児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

小名木明宏「監禁罪と強制わいせつ罪同罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係」H25重要判例解説

 奥村はこの事件の弁護人ではありませんが、記録に実名で登場しています。
 小名木先生が挙げる高裁の判例の弁護人は、全部奥村です。
 問題は、撮影行為自体がわいせつ行為なのに、どうして、同じ機会に行われた他のわいせつ行為(触る等)と別個の行為と言えるのかということですよ。
 小名木先生も結論を書いていません。

公訴事実
第1 平成26年4月11日午後2時6分頃から同日午後2時13分頃までの間,大阪市■■■■■■■■■■■■公園に設置された公衆便所内に,A(当時6歳)を誘い込んで内鍵を施錠して,同人の脱出を不能にするとともに,同人に対し,同人が13歳未満であることを知りながら,同人のズボン及びパンティを引き下げ,その陰部を手指でもてあそび,舐めるなどした上,同人をして自己の陰茎を握らせるなどし, もって13歳未満の女子である同人を不法に監禁するとともに,13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をしたものである。
第2 A(当時6歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら,同年4月11日午後2時9分ころから同日午後2時13分ころまでの間,前後2回にわたり,同市■■■■■■■■■■■■公園に設置された公衆便所内において,同児童に,その陰部を露出させ,被告人が同児童の陰部を触るなどの姿態及び被告人の陰茎を手淫する姿態をとらせ,これを撮影機能付き携帯電話機で撮影し,その動画データを携帯電話機本体の内蔵記録装置に記録させて保存し,もって衣服の一部を着けない児童の姿態あるいは他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を,視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造したものである。

小名木明宏「監禁罪と強制わいせつ罪同罪と児童ポルノ製造罪の罪数関係」
問題はむしろ,観念的競合になるか併合罪とされるかである。
本件では,被告人が,各被害児童に対し,そのパンティ等を下ろして陰部を手指で触り,舐めるなどした上,自己の陰茎を握らせるなどする際に,性的欲求又はその関心を満足させるために,陰部を露出させる姿勢並びに陰部を被告人が触る姿態をとらせてこれを携帯電話で撮影し,児童ポルノを製造したと認定されている。
そこでこの被告人の行為が社会的に一個の行為と評価されるかという問題に収束する。
すでに最決平成21・10・21 (刑集63巻8号1070頁)が,被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,児童に淫行をさせる罪(児福34条l項6号)と児童ポルノ製造罪は,「一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから」両罪は観念的競合ではなく,併合罪の関係にあるとしており(本決定については三浦透・最判解刑事篇平成21年度463頁を参照),児童買春とポルノ製造罪との関係について東京高判平成24・7・17(LEX/0825482259)はこれを併合罪としている(時間的に前後するが,名古屋高金沢支判平成17・6.9刑集60巻2号232頁,東京高判平成21・10・14高検速報平成21年136頁も同様)。
これに対して,強制わいせつ罪とポルノ製造罪との関係については,名古屋高判平成22・3・4(LEX/0825463556),広Jurist No.1466島高判平成23・5・26(LEX/0825471443),大阪高判平成23・12・21 (LEX/0825481163)が観念的競合としていた。
本件において東京高裁は,『撮影行為自体を手段としてわいせつ行為を遂げようとしたものではない』として,被告人が行った強制わいせつ行為と児童ポルノ製造罪とは「同時に行われていても,それぞれが性質を異にする行為であって,社会的に一体の行為とみるのは相当でない」とし,撮影行為として強制わいせつ行為が行われた前掲名古屋高判,広島高判,大阪高判とは異なり,これを併合罪としたのである(前掲最決平成21・10・21との関係で同様の結論:大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法〔第3版〕(4)』314頁[中谷雄二郎],大塚ほか編・前掲(9)71頁[亀山=河村])。
つまり,本件被告人はわいせつ行為を行ったが,さらにこれを記録しておきたいと考えたゆえに撮影行為を行ったのであり,児童ポルノを製造するためにわいせつ行為を行った事例とは異なるという判断に基づいている。
さらに,児童ポルノの複製行為が後に行われ,これが有罪とされた場合に,先に行われていた強制わいせつ行為に一事不再理効が及ぶことを防ぐためにも,観念的競合ではなく併合罪とする意義があると,東京高裁は付言している。
4 なお,チャットやメールを用いて被害者に自らの姿態を撮影させた事案については,すでに広島高岡山支判平成22・12・15 (高検速報平成22年182頁)が強要罪児童ポルノ製造罪を併合罪としたのに対し,本件東京高裁判決から10か月後の東京地判平成25.8・8(LEX/DB 25501664)は, 13歳の児童を脅迫し,被害児童が所持していた携帯電話機付属のカメラで撮影させ,その画像データを送信させ,これを受信して,記録・保存し,被害児童に義務のないことを行わせるとともに児童ポルノを製造したという事案について,強要罪児童ポルノ製造罪の観念的競合を肯定した。
ここでは,被害児童本人に自らの姿態を撮影させ,これを被告人に送信させ,被告人がこれを受信し,記録・保存したという一連の行為が社会的に一個の行為と評価されるので,観念的競合にしたものと恩われる。
その場合,被告人は自ら直接撮影行為を実行したのではないので,被告人が被害児童から送られたデータを受信して,記録・保存したという行為については,強要された撮影行為とは独立したものと見ておらず,あくまでも一連の行為の一部として把握していることになる。
5 最後に, 2名の被害児童に対する児童ポルノ製造罪の処理であるが,弁護人がこれを包括ー罪であり,よって,かすがい現象が認められると主張したのに対し,東京高裁は「被害児童は別人であ」り,「各犯行は約5か月離れて場所も異なるため異なる機会に新たに犯意が形成されたものというべきである」として包括一罪の成立を否定している。
記録媒体の同一性にもかかわらず,児童ポルノ製造罪の保護法益が児童の人格と権利であることに鑑み,一回の処罰でまかなえるとは評価しなかったわけである(被害者が同ーの児童であった場合について,園田寿『解説児童買春・児童ポルノ処罰法』49頁はこれを包括ー罪としている。
さらに,中谷雄二郎『罪数の判断基準再考」植村立郎判事退官記念『現代刑事法の諸問題(I)』61頁以下も参照のこと)。
小名木明宏 北海道大学教授)