大阪高裁H25.6.21
2控訴趣意中,わいせつ行為該当性についての法令適用の誤りの主張について
論旨は,原判示第7の事実について,被害者の下着の胸元を開けさせてその乳房をのぞき見る行為は,わいせつ行為に該当しないのにこれを肯定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
そこで記録を調査して検討すると,原判決が,上記行為をわいせつ行為に該当すると判断したのは正当である。
所論は,身体的接触を伴わないものはわいせつ行為にならない旨を主張するが,刑法176条の「わいせつな行為」は被害者との直接的な身体の接触を必要とするものではなく,この解釈は控訴趣意書の他の箇所では当然の前提とされているところでもあって(26頁以下),所論は採用できない。
論旨は理由がない。
3控訴趣意中,罪数に関する法令適用の誤りの主張について
論旨は,本件において,
(1)強制わいせつと児童ポルノ製造は観念的競合の場合に当たり,原判決はこれらと異なる罪数判断をしており,法令の適用に誤りがあって,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
そこで,記録を調査して検討する(控訴趣意書では,原判示第3と第4についても上記(1)の主張をする旨が記されているが,原判示第3は強制わいせつ罪ではないから(1)については原判示第1と第2,第9と第10,第15と第16についてのみ検討する。)。
(1)については,原判示第2,第10,第16の各児童ポルノ製造はいずれも,デジタルカメラでの撮影行為と,その撮影に係る画像データを被告人方ハードディスクの内蔵記憶装置に記噫させる行為が包括して1罪となるものである。
そして,本件各起訴状の公訴事実(第1,第9,第15)では,着衣を脱がせ,自己の陰茎を口淫させるなどの行為を強制わいせつ罪の実行行為として記載し,上記撮影行為は明示されていないが,上記撮影行為は,それ自体わいせつ行為に該当するものである上,裸の姿態及び自己の陰茎を口淫させた姿態をそれぞれとらせて撮影するものであり,これら撮影行為と,原判示第1,第9,第15の各強制わいせつ行為とは,内容において重なり合っており,1個の行為とみるべきものである。
そうすると,強制わいせつの公訴事実に上記撮影の行為が明示されておらず,また,児童ポルノ製造には,強制わいせつ行為と重なる撮影行為以外に複製行為が含まれるにしても,前述のとおり,撮影による児童ポルノ製造と複製による児童ポルノ製造とが包括一罪となることも踏まえれば,各強制わいせつと各児童ポルノ製造とは一罪と評価すべきものであって,原判示第1と第2,第9と第10,第15と第16は,それぞれ刑法54条1項前段,10条により一罪として重い各強制わいせつ罪の刑で処断すべきことになる。
したがって,このような科刑上一罪の処理をすることなく併合罪として法令適用をした原判決には誤りがある
原判決
第1
大阪本店において,同店内で買物中のA(当時10歳)を認め,少年補導活動名下に同女を誘拐してわいせつな行為をしようと企て,平成25年6月24日午後1時30分頃,前記本店南東側路上において,同女に対し,「警察です。」などと嘘を言い,同女をしてその旨誤信させ,同女を同所から約100メートルにわたり連れ歩き,エレベーター前まで連行し,もって,わいせつの目的で同女を誘拐した上,同女が13歳未満であることを知りながら,同日午後1時31分頃から同日午後2時40分頃までの間,同所において,同女に対し,言いがかりをつけ,「学校に言うで。」などと申し向けて脅迫し,その反抗を著しく困難にした上,同女に命じて順次上半身及び下半身の着衣を脱がせ,さらに,同女をして自己の陰茎を口淫させるなどし,もって,強いてわいせつな行為をした。
第2
平成25年8月24日午後1時31分頃から同日午後2時40分頃までの間,前記エレベーター前において,前記Aが18歳に満たない児童であることを知りながら,同児童をして,上半身裸及び下半身裸の姿態並びに自己の陰茎を口淫させた姿態をそれぞれとらせ,これらを自己のデジタルカメラで撮影し,同月25日午後10時40分頃,吹田市の当時の被告人方において,それらの画像データ10個を,パーソナルコンピューターに付属させたポータブルハードディスクの内蔵記憶装置に記憶させ,もって,電磁的記録に係る記録媒体であって,衣服の一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び児童を相手方とする性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノを製造した。