初動が肝心だ」と話す。

 うその通報で摘発されたケースは過去にもある。福岡県内では昨年11月、警察に虚偽の通報をして駆け付けたパトカーから走って逃げ回る「パト戦」という行為を繰り返したとして、15~17歳の少年約10人が軽犯罪法違反(虚偽申告)などの疑いで書類送検された。

 一方で、目撃者からの通報は、火災や事件事故を早く察知する重要な手段だ。警察庁は「善意の通報なら、結果的に違っても罪に問われることは基本的にはない」と呼び掛ける。

 今回、書類送検に踏み切ったことについて県警幹部は「虚偽の通報に対応している間に、別の重大事件が起きる可能性もある。うその代償は大きい」と指摘した。

=2018/08/21付 西日本新聞朝刊=

一夫多妻制の国の人が、日本国内で婚姻をすると重婚罪になる。

 

https://www.zakzak.co.jp/ent/news/180820/ent1808208026-n1.html
ところが日本では当然のことながら重婚になってしまう。ということで、北山はギニア国籍の取得を申請中という状況なのだ。手続きが終了する10月には挙式・披露宴を行うという。

刑法
第三条(国民の国外犯)
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
五 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦かん、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)、第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
・・
第一八四条(重婚)
 配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。
・・・
法の適用に関する通則法
婚姻の成立及び方式)
第二十四条  
1 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2  婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3  前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。

条解刑法
1 ) 本条の趣旨
一夫一婦制という婚姻の制度あるいは社会的秩序を保護法益とするものと解される。この規定によって配偶者ないしその家庭も保護されることになるが,それは,反射的な効果と解すべきであろう。

重婚
本罪の行為は,重ねて婚姻することである。この婚姻(後婚)も,法律上の有効な婚姻である必要がある。事実婚で足りるとする見解もあるが,本条が民法と同じ「婚姻」という文言を用い(民732等), 225条では「結婚」と表現されていることからも,法律婚と解すべきである。
日本人が国外で婚姻した場合,それが我が国でも有効なものであれば(法適用通則24参照),前婚・後婚を問わず,本条の要件を充たすことになる。なお,日本人が国外で後婚を行った場合にも( 3(5)), また外国人が日本国内で、後婚を行った場合にも本条が適用される(1①)。外国人の場合,その本国では重婚が許されていても,本罪が成立する。
・・・
注釈刑法(4) 各則(2)
(3) 外国で婚姻するばあい,届出のない婚姻がわが国法上有効と認められるぱあいがある(法例131但〉。前婚または後婚がかかる婚姻であることを妨げない(泉二・各414) ただし後婚は,日本人のばあいには外国でしでもよい(属人主義)が、外国人のぱあいにはわが国ですることを要する(属地主義) (泉ニ・各414。)
なお外国人のぱあい,本国法で重婚が許されていることを妨げない泉ニ・各414頁〉。
・・・
コンメンタール刑法第3版9巻
2 行為
4 行為は,重ねて婚姻することである.
ここに、婚姻は我が民法上有効に成虫している法律婚に限られる(前掲名古屋高判昭36・11・8. 通説である)事実婚で足りるとする説もあるが(団藤・注釈(4)所325 大塚・注解811員等参照).本条の趣旨に照らすと,処罰の範囲が広きに失すると思われると,本条と225条で婚姻と結婚を使い分けている点からも法律婚を指すと解すべきである(条解刑法485頁).
後婚が無効のものであるときは,本罪は成立しない.
4 外国法による婚姻
日本人同士の婚姻の場介は,婚姻挙行地が外国で,その地の方式によって婚姻した場合でも,婚姻成立の要件は本国法である我が国の民法によるので(担、適用通則24条.なお,婚姻の方式としては民泣、741条による届出も可能).前婚,後婚ともにこのような婚姻であっても本罪の成立を妨げない(団藤注釈(4)所325頁 条解刑法485頁参照).
「配偶者ある者」が外国人である場合は,我が国の婚姻制度を維持するという本条の趣旨からいって,後婚が日本人とあるいは日本の方式に従って行われることを要しよう。ただし外国人の場合には,後婚が日本国内で行われることを要する(3条5号参照) 外国人の本国法が重婚を許すものであってもよい(団藤・注釈(4)所325頁,条解刑法485頁参照)

強姦罪の起訴率の低下が著しい。一九九八年の七二・三%から徐々に低下をし て、強姦罪の下限が二年以上から三年以上に引き上げられ、これが二〇〇四年 でしたけれども、この二〇〇四年を経て、二〇〇五年からは低下の一途をたど っています。一昨年は三五・三%に半減しました。(193-衆-法務委員会-21号 平成29年06月07日)

 起訴猶予とか無罪になるというのは事件によるので

193-衆-法務委員会-21号 平成29年06月07日
○池内委員 裁判官が個人的な経験則やまた思い込みによって価値判断を下す
ようなことがあったら、本当に大変なことだと思います。
 裁判員制度の導入の後、性犯罪の量刑というのは、特に強姦致傷罪では若干
重い方へとシフトしています。この点で、裁判員に性犯罪を裁かせることは危
険ではないかと職業裁判官が危惧していましたけれども、むしろ真の危険は、
性犯罪の違法性、保護法益、被害の実態が正確に理解されず、経験則もジェン
ダーバイアスや時代おくれの強姦神話に基づいており、罰せられるべき加害者
が無罪や不当に軽い刑に処され、逆に被害者は二次被害セカンドレイプやP
TSDに苦しんできた、日本の刑事裁判そのものに潜んでいたのではないかと
強調したいと、島岡まな大阪大学教授が厳しく批判をしています。私は、この
ことを肝に銘じるべきだというふうに思うんです。
 強姦罪の起訴率の低下が著しい。一九九八年の七二・三%から徐々に低下を
して、強姦罪の下限が二年以上から三年以上に引き上げられ、これが二〇〇四
年でしたけれども、この二〇〇四年を経て、二〇〇五年からは低下の一途をた
どっています。一昨年は三五・三%に半減しました。
 嫌疑不十分による不起訴が増大しています。不起訴のうち嫌疑不十分が四割
から五割を占めている、この理由は何でしょうか。内閣府の女性に対する暴力
専門調査会では、学識経験者の方がこう言っています、検察は顔見知りの事件
を起訴しない傾向があると。この指摘はどうでしょうか。
    〔今野委員長代理退席、委員長着席〕

○林政府参考人 御指摘の強姦罪の起訴率、ここ十年ほど低下傾向にあるとい
うことは承知しております。ただ、これは刑法犯全体についても同様の傾向が
見られております。強姦罪に限って起訴率が低下しているものとは認識してお
りません。
 また、この起訴率でございますが、個別具体の事案に即しての起訴、不起訴
の判断の集積でございますので、起訴率の低下について、その原因あるいは評
価を一概に述べることはやや困難であろうかと思います。
 その上で、顔見知りの場合と顔見知りでない者との判断で検察官の評価が違
うかどうかということでございますが、この強姦罪について見れば、既に検挙
件数のうち半分半分、顔見知りの者による犯行あるいは顔見知りでない者の犯
行、これはほぼ半々でございます。
 捜査、公判の実務におきましては、被疑者となっている者については半分が
顔見知り、半分が顔見知りでない、そういった件数になっておりまして、こう
いった状況のもとで、検察官が、顔見知りの場合にはどのような起訴をする傾
向があるか、あるいは顔見知りでない場合にどのような起訴をするのかという
ことについては、その判断の中で全くその傾向はないものと考えております。

○池内委員 今、強姦罪の起訴率が低下しているということはお認めになって
いる。
 ほかのも起訴率は下がっていると言ったんですけれども、でも、強盗の起訴
率というのはおおむね六割から七割で推移していますよ。殺人罪だって実質五
割程度。強姦罪は格段に、これはほかとは比べられないぐらいに低下している
ということは私は言っておきたいし、また、半分半分だとおっしゃったけれど
も、暗数が物すごく多いということを考えれば、本来であればもっと性犯罪と
してちゃんと処罰しなきゃいけないものが隠れているということを私は指摘し
たいというふうに思います。
 二〇〇八年六月の大阪地裁の強姦罪無罪判決は、二十四歳の被告が出会って
二日目の十四歳の少女を姦淫した事件ですけれども、被害少女が性交に同意し
ていなかったことを認めながらも、加えられた暴行の程度に関し、被告人が被
害少女の足を開く行為及び被害少女に覆いかぶさる行為が、犯行を著しく困難
にする程度の有形力の行使であるとは認めがたいというふうにしました。結
局、叫ぶほどの拒絶、本気で抵抗するべきものという裁判官の強姦神話、女性
に対する厳格な貞操維持の義務を求めているとしか思えない判決じゃないかと
思います。
 起訴した検察は、こうした無罪判決が出ると、負けてしまうんだったら起訴
しないという方向に流れるんじゃないですか。

○林政府参考人 検察官といたしましては、法と証拠に基づきまして、その場
合に検察官として起訴するかどうかについては、的確な証拠によって有罪判決
が得られる高度の見込みがある場合に限って公訴を提起するという運用が行わ
れてきております。
 この点につきましては、性犯罪あるいは強姦罪とかいうものの罪名にかかわ
らず、全体として、検察官の処理といたしましてはそのように行っているとい
うことでございます。

○池内委員 これだけ不起訴がふえています。その理由が何なのか。暴行、脅
迫要件の立証が困難なのか、故意の認定が困難なのか、顔見知り、監護者以
外、親族からの被害がどの程度かなど、さまざま要因があると思うんですね。
 法務省自身が、なぜここまで不起訴がふえているのか検証していただきたい
し、研究者などがその内容をトレースできるように情報も提供すべきだと私は
思います。この点も強く検討を求めたいというふうに思います。
 次に、内閣府の調査では、性暴力事件の七割から八割程度が顔見知りの加害
者によって行われている、このことが明らかになっています。これは、民間団
体の相談現場での実感や、諸外国の傾向とも重なるものです。
 顔見知りの間でこそ、暴行、脅迫を立証しにくい、被害が潜在化している。
嫌疑不十分の不起訴というのがこれだけふえているというのは、私は何度も繰
り返していますけれども、ますます潜在化していくのではないか。積極的に起
訴すべきじゃないでしょうか。

○林政府参考人 先ほど申し上げましたが、被疑者と被害者が顔見知りである
か否かによってその被害者の例えば信用性を判断している、そういったことは
ございません。やはり個別の具体的な事案に即して、関係証拠の中で起訴すべ
き事件は適切に起訴しているものと承知しております。

