児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1個の記憶媒体上に数個の機会に撮影記録された場合の製造罪の罪数について

 この論点については、児童ポルノ個数説(名古屋高裁金沢支部H17.6.9)と製造行為数説(東京高裁H15.6.4)とがあって、両方上告中です。こんなことで最高裁が悩むとも思わないのですが、随分、待たされています。

1 はじめに
 児童ポルノ製造罪の罪数については、シャッター1回1罪とするものもあるが、児童ポルノ=有体物であるという前提にたつ以上は、製造罪の個数も、製造された児童ポルノの個数によるべきである。
 また、裁判例によれば、数回の製造行為については被害者数や製造行為の数にかかわりなく包括一罪とするもの多い。

2 児童ポルノの有体物性から
 法文上、「・・・その他の物」とされている以上、児童ポルノとは有体物である。

第2条(定義)
3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

 判例も同旨である

阪高裁H15. 9.18
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/WebView2/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
裁判要旨  :
1 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律2条3項にいう「その他の物」とは,同項各号に掲 げられた視覚により認識することができる方法により描写された情報が化体された有体物をいう。
2 コンピュータの記憶装置内に記憶,蔵置された児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児童の姿態等を撮影した画像データは,それ自体としては児童ポルノに当たらない。

名古屋高裁金沢支部平成17年6月9日
1 所論は,原判示第2の2の児責ポルノ製造罪について,①児童ポルノである ミニディスク3本,メモリースティック3本,ハードディスクの製造は,それぞれ別罪を構成し,併合罪であるが,公訴事実では一罪とされており,訴因の単一性を欠く,・・・というのである。
2 しかしながら,まず,所論①の点は,法2条3項において,電磁的記録に係る記録媒体が児童ポルノであると規定されていることからすると,記録媒体毎 に児童ポルノ製造罪が成立すると考えるべきである(なお,所論は,メモリー スティック3本を用いてハードディスクを製造する場合には3罪が成立するとするが,罪数判断に当たっては,製造行為を基準にすべきではなく,製造された記録媒体を基準に考えるべきであるから,ハードディスクの製造1罪が成立 するにすぎない。)。しかし,一個の機会に児童に姿態をとらせそれを撮影等 したものを元にして,その後,複数の記録媒体の製造を行った場合には,被告人の犯意が継続していると解される以上,包括して一罪と解すべきであり・・・

 だとすると製造罪というのは有体物である児童ポルノを新たに作り出す行為であって、児童ポルノ製造罪の罪数は、製造された物の個数によって決まる。
 追加記録の場合も最終的には1個の児童ポルノが生成されるのであるから1罪と解するべきである。
 
3 保護法益から
 佐久間教授は、児童ポルノの保護法益を「児童ポルノの流布による性的風俗の侵害を防止すること」として一種の社会的法益と理解する。

佐久間修 実践的刑法講座「国民の生活環境に対する罪ーわいせつ犯罪を中心として(1)」警察学論集05.09.10


 これによれば、製造による侵害法益は回数や被害者数にかかわらず1個であるから、数回の製造行為も1罪となる。

4 裁判例
 下級審の裁判例を見ると、児童ポルノ製造罪の罪数は、被害児童の人数・製造行為の回数にかかわらず、1個の犯意が継続しているのであれば一罪と解されている。
① 札幌地裁H15.8.27
② 横浜地裁H15.12.18
③ 横浜地裁H16.1.22
④ 千葉地裁H14.12.10
⑤ 和歌山地裁H14.8.27