児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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カラオケB店通路において、正面から抱き付いた上、その着衣の上からでん部を手でつかみ、さらに、同人の顎を手でつかんでその唇に接ぷんし、もって強いてわいせつな行為をしたという事実(否認)につき懲役1年6月執行猶予3年とした事例(横浜地裁h30.1.25)


 被害者の供述とその裏付け(防犯カメラ)を検討して信用できると評価して、被告人の供述と客観証拠(メール)との不整合を指摘して、有罪ということになっています。

横浜地方裁判所平成30年01月25日
 上記の者に対する強制わいせつ被告事件について、当裁判所は、検察官寺尾智子及び同初沢怜以並びに私選弁護人大坂周作(主任)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成28年3月23日午後10時36分頃、神奈川県(以下略)カラオケB店(省略)号室東側の通路において、C(当時53歳)に対し、正面から同人に抱き付いた上、その着衣の上からでん部を手でつかみ、さらに、同人の顎を手でつかんでその唇に接ぷんし、もって強いてわいせつな行為をした。
(証拠の標目)
(事実認定の補足説明)
第1 前提事実及び争点
  関係証拠によれば、平成28年3月23日当時、被告人及び被害者は、いずれもA市議会議員であったこと、両名は、同日午後7時以降(特に断らない限り、以下の時刻は同日のものである。)、いずれも同会議員であるD(以下「D」という。)、E(以下「E」という。)、F(以下「F」という。)その他2名の議員と共に飲食店で飲食し、その後、判示のカラオケ店(以下「本件カラオケ店」という。)に移動して、同店2階の(省略)号室(以下「(省略)号室」という。)内でカラオケ等に興じていたこと、その間、被害者とEは飲酒しなかったが、被告人を含むその他の参加者は飲酒していたこと、本件カラオケ店2階は、東西に伸びる通路を挟んで個室が並び、その北側に(省略)号室が出入口を通路に接して設けられ、また、(省略)号室の東側壁に沿って南北に伸びる幅約125cmの通路(以下「本件通路」という。)があり、両端は行き止まりとなっていて、東西に伸びる通路と交わる地点の北側部分には非常階段が、南側部分にはドリンクバー、エレベーター及びトイレがそれぞれ設置されていたこと、被告人が(省略)号室内にいた被害者を室外に呼び出し、午後10時36分頃、本件通路の北側部分において、二人きりの状態で話をしたことが認められ、これらの事実は当事者双方も争っていない。
  以上の事実を前提として、検察官は、被害者の供述に依拠して、被告人が、本件通路の北側部分において判示のわいせつ行為に及んだと主張し、弁護人は、被害者の供述は信用できず、被告人はそのようなわいせつ行為をしていないから無罪であると主張する。

第2 当裁判所の判断
 1 被害者の供述の要旨
  被害者は、公判廷において、被告人から(省略)号室の外に呼び出された後の状況について、要旨、次のとおり供述する(以下「被害者供述」という。)。
  被告人に呼び出されて(省略)号室を出ると、被告人から、被害者が市議会の副議長になることについて被告人と同じ会派の議員が嫌がっている旨言われたので、その話を真剣に聞こうと思い、本件通路の北側部分に移動した。そこで被告人と向かい合う体勢になり、被告人から、副議長になっても威張るなよなどと言われ、さらに、被告人が「あのな、あのな。」などと言いながら近寄ってきたので、少し後ずさりしたところ、いきなり被告人から抱き付かれ、いずれかの手ででん部をつかまれた上、手で顎をつかまれて唇にキスされた。顔を右側に向けたが、唇の左側に被告人の唇が当たった。たばこと酒の入り交じった息の臭いと、唇を押し付けられた感触を覚えている。これらは一瞬の出来事だった。すぐに被告人を突き飛ばしたり、手を伸ばしてくる被告人を振り払ったりして逃げていたところ、(省略)号室にいた同僚議員らが本件通路に出てきた。同僚議員からどうしたのか尋ねられ、みんなの前で今この男にキスされた旨言った。唇をずっと触っていると、D議員が紙おしぼりを何枚か持ってきてくれたので、封を開けて口を拭いた。その後、左耳のピアスが外れていることに気付いて付近を探したり、気持ちを落ち着かせようとして、本件通路南側部分のドリンクバーの蛇口から水を出して、手ですくって飲んだりした。