○池内委員 顔見知りの間だと、暴行、脅迫というのは必ずしも必要ない場合
がやはり多いわけですよね。必ずしも必要ではない。そうすると、この暴行、
脅迫要件というのが被害者にとってはどう働くかといえば、やはり被害の選別
化に働いているのではないか、みずからの被害を立証するときに物すごく大き
なハードルになっている。性行為の同意の有無こそ、構成要件にすべきじゃな
いですか。

○林政府参考人 同意の有無そのものを直接の構成要件にした場合、これにつ
いては、同意というものの立証というのは非常に困難なものがございます。そ
ういったことによりまして、同意の有無を直接構成要件にした場合に、かえっ
てその立証のハードルが高くなるといったことはあり得ることと考えます。
 さらには、立証のみならず、同意の有無で構成要件を考えた場合に、どの場
合に犯罪が成立するかということになりますと、交際関係のある例えば男女の
場合に、どのような場合に犯罪が成立し、どの場合に犯罪が成立しないかとい
うことについては、当事者にとりましてもなかなか予測が困難、可能性が低く
なる、こういった問題もございます。
 そういったことから、同意の有無そのものを構成要件とするということ、す
なわち、例えば暴行、脅迫という構成要件を撤廃して、構成要件の中に同意が
あるかないか、同意がない場合の性交を犯罪とする、こういうふうに定めた場
合には、その立証の点におきましてもそうですが、当事者における犯罪成立の
予測可能性というものもかなり低くなってしまう、そういった問題があろうか
と思います。

○池内委員 現実に、被害者がどれだけ抵抗したかということが常に問題にさ
れる。でも、被害者からすれば、嫌なものは嫌だし、つまり、ノー・ミーンズ
・ノーと世界の女性たちが声を上げているように、嫌なものは嫌なんですよ。
 立証が難しいとおっしゃった。でしたら、なぜ同意があると思ってしまった
のか、加害者の側に挙証責任を負わせるべきじゃないですか。

○林政府参考人 もちろん、仮に加害者の側に同意があったものの挙証責任を
負わせるという形にすれば、立証は非常に容易なものとなると思います。しか
しながら、刑事訴訟法におきましては全て検察官が挙証責任を負うというのが
大原則でございまして、その部分について挙証責任を転換するということにつ
いては、刑事訴訟法の基本構造との関係で、かなりそれは問題が大きいものと
考えます。

○池内委員 刑事訴訟法の基本構造で個人の人権が虐げられるというのはおか
しいと思います。性犯罪のときにやり方を変えるということは幾らでもできる
んじゃないか。今おっしゃいましたよね、挙証責任を加害者に負わせれば立証
は大分やりやすくなる、容易になると。だったら、やってください、被害者の
個人の人権を守ってくださいよということを私は言いたいと思う。
 実は今、私が何だかとっぴなことを言っているとお感じになるかもしれない
けれども、世界ではこのような法改正が進んでいるということなんです。
 欧米諸国では三十年から四十年前から刑法を改正してきて、韓国もそうです
ね、我が国が参考にしてきたドイツでも、昨年の改正で、被害者の明示した意
思に反すれば暴行、脅迫は不要、このように改正をしました。そのほかにも、
加害者と被害者の年齢差や、社会的地位、親族からの被害や、教師と教え子、
地位や関係性を利用した類型を処罰するという法改正が何度も重ねられていま
す。レイプシールド法とあわせて、被害者が身の安全を確保する、訴えやすい
状況を社会としてふやしてきているわけです。こうした刑法や刑事司法の手続
の改革が、女性が積極的に被害を訴えられるように変化をもたらしている。
 法務総合研究所の研究が指摘しているフランスの事例を読み上げてくださ
い。

○高嶋政府参考人 御指摘の箇所は、法務総合研究所研究部報告三十八の十六
ページ目、下から五行目から十七ページ目三行までの八行ということでよろし
いかと思いますが、読み上げます。
  フランスにおける性犯罪の発生件数は増加傾向にあるが、この背景には、
性犯罪を警察に届け出やすい環境の整備(例えば、既述の性犯罪に関する公訴
権の消滅時効に関する法改正等)及び国民、特に女性の権利意識の変化がある
ようである。すなわち、以前は性犯罪の被害、特に家庭内や親族間で起きた強
姦事件等については、被害者である女性が警察に被害届を出さない傾向が見ら
れたが、二十年ほど前から、女性の人権意識(自己の権利はだれにも侵される
ことのない絶対的で崇高な性質のものであるとの意識)の高揚とともに、自ら
警察への被害届や通報をためらわずに行うなど、女性の性犯罪の被害に関する
意識が徐々に変化しており、これが統計的に性犯罪の増加をもたらした大きな
要因の一つであると考えられている。
以上でございます。

「同種事案の量刑傾向に照らして,執行猶予付き懲役刑が相当な事案といえる」として強制わいせつ1罪で懲役1年4月執行猶予3年(東京地裁H30.4.25)

 同種事案は圧倒的に「懲役1年6月執行猶予」ですが、被害者参加してもちょっと軽い。

東京地裁平成30年 4月25日
強制わいせつ被告事件
主文
 被告人を懲役1年4月に処する。
 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
 【罪となるべき事実】
 被告人は,被害者Aに強制わいせつ行為をしようと考え,平成29年6月3日午前4時11分頃,東京都〈以下省略〉先路上において,被害者に対し,その口を左手で塞ぐなどの暴行を加え,ワンピースの裾から右手を差し入れて下着の上からその陰部を触るなどした。
 【証拠の標目】
 【法令の適用】
 罰条 平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条前段
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 【量刑の理由】
 早朝の路上で通行中の女性に背後から近付き,口を塞いだ上でわいせつ行為に及んだとの犯行態様は卑劣である。
 被害者が受けた精神的苦痛は大きく,示談成立後もなおその処罰感情は厳しい。
 自らの欲望を満たすためとの犯行動機にもとより酌量の余地はない。
 そうすると,本件は,軽視し難い路上類型の強制わいせつ事案ではあるが,紆余曲折もあって被害者の精神的苦痛が十分に慰謝されたとはいえないものの,被告人が被害者に損害賠償金50万円を支払って示談が成立したこと,被告人には前科がないことなども踏まえれば,同種事案の量刑傾向に照らして,執行猶予付き懲役刑が相当な事案といえる。以上に加えて,被告人が事実を認め反省の態度及び更生の意欲を示していること,父親が今後の監督等について証言し,母親も同旨の誓約書を作成していること,自業自得ではあるものの,被告人は,本件を契機に当時の勤務先であった大手新聞社を懲戒解雇され,また,現役の新聞記者が起こした事件として本件が実名入りで大きく報道されたとの社会的制裁も受けたことなども踏まえて,刑期及び執行猶予の期間を定めた。
 (検察官青木朝子,鎌田祥平,私選弁護人B,被害者参加弁護士C出席)
 (求刑 懲役1年4月)
 東京地方裁判所刑事第3部
 (裁判官 大川隆男)

強制わいせつ罪で逮捕して、暴行罪で略式起訴したら、簡裁が略式命令請求を拒否した事案

 林道春簡裁判事は、27期で元名古屋高裁部総括判事
 わいせつ目的の暴行は強制わいせつ(未遂)罪の一部であって、暴行罪にはならないという論点もありますが、強制わいせつ罪は簡裁の管轄外になります。

http://www.e-hoki.com/judge/2298.html
林道春
所属 岐阜簡裁判事
異動履歴 H.29. 3.25 ~ 岐阜簡裁判事
H.27. 4. 1 ~ H.29. 3.24 一宮簡裁判事
H.27. 2. 9 定年退官
H.23.12.19 ~ H.27. 2. 8 名古屋高裁部総括判事
H.22. 6.23 ~ H.23.12.18 津地家裁所長・津簡裁判事
H.20.10.31 ~ H.22. 6.22 山口地裁所長・山口簡裁判事
H.18. 4. 1 ~ H.20.10.30 名古屋高裁判事
H.13.11. 4 ~ H.18. 3.31 岐阜地家裁部総括判事
H.10. 2.10 ~ H.13.11. 3 名古屋地裁部総括判事
H. 9. 4. 1 ~ H.10. 2. 9 名古屋高裁判事
H. 6. 4. 1 ~ H. 9. 3.31 東京高裁判事
H. 4. 4. 1 ~ H. 6. 3.31 名古屋高裁判事

刑訴法
第四六三条[通常の審判]
1 第四百六十二条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
・・・
条解刑事訴訟法
1)略式命令をすることができないもの
略式命令の請求が法令上の方式に違反している場合のほか,形式的および実体的訴訟条件が具備していない場合,事件が罪とならない場合,および差し出された証拠資料によっては犯罪事実が合理的な疑いを超えて証明されたと認められない場合などをいう。
2)相当でないもの
略式命令の請求としては適法であるが,事案複雑で公判手続において慎重な審理をするのを相当と認められる場合,訴因・罰条の追加・撤回.変更を要する場合,量刑について検察官と著しく意見を異にする場合など,略式命令をすることが不相当と認められる場合をいう(461条注5参照)。
3)通常の審判手続への移行
裁判所は,略式命令請求が許されないものまたは不相当なものと認めたときは,略式手続によることなく,通常の事件として公判手続によって審理しなければならない。この場合には,別段その旨の決定をする必要はなく, また,公訴提起そのものは効力を失うわけではないので,そのまま通常の手続に移行することになる。まず第1に,起訴状謄本を被告人に送達することを要するから(4項.271),検察官に対し起訴状謄本の提出を促す意味で,検察官にその旨の通知をしなければならない。
・・・
略式手続の理論と実務
1 略式命令をすることができないとき
「略式命令をすることができないものである」とは,略式命令をすることが適法でない場合をいう。
(1) 略式命令請求の要件を具備していない場合
略式手続の告知手続書及び申述書の添附(第2章第1,第2)
(2) 形式的訴訟条件を具備していない場合
ア被告人に対する裁判権(第3章第1)
イ被告人の当事者能力
ウ同一事件について他に公訴の提起がないこと
エ公訴の取消しがあった事件については法340条の要件
親告罪については告訴があること
カ公訴提起の手続が有効であること(第2章第2)
(3) 実体的訴訟条件を具備していない場合
ア事件について既判力が生じていないこと
イ犯罪後の法令により刑が廃止されていないこと
大赦がないこと
エ公訴時効が完成していないこと(法250条)
(4) 公訴事実が要件を具備していない場合
ア事件が罪とならないとき
イ証拠が不十分で犯罪の証明がないとき(第3章第6)
2 略式命令をすることが相当でないとき
「略式命令をすることが相当でないものである」とは,略式命令請求自体は適法であるが,略式手続によることが相当ではなく,通常の公判手続により審理すべき場合をいう。
(1) 事案が複雑で,公判手続における通常の審理を相当と認めるとき
(2) 訴因・罰条の追加撤回又は変更を要するとき(第3章第5)
(3) 多くの日時を要する事実の取調べを必要とするとき
(4) 100万円以下の罰金又は科料以外の刑を科すべきものと認めたとき
(5) 量刑について検察官と著しく意見を異にするとき

