児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

未成年者喫煙禁止法違反被告事件(無罪) 丸亀簡裁h26.10.27

 lex/dbにでました。
 高裁判決(高松高裁h27.9.15)はまだ見つかりません。

【文献番号】25541253
丸亀簡易裁判所
平成26年10月27日判決

       判   決

会社員 A 昭和45年○○月○○日生
有限会社B
上記代表者代表取締役 C
 上記両名に対する各未成年者喫煙禁止法違反被告事件について,当裁判所は,検察官矢田忠彦並びに被告人両名の主任弁護人田岡直博,同弁護人佐藤倫子及び同射場和子各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人Aを罰金10万円に処する。
被告人Aにおいてその罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
訴訟費用のうち,証人Dに支給した分はその2分の1を被告人Aの負担とする。
被告人有限会社Bは無罪。
       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人Aは,平成25年4月22日午後9時19分ころ,香川県綾歌郡α町β××番地××のコンビニエンスストアーE F店において,D(平成9年○月○○日生。当時15歳)に対し,同人が未成年者であることを知り,かつ,自ら喫煙するものであるかもしれないことを認識しながら,あえて,たばこ「△△△△」2箱を代金820円で販売したものである。
(証拠の標目)《略》
(被告会社について無罪と判断した理由)
第1 本件公訴事実の要旨は,「被告会社は,本件店舗を営むもの,被告人は,本件店舗でたばこ販売等を担当する被告会社の従業員であるが,被告人は,被告会社の業務に関し,本件公訴事実記載の日時場所において,被害児童に対し,同人が未成年者であり,自ら喫煙するものであることを知りながら,本件たばこを販売した」というものであり,未成年者喫煙禁止法5条,6条の両罰規定により,被告会社が起訴されたものである。
第2 前記(事実認定の補足説明)第7のとおり,被告人が,未成年者喫煙禁止法5条に規定する違反行為をなしたことが認められる。そして,前記(事実認定の補足説明)第2で認定した前提事実によれば,被告会社が,本件店舗において,たばこの販売を含むコンビニエンスストアー業務を行っていること,被告人が,被告会社の従業者であることが認められ,また,前記(事実認定の補足説明)第2及び第3によれば,被告人が,本件店舗においてたばこ販売等の業務を担当しており,かつ,本件たばこの販売行為がその業務の一環として行われたことが認められる。
 したがって,被告会社の従業者である被告人が,被告会社の業務に関し,未成年者喫煙禁止法5条に規定する違反行為をなしたと認められる。
 ところで,両罰規定は,事業主に行為者らの選任,監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失の存在を推定したものであり,これは,事業主が法人で,行為者が,その代表者ではない,従業者である場合にも妥当する。したがって,被告会社において過失の不存在を主張立証して上記推定を覆せば,被告会社はその刑責を負わない。
 そして,違反行為を防止するために必要な注意を尽くすとは,当該違反行為防止のため客観的に必要と認められる措置をすることであり,したがって,それは,事業主が,単に一般的,抽象的に違反防止の注意,警告をしただけで足りるものではなく,違反行為の発生を有効に防止するに足りる相当にして具体的な措置を実施することを要する。ここでいう相当にして具体的な措置とは,当該事業所の機構,職制をはじめ,事業の種類,性質,更には事業運営の実情等当時の具体的状況によって決すべきものである。
 次に,法人が事業主の場合,基本的には,法人の代表者においてそのような相当にして具体的な措置を実施しているといえるかを検討すべきものであるが,それは,例えば,法人の代表者が,直接,個々の従業者に対して注意,警告等を行うなどすることが求められるというものではなく,従業者が相当多数存在する場合を想定すれば明らかなとおり,代表者が当該事業所の機構,職制等を通じ,違反行為の発生を有効に防止するに足りる相当にして具体的な措置を実施したと評価できれば足りると解する。
第3 本件店舗の状況等
1 本件店舗の機構,職制及び関係者の勤務状況等
 前記(事実認定の補足説明)第2の前提事実のほか,履歴事項全部証明書(甲2),被告人,被告会社代表者及び証人Mの当公判廷における各供述によれば,以下の事実が認められ,当事者も特に争っていない。
