児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」についての踏み石的見解

 国会の稚拙な議論以外は手がかりがない状況で、たたき台として、こんなのを書いて、原稿頼まれると、適当に修正して、返しています。
 今後、国会議員からの反論もないと思われ、実務と判例で、運用しやすいように解釈を変えていきますので、あまり意味がある文章ではありません。

児童買春・児童ポルノ禁止法の改正――単純所持罪・盗撮による製造罪を創設
1 はじめに
 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「04年改正法」)が改正され、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(以下「14年改正法」)と名称変更して、今年6月25日に公布され、7月15日から施行された(但し、7条1項の所持罪は来年7月15日施行)。
 主な改正点は、?2条3項3号の児童ポルノ(3号ポルノ)の明確化、?単純所持罪の新設、?盗撮による製造罪の新設などである。

2 改正の主な内容と問題点
? 3号児童ポルノの定義の明確化
 児童ポルノの定義(04年改正法2条3項)のうち、特に3号ポルノの範囲が不明確であるという批判があり、単純所持罪の導入に合わせて「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているもの」という要件が付加された。
04年改正法2条3項
2 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

14年改正法2条3項
2 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
3 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)
     が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

 同項2号との対比からすれば3号には要件が付加されたことは明かでああり、国会における発議者の説明1でも「これによりまして、例えば、水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のために撮影をしたようなケースとか、あるいは、その画像の客観的な状況から内容が性欲の興奮または刺激に向けられていると評価されるものではない限り、殊さらに露出されまたは強調されているものとは言えずに、処罰の対象外になる」とされる。しかし他方で「処罰範囲を狭めるという趣旨ではないというふうに考えております。」2とされており、趣旨が明確ではない。
 法文をみても、「性器等」については児童買春行為の定義(同条2項本文)に定義されているが、「周辺部、臀部又は胸部」については定義がない。
 「殊更に」とは「合理的な理由なく、わざわざとか、わざととかという意味、「強調」とは露出のみでは、性的な部位が隠れてはいるけれども強調・誇張されている場合などが含まれないことになるので性的な部位の強調も対象とすることとした」と説明されており3、おそらく「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に関する下級審裁判例(京都地判2000/7/17 判タ1064号249頁)を参考にしたものと思われる。そうであれば裁判所の解釈にゆだねればよく、特に法文で明示する必要はないことになる。2号の性欲刺激要件が変更されなかった点で2号については、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されていることを要さないと解釈されうることになって、混乱を招く恐れがある。
 なお、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」については、従前、児童に対する性的虐待の問題について一般人を基準とすることが妥当かという観点から、一般人の性欲を基準とするか(高松高判2010・9・7 LEX/DB25464058、名古屋高判2011・8・3公刊物未掲載)、一般人の中の比較的多くの人が性的興奮や刺激を特に感じない場合でも犯人の特に敏感な嗜好を考慮して判断することができるか(大阪高判2012・7・12公刊物未掲載4)という点が議論されていたが、今回の改正では触れられることがなかった。
? 単純所持罪の創設
 単純所持の禁止は、今回の改正においてもっとも議論のあったところである。慎重派の理由は専らメールにより送り付けられた場合やウイルスにより仕込まれた場合を危惧するものであった。
 14年改正法は、3条の2で「何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくは第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識できる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない。」と規定して児童ポルノの所持自体が児童に対する性的虐待であることを宣言した上で、7条1項で「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」という罰則を設けた。