 会同の資料なんて引用されても、入手できません

略式手続(七訂第二補訂版)裁判所職員総合研修所監修
p64
第4節 略式命令請求の拒否
1 要件
略式命令の請求があった場合において,裁判所は,次のいずれかの事由があるときは,通常の手続に従って審判しなければならない(法463)。
(1)事件が略式命令をすることができないものであるとき。
(2)事件が略式命令をすることが相当でないものであると思料するとき。
(3)検察官が法461条の2に定める手続をしていないとき。
(4)検察官が法462条2項に違反して略式命令を請求したとき。
何が「略式命令をすることができないもの」であり, また,何が「略式命令をすることが相当でないもの」に当たるかは, 「請求事件の審査」(第3章第1節29ページ)に関連して前に述べた。
1人の簡易裁判所判事の勤務する裁判所において,他に裁判官のてん補を求めることが困難であり,正式裁判の申立てがあるとその処理に困るような事情があるからといって,法463条にいう「略式命令をすることが相当でない」と解することはできない(注)。
(注) 刑裁資67号323ページ参照



p29
4相当性の審査
略式手続の請求を審査するに当たっては, 「略式命令をすることができないもの」(不適法)のほか, 「略式命令をすることが相当でないもの」(不相当)であるかどうかについても審査しなければならない。この相当性の審査は,形式上一応適法とされる略式命令の請求について行われる。例えば,
(1)事案が複雑で,公判手続において慎重な審理をするのを相当と認めるとき。
(2) 訴因・罰条の追加・撤回又は変更を要するとき(ただし,訴因の変更に至らない起訴状の訂正を含まない。) (注1)。
(3)複雑な事実の取調べを必要とするとき(注2)。
(4) 100万円以下の罰金又は科料以外の刑を科すべきものと認めたとき。
(5)量刑について,検察官と著しく意見を異にするとき。
などの場合には,通常手続に移して審判しなければならない場合が多いであろう。
なお,略式手続の告知手続及び被疑者の申述書(法461の2の書面)に記載された事件名が,起訴罪名と相違するときは,明らかに誤記と認められる場合を除いては, 同様に解する。告知された事実と起訴事実の同一性を知ることができないばかりでなく,法461条の2の異議権が十分に行使されたかどうかが疑わしいからである(注3)。
(注l) 「訴因の変更をしなければならない場合は,略式不相当として通常手続によることになろう。」(昭30.6仙台高裁管内簡裁判事会同・刑裁資258号17ページ。訴因の撤回につき,佐藤文哉・大学双書刑事訴訟法Ⅱ549ページ,訴因の変更につき,岩瀬徹・新実例刑事訴訟法(Ⅲ)300ページ以下。なお,昭51.2東京高裁管内簡裁判事会同・刑裁資221号342ページ参照。) 「略式手続における訴因変更の可否及び要否」(「法曹」203号81ページ以下)
(注2) 「略式命令においても刑の執行猶予をすることができることはいうまでもないが, (法461),略式命令は,書面審理に基づいてすべきものであるから,被疑者を直接取り調べる必要があるときは, 『略式命令をすることが相当でない場合」(法463) として,通常の規定に従って審判すべきであると思う。」(昭30.12高松高裁管内簡裁判事会同・刑裁資140号343ページ)
(注3) 「略式手続の告知手続および被疑者の申述書(刑訴461の2の書面)記載の事件名が起訴罪名と相違する場合は,告知された事実と起訴事実の同一性を知り得ない。同一性を認め得るとしても,刑訴法461条の2の異議権が充分に行使されたと考えることはできない。したがって,略式不相当として通常の規定に従い審判をしなければならない。」(昭31.5仙台高裁管内簡裁判事会同・刑裁資258号5ページ)

岐阜市職員巡り、略式起訴不相当 簡裁、わいせつ事件で /岐阜県2018.08.18 朝日新聞
 担当する生活保護受給者の女性に対する強制わいせつ容疑で逮捕された岐阜市職員について、岐阜区検は17日、暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁はこの処分を「不相当」とし、正式な裁判が開かれることになった。
 起訴状によると、容疑者は2017年5月から今年4月にかけて、40代の女性に岐阜市役所内で抱きつくなどしたほか、今年6月には、岐阜市内の30代の女性宅で、女性を抱き寄せるなどしたとされる。
・・・
岐阜市職員巡る略式請求不相当 暴行罪で簡裁
2018.08.18 岐阜新聞
 岐阜区検は17日、生活保護を受給する女性3人に無理やり抱きつくなどしたとして、強制わいせつ容疑で逮捕された容疑者を暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁(林道春裁判官)は同日、略式請求を「不相当」と判断し、正式裁判を開くことを決めた。
 起訴状などによると、2017年5月12日ごろ、岐阜市役所で同市の無職女性(44)に抱きついたり、今年4月10日ごろ、同市内のマンションの階段で抱き寄せたりした。また今年6月14日、同市の無職女性(34)の自宅で女性を抱き寄せたり、手を握ったりしたとされる。
被告は逮捕時、肩を抱いたり、手を握ったりする行為を認めた一方で、「下心はなかった」などと供述していた。
 岐阜地検は、同市の無職女性(35)の自宅で背後から女性の胸をもむなどした強制わいせつの罪については不起訴処分とした。17日付。
・・・
岐阜市職員の略式不相当 わいせつ行為、正式裁判へ
2018.08.18 共同通信 
 岐阜区検は18日までに、生活保護を受給する岐阜市の女性にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつの疑いで逮捕された容疑者を暴行の罪で略式起訴した。岐阜簡裁は「略式不相当」と判断し、正式な裁判が開かれる。17日付。
 起訴状によると、昨年5月~今年4月ごろ、市役所内や自動車内などで無職女性(44)に抱きつくなどし、今年6月14日には、無職女性(34)の自宅で女性を抱き寄せ、手を握ったとされる。岐阜中署によると、被告はケースワーカーとして2人の女性を担当していた。
 また岐阜地検は、被告が同じく担当していた無職女性(35)に対する強制わいせつ容疑については不起訴処分とした。処分理由は明らかにしていない。

逮捕報道

別の女性にも容疑で再逮捕 強制わいせつ容疑逮捕の岐阜市職員 /岐阜県2018.08.08 朝日新聞
 署によると、容疑者は2015年3月ごろから同年5月ごろまでの間に、複数回にわたり、職務で訪れた岐阜市内の30代の女性宅で、女性の背後から胸をもむなどした疑いがある。17年5月ごろから今年5月までの間には、40代の女性に市役所内で、複数回抱きつくなどした疑いがある。

sexting少女も自主退学

 欺したり、脅したりしなくても、裸送ってくるからなあ。
 広まっちゃうと、被害回復不能になる。

友人少女の裸動画拡散疑い、愛知 高校生ら14人書類送検
2018.08.17 共同通信 
 愛知県警少年課は17日、友人の少女に裸を撮影させ、その動画をLINE(ライン)で同級生らに送信し拡散させたなどとして、児童買春・ポルノ禁止法違反(製造、提供、公然陳列)などの疑いで、いずれも同県在住の無職少年(16)と、15、16歳の高校生の男女13人の計14人を書類送検した。

 無職少年の送検容疑は5月29日、当時15歳の少女にスマートフォンのカメラで裸の動画を撮影させ、6月3日に少年のスマホに送信させた上、翌4日にかけて中学の同級生だった知人の男子高校生(15)ら3人に動画を提供するなどした疑い。

 少年課によると、男子高校生が同級生らのLINEグループに動画を投稿するなどして、最終的に14人の一部を含む少なくとも50人の高校生らに動画が拡散した。
・・・
◎少女の裸動画拡散容疑=高校生ら14人書類送検-愛知県警
2018.08.17 時事通信 
 女子高校生の裸の動画をスマートフォンで送信し拡散したなどとして、愛知県警少年課は17日、児童買春・ポルノ禁止法違反などの容疑で、愛知県内の無職少年(16)と高校生の男女13人を書類送検した。全員容疑を認めているという。
 無職少年の送検容疑は6月3日、中学の同級生だった少女(15)に撮影させた裸の動画を自分のスマホに送信させ、翌4日までに同級生ら3人に転送して提供した疑い。
 同課によると、動画はLINE(ライン)などを通じて転送が繰り返され、約50人に拡散したとみられる。同課は動画を受け取っただけでなく、転送するなどした13人を書類送検した。「知らない人の動画だから」などと軽い気持ちで転送していたという。 
 少女が警察に被害を相談。無職少年は高校を退学処分となり、少女も自主退学したという。
同課の杉浦巌課長は「被害者の保護も必要だが、警鐘を鳴らす意味で発表した」と説明した。

弁護士が警察に「面会が終わったことは署員に自分が伝えるので、そのまま帰ってほしい」と言ったらしい

 ここは守秘義務で黙秘で。
 計画性立証に使われちゃうかもで、信頼失う。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180817/k10011580451000.html
大阪の富田林警察署で勾留されていた男が、弁護士と面会したあと接見室から逃走した事件で、男が弁護士に対し「面会が終わったことは署員に自分が伝えるので、そのまま帰ってほしい」という趣旨の話をしていたことが関係者への取材でわかりました。警察は計画的に逃走したと見て、行方を捜査しています。

