児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「被害調書の被害者の連絡先はマスクさせていただきます」という検察官

 ↓の条文を拡張解釈して、被害者の供述の住所・電話番号が消されていることがありますが、これでは事実確認や被害弁償が妨げられます。

第299条の2〔証人等の安全配慮〕
検察官又は弁護人は、前条第一項の規定により証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。

 だいたい、刑訴法299条の2による処置は、「関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求める」だけであって、およそ全く開示しないことは許されない。
 しかも、そもそも弁護人が被害者の連絡先を知ることは、同意・不同意を決める前提として事実確認に不可欠であるし、弁護人の事実確認は「被告人の防御に関し必要がある場合」に他ならないから、刑訴法299条の2による処置として連絡先を秘匿することは許されない。
 また、弁護人が被害者に対して慰謝の措置を講じることは正当な弁護活動であって、およそ「証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがある」ではないし「関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮すること」を条件とすれば支障がないから、被害弁償関係で被害者に連絡することも、非開示の理由とはならないと思います。

 まあ、弁護人としては、検事の都合のいいとこだけ請求されるというのなら、不同意にするわけですが、そうなると、検察官は、被害者を証人として請求することになって、どのみち、弁護人に住所を明らかにすることになります。

第299条〔証人等の氏名等開示と証拠等の閲覧〕
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
②裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。

 福祉犯の被害者が尋問されることは法律も予定しているから躊躇することはない。

第157条の4〔ビデオリンク方式による証人尋問〕
裁判所は、次に掲げる者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所(これらの者が在席する場所と同一の構内に限る。)にその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。
一 刑法第百七十六条から第百七十八条の二まで若しくは第百八十一条の罪、同法第二百二十五条若しくは第二百二十六条の二第三項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項(第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条前段の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者
二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六十条第一項の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号に係る同法第六十条第二項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第四条から第八条までの罪の被害者
三 前二号に掲げる者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
②前項に規定する方法により証人尋問を行う場合において、裁判所は、その証人が後の刑事手続において同一の事実につき再び証人として供述を求められることがあると思料する場合であつて、証人の同意があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、その証人の尋問及び供述並びにその状況を記録媒体(映像及び音声を同時に記録することができる物をいう。以下同じ。)に記録することができる。
③前項の規定により証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体は、訴訟記録に添付して調書の一部とするものとする。

 尋問しても、住所くらいしか聞くことないわけですが、それは証人カードに書いてくれるから、本人に言わせるいわせる必要もない・
 それなら、最初から住所なんてマスクすることなく開示して、安全が脅かされることがないように配慮してくださいと注意喚起すれば足りる。
 こんなことわかっているのにマスクしてくるんですよ。
 そのくせ、日本人の場合は年齢立証として戸籍謄本(本籍地!)を付けざるをえないわけで、検事さんが何がしたいのかがわかりません。