 「所持」の概念については、「自己の事実上の支配下に置くこと」とされ、法禁物の所持罪についての従前の判例を踏襲するようである。なお、電磁的記録である児童ポルノの場合に、媒体から削除した場合について「ごみ箱に入れるだけという意味であれば、この行為だけをもって所持していないとは断言できないということです。今御指摘の点、ごみ箱から削除した上でファイル復元ソフト等を入れている場合という話でしたけれども、ごみ箱から削除した場合については、原則として、特段の事情のない限りその当該ファイルを自己の事実上の支配下に置いているとは認められないというふうに考えます。」と説明されているが5、媒体のごみ箱から削除した状態ではデータとしての記録状態には変化がなく容易に復元できること6、削除された状態でも物理的複製は可能であること、ファイル復元ソフトの入手は容易であること、これを所持に当たらないというのであればゴミ箱から削除した状態で保管すれば所持罪(7条3項、7項)の成立を容易に回避できることからすれば、物理的に復元可能性がある場合には削除されていても「所持」に当たるとした上で、所持の認識の問題として解決すべきであろう。
 「自己の性的好奇心を満たす目的」とは、そもそも児童ポルノの定義自体が一般人基準で性欲を興奮・刺激するものされている(1号ポルノにおいても類型的にそう解されている)関係で、「自己の性的好奇心を満たす目的」を満たさないとされるのは、2条2項本文と同様に医療や刑事司法など正当な目的での所持に限定され、それ以外の所持が「自己の性的好奇心を満たす目的」が無いとして許容されることはないであろう。
 「自己の意思に基づいて所持するに至った」とは、送りつけや投げ込みの場合を除外する趣旨であって、所持開始の時点において自己の意思に基づいて所持するに至った場合を意味するが、「送りつけられた時点では自己の意思に基づくというものでなかったとしても、その後、メールに添付された児童ポルノ画像を開き、当該ファイルが児童ポルノであることを認識した上で、性的好奇心を満たす目的を持って、これを積極的な利用の意思に基づいて自己のパソコンの個人用フォルダに保存し直すなどしたときは、その時点で新たに自己の意思に基づいて所持するに至った」とされており7、結局、所持罪の故意(=所持の認識)と重複する要件であって、他の法禁物の所持の要件と変わらないから処罰範囲を限定するとは言いがたい。
 「当該者であることが明らかに認められる」については「取得の時期などを含めて、自己の意思に基づいて所持するに至った時期とか経緯などについて、できる限り客観的、外形的な証拠によって確定するべきであるという趣旨を明確にするために加えたもの」8「立証の程度について規定している」9と説明されているが、この要件の法的性質が明らかではない上10、刑事訴訟における証明の程度については犯罪事実については合理的な疑いを容れない程度に証明がされなければならないととされ、自白の証明力には制限があること(刑訴法319条2項)からすれば、その程度の証明で「明らかに認められる」というのであれば、これも他の法禁物の所持罪の要件と変わらないことになる。
 結局、法文上は字句を加えて形式上は成立要件を絞り込んだように見えるが、リップサービスに過ぎず、実際には、従前の法禁物所持罪と同様に運用されると思われる。
? ひそかに製造罪(14年改正法7条5項)の新設
 法案提出前にはほとんど話題にならなかったが、今回の改正で唐突に加えられた製造形態である。
第七条
5  第二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、
     電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
 個人的な盗撮等、提供等の目的がない製造行為については、従前「姿態をとらせて製造罪」(04年改正法7条3項、14年改正法7条4項)が設けられていたが、性的虐待には当たらないとして盗撮による製造は除かれた11。実際には、トイレ内や浴場による児童への盗撮事案が多発して画像が流通した実情に対応して盗撮による製造に対応したものである。
 「ひそかに」とは窃視罪(軽犯罪法1条23号)の「ひそかに」を借用したものと思われ、描写されないことの利益を有する者に知られないように描写することをいうと解される(伊藤栄樹・勝丸充啓「軽犯罪法新装第2版」P168)。被描写者に知られた場合については、立法段階では成立すると説明12されたが、その場合は「描写されないことの利益を有する者に知られない」とは言えないので、他の製造罪の要件を満たさない限りは製造罪は成立しないと考える。
 さらに、撮影後の複製行為について、立法段階では製造罪を構成しないと説明13されたが、これでは、盗撮後複製された場合に最終的に存在する媒体の生成行為までを処罰することができないという不都合が生じ、04年改正法7条3項(14年改正法7条4項)の製造罪の成立範囲についての議論(最決2006.2.20 刑集60巻2号216頁参照)が再燃する余地がある。