強盗傷害や窃盗の罪で起訴され、性的暴行をしようとした疑いで再逮捕されていた容疑者)は、今月12日の夜、接見室で弁護士と会ったあと、アクリル板を破って逃走しました。
発生から5日目となりますが、依然として行方はわかっていません。
警察のその後の調べで、容疑者が接見を終えて帰ろうとした弁護士に対し、「面会が終わったことは署員に自分が伝えるので、そのまま帰ってほしい」という趣旨の話をしていたことが関係者への取材でわかりました。
この警察署では接見室の扉を開けた時に鳴るブザーは、電池が抜かれていて使われておらず、弁護士は容疑者の要望どおり、署員に伝えずに警察署を離れていて、事件が発覚したのは、およそ1時間45分後でした。
警察は接見室で1人になる時間を作り計画的に逃走したと見て、いきさつを調べています。

https://mainichi.jp/articles/20180817/k00/00e/040/294000c
捜査関係者によると、容疑者は接見が終わる前、弁護士に「署員には言わなくてもいい」という趣旨の話をしたという。弁護士の事務所は「取材には一切答えられない」と話している。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20180817-OYT1T50121.html
容疑者が弁護士に「面会が終わったことは自分が署員に伝える」と虚偽の説明をしていたことが、わかった。署員に弁護士から接見終了が伝わるのを防いで面会室に1人で残る狙いとみられ、逃走が計画的だった可能性も浮上する。
・・・
捜査関係者によると、弁護士は府警に対し、容疑者が「留置場が忙しいので、面会が終わったことは自分が連絡する。そのまま帰ってください」などと話したと説明したという。

https://www.sankei.com/west/news/180817/wst1808170091-n1.html
容疑者は12日午後7時半ごろから、同署2階の面会室で弁護士と接見。同8時ごろに弁護士が退出した後、室内のアクリル板を蹴破って逃走した。捜査関係者によると、容疑者は接見を終える際、弁護士に「署員に終わったことを伝えなくていい」との趣旨の話をしたという。
同署では接見する弁護士に対し「終了した際は声をかけてほしい」と伝えていたが、このとき弁護士は署員に声をかけなかった。弁護士側の扉には開くとブザーが鳴る装置があったが、同署は「接見終了時に、弁護士が署員に声を掛けることが多いため不要」として電池を抜いていた。
 この結果、同署は接見終了に気付かず、留置場の担当者が長時間の接見を不審に思い、面会室を開けて誰もいないのに気付いたのは同9時43分だった。
 面会室につながる前室にも当時、執務時間外で署員は配置されていなかった。捜査本部は、署の態勢が手薄な日曜日の夜間を狙った可能性もあるとみている

条解弁護士法 第4版(2012年 弘文堂)
(秘密保持の権利及び義務)
第23条
弁護士又は弁護士であった者は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負う。但し,法律に別段の定めがある場合は,この限りでない。
【1】本条の趣旨
本条は,弁護士文は弁護士であった者に対し,職務上知り得た秘密を保持する権利と義務があることを規定する。
依頼者は,法律事件について,秘密に関する事項を打ち明けて弁護士に法律事務を委任するものであるから,職務上知り得た秘密を他に漏らさないことは,弁護士の義務として最も重要視されるものであり,また,この義務が遵守されることによって,弁護士の職業の存立が保障されるともいえる。
この弁護士の秘密保持の権利と義務は,法1条2項に規定された誠実義務のー内容とみられるものである。
なお,弁護士の秘密保持義務については,刑法の秘密漏示罪(134条1項)により,刑罰をもって裏づけがなされている。


【5】保持の権利と義務
1 秘密保持の権利・義務は,本条但書により,法律に別段の定めがある場合にはないとされるから,その意味で制限的なものである。そして,法律に別段の定めのある場合とは,民事訴訟法197条2項,刑事訴訟法105条但書, 149条但書の場合がこれにあたるものと解される。
・・・
この関係で,問題となるのが,民事訴訟法や刑事訴訟法上,証言を拒絶することができる場合において,この拒絶の権利を行使しなかったとき,本条の秘密保持義務に違反するかという点であるが,肯定的に解すべきである。けだし,弁護士について証言拒絶権が保障されているのであるから,その権利を適正に行使しないことは正当な理由がないこととなるというべきだからである。

なお,証言拒絶権の行使をせずに証言した場合,刑法上の秘密漏示罪が成立するかについては見解が分かれるが,秘密を守られることによる本人の利益と弁護士が証言をすることによって得られる司法上の利益とを比較衡量し,後者が優越している場合には,違法性がないと解するのが相当であろう(斎藤秀夫他編『注解民事訴訟法(第2版) (7)」 438頁参照)。

刑訴第一〇五条[押収と業務上の秘密]
 医師、歯科医師助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

高中正彦 弁護士法第4版P109
3 義務の解除
23条本文には、刑法134条1項にある「正当な理由がないのに」という要件がないが、秘密を開示する正当な理由がある場合には、23条本文違反とはならないものと解するべきである(仙台高判昭46・2・4下民集22巻l・2号81頁)。正当な理由のある場合とは、秘密の主体の同意があった場合、弁護士自身が民事・刑事の係争当事者となったり、懲戒請求を受けた場合、すなわち自己防衛の必要性がある場合、依頼者の犯罪行為の意思が明確で実行行為が差し迫っており、その結果も重大である場合などが考え
られる。なお、民事訴訟法(196条)、刑事訴訟法(149条)の規定により証人としての証言拒絶ができる場合に、これをせずに証言を行い秘密を漏らしたときは、正当な理由があるとはいえないから、23条違反となるというべきである。
(12)加藤新太郎・コモンベーシック弁護士倫理(有斐閣・2006) 110頁。
(13)前掲大阪高判平19・2・28は、突然にメールを送信された弁護士が、送信者が実在するかを確認するためメールに名前が出ている弁護士に対しメールがあったことを告げた行為は、正当な理由によって守秘義務を免れる行為であって、守秘義務に違反しないとする。

弁護士川本瑞紀「現代女性は,合意がないセックスはレイプ(強制性交)だと思っていますこの感覚と,刑法上「強制性交」と評価される行為とは, あまりにもかけ離れているので,相談が来たときに必ず被害者に, 「ご説明メモ」というペーパーを見せています。」捜査研究812号

 強姦弁護人にも参考になる。

犯罪被害者支援と弁護士実務
第13回強姦神話という迷信
犯罪被害者支援弁護士フオーラム(VSフォーラム)
弁護士川本瑞紀
2 レイプに関する現代女性の認識
現代女性は,合意がないセックスはレイプ(強制性交)だと思っていますこの感覚と,刑法上「強制性交」と評価される行為とは, あまりにもかけ離れているので,相談が来たときに必ず被害者に, 「ご説明メモ」というペーパーを見せています。
これは,小林充・香城敏麿編「刑事事実認定一裁判例の総合的研究(下)』(判例タイムズ社)の第8章「実行行為等」のうち, 「強姦の成否」部分の要点のみを抜き出したものです。この本は, 司法研修所の刑事裁判の授業で,読んでおくように勧められるものです。被害者には「この本を使って裁判官も検察官も弁護人も勉強をしているので,捜査段階でも公判に進んでも, この本の枠組みで判断されていきますよ」と説明をしているのです(ご参考までに「ご説明メモ」を「資料」として末尾に掲載します。)。
・・・
資料)
ご説明メモ(『刑事事実認定一裁判例の総合的研究(下)』より)
第1  刑事事件において裁判所が想定する典型的な態様の強姦行為
・夜間人通りのない暗がりでいきなり或いは待ち伏せして通行中の婦女子に姦淫目的で襲いかかる場合
・被害者と一面識もない者が自動車にむりやりこれを引きずり込み或いは甘言をもって乗車させて拉致したうえ,人里離れた場所や孤絶したモーテルで犯す場合
・夜間一人住まいの女性の居室に侵入,就寝中であった被害者の懸命の抵抗を抑えつけて挑む場合
・いわゆる輪姦の場合

第2  強姦事件の刑事裁判において,争点となる可能性が高い要素
①性行為について被害者の承諾があったかどうか
②暴行脅迫が,被害者の「抗拒を著しく困難ならしめる程度」に達していたかどうか
③強姦の犯意で未遂に終わったのか,強制わいせつのみの目的であったか
④犯人性
第3 第2①について,裁判所の判断基準
ア暴行脅迫の程度態様が強烈なものであったか,被害者の抵抗が積極的で激しく強いものであったか
イ(アが否定され得る場合)被害者のおかれた具体的状況が,抵抗できないような又は拒否的な態度を取れないようなものであったか
ウ被害者の犯行中における挙動,所作の中にかりそめにも性行為を容認したのではないかと窺わせるような節はなかったか。逆に拒絶の意思を陰に陽に示す振る舞いがあったかどうか。
○泣く,大声で叫ぶ,足をばたつかせる,蹴る,逃げようとする, 「いや」と言う。
△身を固くする, いやいやして首を振る,身をよじる,両足を固く閉じて開こうとしない
エ(アが否定され得る場合)被害者がどのような経緯,心理状況,四囲の事情からそういう挙動に出たかなど自然で合理的な説明がつきうる背景があったかどうか。
例:抵抗できぬ弱みを握られていたかどうか(心理状況)
 助けを求めても無駄な場所、逃げ出せない状況(四囲の事情)
オ被害者の届出,通報,告訴が犯行直後になされたかどうか
力被害者の|司意承諾を凡そ予期或いは期待できるような経過なり事情があったかどうか,その他情交がVi穏裡に行われたと考えるのを妨げるような事情がなかったか。
第4 第2②について,裁判所の判断基準
相手方の年令,性別, 素行,経歴等やそれがなされた時間場所の四囲の環境その他具体的事情の如何と相伴って相手方の抗拒を不能にし又は此れを著しく困難ならしめるものであれば足りる。

淫行(青少年条例違反)の慰謝料が100万円という弁護士や、青少年条例の保護法益が「貞操権」とか「性的自由」という弁護士

 被害者側と加害者側の双方にこういう弁護士が付けば、100万円程度で示談できるかも知れませんね。
 奥村の経験でも「貞操権侵害」とか「操を害された」として訴額200~300万円で民事訴訟を提起されることがありますが、下記の判例解説とか民事裁判例を挙げれば、1回10~30万円の判決・和解になります。
 高橋調査官の話を交通事故に喩えると、事故に相当するのが児童淫行罪で、事故になりそうだが事故に至っていない交通違反(速度超過とか飲酒運転とか)に相当するのが青少年淫行罪だということで理解しておけばいいでしょう。

最高裁判所判例解説刑事篇
昭和60年度201頁
福岡県青少年保護育成条例違反被告事件昭和60年10月23日
高橋省吾
本条例の淫行罪は、淫行は青少年にとってはそれ自体で健全育成に対する抽象的危険を招くものであるという認識に立った上で、青少年以外の者に対して、このような危険を回避すべき義務を課し、右義務違反に違法性を認めているものと解することもできよう(亀山継夫「児童に淫行をさせる罪(その二 研修三四七号六〇頁参照)

https://www.bengo4.com/c_3/c_1377/b_693499/
未成年と知りながら成人男性が淫行しました
2018年08月09日 09時52分

堀 晴美 弁護士
東京 渋谷
弁護士ランキング 東京都6位 離婚・男女問題に注力する弁護士
請求できる金額としては100万くらいかと思います。
脅迫、強要と取られないよう、言葉を慎重に選ぶ必要があります。またボイスレコーダーを持参して録音しておいた方がよいと思います。
ホテルに入らなければ淫行の未遂ということになると思います。 2018年08月09日 09時57分

