児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

性欲を興奮させ又は刺激するものの判例は大阪高裁H14.9.12

 白井裁判長が法廷で怒っていたのを覚えています。
 国会議員の先生方は京都地裁H12.7.17でサンタフェはOKかという議論をしてましたが、大阪高裁H14.9.12に照らして、サンタフェはどうなんですか?



 京都地裁H12.7.17は、「当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがある」という。「緩和説」

京都地方裁判所平成12年7月17日
判例タイムズ1064号249頁
 三 判断の方法
 そして、性欲を興奮させ又は刺激するものであるか否かの判断は、児童の姿態に過敏に性的に反応する者を基準として判断したのではあまりにも処罰範囲が拡大してしまうことから、前記のとおり、児
童ポルノの定義から最高裁判所判例の掲げる「普通人の正常な性的羞恥心を害し」という要件が割愛されているとしても、法の一般原則からして、その名宛人としての「普通人」又は「一般人」を基準として判断するのが相当である。
 もっとも、三号児童ポルノの範囲が拡大すると、表現の自由や学問の自由等の憲法上の権利を制約することになりかねないという懸念もあろう。児童ポルノ法三条も、この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならないと定めているところである。
 そこで、衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態(以下「児童の裸体等」という。)を描写した写真または映像に児童ポルノ法二条二項にいう」性器等」、すなわち、性器、肛門、乳首が描写されて
いるか否か、児童の裸体等の描写が当該写真またはビテオテープ等ガ全体に占める割合(時間や枚数)等の客観的要素に加え、児童の裸体等の描写叙述方法(具体的には、(1)性器等の描写について、
これらを大きく描写したり、長時間描写しているか、(2)着衣の一部をめくって性器等を描写するなどして性器等を強調していないか、3児童のとっているポーズや動作等に扇情的な要素がないか、
(4)児童の発育過程を記録するために海水浴や水浴びの様子などを写真やホームビデオに収録する場合のように、児童の裸体等を撮影または録画する必然性ないし合理性があるか等)をも検討し、性欲を興奮させ又は刺激するものであるかどうかを一般通常人を基準として判断すべきである。そして、当該写真又はビデオテープ等全体から見て、ストーリー性や学術性、芸術性などを有するか、そのストーリー展開上や学術的、芸術的表現上などから児童の裸体等を描写する必要性や合理性が認められるかなどを考慮して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、性欲を興奮させ又は刺激するものと認められないことがあるというべきである。
(裁判長裁判官・今井俊介、裁判官・芦高 源、裁判官・綿貫義昌)

 そこで、写真集の事案で、上記京都地裁の基準を主張すると、
「全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである」とか「芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えない」として、「緩和説」を否定した。(二元説)(京都地裁H14.4.24)


京都地裁平成14年4月24日
4 弁護人は,本件各写真集の被撮影者の姿態は,一部少数者を除き,一般人の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当しないと主張する。しかしながら,本件各写真集は,いずれも全裸あるいは半裸姿の児童が,乳房,陰部等を露出しているものがその相当部分を占めているのであって,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは明らかである。したがって,弁護人の主張は理由がない。
6 弁護人は,前記「」,「!」,「」の各作品は芸術作品であるから児童ポルノに該当しないと主張する。
 しかしながら,芸術的価値のあるものであっても,これを児童ポルノに該当するものとすることは差し支えないから,弁護人の主張は,その余について判断するまでもなく理由がない。
京都地方裁判所第1刑事部
裁判官
古川博

 その控訴審の大阪高裁H14.9.12は、「芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響」と判示しているので、再び「緩和説」に戻っている。

阪高裁平成14年9月12日判決
(2)の点についても,所論は,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響について,個々の写真ごとに検討すべきであるとの前提に立った上,本件各写真集は,いずれも,
1表現方法に性器等を強調する傾向がない,
2性欲を興奮又は刺激する内容がない,
3児童のポーズに扇情的な要素がない,
4児童の純真さを表現するという撮影者の意図が明らかである,
5装丁も芸術作品に相応しいものである
から,児童ポルノに当たらないと主張する。
しかしながら,芸術性が児童ポルノ該当性に与える影響については,本件各写真集をそれぞれ全体的に見て検討すべきである上,本件各写真集は,いずれも,全裸あるいは半裸姿の児童が乳房,陰部等を露出している写真が相当部分を占めており,上記1・2及び4は妥当しないし,また,そのため,仮に,上記3及び5が妥当するとしても,本件各写真集が児童ポルノに当たらないとはいえない。したがって,所論は採用できない。
大阪高等裁判所第4刑事部
裁判長裁判官白井万久
裁判官大西良孝
裁判官磯貝祐一