児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノのBACK UPデータは販売目的か?

 ダビング用の原本について、前田先生によれば、
  「客が来たらダビングする行為」は販売目的あり、
  「原稿を印刷して製本して販売する行為」は販売目的なし
だそうです。
 BACK UPを加工して販売する場合は、「原稿を印刷して製本して販売する行為」だから、販売目的なしとなりそうです。

 児童ポルノの場合、「客が来たらダビングする行為」も「原稿を印刷して製本して販売する行為」も、独立の構成要件である「販売目的製造罪」なので、「客が来たらダビングする行為」も「原稿を印刷して製本して販売する行為」も、「(販売目的)製造目的」の所持であって、「販売目的」の所持といえないのではないか。

前田雅英猥褻物の販売公然陳列警察学論集48-3p184
たしかに、「客が来たらダビングする行為」と「原稿を印刷して製本して販売する行為」とでは、一七五条の当罰性に差があることは明らかである。ただ、その理由は、裁判所の指摘する「わいせつ物が社会一般に流布される危険性の差」ではなく、前者は、ダビングの容易さ及びマスターテープと販売テープの内容的一致度から、ダビング済みのものを用意しておくこととその場でダビングして販売することの実質的差がないと評価されるので、甲の行為は「『販売するそのもの』を所持していると評価しうる場合」に該当するからなのである。それに対して、いずれ印刷し書籍にして販売しようと猥褻文書の原稿を所持している段階が、一七五条の予備的な行為に過ぎないことは明らかである。書籍をコピーして製本して販売しようと一冊所持する事例も、予備的行為と評価すべきである。しかし、客の注文に応じてその場でカラーコピー機で複写したものを販売しようと、猥褻な写真の原本を所持する行為は、コピー機の性能にもよるが、やはり販売目的所持罪に該当すると考えられる。今後は、猥褻な写真・映画などの電子化した情報を、光ディスク等に有償でコピーする目的で保有するような形態の行為も登場するかもしれないが、それも、販売目的所持罪に該当すると考える。
「それを販売する目的」とは、所持しているものを販売する目的でなければならないが、「目的物の販売の際にその物に一切手を加えないで販売する」と解すべきではない。二つのものを合体させてはじめて猥褻性が顕在化する場合も考えられないことはない。販売の時点で、その物を完成させて販売する目的も含まれるのである。

 MAC判決原田さんも、製造目的製造罪や製造目的所持罪がないから、販売目的製造の目的を持つ所持も販売目的にしないと困るからって述べています。

東京高裁平成15年6月4日いわゆるMAC判決
③MOはバックアップ用であり,その製造・所持には販売目的がない(控訴理由第10),という。

③の点も,本件MOがバックアップ用であるとしても,被告人は,必要が生じた場合には,そのデータを使用して,販売用のCDRを作成する意思を有していたのであり,電磁的ファイルの特質に照らすと,児童ポルノの画像データのファイルが蔵置されている媒体を所持することにより,容易にそのファイルをそのままの性質で他の媒体に複製して販売することができるから,法益侵害の実質的危険性は直接的で,かつ切迫したものといえる。もっとも,本件において,実際には,元のファイルをそのまま複製するのではなく,目をぼかす,サイズを縮小するなどの加工を経た画像ファイルを記録した媒体を販売に供しているが,ファイルサイズの縮小は,機械的に処理できるものであり,目のぼかしも容易な加工であり,児童ポルノと評価される部分は,ほぼそのまま複写されることになるから,MOのファイルは,相当な加工の過程を経て商品となる原材料のような性質のものではなく,販売用の児童ポルノと同質のものであり,MO自体は販売目的を有しなくても,販売目的の所持ということができるものと解すべきである。とりわけ,このことは,製造罪についてみれば明らかである。すなわち,児童の心身に有害な影響を直接与える行為は,児童ポルノの撮影行為であろうが,それによって得られるフイルムや画像ファイルなどの生のデータをそのまま販売するのではなく,これに加工を施した上で販売する意思であれば,撮影をしただけでは販売目的の製造は既遂とならず,販売用の加工を施して商品として完成させなければ製造罪には当たらないということになり,法の趣旨を損なう結果となる。したがって,ここでいう販売の目的には,後にそれに同質性を損なわない程度の加工を施した上で販売する目的を有するような場合も含むものと解するのが正当であり,所持罪についても同様に解される。
以上のとおりであるから,論旨はいずれも理由がない。