2018年08月09日 10時24分
岡村 茂樹
岡村 茂樹 弁護士
埼玉 さいたま市 浦和区
弁護士ランキング 埼玉県1位 離婚・男女問題に注力する弁護士
ありがとう
> 相手に慰謝料の請求項目として、何を訴えるのが良いでしょうか?
・淫行による未成年者の貞操侵害でしょう。 2018年08月09日 10時44分

岡村 茂樹 弁護士
埼玉 さいたま市 浦和区
弁護士ランキング 埼玉県1位 離婚・男女問題に注力する弁護士
ありがとう
保護されるべき心身が未熟な青少年の性的自由の侵害です。
淫行防止条例にいう淫行は,「その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」と解釈されています。 2018年08月09日 11時11分

少年法37条削除の理由~調査と情報第963号

 児童ポルノ・児童買春法を少年に理解のある家庭裁判所が取り扱うのが適当であるということで家裁管轄にしておけば混乱無かったでしょうね。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10356511_po_0963.pdf?contentNo=1&alternativeNo=
調査と情報―ISSUE BRIEF―
第963号
No. 963(2017. 5.25)
少年法の適用年齢引下げをめぐる議論
(3)平成 20(2008)年改正
平成 20(2008)年改正24では、少年審判における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るため、被害者等による記録の閲覧及び謄写の範囲の拡大(第 5 条の 2 第 1 項)、被害者等の申出による意見の聴取の対象者の拡大(第 9 条の 2)、一定の重大事件の被害者等が少年審判を傍聴できる制度の創設(第 22 条の 4)、家庭裁判所が被害者等に対し審判の状況を説明する制度の創設(第 22 条の 6)がなされた。
また、少年の福祉を害する成人の刑事事件に、より適切に対処するため、その管轄が家庭裁判所から地方裁判所等へ移管された(第 37 条及び第 38条の削除25)。26
 
25 改正前の少年法第 37 条では、第 1 項に掲げる児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)のような少年の福祉を害する成年の刑事事件は、家庭裁判所が第一審の裁判権を有するものとされていた。この規定が設けられたのは、このような成人の刑事事件は、少年事件を専門に扱い少年に理解のある家庭裁判所が取り扱うのが適当である
等の理由によるものであったが、同項に掲げる事件とそれ以外の事件とが併合罪の関係の場合、家庭裁判所地方裁判所等に別々に公訴が提起され、審理期間が不当に長くなる等の問題が指摘されていた。また、改正前の少年法第 38 条では、家庭裁判所は、少年に対する保護事件の調査又は審判により、少年法第 37 条第 1 項に掲げる事件を発見したときは、これを検察官又は司法警察員に通知しなければならないとされていた。しかし、家庭裁判所の調査・審判の過程において発見されることが多い少年の福祉を害する成人の刑事事件は、第 37 条第 1 項に掲げる事件に限られるものではなく、仮に通知の対象となる規定を整備すると、対象事件の範囲がかなり広がり、刑事訴訟法第 239 条第 2 項に基づき公務員に求められる告発に近づくことになるため、少年法第 38 条のような規定をあえて維持する必要性は低くなる。こうした事情を踏まえ、両規定が削除されることになった。(岡崎忠之「法令解説少年審判における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護等を図るための法整備 少年法の一部を改正する法律」『時の法令』no.1822, 2008.11.30, pp.14-16.)
26 詳しい内容は、同上, pp.6-16 参照。

岡田好史 不特定多数の者に提供する目的で、衣服をつけない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材としてコンピュータグラフィックスを作成する行為と児童ポルノ製造罪東京高裁平成29年1月24H第10刑事部判決平成28年(う)第872号児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件高刑集70巻1号1頁 刑事法ジャーナル56号

岡田好史 不特定多数の者に提供する目的で、衣服をつけない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材としてコンピュータグラフィックスを作成する行為と児童ポルノ製造罪東京高裁平成29年1月24日第10刑事部判決平成28年(う)第872号児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件高刑集70巻1号1頁 刑事法ジャーナル56号
 個人的法益寄り。
 破棄理由となった罪数問題については言及なし。

 裁判経緯・評釈をwestlawから。ずーっと上告中。

裁判年月日 平成29年 1月24日 
裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件名 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
裁判結果 破棄自判・一部無罪、一部有罪(罰金30万円(求刑 懲役2年及び罰金100万円)) 
上訴等 上告 
文献番号 2017WLJPCA01246001
出典
高刑 70巻1号10頁
裁判所ウェブサイト
判タ 1446号185頁 
判時 2363号110頁
エストロー・ジャパン
評釈
渡邊卓也・ジュリ臨増 1518号169頁(平29重判解) 
髙良幸哉・法学新報(中央大学) 125巻1・2号173頁
上田正基・立命館法学 372号157頁
岡田好史・刑事法ジャーナル 56号149頁

児童ポルノ法がわいせつ罪的側面を有していることは否定できない。しかし、性的描写の点ではわいせつ表現よりも児童ポルノの方がわいせつに達しない描写も含んでいる点でより広い規制となっていること、刑法175条と異なり児童ポルノ関連犯罪の方が相当広範囲にわたる行為を規制対象としていること、罰則においても刑法175条よりも児童ポルノ関連犯罪の方が重く設定されていることからすると、児童ポルノ法は既存の性刑法に比べて相当厳しい規制であることと認められる。
立法の沿革等から児童ポルノ関連犯罪も物に対する規制であるとの理解が広がり、個人的法益性が読み取りづらくなっていたといえるが、法文から社会的法益性が読み取れるとしても、法の目的や立法趣旨、児童保護措置規定の存在からすると、少なくとも現行法においては、児童の個人的法益の保護が第一次的であると解すべきであり、社会的法益は個人的法益に付随して副次的に認められるに過ぎないというべきであろう
・・・
4本判決の意義
児童ポルノにかかわる表現につき、厳格な規制による保護が憲法上正当化される根拠は、表現の自由についての規制にかかる以上、児童を性欲の対象としない風潮の維持や児童の健全な心身の成長を脅かす環境の排除といった社会的法益自体から正当化することは困難である。すなわち、児童ポルノの作成や流通から被る害悪から被害児童を保護するという実在児童の個人的法益があくまでも前提であって、児童ポルノの受け手への悪影響の除去、児童の健全な心身の成長を脅かす環境の排除自体から、児童ポルノの規制は根拠付けられるものではないと解するべきである。
本件では、実在性を判断するにあたり、モデルとされた児童とCGとしての児童との同一性は、機械的一致によらずともよいということを明らかにしている。CG等により極めてリアルに描写されたものに対しては、被害児童の描写と認識されることがありうることから、総合的に考慮するとしたことは評価できる。
本件では、精綴に作られたCGの立証の困難さも浮き彫りにしている。今後の判例の判断、集積が待たれる。
(おかだ・よしふみ

授乳写真が児童ポルノになるのかという議論~授乳写真を投稿 母乳育児週間への理解を…

授乳写真が児童ポルノになるのかという議論~授乳写真を投稿 母乳育児週間への理解を…
 結論は違法ではないとすべきですが、理由付けが難しい。
 児童ポルノ法は母乳育児週間に理解がない。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180806-00000149-dal-ent
道端ジェシカ 授乳写真を投稿 母乳育児週間への理解を…
8/6(月) 23:05配信 デイリースポーツ
道端ジェシカ 授乳写真を投稿 母乳育児週間への理解を…
 道端ジェシ
 モデルの道端ジェシカが5日、インスタグラムを更新し、生後9カ月の娘「JOY」ちゃんへの授乳写真を投稿し、「世界母乳育児週間」(8月1~7日)への理解を求めた。

 実は、授乳写真が児童ポルノになるのかという議論があります。
https://www.google.co.jp/search?q=%E6%8E%88%E4%B9%B3+%E5%85%90%E7%AB%A5%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%8E&oq=%E6%8E%88%E4%B9%B3%E3%80%80%E5%85%90%E7%AB%A5%E3%83%9D%E3%83%AB%E3%83%8E&aqs=chrome..69i57.9410j0j4&sourceid=chrome&ie=UTF-8

 日本法でいうと、法2条3項2号の「性器等」=性器、肛門又は乳首(同条2項)なので、児童が成人の乳首を触る場合も含みます。
 法文上は「性欲を興奮させ又は刺激するもの」にならないようにするしかないですが、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」の要件については、一般人基準ですが、マイナーな嗜好の人も含めて「一般人」だという判例(大阪高裁H24.7.12)があるので、これで興奮する嗜好の人がいないのであれば、2号に該当しないことになります。
 最近の高裁判例では、親が撮影しても児童ポルノに該当しうるとされています。

裁判年月日  平成30年 1月30日 
裁判所名  東京高裁 
文献番号  2018WLJPCA01306002
   (2)  論旨は,また,原判決が児童ポルノと認めた画像の中には,一般人の性欲を興奮又は刺激させないものが含まれているとして,具体的には,トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童を拘束している画像,上半身裸の男児の目や口をガムテープで塞ぎ両手を緊縛した画像で性器が映っていないもの,児童が突っ立っている画像を挙げ,これらの画像を撮影した行為について児童ポルノ製造罪を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,原判決は,公訴事実に含まれる各画像を個別に検討し,一部の画像を性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないとするなど,児童ポルノの該当性を慎重に判断しており,所論指摘の画像の撮影行為をいずれも児童ポルノに該当するとした原判決の判断は不合理ではない。トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童が突っ立っている画像であって,児童に殊更扇情的な姿態をとらせたものではなくても,性器を殊更露出させたものであれば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。また,全裸で両手を縛った画像や性器をひもで緊縛するなどして児童を拘束している画像や,上半身裸の男児の目,口をガムテープで塞ぎ両手を緊縛した画像も,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。所論は,少年アイドルの上半身裸の写真や小学生の水泳の写真と同視でき,児童ポルノに該当しないとも主張するが,それらは,画像から読み取れる姿態,場面,周囲の状況,構図等を総合的に考慮して判断するならば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとはいえないと評価されるにすぎない。なお,保護者が陰茎をつまんで撮影した写真は,児童ポルノに該当するが,その製造,所持の目的が,子供の成長の記録のためであるなどして,性的好奇心を満たす目的等に欠ける場合には,犯罪を構成しないと評価されるだけである。

阪高裁H24.7.12
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。
)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。

 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。
しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。
すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。
本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。
そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。
しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。
そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。
ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。
他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。
したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。

 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(H26改正後)
第二条 
1 この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

