児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

ホームページに画像を掲載するという現象

 違法情報をwebに掲載した場合の現象面については、刑事裁判所では、ここから説き起こす必要がある。
 市販の概説書では法律家には理解しがたかったり不同意にされるおそれがあるので、ここは大橋検事に説明してもらうのが手っ取り早い。
 もともと情報はサーバーにあって、閲覧したPCにコピーが送られ閲覧に供され、切断してもデータは戻らないのだが、これを「クライアントPCを通じたサーバー(有体物)の公然陳列」と評価するのが、刑事裁判のお約束(判例)なのである。天下の最高裁判所の見解なのだから畏れ多いことこの上ない。
 同じ現象について、データが動いているから販売・頒布・提供だとかと見えないことはないのだが、そうは見えないことになっているのである。大人だったら、ここは割り切ってくださいよ。

 「画像を蔵置してあるホームページアドレス(及びパスワード)を送付」する行為の現象面
1 ホームページに画像を掲載するということ
 前提としてネット上に画像を掲載するというのはどういうことかを説明する。専門的知識であるから、裁判所が知らなくても恥ずかしくはない。
 しかし、ネット上の行為を犯罪として処断するからには、本件審理を通じて、裁判所が現象を理解して、判決書をみる者に説明できるようになる必要がある。裁判所がわからないままでは、事実認定も適用する法条も定まらないのだから、破棄して無罪にするしかない。
 なお、裁判所も検察官も信用できる文献として、法務省法務総合研究所研究部研究官大橋充直「ハイテク犯罪の捜査第6 回ホームページ(ウエツブ)犯罪の基礎(捜査研究2001.11)」を引用する。大橋研究官は検事である。
 特に、「閲覧」しようとしてホームページが表示されるだけでも、下記のようにクライアントPCにはデータが送信され保存されていることには留意しなければならない。

大橋P92
ウエッブ・ブラウザによる画像組立
パソコンA のウエッブ・ブラウザは,【図表5 】のように,インタいネット経由でC から受信した「cHP.html」等のファイルを使って,C のホームページを画像に組み立て,これをパソコンの画面に表示する。【図表5 】と前【図表3 】とを見比べてみられたい。
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて(ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 そして、画像が画面に表示されたとき、画像データはクライアントPCのHDDに記憶されているが、画面の表示を消したとしても、インターネット接続を切断したとしても、PCを終了させたとしても、画像データは「インターネット一時ファイル」に保存されているから、いつでも再生可能である。
 裁判官の中には、ネット陳列について、クライアントがアドレスを入力すると、あたかも画像を持ったコビトがサーバーからクライアントに画像を見せに来て、画面の表示を消したり、インターネット接続を切断したり、PCを終了させたりすると、そのコビトがサーバーに画像を持ち帰ると思っている者がいるかもしれないが、それこそ事実に基づかない勝手な想像(妄想)である。

2 ホームページアドレス(及びパスワード)を送付する行為
 ホームページアドレスは、サーバーと当該ホームページの所在を表す記号であるから、それ自体には、画像データは微塵も含まれていない。
 また、パスワードは、暗証番号であるから、それ自体には、画像データは微塵も含まれていない。
 要するに、画像の有りかと暗証番号(鍵)を教えるだけのものである。
 受信者は、そのアドレスにアクセスすれば、当該HPを閲覧できる。

3 ホームページアドレス(及びパスワード)を送付された者がそのHPにアクセスした場合の現象
 この場合も大橋研究官が「閲覧手続」として説明しているのと全く同じである。ホームページが表示されるだけでも、下記のようにクライアントPCにはデータが送信され保存されていることには留意しなければならない。

大橋P92
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて( ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 そして、画像が画面に表示されたとき、画像データはクライアントPCのHDDに記憶されているが、画面の表示を消したとしても、インターネット接続を切断したとしても、PCを終了させたとしても、画像データは「インターネット一時ファイル」に保存されているから、いつでも再生可能である。
 裁判官の中には、ネット陳列について、クライアントがアドレスを入力すると、あたかも画像を持ったコビトがサーバーからクライアントに画像を見せに来て、画面の表示を消したり、インターネット接続を切断したり、PCを終了させたりすると、そのコビトがサーバーに画像を持ち帰ると思っている者がいるかもしれないが、事実に基づかない勝手な想像(妄想)である。

4 「ダウンロードさせる方法」とは
 本件「販売」の具体的方法について、起訴状・原判決は、 「購入者宅に設置されたパーソナルコンピューター内のハードディスクにダウンロードさせる方法」と摘示している。この「DLさせる方法」というのはいかなる現象をいうのであろうか?
 通常の意味としては、サーバーからクライアントPCにデータを送ることを意味する。大橋研究官もそのように説明している。

大橋P92
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて( ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