 被告会社は,被告会社代表者が代表取締役,被告会社代表者の妻が取締役,被告会社代表者の父が監査役をそれぞれ務めていた。
 本件店舗では,上記被告会社の役員のほかに,店長職を設けており,平成8年ころに本件店舗での稼働を始めたM(以下「M店長」ということがある)が,平成15年ころから店長を務めていた。M店長は,後述のように,たばこ販売等に従事する店員(以下,単に「店員」という)への指導を行うほか,店員の募集及び面接を行っており,応募者から履歴書を徴した上で面接を行って採否を決め,それを基に,被告会社代表者が,株式会社Eの本部との間において,正式採用のためのやり取りを行っていた。
 本件店舗は,昼間は二,三名,夜間は二名の店員を配置していた。
 本件店舗では,被告会社代表者,M店長及び店員(被告人を含む)が未成年者喫煙禁止法違反の嫌疑により取調べを受けたことはなく,また,警察からたばこ販売に関して注意を受けたこともなかった。
2 本件店舗におけるたばこ販売の状況
 各捜査報告書(甲13,甲16),未成年者への「お酒・たばこ」販売防止確認表(以下「確認表」という)(弁3),報告書(弁30)並びに被告人,被告会社代表者,証人M及び同Nの当公判廷における各供述によれば,以下の事実が認められる。
(1)株式会社Eの系列の店舗におけるたばこ販売の状況
 株式会社Eでは,同社との間でフランチャイズ契約を締結した経営者が運営する店舗(以下「Eチェーン店」という)でのたばこ販売に関し,全国的に適用されるマニュアルがあり,精算時のレジの仕組みもこれに対応したものとなっている(以下,同マニュアル及びこれに基づく精算時のレジの仕組みを「たばこ清算システム」という)。
 その内容は,概略,〔1〕たばこのバーコードをレジで読み込んだ際,「年齢確認のため,画面のタッチをお願いします」という音声が流れ,「20歳以上ですか?」「私は20歳以上です」などと表示された年齢認証画面が客側に表示される,〔2〕客が自己申告で,年齢認証画面のボタンを指で押して年齢認証を実施するが,その際,「証明書の提示をお願いする場合がございます」という音声が流れる,〔3〕店員側には,「20歳以上に見えますか?」という画面が表示され,店員が客を確認し,20歳以上に見える場合には「20歳以上(確認)」というボタンを押し,未成年者に見える場合には「未成年(中止)」というボタンを押す,〔4〕「未成年(中止)」というボタンを押した場合,「年齢の確認できる証明書の提示をお願いします。提示いただけない場合は販売ができませんのでご了承ください」という音声が流れ,客側の画面にもその旨表示される,〔5〕店員が年齢の確認できる証明書の提示を客に求め,これによって20歳以上であることの確認ができた場合には,店員側の画面の「20歳以上(確認)」というボタンを押してたばこを販売し,確認ができない場合には「未成年(中止)」というボタンを押すが,後者の場合,たばこのバーコードを再度読み取ってもエラーとなり,たばこを販売することはできない,というものである。
 たばこ清算システムは,平成23年9月ころ,四国地方において実験的に導入され,その後,平成24年3月又は同年4月ころからEチェーン店全店舗で実施されており,本件店舗においても,本件当日以前から導入されていた。
(2)Eチェーン店における未成年者へのたばこ販売防止のための取組み
 株式会社Eでは,平成24年8月から,Eチェーン店の全店舗に対して確認表を配付していた。確認表には,「〈重要〉お酒・たばこの未成年者への販売禁止について」,「未成年者に『お酒・たばこ』を絶対に販売してはなりません」,「『年齢確認』を確実に実施するよう徹底しましょう」との記載があるほか,未成年者喫煙禁止法による罰則や処罰された場合に店舗の営業継続ができなくなること,年齢確認システムによる年齢確認を行うべき旨,未成年者の店員や不慣れな店員の場合に複数の従業員で対応すべき旨等が記載されている。さらに,「上記内容について,オーナーさん,店長さんより,直接説明を受け,充分理解しましたので,以下に確認のための署名をします」との記載があり,その下に日付及び氏名を記載する欄がある。また,最下部に店舗のオーナーが署名する欄がある。
 そして,株式会社Eでは,毎月1回,Eチェーン店経営者,店長が店員に確認表の内容を確認させて署名させるべき旨をEチェーン店に指導しており,毎月1回,株式会社Eの指導員が署名入りの確認表を回収してその内容を確認していた。
 本件店舗では,平成24年8月から本件当日まで,毎月1回,欠かさず上記署名のある確認表を提出していた。
(3)本件店舗における確認表等による指導の状況