医師の面談を拒否されて、医師との面談を強く求め、事務局長に「医師を出さないと痛い目に遭わせるぞ」と申し向けたり。包丁を示す行為は、脅迫罪ではなく強要未遂罪なので罰金刑が選択できない。~イチケイのカラス(モーニング2018/08/16号)

脅迫して義務無きことを行わせようとすると、強要未遂罪になって、脅迫罪は成立しないことになって、罰金刑を選択できません。脅迫して何か頼むという点は罪となるべき事実に記載しないことだ。
 脅迫罪として罰金刑とした原判決には法令適用の誤りがある。

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刑法
第二二二条(脅迫)
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
第二二三条(強要)
 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3前二項の罪の未遂は、罰する。

 脅迫罪の犯罪事実にはそこまで書き込まないものだ。

脅迫被告事件、詐欺被告事件
【事件番号】 福岡地方裁判所判決
【判決日付】 平成29年12月27日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
第1 被告人は,元交際相手であるA(当時24歳)を脅迫しようと考え,平成28年8月28日午後7時26分ころから同月29日午後1時54分ころまでの間,福岡県内において,自己が使用する携帯電話機から前記Aが使用する携帯電話機に,「絶対地獄に落としてやろ」「ソープに沈めてもいい」「地獄みせてやる」旨記載したショートメッセージを送信し,いずれも,そのころ,同県内にいた同人に閲覧させてその内容を了知させ,もって同人の生命,身体等に危害を加える旨を告知して脅迫した。
・・・
      脅迫,傷害被告事件
【事件番号】 京都地方裁判所判決
【判決日付】 平成29年10月19日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載
罪となるべき事実)
被告人は,
第1 平成27年4月20日午前6時15分頃から同日午前6時45分頃までの間に,E市内所在の社会福祉法人E府社会福祉事業団E府立F学園3階一般男子フロアープレイルームにおいて,V(当時9歳)に対し,手に持ったはさみを開閉させながら「そんなおちんちんなら要らないし,切ったらいい。」などと言い,同人の身体に危害を加える旨告知し,もって脅迫した。

チャットで知り合った強制性交・強盗被告事件(無罪・確定)(前橋地裁H30.5.23)

「確かに,動かし難い事実のうち,〔1〕初対面で会ってすぐに本件性交に至っていること,〔2〕本件性交が,昼間に,本件車両内で行われたものであること,〔3〕本件性交時,被告人は避妊具を着けずに膣内に射精していること,〔4〕Aが本件当日に警察への通報を希望していることの各事実は,被告人とAとの間には本件性交に関する合意はなく,ひいては本件暴行・脅迫を用いて本件性交がなされたことを一応推認させるものといえる。」ということです。
 児童買春事件では〔1〕~〔3〕は普通ですが、対償供与約束を隠され、強制性交罪を疑われることもあります。

前橋地方裁判所
平成30年5月23日刑事第2部判決
       判   決
 上記の者に対する強盗・強制性交等被告事件について,当裁判所は,検察官吉川和秀及び同井上恵理子並びに国選弁護人鈴木克昌(主任),同町田祐助及び同稲毛正弘各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人は無罪。
       理   由

