児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

製造罪の罪数シリーズ

 覚せい剤は、行為の違法性・薬物犯罪の危険性・厳重処罰の必要性という実質的理由から、製造罪の成立範囲も拡大しているし、製造罪の罪数も細かくカウントされて併合罪とされているようである。(ビンからパケへの小分けも製造罪)
 児童ポルノ製造罪も方向性としては同じだと考える。

 覚せい剤にせよ、児童ポルノにせよ、特別法で、製造とか運搬とか所持という行為類型を設けている場合には、そういう行為を処罰するという立法者の意思も明確だし、そういう行為を特に採りあげて処罰する必要性も強いから、別罪となって併合罪というのも有力な判例理論でしょうね。
 ということで、奥村説は、児童ポルノを販売目的で製造→所持→販売・陳列した場合の罪数は細かく切って併合罪。ただし、わいせつ図画も起訴されている場合は、わいせつ図画(所持+販売は包括一罪という判例)でくし刺しにされて全体として一罪。
 児童ポルノかつわいせつ図画の場合は、法益侵害はその分大きくなるが、わいせつ図画は一罪という判例に救われることになって、処断刑期の幅は短くなる。
 ついでにわいせつ図画罪もやっておいた方が刑が軽くなるみたいですが、そこは裁判所が量刑で工夫して不都合ないようにすればよい。
 そのうち誰かが「研修」に書いてくれますよね。

東京高等裁判所判決/昭和50年(う)第861号
昭和50年9月23日
しかし、原判決もとくに説示しているとおり、覚せい剤取引の実際においては、製品の結晶、とくにその大きさが重要な意味を持つていることからすれば、原料から化学的方法により製出し、又は混合等により製剤する場合だけが製造であるとはいえないのであつて、本件のように、塩酸エフエドリンを触媒等で還元し、エーテルで抽出したうえ、塩酸ガスを通じて沈澱させ、いわゆる岩石と呼ぶ結晶にするための再結晶の工程を経て、施用者らに譲渡するに適する状態にすることも製造の一工程としてこれに含まれると解するのが相当である。

1個の機会に撮影して製造した物は一罪だという。編集等によって別の機会になれば別罪。
東京高裁平成15年6月4日
2罪数関係の誤りをいう論旨について(控訴理由第8,第11,第13,第14)
所論は,
(中略)
④原判決は,児童ポルノ製造罪について撮影行為を基準に1回1罪としているが,弁護人の主張に対する判断では媒体を基準にして罪数を判断すべきであると判示しており,理由齟齬であり,また,MOに関しては1個しか製造していないから,撮影行為が何回に及んでも1個の製造罪であり,ビデオテープは12本製造されているから12罪であって,法令解釈の誤りがある(控訴理由第14)などという。
(中略)

④については,一個の機会に撮影して製造した物は一罪と解するべきであるが,本件のMOについては,全く別の機会に製作されたファイルが追加記録されているのであるから,媒体は同一でも追加記録は別罪を構成するものというべきである。原判決の「弁護人の主張に対する判断」の1は,画像データが同一でも別の媒体に複写すれば製造に当たる旨を説示したにすぎず,媒体が同一であれば一罪になる旨判示したものではなく,所論は原判決を正解しないものといわざるを得ない。

②「製造」とは,撮影,編集等により新たに児童ポルノを作り出すことをいうところ,電子データも児童ポルノであり,MOに蔵置されたデータは,撮影されてコンパクトフラッシュカードにいったん蔵置されたデータを,ハードディスクを経由して無編集でコピーしたものであるから,MOの作成は不可罰的事後行為ないし所持罪を構成するものにすぎず,製造罪(法7条2項)には当たらない(控訴理由第9)・・・という
(中略)

②の点は,全く同一のデータを異なる媒体にコピーした場合であっても,その媒体は新たな取引の客体となり得るのであって,「製造」というを妨げない。デジタルカメラで撮影し,コンパクトフラッシュカードにその映像を蔵置した行為も当然製造に当たるところ,犯意を継続させてMOにそのデータを転送すれば,両者が包括一罪として評価されることになるが,そうであるとしても,後のMOの作成行為が不可罰となるわけではない。

