わいせつ誘拐と強制わいせつ罪(176条後段)は牽連犯で、3項製造罪と強制わいせつ罪(176条後段)は観念的競合ということで、判示第1と第2は結局科刑上一罪になりました。
1審判決
第1
大阪駅前本店において,同店内で買物中の山田花子(当時11歳)を認め,私服警察官を装って少年補導活動名下に同女を誘拐してわいせつな行為をしようと企て,平成26年4月2日午後9時30分頃,前記本店南東側路上において,同女に対し,「警察です。ちょっとお話聞かせてもらえるかな。」などと嘘を言い,同女をしてその旨誤信させ,同女を同所から約50メートルにわたり連れ歩き,天満ビル4階エレベーター前まで連行し,もって,わいせつの目的で同女を誘拐した上,同女が13歳未満であることを知りながら,同日午後9時31分頃から同日午後10時40分頃までの間,同所において,同女に対し,同女が犯罪に使用するための○○を所持していたなどと言いがかりをつけ,「服まくらんかったら,友達とか学校に事件のこと言うで。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,同女に命じて順次上半身及び下半身の着衣を一旦脱がせ,同女をして競泳用水着を着用させた後,手でその胸等をなで回し,さらに,同女に対し,「なめてんか」などと申し向け,同女をして自己の陰茎を口淫させるなどし,もって,強いてわいせつな行為をした。
第2
平成26年4月2日午後9時31分頃から同日午後10時40分頃までの間,前記天満ビル4階エレベーター前において,前記山田が18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童をして,上半身裸及び下半身裸の姿態並びに自己の陰茎を口淫させた姿態をそれぞれとらせ,これらを自己のデジタルカメラで撮影し,同月3日午後10時40分頃,当時の被告人方において,それらの画像データ10個を,パーソナルコンピューターに付属させたポータブルハードディスクの内蔵記憶装置に記憶させ,もって,電磁的記録に係る記録媒体であって,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。
大阪高裁H25.6.21
3控訴趣意中,罪数に関する法令適用の誤りの主張について
論旨は,本件において,
(1)強制わいせつと児童ポルノ製造は観念的競合の場合に当たり、(2)わいせつ誘拐と児童ポルノ製造は牽連犯の関係にあり
(3)各児童ポルノ製造は合わせて包括一罪となり
(4)偽造公記号使用とわいせつ誘拐は牽連犯ないし観念的競合であり
(5)偽造公記号使用は包括一罪であり
(6)強姦未遂と児童ポルノ製造は観念的競合の場合に当たるか,混合的包括一罪になるのに,原判決はこれらと異なる罪数判断をしており,法令の適用に誤りがあって,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
そこで,記録を調査して検討する(控訴趣意書では,原判示第3と第4についても上記(1)の主張をする旨が記されているが,原判示第3は強制わいせつ罪ではないから(1)については原判示第1と第2,第9と第10,第15と第16についてのみ検討する。)。
(1)については,原判示第2,第10,第16の各児童ポルノ製造はいずれも,デジタルカメラでの撮影行為と,その撮影に係る画像データを被告人方ハードディスクの内蔵記憶装置に記噫させる行為が包括して1罪となるものである。
そして,本件各起訴状の公訴事実(第1,第9,第15)では,着衣を脱がせ,自己の陰茎を口淫させるなどの行為を強制わいせつ罪の実行行為として記載し,上記撮影行為は明示されていないが,上記撮影行為は,それ自体わいせつ行為に該当するものである上,裸の姿態及び自己の陰茎を口淫させた姿態をそれぞれとらせて撮影するものであり,これら撮影行為と,原判示第1,第9,第15の各強制わいせつ行為とは,内容において重なり合っており,1個の行為とみるべきものである。
そうすると,強制わいせつの公訴事実に上記撮影の行為が明示されておらず,また,児童ポルノ製造には,強制わいせつ行為と重なる撮影行為以外に複製行為が含まれるにしても,前述のとおり,撮影による児童ポルノ製造と複製による児童ポルノ製造とが包括一罪となることも踏まえれば,各強制わいせつと各児童ポルノ製造とは一罪と評価すべきものであって,原判示第1と第2,第9と第10,第15と第16は,それぞれ刑法54条1項前段,10条により一罪として重い各強制わいせつ罪の刑で処断すべきことになる。
したがって,このような科刑上一罪の処理をすることなく併合罪として法令適用をした原判決には誤りがあるが,この誤りは最終的な処断刑の範囲を変更するものではないから,判決に影響を及ぼさない。
(2)については,所論は,わいせつ誘拐と強制わいせつが牽連犯であることを指摘するが,目的犯である上記の場合と異なり,わいせつ誘拐と児童ポルノ製造との間に強い手段結果の関係(客観的牽連性)を認めることはできない。
(3)については,児童ポルノ製造罪は,描写対象となる児童の人格権を保護するものであり,被害者ごとに別罪が成立すると解すべきである。
所論は,製造物が同じハードディスクに蔵置されていたことや製造を反復継続する意思があったことを指摘するが,これによって各児童ポルノの製造行為を一罪とすべきことにはならない。
(4)については,偽造公記号使用とわいせつ誘拐との間に通常手段結果の関係が予定されているとはいえず,牽連犯にはならないというべきである。
また,わいせつ誘拐の際の欺罔の手段の1つが偽造公記号使用であるからといって,両者が観念的競合の場合に該当するとはいえない](5)については,偽造公記号の使用の都度,公記号の真正に対する公共の信用が害されている以上,使用ごとに別個の犯罪が成立すると解すべきことは明らかである。
(6)について
は,原判示第4の中の裸体等の撮影行為は,原判示第3の強姦未遂の実行中に行われ,犯行時間帯が重なるが,撮影行為自体が強制わいせつ行為をなす前記nの場合と異なり,行為としては別個のものであって,両行為が通常伴う関係にあるともいえないから(最決平成21年10月21日刑集63巻8号1070頁参照),両者が観念的競合となるわけではない。
また,行為の重なりから一罪とすべき前記1)の場合と異なり,別個の行為である原判示第3と第4について一回的な処罰を必要とする事贋はなく,包括一罪と解することはできない。
所論2)から(6)はいずれも採用できない。