第1 本件公訴事実の要旨
 被告人は,インターネットアプリケーションソフト「微信(ウィシン)」(以下「ウィチャット」という。)を通じて知り合った■(当時19歳)(以下「A」という。)と強制的に性交をしようと考え,平成29年7月30日(以下「本件当日」という。)午後零時20分頃から同日午後零時45分頃までの間,群馬県■郡■町■番地■(以下「本件現場」という。)に駐車中の自動車内において,助手席に座っていたAに対し,その両肩を押さえ付けた上,助手席シートを倒し,同人に覆い被さってその下着を脱がし,「殺さないから怖がらないで。動かないで。」などと言って暴行・脅迫(以下「本件暴行・脅迫」という。)を加え,その反抗を抑圧した上,Aと性交をし,さらに,Aが前記一連の暴行・脅迫により反抗を抑圧されているのに乗じてAから現金を強取しようと考え,その頃,同所において,Aに対し,「口でして。口でしてくれないなら20万円払ってよ。」などと言い,現金を強取しようとしたが,Aが隙を見て逃げたため,その目的を遂げなかった。
第2 本件の争点
1 本件公訴事実に対し,被告人は,本件公訴事実記載の日時場所でAと性交したこと(以下「本件性交」という。)は間違いないが,〔1〕Aに本件暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧したことはない,〔2〕Aが一連の暴行・脅迫により反抗を抑圧されているのに乗じて,その頃,同所において,Aに対し,「口でして。口でしてくれないなら20万円払ってよ。」などと言って現金を強取しようとしたこともない旨述べ,弁護人も,〔1〕本件性交は,被告人とAとの間の合意に基づくものであって,本件暴行・脅迫を用いて行われたものではない,〔2〕被告人は,Aから20万円を奪おうとしたことはないし,Aに現金を要求したこともなかったとして,被告人は無罪である旨主張する。
2 したがって,本件の争点は,〔1〕本件性交は,本件暴行・脅迫を用いて行われたものであるのか,〔2〕本件性交後,被告人がAに対して現金の支払を要求した(以下「本件要求行為」という。)のかの2点である。
第3 当裁判所の判断
1 判断の枠組み
 本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存在を直接証明する客観的な証拠はない。本件暴行・脅迫及び本件要求行為を直接証明する証拠はAの証言であり,これを直接否定する証拠は被告人の供述である。そこで,当裁判所は,まず,証拠上動かし難い事実を認定し,続いて,Aの証言の信用性を検討し,さらに,被告人の供述の信用性を検討した。その結果,〔1〕本件性交は,常識に照らして間違いなく,本件暴行・脅迫を用いて行われたものであるとは認められず,また,〔2〕本件性交後,常識に照らして間違いなく,被告人がAに対して本件要求行為をしたとは認められないと判断した。以下,その理由を説明する(括弧内の「甲」「乙」の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号,「弁」の番号は同カードにおける弁護人請求証拠番号,「職」の番号は同カードにおける職権による取調べの証拠番号を示す。なお,Aの証言と被告人の供述は,特に必要な場合を除いて記載を省略している。)。
2 証拠上動かし難い事実
(1)動かし難い事実の認定
 本件の2つの争点を理解,判断するために必要で,検察官並びに被告人及び弁護人も特に争っておらず,かつ,証拠上明らかに認定できる事実(以下「動かし難い事実」という。)は,以下のとおりである。
ア 被告人と被害者の関係
 被告人は,平成27年(2015年)9月,留学の在留資格で日本に入国し,1か月余り埼玉県草加市に居住した記録もあるが,おおむね長野市内に居住している(乙5)。被告人は,本件当日頃,30歳で,身長は約173センチメートル,体重は約82キログラムであった。
 Aは,平成28年(2016年)6月,技能実習生として日本に入国した後,群馬県内の会社に勤務し,本件当日は群馬県■郡■町■所在の■店(以下「本件スーパーマーケット」という。)の近くに住んでいた。Aは,本件当日頃,19歳で,身長は約165センチメートル,体重は約53キログラムであった。
 被告人とAは,平成29年(2017年)5月か6月頃,ウィチャットを通じて知り合い,本件当日までの間,ウィチャットでメッセージ等のやり取りをしていた。被告人とAは,本件当日の1週間前に初めて会うことになり,Aは,被告人に対し,本件当日の待ち合わせ場所として本件スーパーマーケットを指定し,被告人も,これを了承した。
イ 本件性交に至る経緯
 Aは,本件当日午前11時13分頃,本件スーパーマーケットに到着したが,被告人を見つけることができず,少なくとも約17分間,本件スーパーマーケットの内外を歩き回って被告人を探していた(弁2)。
 被告人は,軽四輪自動車(以下「本件車両」という。)を運転して本件スーパーマーケットに向かった。Aは,被告人が自動車で来ることを知っており,本件当日午後零時頃までの間に被告人と会い,自ら,被告人が運転する本件車両の助手席に乗り込んだ。
ウ 本件性交の状況
 被告人とAは,本件当日午後零時頃,被告人が運転する本件車両で,本件現場に到着した。本件現場には,本件現場に駐車した本件車両の運転席及び助手席を正面から撮影できる位置と方向に,ダミーの防犯カメラが設置されていた(職3)。
 被告人は,本件性交前,小用のために本件車両から出たことがあった。Aは,本件車両が本件現場に到着してから本件現場を去るまでの間,本件車両の中にいた。
 被告人とAは,被告人が本件車両の運転席に,Aが助手席に座った状態で会話をした後,本件車両の助手席で本件性交をした。本件性交時,被告人は,避妊具を着けず,Aの膣内に射精した。被告人は,本件性交後,被告人の下半身等をティッシュで拭き,そのティッシュを本件車両の外へ投げ捨てた。
エ 本件性交後の被告人とAの行動
 本件性交後,被告人とAは,本件車両で,群馬県■郡■町■銀行■支店(以下「本件銀行」という。)に向かった。
 Aは,本件銀行に到着後,先に一人で本件車両を降り,そのまま,被告人に断ることなく本件銀行から立ち去った。本件当日午後1時29分頃にAが,同32分頃から34分頃までの間に被告人が,それぞれ一人で本件銀行ATMコーナーの前を歩く姿が,本件銀行のATMコーナーに設置された防犯カメラの映像に記録されている(弁2)。その後,被告人とAは,それぞれのウィチャットのメッセージ等を消去し,お互いに会うことも連絡を取ることもなかった。
 被告人は,Aと出会ってから別れるまでの間,Aのバッグやその中にある財布,現金,銀行のキャッシュカード,在留カードなどを取ることはなかった。
オ 110番通報に至る経緯
 Aは,本件銀行を立ち去った後,本件銀行の近くにある自宅に帰ると,普段から親しくしていたAの勤務先の同僚女性■(以下「B」という。)に対し,強姦と強盗の被害に遭った旨話した。
 Aの話を聞いたBは,A及びBの勤務先に技能実習生を派遣する会社で普段からA及びBを含む技能実習生の面倒を見る立場の男性■(以下「C」という。)に対し,Aが強姦と強盗の被害に遭った旨報告した。Cは,Bからの報告を聞いた際,AとBに対し,証拠を集めるように指示した。AとBは,同日午後5時30分頃,自転車に乗って本件現場を訪れ,そこで,被告人が本件性交後に被告人の下半身等を拭いたティッシュを拾い,持ち帰った。Aの勤務先のチーフマネージャーの男性は,同日午後9時57分,Cからの情報を基に110番通報をした(甲23)。
(2)動かし難い事実による推認
ア 本件暴行・脅迫及び本件要求行為を肯定する方向に働く事情の検討
 検察官は,「争いのない事実」,すなわち,〔1〕被告人とAは,知り合って約1か月ほどであり,本件当日は初対面であったこと,〔2〕被告人は,人気のない場所に駐車された車内で,避妊具を着けずにAの膣内に射精したこと,〔3〕本件当時,被告人は身長173センチメートル,体重82キログラム,30歳で,Aは,身長165センチメートル,体重53キログラム,19歳であったことという事実のみでも,Aが被告人と性交することを合意していたとは到底言えない旨主張しているので,検討する。
 確かに,動かし難い事実のうち,〔1〕初対面で会ってすぐに本件性交に至っていること,〔2〕本件性交が,昼間に,本件車両内で行われたものであること,〔3〕本件性交時,被告人は避妊具を着けずに膣内に射精していること,〔4〕Aが本件当日に警察への通報を希望していることの各事実は,被告人とAとの間には本件性交に関する合意はなく,ひいては本件暴行・脅迫を用いて本件性交がなされたことを一応推認させるものといえる。
 しかし,世間では,初対面ですぐに,また,昼間に車両内で,性交に至ることもないわけではなく,また,Aは,本件性交後,膣内に射精されたことについて特に不平や不安を述べたという証拠も見当たらない。そうすると,これら〔1〕から〔4〕までの事実から,本件性交に関する合意がなかったことが強く推認されるわけではない。
 また,年齢差や体格差は暴行の程度においては十分考慮すべきであるが,年齢差や体格差があるから性交が暴行・脅迫を用いて行われるという経験則はないし,合意のある性交でも人気のない場所で行われることはあるものと考えられるから,これらの事実は,本件暴行・脅迫の存在を推認させるものではない。
 したがって,「争いのない事実」のみでもAが被告人と性交することを合意していたとは到底言えないという検察官の主張は,採用できない。
イ 本件暴行・脅迫及び本件要求行為を否定する方向に働く事情の検討
 第1に,弁護人は,被告人とAは,ウィチャットを通じて知り合い,本件当日までの間,ウィチャットでメッセージ等のやり取りをしていたこと,また,Aは,本件当日,少なくとも約17分間,本件スーパーマーケットの内外を歩き回って被告人を探していたことから,被告人とAは,性交渉に同意していたといえる旨主張する。
 しかし,ウィチャットは他人とメッセージ等をやり取りするものにすぎず,本件におけるCのように,派遣先の中国人実習生との業務連絡に使用されている例も認められる。そうすると,常識的に考えて,被告人とAがウィチャットを使用していることから,被告人とAが交際することを目的としていたとはいえず,Aが,被告人と出会う前に本件スーパーマーケットの内外を歩き回って被告人を探していた事実を併せ考慮しても,性交渉の同意には結びつかないといえる。
 第2に,弁護人が指摘するとおり,Aは,本件当日午後5時30分頃,本件現場を女性であるBのみと一緒に再度訪れ,証拠物として被告人の精液がついているとAが考えていたティッシュを自ら採取していることが,動かし難い事実として認められる。Aに対する本件暴行・脅迫及び本件要求行為が存在し,かつ,Aが被告人に対して強い恐怖心を抱いていたとすると,AとBの女性2人のみで本件現場を再度訪れるというのは,証拠の確保という意味があったことを考慮しても,不自然といわざるを得ない。そうすると,AとBが本件当日に本件現場を再訪した事実は,本件暴行・脅迫及び本件要求行為を否定する方向に働く事情であるといえる。
ウ 動かし難い事実による推認の評価
 以上のように,動かし難い事実を全体として評価すると,本件暴行・脅迫及び本件要求行為を否定する方向に働く事情が優勢であるとはいえるが,本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存否を直接証明するのは,Aの証言であるから,その信用性について検討する必要がある。
3 Aの証言の信用性の検討
(1)Aの証言の要旨
 Aは,公判廷において,〔1〕被告人から何回も誘われ,被告人と会うのは不安で断り続けたが,これ以上会わないと「罪人みたいな許し難い人間」になってしまうと感じて,被告人と会うことになった,〔2〕本件当日,被告人が運転する本件車両で,本件現場に連れて行かれた,〔3〕本件車両内で被告人から手を触れられた際,被告人の手をはねのけたが,被告人は,本件現場に駐車した本件車両の助手席に座っていたAに対し,両手で両肩をつかみ,助手席シートを倒して,被告人の上半身をAの上半身に密着させた,〔4〕被告人は,Aのワンピースを脱がせようとし,抵抗するAに対し,「おとなしくしろ,俺はあなたを殺さないから」と言い,両手でAのパンツを脱がせて後ろの座席に投げ,Aの上に覆いかぶさってキスをし,胸を触って,避妊具を着用せずに被告人の生殖器を膣内に挿入して射精した,〔5〕被告人は,助手席の前のダッシュボードからティッシュを取って,Aの下半身と被告人の下半身を拭き,運転席の窓から外に投げた,〔6〕被告人は,本件性交後,再度性交や口淫を要求し,Aが拒否すると,「そうしてくれなくてもいいんだけど,20万円ちょうだい」と言い,Aがお金はないと答えると,「かばんの中にカードがあるんだろう、下ろしてきて」と言われた,〔7〕被告人の運転する本件車両で本件銀行に到着した後,「ここで待ってるからお金を下ろしてきて」と言われ,かばんを持って本件車両から降り,ATMの方向に向かい,降りたところからATMまでは歩いて行って,その時点で被告人がついてきてなかったことを確認できたので,そこから走って帰ったなどと,本件性交前後の状況を交えて,本件暴行・脅迫及び本件要求行為があった旨証言している。
(2)Aの証言の信用性を高める方向に働く事情の検討
ア B及びCの各証言による裏付け
 検察官は,Aの証言内容は,B及びCの各証言など他の証拠から裏付けられており,信用性が高い旨主張する。 
 確かに,B及びCの各証言内容は,Cの携帯電話に残されたAらとの間のメッセージや通話履歴からも裏付けられており,また,B及びCには虚偽の証言をする動機も見当たらないから,その信用性は高いといえる。
 しかし,Bが直接見聞きしたのは,Aが帰宅した後の事情であり,Cが直接見聞きしたのも,AやBからウィチャットで連絡を受けた後の事情であるから,Aが強姦や強盗の被害に遭ったというB及びCの各証言内容は,Aの話を前提としているものである。したがって,B及びCの各証言は,Aの帰宅後に関する証言を裏付けてはいるものの,本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存在を直接裏付けるものではない。
 もっとも,Bの証言のうち,Aが午後2時頃に二人きりになると泣き崩れて被害を打ち明けたという内容の証言は,Bが直接見聞きしたものであり,本件暴行・脅迫及び本件要求行為に関するAの証言を裏付けているとはいえる。しかし,Bが証言する,帰宅後にAが泣き崩れて強姦の被害を訴える様子と,本件性交後に本件銀行のATMコーナーに設置された防犯カメラ映像に記録されているAの様子,すなわち,本件銀行のATMコーナーの前をAが一人で歩いて去っていく姿には隔たりがあり,Bの上記証言は,本件暴行・脅迫及び本件要求行為を強く推認させるものではない。