 本件店舗では,毎日本件店舗に出勤していた被告会社代表者が,月1回,株式会社Eから送付される確認表をM店長に渡し,M店長に署名をさせるとともに,M店長が直接会う店員に対して署名を求めるよう指示し,店員の署名が集まった段階で,確認表がM店長から被告会社代表者に返還され,被告会社代表者が最後に署名して株式会社Eへ提出していた。被告会社代表者は,M店長に署名を求めるに際し,記載内容を読ませて未成年者に対してたばこを売らないように念押しをしていた。被告会社代表者は,M店長とは別に,被告会社代表者の妻に対し,直接,確認表への署名を求めていたが,その際に行う注意等はM店長に対して行うものと同様のものであった。そのほかの店員で,M店長がその勤務中(週6日,それぞれ午後11時ころから翌日午前10時ころまでの間が勤務時間である)に会う店員に対しては,M店長が確認表への署名を求めており,その中には被告人も含まれていた。その際,確認表の記載内容を店員に読ませて,「こう書かれているので注意してください」などと指導した上で店員に署名させていたが,これらに要する時間は1人当たり概ね二,三分であった。なお,M店長の勤務時間との間にずれがあり,M店長が直接会うことがない店員に対しては,被告会社代表者の妻が署名を求めていた。
 さらに,確認表が導入されたころから,M店長は,「夏休み,冬休み又は連休のころには客が増える」との考えから,口頭で特に注意を促しており,その対象には被告人も含まれていたほか,本件当日以前から,若葉マークが貼られた自動車で来店した客は18歳程度であることが多いので,口頭で,「若葉マークに気付いたら(年齢を)聞くように」などという指導をしていたこともあり,後者の指導は,確認表に署名を求めるときに行っていたこともあった。
 また,M店長は,店員から,未成年者と思われる客に対して身分証明書の提示を求めた事例があった旨の報告を受けることがあり,それを被告会社代表者に報告し,被告会社代表者から「引き続き注意するように」との指示を受けたこともあった。
(4)検察官は証人Nの当公判廷における供述については特段信用性を争っていないので,上記(1)から(3)の認定事実に沿う被告人,被告会社代表者及び証人Mの当公判廷における供述について,念のため信用性を補足すると,各供述は,上記の内容に関する限度では具体的で詳細である上,概ね符合していること,各捜査報告書(甲13,甲14),確認表(弁3)及び報告書(弁30)による裏付けがあることに照らしていずれも信用できる(なお,被告人の当公判廷における供述のうち,本件たばこの販売状況や取調べ状況等に関する点を内容とするものは,既に説示したとおり信用できないが,上記(1)から(3)の認定事実とはその場面を異にするものであるから上記判断に影響を及ぼすものではない。また,検察官は,証人Mの当公判廷における供述について,同人の警察官調書(甲29)を請求してその信用性を弾劾するところ,確かに,一見すると表現上矛盾した供述をしているようにみえる内容を含むものの,当該部分に係る甲29号証の内容を子細にみると,「オーナーは普段は殆ど店にいない」というように,本件店舗に来ることすらないという趣旨を含むのか判然としないものであったり,「指導方法が不十分」というように,曖昧な評価を含むものであったりしており,直ちに公判供述の信用性を否定するようなものとはいえない)。
第4 以上を前提に検討する。
1 検察官は,論告要旨9頁4(3)「結論」において,被告会社に監督上の過失がある旨主張するにとどまるが,その余の箇所において,選任上の過失があるかのような主張もするので,この点について念のため検討すると,被告人は,前記(事実認定の補足説明)第2の前提事実のとおり,平成14年ころに本件店舗での稼働を再開した時点で,コンビニエンスストアーの店員として相当期間の経験を有するものであったことに加え,上記第3の1のとおり,被告人が本件店舗で稼働している期間中を含めて本件店舗におけるたばこの販売に関して店員らが警察の取調べを受けたり,警察からの注意を受けたことがなかったというのであるから,選任上の過失はなかったと認められる。
2 次に,被告人の監督その他違反行為の防止のために必要な注意を尽くしたといえるかについて検討する。
(1)まず,たばこ清算システムをみると,〔1〕店員に対して,画面上で「20歳以上に見えますか」との注意喚起を行った上で客の年齢について判断をさせるという仕組みをとっており,未成年者に見える客を販売対象から排除するという消極的な確認方法ではなく,成人に見える客を販売対象にするという積極的な確認を求めて注意喚起を行っているといえること,〔2〕客に対して20歳以上であることを自己申告させる仕組みをとっており,違反行為の前提となる未成年者によるたばこの購入という事態そのものを生じにくくするものであること,からすれば,たばこ清算システムに特段の問題はない。