横須賀簡裁H16.4.5
デジタルビデオ→編集済マスターテープ→販売用779巻を1罪としている。
販売用にダビングする行為は本数からして1個の機会とは言えないが、一罪なのだという。原判決とは異なる罪数判断である。

製造罪大阪高裁H14.9.10
③上記撮影及び現像行為については,本件の場合には,リバーサルフィルムでなくネガフィルムが使用されていたため,撮影後フイルムが未現像の段階は勿論,フイルムが現像された後の段階でも,視覚により認識が可能とはいえず,焼付けがなされ,写真となって初めて認識可能になるから,未だ児童ポルノ製造罪は成立しないのに有罪の認定をした点において(控訴理由第2,第6),打)また,児童ポルノの撮影によりその製造罪が成立するとすれば,その後の現像までの行為は不可罰的事後行為と解されるのに,現像行為を含めて児童ポルノ製造罪にあたるとして有罪の認定をした点において(控訴理由第3),原判決は児童ポルノ法7条2項の解釈,適用を誤ったものであり,以上①ないし③は判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
(中略)

③については,児童ポルノとは,「写真,ビデオテープその他の物」であって「視覚により認識することができる方法により描写したもの」であることを要するが,有体物を記録媒体とする物であれば,必ずしもその物から直接児童の姿態を視覚により認識できる必要はなく,一定の操作等を経ることで視覚により認識できれば足りるから,写真の場合は現像ないし焼付け等の工程を経てこれが可能になる未現像フイルムや現像済みネガフィルム(以下,撮影済み及び現像済みネガフィルムを「ネガ」という。)は,これに当たると解するべきであるから,本件の場合,児童ポルノ製造罪は撮影により既遂になると解するのが相当である。
また,上記第1記載の児童ポルノの頒布,販売目的等による製造等を処罰することにした趣旨からみて,新たに児童ポルノを作り出すものと評価できる行為はいずれも製造に当たると解するのが相当であるところ,これを写真についてみてみると,上記のとおり児童ポルノ製造罪は撮影によって既遂となるが,現像,焼付けもまたそれぞれ製造に当たるものと解され,各段階で頒布,販売等の目的でこれを行った者には児童ポルノ製造罪の適用があり,ただ,先の行為を行った者が犯意を継続して彼の行為を行った場合には包括一罪となるものと解される。従って,本件では現像行為は不可罰的事後行為とはならないから,現像行為を製造とした原判決には法令適用の誤りはない(もっとも,原判決は撮影,現像を単純一罪とするものか包括一罪とするものか定かではないが,単純一罪とするものであるとしても判決に影響しない。)。

奈良家裁H16.2.5
デジタルカメラ→CDROM→情報誌1万冊を1罪としている。
情報誌を印刷する行為は工場に発注した点や冊数からして1個の機会とは言えないが、一罪なのだという。


麻薬所持と交付は併合罪

麻薬取締法違反被告事件
最高裁判所第2小法廷決定/昭和41年(あ)第2277号
共犯者が被告人の自宅に持参した麻薬粉大約二六〇グラムを、売りさばきに便ならしめるため、一〇〇グラム単位に計量小分けする際、右共犯者と共同所持した被告人の行為と、同日右麻薬粉末のらち約一〇〇グラム包一個を、右共犯者と共に近くの喫茶店に携行し、第三者に売りさばき方を依頼して交付した被告人の行為との間には、それか共に営利の目的に出た場合てあつても、牽連関係は成立せず、両者は併合罪の関係になるとした原判断も相当である。)。


麻薬の所持と製造とは併合罪

最高裁判所判決/昭和24年(れ)第2370号
昭和25年3月30日

 同第三点、四点について。
 しかし、旧麻藥取締規則第四二條は、麻藥を所有又は所持する静的な行爲を取締るものであり、同第二四條は、麻藥を製剤、小分、販売、授与又は使用する動的な行爲を取締るものである。そして後者に当然伴う麻薬の握持行爲は後者に吸收され特に所持として罰すべきものではないが、かかる場合でない前の違反行爲と後の違反行爲とは必ずしも通常手段結果の関係があるものといえないばかりでなく、その取締の目的と法益とを異にするから、各独立した別罪を構成するものと解するを相当とする。されば、麻藥の所持を罰した場合には爾後の処分行爲は別罪を構成しないとの論旨第三点はその理由がなく、また、原判決が判示第一の(一)の所持と同(二)の売渡とを併合罪と認めて刑法四五條、四七條を適用処断したのは正当であつて、論旨四点も採ることができない。

