これ主張しよう。
佐伯仁志「判例変更と適正手続」日本法學 第82巻第2号
第三に、旧判例の下で犯罪でなかった行為を新たに犯罪とする場合、前節で見た窃盗罪の保護法益に関する判例の動きのように、判例変更が不要な事例において旧判例の基礎となっている理由付けを否定することで将来の判例変更を示唆する(あるいは実質的に判例を変更する)ことで、旧判例に対する国民の信頼を否定し、その後、判例変更の必要な事案において判例変更を行うことが考えられる。このような手順を踏めば判例変更が適正手続に違反することはないと言えるであろう
例えば、判例(最一判昭和四五・一・二九刑集二四巻一号)は、強制わいせつ罪の成立要件として行為者の性的意図を要求しているが、学説では不要説が多数となっている。最高裁判所が判例変更を行うとすれば、性的意図が認められる事例において判例変更を行う(第一)、性的意図が認められない事例において判例変更を行い強要罪の法定刑の範囲内で量刑を行う(第二)、性的意図が直接問題となっていない強制わいせつ罪の事例において判例の基礎となっている考え方を否定する(第三)といった方法が考えられるように思われる。
(注31)下級審判決には、性的意図を不要とするものが現れているが〈神戸地判平成二八・三・一八裁判所ウェブサィト)、現在でもなお、性的意図を認定して強制わいせつ罪を認めるのが一般的である(例えば、大分地判平成二五・六・四裁判所ウェブサィト参照)。性的意図が認められないことは極めて稀であろうから、このような裁判例の状況は、当然と言えば当然である。判例・学説の状況については、伊藤亮吉「判評」『刑法判例百選?各論〔第7版 三○〜三一頁(二○一四年)参照。