(2)次に,株式会社Eの定めた確認表による注意喚起について検討すると,その内容は,未成年者へのたばこの販売によって科せられる法律上,事実上のペナルティを具体的かつ分かりやすく説明した確認表により,毎月1回以上店員に対して説明することを求めるものである。また,単に一方的に注意をするだけではなく,店員に署名を求めており,その趣旨は,店員に違反行為をしないことを誓約させることによって確認表による注意喚起を行き届いたものとすることにあると考えられる。そして,株式会社Eへの提出を求めるという形でその実効性を担保している。そうすると,株式会社Eが定めた確認表による注意喚起は,未成年者と知りながらたばこを販売することを防止するシステムとして合理性を有するものである。
(3)そして,上記第3の2(1)(2)のとおり,本件当日ころ,本件店舗においてもたばこ清算システムを導入していた上,本件店舗は,平成24年8月の確認表の導入から本件当日ころまで欠かさずに確認表を提出していたというのである。そうすると,被告会社代表者は,株式会社Eが定めた未成年者へのたばこ販売を防止するための合理的なシステムに沿った業務運営を行う体制を作っていたといえる。
第5 そこで,被告会社内部において,確認表による注意喚起が実質的に行われていたかなど,上記のような体制が有効に機能するような監督等を行うことにより,違反行為の発生を有効に防止するに足りる相当にして具体的な措置を行っていたといえるかを検討する。
 上記第3の1及び2で認定したとおり,被告会社では,毎月1回,主としてM店長が,店員に対して,1人当たり二,三分の時間を用いて確認表の内容を説明して注意するとともに署名を求めていたというのであり,その中には,被告人も含まれていたというのである。確かに,このような注意を行っていたのは主としてM店長であって被告会社代表者ではないものの,M店長は,被告会社代表者から信頼され(被告会社代表者の供述),店長という肩書を与えられるとともに,新たに募集する店員の面接や商品の発注等,実質的にもそれに値する権限を与えられていた(証人Mの当公判廷における供述)こと,店長に就任してから約10年を経過しており,その間,たばこ販売について特段の問題が生じていないこと(上記第3の1)からすれば,被告会社代表者が直接指導するのではなく,店長という地位にあるM店長に指示して確認表による注意喚起を行わせることには相応の合理性があるといえるし,そのような体制を構築することに何ら問題はない。そうすると,被告会社代表者は,M店長を通じ,株式会社Eが定めた確認表による注意喚起を実質的に行っていたと評価できる。
 加えて、M店長は,夏休み期間中や冬休み期間中等,未成年者が多く来店することが想定される場合には個別に注意喚起を行い,また,未成年者に販売することを防止するために自動車の若葉マークに意を用いるべき旨の注意喚起も行っていたものであって,確かに,これらの措置は被告会社代表者の指示に基づくものではなく,M店長が自らの経験に基づいて行ったものである(なお,被告会社代表者がこれらについて把握していなかったのはいささか遺憾ではある)としても,本件店舗において店長として権限を有するM店長によるものであることに照らすと,これらは,被告会社代表者の包括的な注意喚起を,M店長が具体化したものといえるから,被告会社代表者が,M店長を通じて行った有効かつ合理的な措置とみることができる。
 以上の諸事情を総合すると,単に店員に対して注意を与えるなどといった抽象的注意をしていたにすぎないと言い去ることはできず,被告会社代表者は,たばこ清算システムや確認表による注意喚起という合理的な制度を導入した上でたばこの販売を店員に行わせていた上,被告会社代表者やその指示を受けたM店長が,具体的な注意事項が記載された確認表を用いて毎月欠かさず店員に対して注意喚起を行うとともに,店員に署名をさせてもいたほか,権限を与えられたM店長が,具体的な事例を想定した注意喚起を被告人らに対して与えていたというのであるから,上記のような合理的な制度が有効に機能するような監督等を行っていたといえるのであり,そうすると,これらの措置は,たばこ販売業者として,違反行為を防止するために必要な措置であるのみならず,違反行為の発生を有効に防止するに足りる相当にして具体的な措置であったと認められ,このことは,本件以外の場面において,前記(事実認定の補足説明)第3のとおり,被害児童に対するたばこ販売が現に防止されたことがあるという事実によっても裏付けられている。 
第6 検察官の主張について