しかし、冒頭陳述や検察官請求証拠等を見ると、サーバーからクライアントPCにデータが送信されることではなく、受信者が画像データに名前を付けて一時ファイルとは別のファイルに保存することをもって「DL」と言っているようである。
 しかし、ネットの画面を表示させた場合、すでに画像データはクライアントPCの一時ファイルに保存されており消去作業をしないかぎり消えないのだし、名前を付けて保存するというのは別の名前をつけた写しを作ることであるから、一時ファイルに保存されている状態と、別のファイルに名前を付けて保存されている状態とでは、画像データの保存状況としては何らの差違もない。右のポケットと左のポケットとの違いである。
 また、一時ファイルに保管したまま、画像データを複製したり、送信したり、所持したりできるのであるから、つまりは受信者において児童ポルノを再び拡散できるのであるから、法益侵害の点でも、一時ファイルと別名ファイルとで差違はなく、従って、法的評価が異なる理由はない。
 実際上も、名前を付けて保存しないと「販売」にならないのだとすれば、児童ポルノ愛好家は今後は「一時ファイル」に送られたデータを集めて保存すれば販売罪での摘発を逃れることが出来ることになる。右のポケットから左のポケットにコピーすると販売罪、コピーしなければ陳列罪のままというのか。
 従って、DLとは従来通り、サーバーからクライアントPCにデータが送信されることをいう。DLによって当然にクライアントPCにデータが保存されている。そういう認識の上で擬律を検討すべきである。
 
 そして、DLされた場合、サーバーからクライアントPCにデータが送られるわけだが、だからといって、サーバー上のデータが減るわけでも変化するわけでもない。クライアントからみれば、サーバー上のデータの「写し」を取ってくるということである。
 いわば、「サーバー」という陳列ケースの中に収納・展示された「データ」を、ネットを経由して、ケースの外側から手を触れずに写してくることである。


6 陳列罪とされた事例の現象面
(1)事例(横浜地裁H12.2.2)

立花書房H12警察実務重要裁判例P202
「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」について初めて児童ボルノ公然陳列罪を適用した事例横浜地判平成一二・二・二、確定、公刊物末登載
本件は、被告人が、平成九年一一月七日ころから同一〇年一〇月ころまでの間、埼玉県大宮市内の被告人方において、インターネットを利用し、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したものである。児童ポルノの画像データ合計一九画像分を、東京都千代田区内のプロバイダー会社内に設置された同社が管理するサーバーコンピュータに送信し、同コンピュータの記憶装置であるディスクアレイに記憶・蔵置させて、インターネット対応パソコンを有する不特定多数の利用者に右児童ポルノ画像が閲覧可能な状況を設定し、同一一年一一月一日から同月一〇日ころまでの間、電話回線を使用し、右児童ポルノ画像の情報にアクセスしてきた不特定多数の者に右情報を送信して再生閲覧させ、もって、児童ポルノ画像を公然陳列した。

なお、インターネットのホームページを利用した児童ポルノ公然陳列事案においても、刑法一七五条のわいせつ物公然陳列罪の場合と同様、公然陳列の対象物が有体物に限られるか否かという論点があり、有体物に限定する立場からは、児童ポルノの画像データが記憶蔵置されているサーバーコンピュータの記憶装置であるディスクアレイを公然陳列の対象物である児童ポルノと構成する必要があるところ、本件においても、かかる構成がとられている。

 なお、捜査研究614号(澤田検事)にも同じ事例が報告されている*1。
 有償で公開していたのである。本件と事実関係は同じである。

事案の概要
Aは、ホームページを会員用と非会員用とに分け、非会員用のホームページをインターネットの検索エンジンに登録したため、インターネットを利用する者であれば誰でも容易に同ホームページにアクセスして、前記児童ポルノ画像等を閲覧することが可能であった。会員用のホームページは、非会員用のホームページから申込みをできるようにし、会費を支払った者にのみ会員用のホームページのアドレスを教示し、同ホームページの画像等を閲覧することを可能としていた。会員は総合計約一、二〇〇人、会費は二五〇〇円.五〇〇〇円で、Aの利益は約二五〇万円であった。

(2)事例(金沢地裁平成12年わ91号)

金沢地裁平成12年わ91号
被告人はインターネットを利用し、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したものである児童ポルノの画像データを不特定多数のインターネット利用者に閲覧させようと企て、同月一九日ころ、千葉県 株式会社ネットワークセンター内に設置されたサーバ−コンピュータに児童ポルノの画像データ一画像分を送信し、同コンピュータの記憶装正に記憶、蔵置させ、不特定多数のインターネットの設備を有する利用者が、電話回線等を使用し、右児童ポルノ画像を受信して再生閲覧することが可能な状況を設定した上、インターネット利用者に対し右児童ポルノ画像の記憶蔵置場所を知らせ、よって、右児童ポルノ画像の画像にアクセスしてきた甲ら不特定多数のインターネット利用者に対して右情報を送信して、前記児童ポルノ画像を再生閲覧させ、もって、児童ポルノを公然と陳列したものである。

