児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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中学校の教諭である被告人が,その教え子である当時15歳の被害児童に対し,その左頬を右手のひらで1回殴打したほか(原判示第1),同児童に性交類似行為に応じさせるなどした(原判示第2),という児童福祉法違反(児童淫行罪),暴行の事案(名古屋高裁金沢支部h27.7.21)

「その地位を悪用して,1年半以上にわたり性的行為を繰り返す中,被害児童が,そのような行為を拒みたいとの意思を表明したことに立腹して原判示第1の犯行に至り,さらに,劣情の赴くままに,原判示第2の犯行に至ったものであり」というので、これも常習的犯行の内の1回を起訴したものです。
 学校が賠償しています。

名古屋高等裁判所金沢支部
平成27年7月21日第2部判決

       判   決

職業 ●●●●● A 昭和●年●月●日生
 上記の者に対する児童福祉法違反,暴行被告事件について,平成27年3月6日金沢地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官立石英生出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中70日を原判決の刑に算入する。
       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人熊田慶宏作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書のとおりであるから,これを引用する。論旨は,当審第1回公判期日における弁護人の釈明内容を踏まえると,要するに,被告人を懲役4年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。
 そこで,原審記録を調査し,これに当審における事実取調べの結果を加えて検討する。
 本件は,中学校の教諭である被告人が,その教え子である当時15歳の被害児童に対し,その左頬を右手のひらで1回殴打したほか(原判示第1),同児童に性交類似行為に応じさせるなどした(原判示第2),という児童福祉法違反(児童淫行罪),暴行の事案である。
 被告人は,被害児童が所属する中学校の学級担任をし,また,同児童が所属する部の顧問の地位にあった教諭であり,被害児童を育成し,その健やかな成長を見守るべき立場にありながら,かえって,被害児童が上記の地位にある被告人に強く抵抗できない心理状態にあることに乗じるなど,その地位を悪用して,1年半以上にわたり性的行為を繰り返す中,被害児童が,そのような行為を拒みたいとの意思を表明したことに立腹して原判示第1の犯行に至り,さらに,劣情の赴くままに,原判示第2の犯行に至ったものであり,その動機・経緯に酌むべき点は全くない。また,原判示第2の犯行にあっては,被害児童の肛門に自己の陰茎を挿入する性交類似行為を行うなど,その態様は悪質であり,いまだ15歳であった被害児童が受けた精神的苦痛は大きく,心的外傷及びストレス因関連障害群の症状が現れていることもあって,今後の心身の発達に与える影響が強く懸念される。
 以上からすれば、本件各犯行の犯情は悪質で,被告人の刑事責任は重い。 
 そうすると,被告人が本件により懲戒免職処分を受けて失職し,社会的制裁を受けたといい得ること,これまで前科がないこと,母親が社会復帰後の被告人の更生を支援する意向を示していることなどの被告人のために酌むべき事情を十分斟酌しても,被告人を懲役4年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。
 なお,弁護人は,被告人は,原判示第2の犯行につき,原審で「教諭の立場を利用したことはない」などと述べてはいるが,その一方で,被害児童やその保護者に対し,取り返しのつかないことをしてしまったことなどを申し訳なく思っている旨,反省の弁を述べているにもかかわらず,原判決が,その量刑の理由で,被告人に真摯な反省の情はうかがわれないと指摘したことには,量刑事情の評価に誤りがあると主張する。しかし,原判決も説示するとおり,被告人は,被害児童の通学する中学校の教諭であり,かつ,被害児童が所属する学級の担任や部の顧問を務めていた上,被害児童が被告人の希望する性的関係を持つことに消極的な態度に出たときなどは,同児童に対し,「俺は先生でおまえは生徒やぞ!」などと,教諭としての立場をふりかざすようなメールを送信するなどしているのであって,被告人が,事件後,真摯に自己の行為を省み,また,そうした行為を受ける被害児童の心情を思いやる気持ちがあれば,自己の行為が教諭の立場を利用したものであることに容易に気づくことができたはずである。このような観点から,原判決は,被告人が,真摯に自己の行為を省み,あるいは,被害児童の心情を思いやる努力が足りないとみて,その量刑の理由で,被告人に真摯な反省の情はうかがわれないと説示したと理解されるのであって,これからすれば,原判決が量刑事情の評価を誤ったとはいえない。なお,原判決後,被告人が,反省文を作成し,当審において,「私と被害児童の立場の違いは,この犯罪において,重大な影響を与えたことに気がつきました。」と述べるなど,被告人なりに被害児童の心情を改めて思いやり,その反省の念を深めているとうかがわれるほか,本件犯行に関し被告人が教諭をしていた中学校を管理・運営していた地方公共団体が被害児童に賠償金を支払った上,被告人に対し求償権を行使する予定であるところ,被告人の両親がこれに備えて弁償金として20万円を用意していることなど,被告人のために酌むべき事情が認められるが,これらの諸情状を併せ考慮しても,上記のとおり,本件犯情の悪質さに照らせば,結論を左右するには足りない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,刑法21条,刑訴法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
平成27年7月21日
名古屋高等裁判所金沢支部第2部
裁判長裁判官 岩倉広修 裁判官 寺本明広 裁判官 寺尾亮