3 課題
 国会会議録における立法者の説明をみると「単純所持罪の導入」という単一論点に議論が集中し、現行法の解釈・運用状況についての知識が浅いように見受けられる。制定以来議員立法により改正が重ねられてきたが、議員の顔ぶれも大きく変わり、法律の基本理念が承継されているのも疑問である。

 内容面での最大の課題は被害者保護であろう。1999年に制定されて以来、調査研究(14条2条)を怠ってきたので、警察統計以外には被害の実態が把握できていない。今回の改正でも被害者保護規定(15条〜16条の2)が補強されているが、「補強」と言っても、主体となるべき官庁を名指しすることによって責任の所在を明確にして権限行使を促すという趣旨であって効果は望めないであろう。

 単純所持罪の罰則の施行には1年間の猶予期間が設けられ、児童ポルノの所持者は1年以内に処分を余儀なくされるが、児童ポルノ該当性の判断と処分方法については、所持者にゆだねられており、混乱が予想される。先例として児童ポルノの単純所持罪を先行して採用した「奈良県子どもを犯罪の被害から守る条例」が施行されたときの最初の検挙事例を見ると、条例施行から罰則の施行までに3ヶ月の猶予期間が設けられたが、罰則施行後1ヶ月後に条例施行前の購入者(条例施行前に検挙された提供事件で押収された購入者リストに掲載された者)が捜索を受けて単純所持罪の現行犯で検挙されており、今回の改正により児童ポルノを自分で処分しても過去の購入者リストに基づいて捜索を受ける可能性が残り、処分後も不安を解消できないことになる。警察署で処分を受け付ける(捜査の端緒とする)とか、自首による必要的減軽免除(上記条例15条2項、銃刀法第31条の5参照)を設ける必要があるであろう。
 また、警察統計によれば近時は児童ポルノの供給源は主に自画撮(sexting)とされており、児童ポルノ罪の保護法益に「児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになる」「身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長に重大な影響を与える」という社会的法益を加味するならば、児童自身による製造罪を観念せざるをえず、実際にも児童を単純製造罪の共謀共同正犯とした裁判例(神戸地判2012.12.12公刊物未登載14、広島高判2014.5.1公刊物未登載)も見受けられるようになった。これを是としないのであれば、児童ポルノに関する罪を改めて「児童を被害者とする犯罪」として再構成する必要がある。
以上
1第186回国会衆議院法務委員会平成26年06月04日における遠山委員の答弁
2上記衆議院委員会における遠山委員の答弁
3上記衆議院委員会におけるふくだ委員の答弁
4
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,・・・原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 
5第186回国会参議院-務委員会平成26年06月17日における椎名衆議院議員の答弁
6 ゴミ箱から削除した状態は、書架に並んだ書籍の背表紙を外した状態に喩えられる。
7上記衆議院委員会における階委員の答弁
8上記衆議院委員会における遠山委員の答弁
9上記衆議院委員会における階委員の答弁
10上記衆議院委員会における階委員の答弁でも「これを処罰条件と見るか、構成要件と見るかということについて実務者協議でも議論になりましたけれども、いずれでもないだろう、また、こういったことについて同様の立法例もないということで、結論としましては、この括弧書きの法的性質が必ずしも明らかではありませんねということになったわけです。」とされている。

11
島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律」について警察学論集57巻08号P97では「盗撮された児童は、盗撮の事実に気付かず何ら特別の性的行為を強いられ、あるいは促されるわけではないから、直ちに性的虐待を受けたものとはいえないし、提供目的を欠く場合、盗撮の結果が児童の心身に悪影響を及ばす危険が具体化しているともいえないから、盗撮を手段とした単純製造の行為を直ちに児童ポルノに係る罪として処罰する必要はない。」とされていた。


12上記衆議院委員会における西田委員の「例外的ではあるかと思うんですけれども、盗撮されていることに気づいてしまった場合であったとしても、ひそかに児童に知られないようにこれを撮影しているような場合であっても、これは基本的に適用されるというふうに解されます。」という答弁
13
上記衆議院委員会における西田委員「ここに掲げました、第七条五項における「製造」に関しましては、この前段で「児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、」というふうに手段を限定しております。ですので、複写は当たりません。」という答弁。




14
主位的訴因にかかる公訴事実においては被告人が単独で児童ポルノを製造したとされており この点 検察官は被告人が自らの携帯電話機に画像データが添付されたメールを受信してそのデータを保存した行為が児童ポルノ製造の実行行為であると主張する。しかし 当裁判所は、証拠上 被告人が製造行為を行ったとは認められず、 従って単独正犯としての被告人の罪責を問うことはできないと判断し、予備的訴因(被害児童との共同正犯)に基づき有罪と認定した。その理由は次の通りである。本件のメールの受信については、関係証拠によっても、被告人がその受信の際、自己の携帯電話機を用いて何らかの具体的操作を行ったことを示唆する証拠はない。昨今の携帯電話機のメール機能では、サーバーから自動的に個々の携帯電話機にメールデータが保存される設定となっているのが通常であり(これは公知の事実である。)、被告人の携帯電話機も同様であったとうかがわれることからすれば、被害児童が当該画像データを添付したメールを被告人の携帯電話機宛てに送信したことにより その後 被告人において特段の操作を行うことなく サーバーを介して自動的に同携帯電話機かそのデータを受信し、メールに添付された画像データごと同携帯電話機に保存されたものと推認される。このように メールの受信が自動的に行われ 被告人の側で受信するメールを選別したり 受信するかどうかを決定することができない状態であったこを踏まえれば このような方法で行われるメールの受信(厳密にはメールデータの携帯電話への保存)をもって 被告人による製造行為ととらえることは困難というほかない。以上の通り 被告人が児童ポルノの製造の実行行為を行ったとは認められず 主位的訴因については犯罪の成立を認めることができないと判断した。