児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1号不正アクセス罪等で、懲役4年

 不正アクセス罪も、実害があると、重くなるわけです。

東京地裁平成15年8月21日
不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反,電子計算機使用詐欺、私電磁的記録不正作出,同供与 有印私文書偽造,同行使,詐欺,窃盗被告事件
主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中100日を刑に算入する。
押収してある「お取引に関する変更届」1通(平成15年押第1035号の2)及び「喪失届兼再発行依頼」l通(同号の1)の各偽造部分を没収する。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,いわゆるまんが喫茶等に設置されているインターネットに接続可能なパーソナルコンピューターに,キーボードの操作内容を逐一記録・保存する機能を有するキーロガーなるソフトウェアを仕掛けて入手した他人の識別符合等を利用して,(1)クレジットカード会社のサーバーコンピューターに不正にアクセスして会員が住所を変更した旨の虚偽の情報を記憶蔵置させた上,当該会員になりすましてインターネット通信販売により商品を注文,受領して窃取しあるいはだまし取った事案(犯罪事実第1),(2)銀行のサーバーコンピューターに不正にアクセスして預金者が住所を変更した旨の虚偽の情報を記憶蔵置させた上,当該預金者名義をかたって必要書類を偽造・行使してキャッシュカード等の再発行を請求、受領し,だまし取るとともに,同銀行のサーバーコンピューターに不正にアクセスして当該預金者が定期預金を解約した旨及び新たな暗証番号を設定した旨等の虚偽の情報を記憶蔵置させた上,キャッシュカード及び暗証番号を使用して市中の現金自動頸払機から現金を引き出し窃取した事案(犯罪事実第2),(3)銀行のサーバーコンピューターに不正にアクセスして,預金者が,被告人があらかじめ開設しておいた架空名義の預金口座に対し送金する手続を行った旨の,あるいはいったん他の預金者の口座に送金する手続を行った旨の虚偽の情報を記憶蔵置させた上で当該他の預金者が前記架空名義口座に送金する手続を行った旨の不実の電磁的記録を作り,財産上不法の利益を得た事案(犯罪事実第3)である。
本件犯行の動機は.被告人が,平成11年9月に勤務先を退職後,退職金,失業保険金等で生活を維持してきたところ,手持ちの金が少なくなってきたが,働いて金を稼ぐ気にもなれず,生活資金を得るために敢行したというのであり,自己中心的というほかなく,もとより酌量の余地はない。犯行の手口は,まんが喫茶等のパーソナルコンピューターに仕掛けたキーロガーなるソフトウェアにより入手した他人の金融機関口座番号,パスワード等の個人情報を利用し,周到な計画に基づき,金融機関等のインターネット取引における本人認証手続を巧みにかいくぐり,さらに,自己の犯行を隠蔽し,警察の追及を免れるべく幾重もの防護措置を施した巧妙極まるものである。そして,被告人は,インターネット通信販売を通じた商品の詐取,窃取,キャッシュカード等を窃取して行った現金自動預払機からの現金窃取、不実の口座間送金に関する記録作出による不法利益の取得と,その手法を変えつつ,犯行を反復し,生活の資を得ていたものである。加えて,本件犯行の基本的手口は模倣性が高いものであることも無視できない。以上の諸点に照らすと,犯行の態様は,悪質というほかない。
被害総額は2100万円以上の多額にのぼる上,被害金融機関においては,本件犯行後口座間送金に関する制度や本人認証の手続を変更しているなどその社会的影響も大きいものがある。そうすると,被告人の刑事責任は重いといわねばならない。
他方,被告人は本件犯行につき,事実を率直に認めて反省の意を述べ,被害金融機関等に対し合計1780万円余りを支払うなど,一定の被害弁償の措置を講じていること,被告人には,本件以前に前科,前歴がないこと,被告人の父が今後の監督を誓っていることなど,被告人のために酌むべき事情も存在する。そこで,以上の諸事情を勘案して,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当と思料した。
(求刑 懲役6年,「お取引に関する変更届」及び「喪失届兼再発行依頼書」の各偽造部分没収)