 さらに,Aの証言とBの証言の一致の程度という観点から検討すると,Bは,Aが震えている様子で白い車に後をつけられたと言っていたと証言しているが,Aはそのような証言はしていない上,ほかにAが白い車で追いかけられたという証拠は見当たらず,むしろ,本件銀行のATMコーナーに設置された防犯カメラの映像では,Aが白い車に追いかけられることなく,歩いて行く様子が記録されている。
 したがって,少なくとも本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存在についてのAの証言内容は,B及びCの各証言などの他の証拠によって裏付けられているとはいえない。
イ Aの証言内容の合理性・具体性等
 検察官は,Aの本件性交に関する証言内容は,争いのない事実とも合致する,自然で合理的な内容であり,かつ,想像で話すことが困難で,現実に体験していなければ証言が困難なほど,具体的・迫真的で生々しい内容であり,このことはAの証言の信用性を高める事情といえる旨主張する。
 確かに,Aの証言内容は,特に本件性交に関しては,具体的で生々しい内容となっている。
 しかし,本件性交が被告人とAとの間で行われたことは動かし難い事実のとおりであって,被告人も争っていないから,被告人が「奥さん」と言い続けたことなどの本件性交の場面に関する証言が具体的であるからといって,本件暴行・脅迫及び本件要求行為が裏付けられるわけではない。
 本件で重要なのは,本件性交前のAの抵抗の様子,本件暴行・脅迫の有無,再度の性交や口淫の拒否と本件要求行為に関する証言内容が合理的であるかという点である。このような観点からみると,「被告人が体の上に覆いかぶさってきたとき,それまで明るい表情だった被告人の顔が怖くなった。性交中,泣いて抵抗しても,被告人はまったく気にせず,「奥さん」と言い続けながら性交してきた」という検察官が引用する証言も,本件暴行・脅迫及び本件要求行為について,現実に体験しなければ証言が困難であるほど具体的で迫真性があるとはいえない。
ウ Aが虚偽の証言をする動機
 検察官は,被告人とAは本件当日が初対面であり,Aは被告人に対して個人的な恨みなどなく,嘘の話を作り上げて被告人を陥れようとする動機はなく,このことはAの証言の信用性を高める事情といえる旨主張する。
 確かに,Aは,被告人とは本件当日の約1か月前にウィチャットを通じて知合い,メッセージ等のやり取りをしていただけの関係であり,本件より前に被告人に対して個人的な恨みがあったという事情は特に見当たらない。
 しかし,Aは,本件当日に初めて会った被告人について,「ただのおじさんという,ちょっと清潔感が欠けていたという感じ」であり,「太っていて,顔も大きいし,おなかも大きかった」と証言しており,本件性交についても,「痛いからもうどいて」とすごい声で叫んだと証言しているから,被告人に対して好印象を抱いていなかったことが認められる。また,被告人は,Aが金を貸してくれというまでは雰囲気は悪くなかった旨供述している。そうすると,男女間の気持ちのずれや金銭関係のもつれなど,本件性交以後に,被告人に対する怒りや恨みの感情がAに生じた現実的可能性は否定できない。
 そうすると,公判廷における証言当時,Aに虚偽の証言をする動機がなかったとまではいえない。
(3)Aの証言の信用性を低める方向に働く事情の検討
ア 他の証拠との不一致
 第1に,Aは,被告人から何回も誘われ,被告人と会うのは不安で断り続けたが,これ以上会わないと「罪人みたいな許し難い人間」になってしまうと感じて,被告人と会うことになった旨証言する。
 しかし,〔1〕Aは,見知らぬ異性同士が出会える機能も有するウィチャットを通じて,被告人と知り合っていること,〔2〕待ち合わせ場所に本件スーパーマーケットを指定したのはAであること,〔3〕Aは,本件当日,本件スーパーマーケットにおいて少なくとも約17分間被告人を探し回っていたことが認められる。これらの動かし難い事実によれば,Aは,被告人と会うことに積極的であったともいえる。そうすると,被告人と会うことに消極的であったとするAの上記証言内容は,動かし難い事実と一致しないものであり,Aの証言の信用性を低めるものといえる。
 第2に,Aは,Aのワンピースを脱がせようとする被告人に抵抗した,被告人にパンツを脱がされて後ろの座席に投げられたなど本件性交前の様子を証言している。
 しかし,Aのパンツの所在は明らかではない上,Aが本件性交時に着用していた衣服に破損等があるといった証拠はなく,Aが本件当日軽傷を含めてけがをしていたという証拠もない。このような本件暴行・脅迫を直接裏付ける証拠がないことは,本件暴行・脅迫が存在しなかった可能性をうかがわせる事情ということができ,Aの証言の信用性を低めるものである。
 第3に,Aは,本件性交後,被告人が運転する本件車両で本件銀行に向かい,本件銀行に到着後,本件車両から降り,本件銀行のATMの入口の前で,被告人がついてきてないことを確認してから走り始めて帰った,本件銀行に被告人を案内したのは,被告人にもう一度強姦されないよう,誰かに助けてもらうためであった旨証言している。
 しかし,本件銀行のATMコーナーに設置された防犯カメラの映像によれば,Aは,本件銀行のATMコーナーの前を通り過ぎる際,前だけを見ながらまっすぐ歩いており,振り返って被告人の様子をうかがったり,ATMコーナーの中を見て人を探すなど,誰かに助けを求めるような素振りは認められない。
 このようにAの証言は,客観的な証拠と一致していない。
イ Aの証言内容の不合理性や不自然さ等
 第1に,Aは,本件スーパーマーケットの周辺において本件車両に乗り込んだ際の状況について,最初に被告人の運転する本件車両に乗り込むことには少し抵抗があったが,道路上であり,後ろの車の妨げになることから乗った旨証言する。
 しかし,動かし難い事実のとおり,Aは,被告人と待ち合わせをしたときから,本件スーパーマーケットに被告人が自動車を運転して現れることを知っていたのだから,本件車両に乗り込むことに抵抗を感じるという証言は,動かし難い事実と矛盾するといえる。
 第2に,Aは,本件当日,被告人が運転する本件車両で,本件現場に連れて行かれた旨証言している。
 確かに,本件当日は被告人が本件車両を運転していたのであるから,被告人が行き先を決めることができる立場にあったといえる。
 しかし,本件現場は,幹線道路沿いではなく,土地勘がない人間にはその場所を認識するのが容易ではない場所である。しかも,動かし難い事実のとおり,本件当日,本件現場には,本件現場に駐車した本件車両の運転席及び助手席を正面から撮影できる位置と方向に,ダミーの防犯カメラが設置されていた。被告人は,長野市在住で,群馬県内の本件現場付近に土地勘があったという証拠はなく,被告人が本件現場付近を事前に調べたという証拠もないことからすれば,被告人が本件現場を性交する場所として知って本件現場にAを連れて行ったと認定するには疑問が残る。
 他方,Aは,本件現場から自転車で10分程度の距離に住んでおり,本件スーパーマーケットを待ち合わせの場所にしたり,本件現場まで自転車で行くことができるなど,本件スーパーマーケットや本件現場付近の状況に詳しいことが認められる。
 そうすると,本件現場を案内したのはむしろAであると考えるのが自然で合理的であり,被告人の運転で本件現場に連れて行かれたというAの証言は,不自然・不合理といわざるを得ない。
(4)Aの証言の信用性の評価
 ところで,性犯罪の危機に瀕した被害者に加えられた暴行,脅迫といった衝撃は,被害者から合理的な行動の自由まで奪ってしまうことがある。したがって,性犯罪に直面した被害者の心理等にも十分留意することが必要である。
 しかし,本件では,Aの証言は,本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存在そのものについて,B及びCの証言によって裏付けられているとはいえないし,その内容においても,現実に体験しなければ証言が困難であるほど具体的で迫真性のある内容が含まれているとはいえない。また,Aに虚偽の証言をする動機がないとも言い切れない。かえって,Aの証言内容には,性犯罪に直面した被害者の心理等では説明が困難なほどの不自然,不合理な点や他の証拠と一致しない点が多くみられる。したがって,Aの証言は,間違いなく信用できるとまでは評価できない。
4 被告人の供述の信用性の検討
(1)被告人の供述の要旨
 被告人は,公判廷において,〔1〕被告人が本件車両を運転し,Aの案内で本件現場に到着した,〔2〕本件現場に防犯カメラがあることは知っていたが,Aから壊れていると言われた,〔3〕避妊具を着けずに,膣内で射精したが,Aから不平や不満はなかった,〔4〕本件性交後,Aに対して本件要求行為を行ったことはなく,Aは,服を着た後,被告人に対して,10万円を貸して欲しいと言ってきた,〔5〕Aは,被告人の財布の中の三,四万円を受け取ってくれず,Aに対して金がないことを示すため,銀行のキャッシュカードを確認してもらうように言ってAの案内で本件銀行に向かった,〔6〕本件銀行に到着した後,Aがトイレに行くと言って一人で本件車両を降り,そのまま戻ってこなかったなどと,本件暴行・脅迫及び本件要求行為は行っておらず,本件性交は同意に基づいたものであった旨供述する。
(2)被告人の供述の信用性を低める事情の検討
 検察官は,〔1〕被告人の供述内容が,Aの証言と矛盾すること,〔2〕被告人の供述内容が,不自然・不合理であること,〔3〕被告人の弁解内容が合理的な理由なく変わっていることを挙げて,被告人の供述は到底信用できない旨主張する。
 まず,上記〔1〕について,確かに,被告人の供述は,Aの証言と矛盾するものであるが,前述のとおり,Aの証言は間違いなく信用できるものとはいえない。本件では,被告人とAが本件暴行・脅迫及び本件要求行為の有無をめぐって矛盾・対立する供述をしており,このような矛盾・対立の状況が被告人供述の信用性を直ちに否定するものとはいえない。
 次に,上記〔2〕について,被告人の供述内容のうち,初対面のAと合意の上で本件性交をしたという点は,被告人とAがウィチャットにより本件性交の約1か月前から連絡を取り合っていたことからすれば,必ずしも不自然とまではいえない。また,被告人が避妊具を着けずに膣内で射精したが,Aから不平や不満がなかったとする点は,Aも,Aから強姦の被害を聞いたというBもCも,Aの妊娠の可能性について問題にしたり,不安を述べたりする証言をしていないのであるから,不自然であるとはいえない。さらに,被告人とAが本件銀行に行った経緯に関する供述については,被告人がキャッシュカードの暗証番号を教えようとしたという点などやや不自然な点もあるが,本件銀行のATMコーナーの防犯カメラ映像に記録されている,被告人がAを探し回っている様子は,被告人の供述内容と整合する面があり,不自然であると断定することはできない。
 さらに,上記〔3〕について,確かに,被告人は,逮捕翌日にはAと性交したことを否定していたが,公判ではAと性交したことは認めているから,捜査段階と公判段階では供述に変遷がある。しかし,交際相手がいるという被告人が逮捕翌日の段階で他の女性との性交を認めることに抵抗があったことは十分考えられる。また,本件では被告人とAが性交したことは争いがない以上,この供述の変遷が,本件暴行・脅迫及び本件要求行為の存否に関する被告人の供述の信用性を低めるものとはいえない。
(3)被告人の供述の信用性を高める事情の検討
 第1に,既に検討したとおり,被告人が本件車両を運転し,Aの案内で本件現場に到着したという供述は,動かし難い事実による事実関係とも一致する。
 第2に,被告人は,本件性交以前に,Aに対し,ウィチャットで,自己紹介をした上,被告人の顔写真まで送り,被告人の下半身等を拭いたティッシュを本件現場に投げ捨てており、仮に被告人が強制性交等の犯罪を行えば被告人が犯人であると容易に結びついてしまうような痕跡を残している。このような被告人の行動は,暴行・脅迫を用いてまでAと性交する意思がなかったことを示すものであり,本件暴行・脅迫を否定する被告人の供述を裏付けるものといえる。
 第3に,被告人は,本件性交前,本件現場には防犯カメラが設置されているのが見え,そのカメラについて,Aがダミーであると教えてくれた旨供述している。この供述内容は,本件現場の状況という客観的証拠と合致し,かつ,実際に本件現場で性交をした者でなければ供述困難な具体的な内容を含んでいる。 
 第4に,本件銀行のATMコーナーの前のAや被告人の行動は,被告人の供述内容に沿うものである。
 第5に,被告人は,Aと出会ってから別れるまでの間,Aのバッグやその中にある財布,現金,銀行のキャッシュカード,在留カードなどを取ることはなかったことが動かし難い事実として認められる。この事実は,被告人が本件当日Aの金品を奪う意思がなかったことを推認させるものであり,本件要求行為を否定する被告人の供述の信用性を高める事情といえる。
(4)被告人の供述の信用性の評価
 以上を総合すれば,被告人の供述は,不自然さを感じさせる点がないとはいえないものの,動かし難い事実と特に矛盾する点はなく,かえって,動かし難い事実と整合し,また,その供述内容には体験したものでなければ供述できないような具体的な事実関係を含んでいる。したがって,被告人の供述は信用できないとはいえない。
第4 結論
 以上検討したとおり,動かし難い事実のうち,〔1〕初対面で会ってすぐに本件性交をしていること,〔2〕本件性交が,昼間に,本件車両内で行われたものであること,〔3〕本件性交時,被告人は避妊具を着けずに膣内に射精していること,〔4〕Aが本件当日に警察への通報を希望していることの各事実は,被告人とAとの間には本件性交に関する合意はなく,本件暴行・脅迫を用いて本件性交がなされたことを一応推認させるものといえるが,その推認の程度は高くはない。
 そして,本件暴行・脅迫及び本件要求行為に関する中心的な証拠であるAの証言は,間違いなく信用できるものとはいえない一方で,本件暴行・脅迫を行っておらず,本件要求行為もしていないとする被告人の供述は信用できないとはいえない。
 そうすると,本件暴行・脅迫及び本件要求行為があったと認定するには,合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
 よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役10年)
(弁護人の意見 無罪)
平成30年5月25日
前橋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官 國井恒志 裁判官 中野哲美 裁判官 谷山暢宏