 2 被害者供述の信用性
  まず、被害者供述には、不自然又は不合理な点はうかがえない。
  そして、被害者供述のうち、わいせつ被害の前後の状況は、本件通路中央付近に設置された防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)に記録された映像(甲12号証添付のDVD-R)により裏付けられている。すなわち、本件通路と東西に伸びる通路が交わる場所から本件通路の南側部分までを撮影対象とする本件防犯カメラには、被害者が、被告人に(省略)号室出入口から呼ばれて、同室を出て本件通路の北側部分に行ったこと(午後10時36分7秒頃)、それから被告人は、本件通路の北側部分にいる被害者に向かって話をしていたが、更に北側に移動して本件防犯カメラの画面に姿が映らなくなったこと(同40秒頃)、その約16秒後(同56秒頃)に、今度は被害者が本件通路の北側部分から姿を現し、(省略)号室出入口ドアの前に移動してドアを開けたものの、後から来た被告人に両手で腕をつかまれたり立ち塞がれたりしたため、(省略)号室には入らず、その後も被害者は、近寄ろうとする被告人と距離を取ろうとしたり、話し掛けてくる被告人から離れようとする行動を取っていたこと、その間、(省略)号室からE、Dら同僚議員が出てきて(午後10時37分19秒以降)二人の様子をうかがっていたこと、その後、被害者は、右手で口元を触る仕草をしたり、左耳を触ったりしたほか、ドリンクバーに設置されたウォーターサーバーから水を出して手ですくい、口元を手で拭う仕草をした(午後10時41分20秒頃)こと、Dが複数枚の紙おしぼりを持ってきたことなどが記録されており、これらの事実は、被害者供述とよく符合している。また、Dが持ってきた紙おしぼりで、被害者が口を拭いたことは、D及びEの各公判供述によって裏付けられている。
  しかも、関係証拠によれば、当日被告人が(省略)号室にいた被害者を呼び出すまでは、先輩議員である被告人が被害者を市議会副議長職に推し、被害者も副議長職に就くことを意欲するなど、被告人と被害者との間に格別トラブルが生じた形跡はなかったと認められ、被告人の呼び出しに被害者が嫌がる様子もなかったところ、上記のとおり、本件通路の北側部分において二人きりになり始めて1分もたたないうちに被害者が被告人をその場に残して(省略)号室に戻ろうとした上、その後も近寄る被告人から離れて避けようとする行動を取っており、その際の被告人と被害者の挙動は、同僚議員らが(省略)号室から出てきて様子をうかがうほどであったことからすると、本件通路の北側部分において被害者が被告人を殊更避けようとする不快な出来事が生じたものと推認できる。加えて、その後の被害者が自分の口元を気にする仕草を繰り返す一連の行動は、本件通路の北側部分において被告人からキスされるなどのわいせつ行為をされたという被害者供述の信用性を強く支えるものといえる。
  さらに、被害者が(省略)号室から出てきた同僚議員らに対し、被告人からキスされた旨話したことは、D、Eの各公判供述のほか弁護人請求証人であるFの公判供述によって裏付けられているところ、被害者が、同僚議員らに対し、先輩議員である被告人を名指しで、あえて虚偽のわいせつ被害を申告するような動機は見当たらず、むしろ、このことは被害者供述の信用性を相当高める事情といえる。
  以上によれば、被告人から判示のわいせつ行為をされたという被害者供述は十分信用できる。
 3 被告人の供述の信用性
  これに対し、被告人は、公判廷において、被害者を本件通路に呼び出した上、両手を被害者の両肩に置きながら、やや強い口調で被害者の言動をいさめるなど意見したところ、突然被害者が奇声を発するなど大騒ぎし始めたのであり、その際、被害者がなぜ騒ぐのか分からず、被害者に対してわいせつ行為は一切していない旨供述する。しかしながら、被告人は、本件直後に戻った(省略)号室内において、被害者との騒ぎの現場に駆け付けた同僚議員らの前で、「やってもうた。」などと述べる一方で、騒ぎになった原因については全く弁明しなかったというのであり、さらに、本件翌日には、被害者に対して繰り返し電話を掛け、応答しない被害者に対し、「1つだけ大事なことを伝えたい。」とメールした後、「しばらくはお腹に入った重いものを噛み締めます。ごめんなさい。」という謝罪のメッセージを送信しているのであって、これらの言動は、被告人が供述するような状況ではなかったことを強くうかがわせるところ、この点に関して被告人から納得のいく説明はされていない。被告人の供述は、不合理であるといわざるを得ず、被害者供述の信用性に疑いを生じさせない。