爆発物の製造罪と所持罪とは、製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合のみ吸収、その他は併合罪

東京高等裁判所判決/昭和52年(う)第1492号昭和53年1月31日
 第五、弁護人の控訴趣意第三点(法令適用の誤りの主張)について、
 所論は要するに、原判示第一の(三)の爆発物の製造罪と同第二の所持罪とは包括一罪と解すべきであるのに、原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の解釈・適用を誤つたものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのであるが、爆発物取締罰則は、爆発物による公共危険の発生を未然に防止するため、爆発物の製造、所持、使用等の各段階においてこれらをそれぞれ別個、独立に規制しようとするものと解せられるから、製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合は格別、製造した場所から持ち出して建物爆破の目的地に向うためこれを運搬していたという本件は、その所持に独自性を認めて然るべき場合であるから、右所持罪が製造罪に包括あるいは吸収されるものと考えるべきではなく、両者は併合罪の関係にあるものと解するのが相当である。原判決には所論のような法令の解釈、適用の誤りはなく、論旨は採用できない

密造罪と所持罪は製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合のみ吸収

      酒税法違反
札幌高等裁判所函館支部判決/昭和31年(う)第6号 昭和32年2月19日
 酒類密造者が、その製造の必然の結果として所持する場合は、製造罪のほかに所持罪を構成しないが所持が製造と必然的な関係を離れて全く別個の行為と認められるときには 製造罪のほかに所持罪を構成するものと解すべきであつて、原判決が所持罪は他人の製造した密造酒を所持ずる場合に限って構成し、自己が製造した酒類を所持する場合には常に所持は製造に包含せられるものと判示したのは、法令の解釈適用を誤つたものというのほかはない。


覚せい剤製造と所持は、製造に当然随伴して一時的に所持するに過ぎないような場合のみ吸収

      覚せい剤取締法違反被告事件
最高裁判所第2小法廷決定/昭和28年(あ)第1534号昭和30年1月14日
同第二点については、第一審判決の判示第二において被告人が昭和二七年二月二二日所持していたと認められた覚せい剤一八六〇本が、同判示第一の(一)、(二)において被告人が同年二月七日頃から同年五月二二日頃までの間製造したと認められた覚せい剤二五〇〇〇本の一部であつても、それが右製造に伴う必然的結果として一時的に所持せられるに過ぎないものと認められない限り、その所持は製造罪に包括、吸収せられるものと認むべきではないから、製造罪の外に所持罪の成立を認めた原判決は結局正当であつて、論旨は採用できない。

覚せい剤譲受罪と所持罪は、床下に隠したりすると併合罪

最高裁判所第3小法廷判決/昭和31年(あ)第225号昭和33年6月3日
同判決及び挙示の証拠によれば、右のうち前の起訴状による公訴事実(第一審判示第二の(三))におけら所持の目的物たる覚せい剤三四〇本というのは後の起訴状による公訴事実(同判示第二の(二))における譲受の目的物と同一物であること、すなわち、右覚せい剤譲受の事実とその同じ覚せい剤をその後所持した事実とが別個に起訴され判決において別個の犯罪として認定されているのであるが、しかし右公訴事実及び第一審認定事実における所持とは、被告人が判示の年一一月末頃覚せい剤約三四〇本を譲り受けた後(すなわち、覚せい剤不法譲受罪が完了した後)、法定の除外事由がないのに更にそのうち四〇本を被告人方階下蠅帳の下に、三〇〇本を二階床下に隠して同年一二月三日頃所持した事実を指すものであることが認められる。かような場合には右覚せい剤の譲受とその隠匿所持とは同一の事実でなく第一審判決のようにそれぞれ別個の覚せい剤不法譲受罪と同不法所持罪とを構成するものと解するを相当とする。このことは覚せい剤譲受行為とその覚せい剤の一部を居宅炊事場の石油罐または土蔵内に隠匿所持した行為とは各別個の罪を構成し併合罪となるとした当裁判所の判例(昭和三〇年(あ)一六六五号同三一年一月一二日第一小法廷決定、集一〇巻一号四三頁)の趣旨に照らして明らかである。