(3)現象
 この場合も大橋研究官が「閲覧手続」として説明しているのと全く同じである。ホームページが表示されるだけでも、下記のようにクライアントPCにはデータが送信されていることには留意しなければならない。

大橋P92
このように,インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて( ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モード(注10)でホームページが表示され続けるのである。

 なお、一時保管ホルダーといっても、PC使用者が意図的に消去するまで消えないので、刑法のいう有体性という観点からすれば、立派な有体物である。

7 本件との相違点
 陳列とされる事例でも販売とされた本件でも、現象としては大橋研究官がいうように「インターネットでホームページを見るのは,テレビを見るのと異なり,ホームページの画像情報をそのままもらってきて画面に映し出すのではない。ウエッブ提供者から,画像を構成する各種ファイルの送信を受けて( ダウンロードして),これらを一時保管ホルダーに保存した上,ウエツブ・ブラウザ・ソフトが,これらのファイルを画像に組み立てて表示しているのである。そのため,インターネットの接続を切っても,テレビ画面のように画像がプッツンと途切れることはなく,オフライン・モードでホームページが表示され続けるのである。」という点は共通である。実は同じなのである。
 園田教授の指摘が的を射ている。

http://www.lawschool-konan.jp/sonoda/law/kaishun/07chinretu.html
【インターネット上で児童ポルノを公開することは「陳列」か】
 インターネットのホームページなどに児童ポルノに係る画像データをアップロードすることが「陳列」となりうるかについては検討を要する問題である。判例は、わいせつ画像データをホームページなどにアップロードする行為については、わいせつ画像データが記憶・蔵置されたハードディスク等の記録媒体を「わいせつ物(図画)」と考え、不特定または多数の者がダウンロードできる状況を設定したことが公然陳列であると解している。これは、刑法175条所定の「頒布」「販売」がともにわいせつ物の物理的移動を前提とした概念であり、インターネットではハードディスク等は何ら物理的に移動していないために、処罰するためには公然陳列罪を適用せざるをえないからである。

 しかし、インターネットの場合には、データの送信が行われているのであり、これを「陳列」というには解釈上かなりの無理がある。確かに、放送については「陳列」といいうるが、それは閲覧の過程が受信者の方でスイッチを入れるだけで表示可能となるように自動化されており、これを「陳列」というのは、映画フィルムの上映などが「陳列」とされている以上、法の拡張解釈として許されると思われる。しかし、たとえばとくにいわゆるマスク画像(性器部分などにモザイク処理が施された画像であるが、受信者が受信後一定の操作をすることによって、それを解除することが可能な画像)をインターネットでダウンロードする場合などでは、わいせつ画像を現実に表示させる過程は決して自動化されているものではない。

 また、児童ポルノは、インターネットのニューズ・グループなどによって配信される場合が多く、その場合は、画像データがバケツ・リレー方式でサーバーを転々と転送されていくのであるから、いっそう「陳列」と解することが難しい。改正風適法で「映像送信」という新たな類型が設けられたように、インターネットの児童ポルノを規制するならば、新たな概念が必要である。

 なお、「頒布」「販売」「貸与」(2項)、「所持」「運搬」「輸入」「輸出」(3項)といった概念も、物の移動を意味するから、インターネットにおける画像データの流通にこれらの概念を適用することについても上記のような解釈上の限界がある。

8 公訴事実・罪となるべき事実の比較
(1)陳列事例(横浜地裁H12.2.2)
 いずれも、犯人がサーバーに蔵置して、クライアントPCにデータが送信されるとことろまでをもって、陳列罪の罪となるべき事実としている。

サーバーコンピュータに送信し、同コンピュータの記憶装置であるディスクアレイに記憶・蔵置させて、インターネット対応パソコンを有する不特定多数の利用者に右児童ポルノ画像が閲覧可能な状況を設定し、同一一年一一月一日から同月一〇日ころまでの間、電話回線を使用し、右児童ポルノ画像の情報にアクセスしてきた不特定多数の者に右情報を送信して再生閲覧させ、

(2)陳列事例(金沢地裁平成12年わ91号)

サーバ−コンピュータに児童ポルノの画像データ一画像分を送信し、同コンピュータの記憶装正に記憶、蔵置させ、不特定多数のインターネットの設備を有する利用者が、電話回線等を使用し、右児童ポルノ画像を受信して再生閲覧することが可能な状況を設定した上、インターネット利用者に対し右児童ポルノ画像の記憶蔵置場所を知らせ、よって、右児童ポルノ画像の画像にアクセスしてきた甲ら不特定多数のインターネット利用者に対して右情報を送信して、前記児童ポルノ画像を再生閲覧させ、

(3)販売事例(本件)
 陳列の場合と表現は異なるが、犯人がサーバーにデータをULしないとDLされえないのであるから、「購入者のPC内のHDDにデータをDLさせた」ということは犯人がサーバーにデータを蔵置して、クライアントPCにデータが送信されるところまでをもって、販売罪の罪となるべき事実としたに他ならない。