 4 弁護人の主張に対する判断
  弁護人は、15秒程度という短時間のうちに被害者供述のような犯行に及ぶことは極めて不自然であると主張する。しかしながら、被告人と被害者は、本件通路で向かい合って話をする程度の近い距離にいたのであるから、被害者供述のような瞬間的ともいえる短時間のわいせつ行為を行うことは十分に可能であり、弁護人の上記主張は採用できない。
  また、弁護人は、本件犯行場所は、他の客がドリンクバーやトイレなどを利用するためいつやってくるかも知れず、しかも、犯行が行われたという時間帯は、本件カラオケ店の従業員が(省略)号室に入り、その間、同室の出入口ドアが開いたままの状態であったから、このような状況で被告人が犯行に及ぶことは有り得ない旨主張する。しかしながら、本件わいせつ行為の態様に照らせば、被告人が行き止まりの通路で被害者と二人きりでいた際に衝動的に行ったものと考えられるから、弁護人の上記主張は採用できない。なお、犯行前後の(省略)号室出入口ドアの開閉状況について、本件防犯カメラに記録された映像によれば、犯行直前の午後10時36分30秒頃に本件カラオケ店の従業員が(省略)号室に入った直後にドアが閉まり、同59秒頃に被害者がドアを開けようとするまでドアは閉まった状態であったと認められるから、犯行時間帯に(省略)号室の出入口ドアが開いたままであったとする弁護人の主張は前提を欠く。
  次に、弁護人は、被害者が、本件後に本件カラオケ店1階カウンター前において、笑顔を見せたり、同僚の男性議員に後ろから抱き付いたり、カラオケ代金について話をしたりした上、被告人に対して車で家まで送る旨申し出たりする行動を取っており、これらの被害者の行動からは被害者が真実わいせつ被害を受けたとは到底考えられない旨主張する。しかしながら、これらの行動について、被害者は、被害直後に、周囲には同僚議員や一般の人もいるので、落ち着いて醜態をさらさないように、しっかりしないといけないなどと考えて、そのように振る舞っていたところ、同僚の男性議員が、自分の味方をする発言をしてくれたので、その議員の背中にもたれ掛かるようにして泣いてしまった、被告人にカラオケ代金をおごられるのが嫌で、せめて自分の分だけは支払おうと思い金額を確認していた、カラオケ店を出る際、E議員同席の下で、やはり被告人には本件わいせつ行為を認めてほしいなどと考えて、被告人を車で家まで送る旨申し出たなどと、それぞれ当時の心境を交えた納得し得る説明をしているのであって、弁護人の上記主張は採用できない。
  さらに、弁護人は、被害者は、市議会の副議長選挙において性的被害者を装って同情票を得る思惑があり、また、結局副議長になれなかった原因が本件カラオケ店における被告人の発言にあると考えたために、被告人から本件わいせつ被害を受けた旨の告訴をした旨主張する。しかしながら、上記のとおり、被害者は、本件わいせつ被害の直後に、同僚議員に対して被告人からキスされた旨述べているのであり、この時点で、被害者に、弁護人が指摘するような虚偽供述の動機があったことはうかがわれない。よって、弁簿人の上記主張は採用できない。
  その他弁護人の主張を踏まえて検討しても、被害者供述の信用性に疑いを抱かせるものは見当たらない。
 5 まとめ
  以上のとおり、被害者供述は信用できるから、被告人には判示の強制わいせつ罪が成立すると認定したものである。
(法令の適用)
罰条 平成29年法律第72号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条前段
刑の執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用の負担 刑訴法181条1項本文
(量刑の事情)
 本件犯行の態様は、被害者の人格を無視した卑劣なものであって、瞬間的ともいえる短時間の犯行であることを考慮しても、暴行の程度やわいせつの程度が軽いとはいえず、被害者の受けた精神的苦痛は大きい。
 このような犯情を中心にした上で、被告人は、公判廷において、被害者が虚偽の供述をしているなどと不合理な弁解に終始しており、反省の態度が見られないこと、他方で、これまで前科もなく社会生活を送ってきたことは更生を期待させ得る事情といえることなどの一般情状をも考慮して、主文掲記の量刑をしたものである。
(求刑 懲役1年6月)
第4刑事部
 (裁判長裁判官 片山隆夫 裁判官 池田知史 裁判官 西沢諒)