児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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木曽裕「いわゆる所持の認識の立証のための捜査について」実例捜査セミナー 捜査研究第52巻10号

 所持の認識の立証というのはこういう感じです。
 児童ポルノの単純所持についても同じです
「他者による混入であったとしても、その存在に気付くことができれば、自力で排除も可能であるのが通常であり(特に、法禁物であればすぐにでも投棄もしくは通報の措置をとるのが経験則である)、にもかかわらず所持を継続していたならば、自己の意思により所持したと評価してよい」とされているようです。

はじめに
けん銃や覚せい剤など、いわゆる法禁物の所持事犯の構成要件については、当該対象物に対する事実上の実力支配関係があるとする客観的要件と、故意の内容として、当該物の存在について認識していたとする主観的要件に分けて検討される。
本稿では、本職が扱ったけん銃所持の否認事件の検討を通じて、主観的要件である所持の認識の認定について、一つの検討例を提示することを目的としている。
事案
そうした矢先の平成一五年一月二八日午後九時九分ころ、「K市内の公園付近で、通行上のトラブルがあり、相手からけん銃を突きつけられて脅された。まだ付近にいるはずである」との匿名の110番通報が公園備付けの公衆電話からあった。通信指令を受けたK警察署地域課係員が臨場して付近を捜索したところ、同時一五分ころ、.手配車両に酷似した被疑者の車両を発見、職務質問するため同車を停止させた。
そして、被疑者から酒臭がしたので、飲酒検知を実施し(基準値に満たなかった)、その後、多数の警察官の応援を得て職務質問、所
持品検査、車内検索を実施した結果、被疑者車両のトランク内の予備タイヤが収納されたそうてん
部分から、適合実包三発が装損された自動装填式けん銃一丁を発見、被疑者を銃万法違反の現行犯で逮捕した。しかし、被疑者はけん銃発見当時から、所持の認識を否認した。

所持の認識の判断基準について
冒頭に述べた二つの要件のうち、客観的要件の検討は、所持態様から比較的常識的な判断が可能であるのに対し、主観的要件は、本人が否認している場合、いかなる事情があれば、これを認定できるのかの判断に当たっては、しばしば困難を伴う。
ただし、自己の実力支配の範囲の中から、違法な物が見つかっているのに、その認識がないとなれば、それは、自然現象によるよう
な特異な場合を除く限り、他者の意思に基づく混入であること、かつ、その物の存在に被疑者が気付かなくても不自然でないこと、という事情が必要であるはずである。つまり、自分の意思で所持に至った場合は、所持の認識があるのは当然であるところ、他者による混入であったとしても、その存在に気付く乙とができれば、自力で排除も可能であるのが通常であり(特に、法禁物であればすぐにでも投棄もしくは通報の措置をとるのが経験則である)、にもかかわらず所持を継続していたならば、自己の意思により所持したと評価してよいからである。
よって、私は、所持の認識の認定は、他者による混入可能性の検討と、被疑者による認識可能性の検討を行って、その相関関係により行うべきであると考えている。

具体的検討
混入可能性、認識可能性のいずれについても、当該物の性質、所持の態様、発見されるまでの経緯、被疑者の弁解の信用性など、多角的な観点からの分析検討が必要である。

・・・
110番通報の主はなぜ匿名なのか、など疑問が残ったのである。
この110番通報の内容が虚偽であったとすれば、他者による混入可能性の弁解を積極的に裏付けてしまうのである。何とか、110番通報をした人間を捜し出し、通報の内容が真実である旨の一言が欲しいところであった。
そして、警察の地道な捜査の結果、勾留一七日自にして、通報者が判明したが、その結果は悪い予感が的中したものであり、他者による混入可能性をうかがわせる事情となってしまった。