1 検察官は,〔1〕被告会社代表者は従業員を直接指導監督していなかった,〔2〕M店長による従業員に対する指導監督も,本件店舗において,被害児童に対して3回にわたってたばこを販売している事実等からすれば,十分に行われていなかったことが明らかである,〔3〕被告会社代表者が,捜査段階において,「正直,形式だけのものになり,従業員に伝わっていなかったのは事実」,「M店長も形ばかりの指導をしていたことが後から分かった」などと供述していたこと,〔4〕本件当日ころ,被告会社代表者やM店長らは,未成年者にたばこを販売すればフランチャイズ契約を取り消されることにつながることを知らなかったのであり,従業員に対して,未成年者にたばこを販売すれば,フランチャイズ契約が取り消される可能性があるため絶対に未成年者にたばこの販売をしないようになどと指導,監督していなかったことも明らかであること,等に照らして,監督上の過失があることは明らかであると主張する。
2 しかし,〔1〕については,既に述べたとおり,代表者において直接,個々の店員に対して指導監督することが求められていると考えるのは相当ではなく,また,M店長は,店長という立場で被告会社代表者から本件店舗における店員の指導監督について権限を与えられていたのであるから,M店長を通じて店員への指導監督を行うことに問題はない。
 次に,〔2〕についてみると,確かに,被害児童の証言によれば,被害児童は本件当日以外に2回,本件店舗でたばこを買ったことがあることが認められる。しかし,本件では,未成年者に対するたばこ販売を防止する措置が採られていたか,ではなく,未成年者であると知りながらたばこを販売することを防止する措置が採られていたか,が問題なのであって,上記2回のたばこ販売の状況等が判然としない状況下において,未成年者であると知りながらたばこを販売することを防止する措置が不十分であったと断じることはできない(なお,被告人は,検察官調書(乙4)において,「私はこれまで何回かは未成年者又は未成年者らしい子どもにたばこを売ったことはありました」旨供述するので付言すると,この点に関する被告人の供述は時期や回数等に何ら触れられていない具体性に乏しいものであること等に照らして採用しない)し,仮にこの点を措くとしても,被害児童の証言によれば,被害児童は,本件店舗で約2回,たばこの販売を断られたことが認められる上,報告書(弁28)によれば,本件当日の前日である平成25年4月21日から本件が発覚する以前である平成25年4月27日という短期間の間に,たばこをバーコードでスキャンした後に販売を中止したという実績があり,これは,客が年齢確認画面のボタンを押さなかったために販売が中止になったことを意味しているところ(弁30),その中には,客が,自己が未成年者であるがために諦めてボタンを押さずに販売中止になった事例があることは経験則上容易に想定できることを踏まえると,上記のとおり,被害児童が本件以外に2回たばこを購入したことがあるという事実をもって指導監督が不十分であったと評価するのは相当ではない。また,被害児童が「緩いなあ」と思った旨証言する点についても,たばこを購入できた被害児童が,そのとき感じたことをそのまま述べたにすぎない(被害児童からすれば,買えないかもしれないという思いを抱きながらたばこを注文するのであるから,結果的に購入できればそのような感想をより強く抱くのは当然である)。そうすると,〔2〕の点も判断を左右しない。
 〔3〕の点についても,具体的な事実を挙げて監督が不十分であった旨述べているのではなく,単なる評価の問題を述べているにすぎないし,「M店長も,その書類を店員に見せて署名と印鑑をもらうだけの形ばかりの指導をしていたことが後から分かりました」旨述べている点も,被告会社代表者が自ら経験した事実を述べたものではないからこれをもってM店長の指導が不十分であることの根拠とはできないし,その他,M店長に任せきりで直接注意指導をしなかった旨述べる点も,〔1〕で説示したところ等を踏まえると,判断を左右しない。
 最後に〔4〕の点について検討する。確かに,本件の経過は,同意の上,略式命令の告知を受け,その後,正式裁判請求がされたというものであり,被告会社代表者らが,フランチャイズ契約の取消し等がされることを理解していなかったことが窺われることは検察官指摘のとおりである。しかし,被告会社代表者らの内心の状態がこのようなものであるからといって,既に認定したような防止措置が行われていたことまで否定されるものではないのであるから,検察官の指摘は採用できない。
 検察官の主張はいずれも採用の限りではない。
第7 結論
 以上の次第で,被告会社は,未成年者喫煙禁止法5条に記載された違反行為に対し,事業主として,行為者の選任,監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くした事実を認めることができるので,刑事訴訟法336条前段により,無罪の言渡をすることとする。
(求刑 被告人両名に対し,それぞれ罰金10万円)
平成26年10月28日
丸亀簡易裁判所
裁判官 東根正憲