児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

スタンガン使用の強制性交等致傷被告事件(性交は未遂)について「この種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。」として酌量減軽して保護観察執行猶予とした事例(山形地裁H30.6.1)

 「この種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。」とされています。裁判員の感覚。わからないので量刑DBに頼ってる感じです。

 強制性交等致傷罪の法定刑が「6年以上」となっているのは酌量減軽すれば執行猶予も付けられるということだと聞いています。

第一八一条(強制わいせつ等致死傷)
2第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処する。

裁判年月日 平成30年 6月 1日 裁判所名 山形地裁 
事件番号 平29(わ)144号
文献番号 2018WLJPCA06016003
 上記の者に対する強制性交等致傷被告事件について,当裁判所は,検察官藤原武及び同大場広幸並びに主任弁護人仲野純一及び弁護人武田朋泰(いずれも国選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を懲役3年に処する。
 この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,A(以下「被害者」という。)(当時47歳)と強制的に性交をしようと考え,平成29年8月30日午前8時45分頃,山形県酒田市〈以下省略〉所在のB方において,持っていたスタンガン(平成30年押第1号の1)を被害者の後頚部に押し当てて1回放電する暴行を加え,その反抗を抑圧して被害者と性交しようとしたが,被害者が隙を見て逃げ去ったため,その目的を遂げず,その際,前記暴行により,被害者に全治約1週間を要する後頚部第1度熱傷の傷害を負わせたものである。
 (証拠の標目)(以下の括弧内の甲の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を,職の番号は証拠等関係カードにおける職権証拠調べに係る証拠の番号を示す。)
 ・被告人の公判供述
 ・更新用記録媒体(職3)
 ・被害者の検察官調書抄本(甲34)
 ・統合捜査報告書(甲33,35,36,38)
 ・スタンガン1台(平成30年押第1号の1。甲31)
 (適用法令)
 罰条 刑法181条2項(180条,177条前段)
 刑種の選択 有期懲役刑を選択
 酌量減軽 刑法66条,71条,68条3号
 刑の執行猶予 刑法25条1項
 保護観察 刑法25条の2第1項前段
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
 (法律上の自首の成否について)
 争点である法律上の自首の成否について検討すると,①酒田警察署のC警察官は,被告人が警察に出頭するよりも前に被害者の上司からの届出を受けて本件を知り,被告人が犯行にスタンガンのようなものを用いたことや,男性である被告人が女性である被害者を実家に呼び入れて犯行に及んだことなどから,本件が強制性交等致傷事件ではないかと強く疑ったというのであるが,この判断は一般人の目から見ても合理的といい得るように思われる。
 しかし,この点をさておくとしても,②被告人は,自身の供述によっても,a町の駐在所に出頭した当初は強制性交等の意思があったことを申告することができずにいたが,酒田警察署が本件を強制性交等致傷事件として捜査していることを聞いていた寒河江警察署のD警察官から,遠回しにとはいえ促されて,強制性交等の意思があったことを申告するに至ったというのであるから,自発的な申告とはいえない。
 よって,②の理由により,法律上の自首は成立しないと判断した。
 (量刑の理由)
 1 本件は,前科のない被告人が,単独で,凶器を用いて被害者と強制的に性交をしようとしたが,未遂に終わり,その際,被害者にけがを負わせたという強制性交等致傷1件の事案である。
 2 事件に関する事情をみると,この種事案の悪質性や本件被害者の精神的な苦痛の大きさに鑑みれば,被告人を実刑にすることも十分考えられる。
 他方で,本件の行為態様は,被害者の背後からその首にスタンガンを押し当て,放電するというものであるが,放電は1回,1秒ほどの短時間にとどまっている。そして,被告人は,性交はおろか,わいせつ行為さえしていない。
 また,被告人は,スタンガンの電池を新品に交換するなどの相応の準備をしているが,スタンガンを放電すれば被害者が必ず気絶することを前提にするなど,幼稚なところもあり,用意周到とまではいえない。
 このような事情に鑑みると,本件はこの種類型の中で重い事案とまではいえず,執行猶予も考え得る事案といえる。
 3 その上で,被告人が罪を認めて反省していること,犯行後自ら警察に出頭して強制性交等の意思があったことを自白するなど,捜査に貢献したといえること,被告人が現在更生に向けた取組を開始し,更生に向けた兆しが見られることなどを考慮し,被告人の再犯防止を期するため,保護観察を付することを条件に刑の執行を猶予することにした。
 (求刑 懲役5年)
 平成30年6月29日
 山形地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 兒島光夫 裁判官 馬場崇 裁判官 小野寺俊樹)